見出し画像

2020/8/13(うたの日366)

もしかしてあなたにピザを届けてもいいのだろうかバイトをすれば/若枝あらう
(2019/3/27「届」)

バイトをすればあなたにピザを届けられる…逆に云えば、バイトをしないとあなたにピザを届けられない関係。主体は「あなた」に好意を持っているものの、もう誰か別のひとと付き合っていたり生活しているひとなのかと読んだ。ピザをどうしても「あなた」に届けに行きたい、というよりか、主体は「あなた」に会いたい、言葉を交わしたい、なにかプレゼントしたい…という気持ちを抱えていて、それで行き着いたのが「ピザ屋でバイトをすればそれらが全て叶う」ということだったのだと思う。初句の「もしかすると」が良くて、それまですごく沈んでいたなかで、ふとアイディアが閃いたような印象になる。…しかし、もし「あなた」がピザをよく頼む種類の人間だったとしても、主体がバイトをするピザ屋に注文する可能性、その時間に主体がバイトのシフトにいる可能性、主体が配達することになる可能性、「あなた」が玄関に出る可能性…と考慮してゆくと、これはほとんどゼロなんじゃないだろうか。だが、そういったことを主体もおそらく気が付いていて、その上での「バイトをすれば」なのだと思う。もっと上手く会ったり言葉を交わしたりする方法はあるはずだし、ピザを配達できたとしても「あなた」と関係が進展することはないはずなのに、そういうやり方しかできない主体の不器用さにぐっときてしまう。…だが、そのゼロではない可能性に期待することで、主体はそれ以降生きていけるのかもしれない、とも思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?