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【物語】坂本竜馬 歴史を楽しく

あーりーです。

歴史を楽しく身近に感じてもらいたいと思って書きました。

小説でもなく、シナリオでもなく、少し変わった会話形式の物語です。

ころんと寝転びながら、気楽に読んでいただけると嬉しいです。


それでは始まり始まり~。


第1話 開国

ここはアメリカ。

アメリカ大統領「腹減ったね」

ペリー提督「なんか食います?」

アメリカ大統領「ボリュームのあるもの食いたいな」

ペリー提督「クジラとか?」

アメリカ大統領「いいね! 捕って来てよ」

ペリー提督「でもクジラって遠い海にいるんですよ。北太平洋あたりの」

アメリカ大統領「捕りに行くの、きつい?」

ペリー提督「途中に船の補給基地とかあれば、まだOKなんですけど」

アメリカ大統領「補給基地、ないの?」

ペリー提督「ないです」

アメリカ大統領「そっかぁ」

ペリー提督「日本あたりが補給基地になってくれればなぁ・・・・」

アメリカ大統領「じゃ、日本にお願いする?」

ペリー提督「いや、日本、鎖国してるし」

アメリカ大統領「鎖国って?」

ペリー提督「要するに、付き合い悪いんですよ」

アメリカ大統領「でも、なんとかお願いしたら協力してくれるかもよ」

ペリー提督「そうですね」

アメリカ大統領「それにさ、日本を仲間にしたら、アジアとの貿易うまくいくかもね」

ペリー提督「じゃあ僕、ちょっと話しつけてきます」

アメリカ大統領「頼んだよ。いってらっしゃい!」


こうして1853年6月3日。

アメリカのペリー提督が日本にやって来た。(日本は江戸時代末期)


ペリー提督「こんにちは~」

将軍「どなた?」

ペリー提督「アメリカから来たペリーと申します。日本の一番えらい人いますか?」

将軍「おれですけど」

ペリー提督「え?『将軍』って軍人でしょ? あなたが一番えらい人なの?」

将軍「まあ、はい」

ペリー提督「あの、急な話なんですけど、開国して頂けませんか?」

将軍「え、開国!?」

ペリー提督「はい。僕たちがこの辺の海にクジラ捕りに来たときとか、ちょっと休ませてもらいたいんですよ」

将軍「でもなぁ、おれら、鎖国してるしなぁ・・・・」

ペリー提督「そこをなんとか・・・・」

将軍「ちょっと考えさせてよ。あとでまた来て」

ペリー提督「はい。じゃ、あとで」

ペリー提督はいったん戻った。


その夜。江戸城。

将軍「・・・・というわけさ」

家臣「まじっすか」

将軍「開国したほうがいいかな? しなくていいよね?」

家臣「日本はずっと鎖国してますからね。今さら開国はできないでしょう」

将軍「だよね」

家臣「はい」

将軍「よし、それで決まりだ。開国なんかしないぞ!」

家臣「もしアメリカが文句言ってきたら戦いましょうね」

将軍「おう! 武士の強さを見せてやるぞ~!」

家臣「でも、アメリカとかヨーロッパってずるいですよね」

将軍「なんで?」

家臣「すぐ近代兵器とか使うんですよ」

将軍「え、近代兵器?」

家臣「はい。中国なんかそれでボコボコにされたし」(1840年アヘン戦争)

将軍「うそ!? 中国って強い国じゃなかった?」

家臣「でも近代兵器には勝てませんよ」

将軍「近代兵器って、そんなに強いの?」

家臣「めっちゃ強いっすよ。蒸気船とか大砲とかライフルとか・・・・」

将軍「・・・・・アメリカもそういうの使ってくるのかな?」

家臣「はい。ずるいですよね。反則ですよね。そんな反則野郎のいうことは絶対聞かないでおきましょうね」

将軍「・・・・・・」

家臣「開国なんか絶対しないぞ~!」

将軍「やっぱり、ちょっと開国しよっかな・・・・」

家臣「え…」


1854年3月。日本、開国。


200年以上続いた鎖国時代が終わった。

幕末史は、ここから始まる。



第2話 達人

ある剣術の道場。

坂本「おれさぁ、道場、やめよっかなぁ」

友達「え、突然なんで!?」

坂本「きのう練習でぶつけたとこ、痛いんだよね。ほらここ。赤くない?」

友達「いや、そんなの治るよ・・・・・」

坂本「でも、痛いしなぁ~」

友達「一緒に剣の達人になろうよぉ」

坂本「だっておれ全然うまくなんないもん」


そこへ道場破りが現れた!

道場破り「がおー。道場破りだぞ~」

坂本「うわ、怖そう・・・・」

道場破り「おまえらをやっつけてこの道場を奪ってやる~。がおー。よし、まずおまえからだ」

坂本「え、おれ!?」

道場破り「そうだ、おまえだ。おれと勝負しろ」

坂本「いや、僕、弱いっすよ・・・・」

道場破り「いいから前に出ろ!」

坂本「うっそぉ~(TT)」

道場破り「覚悟しろ、行くぞ!」

坂本「ひぇ~・・・・」

道場破り「はやく剣をかまえろ。戦う気がないのか!」

坂本「勘弁して下さいよぉ」

道場破り「なるほど。無益な戦いはしないというわけか。さすがだ! それでこそ武士だ! 立派だ!」

坂本「え?」

道場破り「君みたいな立派な武士はきっと剣の達人だろうな。戦わなくてもわかるよ」

坂本「・・・・・なっ?」

道場破り「おれももっと自分を磨くとしよう。良い勉強になった。さらば!」

道場破りは去った。


入れ違いに、道場の先生が駆け付けた。

先生「道場破りはわしがやっつけてやる~。このぉ~」

坂本「道場破りはもう帰りましたよ」

先生「なに! 誰が相手をしたんだね?」

坂本「相手をしたのは一応、僕ですが、でも」

先生「え、君が! すごいな!」

坂本「いや、すごいっていうか…」

先生「道場破りを撃退するほどの腕前とは。さすがわしの弟子だ」

坂本「そういうことじゃなくて・・・・」

先生「自分の功績をひけらかさないところもいい! 武道に必要な心技体をすべて兼ね備えてる」

坂本「え」

先生「よし、今日から君にこの道場のキャプテンをやってもらおう」

坂本「うそ!」

先生「そして我が流派の免許状をさずけよう。免許皆伝だ」

坂本「めんきょかいでん?」

先生「君に教えることは何もない。きみはすごい!ということだ。おめでとう」

1858年正月。坂本竜馬、北辰一刀流免許皆伝。

彼は剣の達人として有名になった。



第3話 ブーム

偉い人たちの会話。

朝廷「ねぇ、ちょっと小耳に挟んだんだけどさ、この前、アメリカ人が来たんだって?」

将軍「来ましたよ。ペリーさんていう人」

朝廷「で、開国しろ~って言われたんだって?」

将軍「言われました」

朝廷「で、開国しちゃったんでしょ?」

将軍「はい。しました」(1854年 日米和親条約)

朝廷「でもさ、あんまり外国と仲良くするの、やめない?」

将軍「それが・・・・・。実はさらに、外国とびしばし貿易する条約も結んじゃいました」(1858年 日米修好通商条約)

朝廷「え! 単なる開国だけじゃなく、さらに貿易も!?」

将軍「はい」

朝廷「あーあ。すぐ勝手にそういうことするもんなぁ」

将軍「すいません・・・・・」

朝廷「おれ外国とか嫌いなのに」

将軍「すいません。でも僕、将軍だし、偉いから、そういうの勝手に決めていいかと思って・・・・」

朝廷「でもさ、将軍職を任命するのはおれでしょ。おれのほうが偉いんだよ」

将軍「いや、でも、実際の政治は僕がやってるわけで・・・・・」

朝廷「戦争だ」

将軍「え?」

朝廷「外国と戦争しよう。追い払おう」

将軍「それ、やばいっすって」

朝廷「だっておれ、外国人、嫌いだも。追い払ってまた鎖国だ」

将軍「いやぁ、でも鎖国って、もう時代遅れかも・・・・」

朝廷「もう決めたぞ。外国を追い払ってまた鎖国する。不可能でもやる」

将軍「やれやれ」


日本は、外国を受け入れるか追い払うかでもめた。


当時の武士たちの会話。

武士1「おれたちの国、とうとう開国したよね」

武士2「したね。外国と貿易もはじめるらしいよ」

武士1「でもさ、聞いた? となりの中国の話」

武士2「なに?」

武士1「いろんな外国にガーって侵略されて、ぼろぼろらしいよ」

武士2「まじ?」

武士1「うん。日本もさ、へらへら開国して油断してたら侵略されるんじゃない?」

武士2「かもね」

武士1「やっぱ鎖国がいいね」

武士2「だね」

武士1「朝廷の人は外国人が嫌いで、また鎖国したがってるんだって」

武士2「わかるなぁ。おれもそれがいい」

武士1「そうだ、いいこと考えた!」

武士2「ないなに♪」

武士1「おれらでさ、なんか、運動起さない?」

武士2「運動?」

武士1「うん。市民運動とか、そういうの。『朝廷の意見に賛成~!外国人は出ていけ~!』 っていう運動」

武士2「いいね」

武士1「いいしょ」

武士2「運動の名前なににする?」

武士1「朝廷の意見に賛成、外国人は出ていけ運動」

武士2「長くない?」

武士1「あ、じゃあさ。こういうのはどお?」

武士2「どんなの?」

武士1「まず。朝廷とかを大事にすることを『尊王』っていうんだよね」

武士2「そんのう?」

武士1「そして、外国人を追い払うことを『攘夷』っていうんだ」

武士2「じょうい?」

武士1「うん。ふたつ合わせて尊王攘夷」

武士2「そんのうじょうい」

武士1「うん。かっこいいしょ」

尊王攘夷運動は武士の間で大ブームになった。



第4話 ふるさと

江戸の剣術道場。

友達「坂本さんの実家ってどこなの?」

坂本「高知県」

友達「高知県って地図でいうと、どの辺?」

坂本「え、地図で? わかんないや」

友達「なんで・・・・?」

坂本「おれ、地図、苦手なんだよね」

友達「なにそれ・・・・(汗)」

坂本「でも、高知って、海とか見えて眺めは最高だよ」

友達「いいな~。じゃあ実家に帰るの楽しみでしょ」

坂本「いや、あんまり帰りたくない」

友達「どして?」

坂本「高知県には上級武士と下級武士ってのがあって」

友達「うん」

坂本「上級武士はすっげぇ威張ってて、下級武士はすっげぇ差別されててさ」

友達「うん」

坂本「で、おれはその下級武士なんだ。最悪。だからあんまり帰りたくないの」

友達「でも、江戸滞在のビザが切れたら帰らなきゃね」

坂本「ビザ? なにそれ?」

友達「え、ビザ知らないの? 滞在許可証っていうか、そういうの」

坂本「そんなの、おれ持ってないよ」

友達「いや、絶対持ってるはずだよ。カバンの中とか探してみ」

坂本「どれ。・・・・・あ、これか!」

友達「うん。それ。それがビザ」

坂本「なんなのこれ? 重要?」

友達「重要。それがないと坂本さんは高知県から出れないし、この江戸にも滞在できないんだ」

坂本「あ! おれのビザの期限、明日までだ!」

友達「じゃ、高知に帰らなきゃね」

坂本「やだなぁー。もしさ、ビザが切れてもそのまま江戸に残ってたらどうなるの?」

友達「逮捕」

坂本「・・・・・じゃ、帰ろう」

1858年9月3日。坂本竜馬は江戸を去り、高知県に帰っていった。


そしてここは高知県。

坂本「やっと着いたぁ。ふ~。疲れた」

後藤「やい、坂本!」

坂本「あ、上級武士の後藤さん」

後藤「おまえ、江戸で剣の修行してたんだってな」

坂本「はい。いま戻ってきたところです」

後藤「噂では、かなり強いんだって?」

坂本「いやぁ、そんなことないですよ」

後藤「あの有名な千葉道場のキャプテンで、北辰一刀流の免許皆伝なんだろ?」

坂本「たまたまですよ」

後藤「けっ。変に謙遜しやがって。気に入らない野郎だ」

坂本「すいません」

後藤「そうそう、いま都会では、尊王攘夷っていうのが流行ってるんだろ?」

坂本「みたいですね。僕、よくわかんないっすけど」

後藤「尊王攘夷って、道とかで外国人を見かけたらバンバン斬りまくって、 外国人を日本から追い出す運動のことだろ?」

坂本「そうなんですか? 僕、そういうの、あんまり知らないんですよ」

後藤「だらしねぇなぁ~」

坂本「すいません・・・・・」

後藤「じゃあ、外国人とか斬り殺したことないのか?」

坂本「ないっすよ。誰も斬り殺したことないです」

後藤「はぁ? 剣の達人のくせに人を斬ったことないの? かっこ悪っ!」

坂本「すいません」

後藤「度胸のない奴だなぁ。よし坂本。おれにジュース買って来い」

坂本「え?」

後藤「ジュース」

坂本「でも、ジュースくらい自分で買えばいいじゃないですかぁ」

後藤「黙れ! おれは上級武士、おまえは下級武士。文句言うな!」

坂本「すいませんっ・・・・」

そこへ後藤のおじさんが現れた。

後藤のおじさん「甥よ、なにやってるんだ?」

後藤「あ、おじさん。下級武士をからかって遊んでたんですよ」

後藤のおじさん「下級武士と口をきくのはやめなさい。それより、今から知事と飲み会なんだ。一緒に行こう」

後藤「はい。行きましょう。じゃあな坂本、またいじめてやる」

後藤とその叔父は去っていった。

坂本「・・・・・・(TT)」

坂本竜馬が維新回天の英雄となって天下を動かす日は、まだ遠い。



第5話 竜馬脱藩

坂本竜馬は地元高知の友人たちと会った。

坂本「みんな、ひさしぶり~」

高知の親友「お! 坂本! 江戸から帰ってきたの?」

坂本「うん」

高知の親友「会えて嬉しいよ!」

坂本「みんな集まって、なにやってるの?」

高知の親友「あのね、モテモテ大作戦」

坂本「なにそれ」

高知の親友「おれら下級武士って女の子にあんまりモテないしょ」

坂本「うん」

高知の親友「だから、モテるための作戦考えてるの。モテモテ大作戦」

坂本「・・・・・でも、作戦名がすでにやばいよ」

高知の親友「そんなことないよ。けっこういい作戦考えたさ」

坂本「え、どんなの?」

高知の親友「ちょっとね、流行ものに手ぇ出そうかと思ってさ」

坂本「あぁ、そういうのモテるかもね」

高知の親友「今さ、日本中で尊王攘夷が流行ってるしょ」

坂本「おれ、いまいち良くわかんないんだよね。新聞とかあんまり読まないし」

高知の親友「尊王攘夷ってね、『朝廷サイコ~!』っていう考えと『外国人大嫌い!』っていう考えを ドッキングさせた運動って感じ」

坂本「ふうん」

高知の親友「それ、ブームだからさ、おれらも『尊王攘夷クラブ』とか作ったらモテるんじゃない?」

坂本「尊王攘夷クラブ・・・・・」

高知の親友「ね、坂本もやろうよ」

坂本「でもおれ、なんかそういう難しいの、あんまりわかんないかも」

高知の親友「大丈夫だよ」

坂本「だっておれ、尊皇攘夷っていう字、書けないもん」

高知の親友「達筆なふりして、ササッて書けばごまかせるしょ」

坂本「そうだね」

高知の親友「よし、決まり! がんばろうね!」

坂本「うん」

高知の親友「じゃあ、クラブの結成を祝って、みんなでワインで乾杯しよう」

坂本「ワインなんてあるの? すっげぇな~」

高知の親友「いや、安いやつね」

坂本「うわ、冷蔵の中に何本かあるんだね。あ。奥にあるワインは高そうじゃない?」

高知の親友「あれはめっちゃ高いよ。超最高級ワイン」

坂本「今、あれを飲むの?」

高知の親友「いや~、あれ、もったいないしなぁ」

坂本「どのくらい高いの?」

高知の親友「もうホント、車とか何台も買えちゃうよ」

坂本「まじで! それは飲めないね」

高知の親友「でしょ。だからここはさ、この安いワインでがまんして」

坂本「じゃ、乾杯しようか」

高知の親友「みんな、グラス持った?OK? じゃ、いくよ。 尊王攘夷クラブの結成を祝して、乾杯!」

みんな「かんぱーい」

高知の親友「ところで坂本。江戸はどうだった?」

坂本「うん。おもしろかったよ。でも危うくビザが切れるところだったさ」

高知の親友「おお~、やばかったね」

坂本「ビザ切れたら、逮捕されるんでしょ」

高知の親友「ビザ切れたままずっと県外に滞在してたり、ビザなしで高知県から出たりしたら、重罪だよ。 脱藩っていう罪」

坂本「だっぱん」

高知の親友「うん。でも最近は脱藩する人も多いけどね」

坂本「え。なんで? 重罪なのに?」

高知の親友「いま日本って、外国と付き合うか追い払うかで、もめてるしょ」

坂本「うん」

高知の親友「こういう混乱の時期だから、ひとつの県の中に閉じこもってないで、広く天下に出て日本のことを 真剣に考えようっていう人が多くなってきてるんだ」

坂本「ふうん」

高知の親友「興味なさそうだね」

坂本「だってメンドクサそうでしょ」

高知の親友「脱藩者は故郷に戻れないから一生家族や友人に会えなくなるしね。大変だよ」

坂本「やだやだ。ところでさ」

高知の親友「?」

坂本「尊王攘夷クラブって、具体的にどんなことするの?」

高知の親友「あんまり考えてないんだよね。どうしよう」

坂本「いや、おれ、わかんない」

高知の親友「まずさ、高知県内のいろんなとこに足を運んで、情報収集とかするか」

坂本「あ、いいね」

高知の親友「じゃあ、みんな、この地図のまわりに集まって~。自分が県内のどの地区を担当したいか、 指差してぇ」

仲間1「おれ、ここ」

仲間2「おれ、ここ」

仲間3「おれ、ここ」

高知の親友「坂本は? どこがいい?」

坂本「おれはねぇ、じゃあね、ここ」

高知の親友「え、そこ高知県じゃないよ。九州だよ」

坂本「あ、そうなの!?」

高知の親友「なんで九州なんか・・・・・あ、そうか!」

坂本「え?」

高知の親友「さては、脱藩するもりか!」

坂本「え? え?」

高知の親友「さすがだなぁ。脱藩は重罪なのに、あえて全国で広く活動しようだなんて。 さすがだよ坂本」

坂本「いや、間違えただけだよ、おれ地図苦手で・・・・」

高知の親友「おまえに惚れた! よし、さっきの超高級ワインを開けよう」

坂本「うわ、待って! 待って!」

高知の親友「祝福させてくれよ。開けるぞ」

坂本「待て、はやまるな」

高知の親友「開けちゃうぞ。それ、ポン」

坂本「げっ! 開けちゃった」

高知の親友「このワインはさ、一生に一度の本当に重要なめでたいときに開けようと思ってたんだ。 今がそのときだ。坂本のためなら惜しくないよ」

坂本「・・・・・」

高知の親友「さぁ、飲もう。今夜が最後の別れだ。もう一生会えないなんて寂しいけど、 おまえの志のためだ。祝福するよ」

坂本「えぇ~(泣)」

高知の親友「おお、坂本。感動してるの? おれもだ(泣)」

1862年3月24日夜。

坂本竜馬、脱藩。



第6話 暗殺事件

坂本竜馬は脱藩して高知県を去った。

残った仲間は・・・・・・

高知の親友「坂本、今ごろ元気にしてるかなぁ」

仲間1「でも、あいつさ、脱藩するなんてすごいよね」

高知の親友「本気で日本の未来を考えてるんだな~。普通、自分の県のことだけでみんな精一杯なのにね」

仲間1「坂本、旅立ちのとき、すげぇ泣いてなかった?」

高知の親友「泣いてたね」

仲間1「なんでだろ。本当は脱藩したくなかったのかな」

高知の親友「いや、あれじゃない、日本の未来が心配でたまらなかったんじゃない?」

仲間1「そっか。あいつ、大物だな」

高知の親友「うん。坂本竜馬。大物だ」

仲間1「でもさ、坂本のやつ、なんで九州なんかに行こうと思ったのかな?」

高知の親友「なんでだろ。普通、脱藩して尊王攘夷の活動するなら、 京都とかに行くよね」

仲間1「うん」

高知の親友「もしかして、あのとき地図見て適当に指差したのが、 たまたま九州なだけだったりして」

仲間1「ふふ。まさか」

高知の親友「まさかね。あいつ、大物だもね」

仲間1「きっと、考えがあるんだよ」

高知の親友「そうだね」


そのころ。将軍と朝廷の会話。

将軍「あの~。朝廷さん、もうホントお願いしますよぉ」

朝廷「何が?」

将軍「開国に反対しないで下さいよ~」

朝廷「だっておれ、外国人嫌いだもん。 となりの中国なんか外国の植民地になっちゃったんだよ。日本もそうなったら嫌でしょ」

将軍「朝廷さんがそんなこと言うから、最近、尊王攘夷っていうのが流行ってるじゃないですか」

朝廷「そんのうじょうい?」

将軍「はい。『外国は嫌いだ~。朝廷さん正しい~』っていう考えですよ。今やどこに行っても 尊王攘夷です」

朝廷「え、まじ? そんなの流行ってるの?」

将軍「おかげで僕たち幕府は悪役ですよ」

朝廷「じゃあさ、おれアレじゃない? 流行語大賞じゃない?」

将軍「でも今年はまだ始まったばっかりですから、わかりませんよ」

朝廷「あー、もうちょっと10月とかに言えばよかったな~」

将軍「それはいいとして、とにかく・・・・」

朝廷「じゃあ紅白、狙ってみようかな、今から練習して」

将軍「なるほど。年末まで時間があることを逆に利用するんですね。って、はなし聞いて下さいよ!」

朝廷「紅白、一緒に出ない? ウケると思うよ」

将軍「一緒にって、僕たち考え方も違うし、ダメじゃないですか」

朝廷「だからウケるんだよ」

将軍「だって今、各県の知事は大変みたいですよ」

朝廷「なんで?」

将軍「朝廷さんに味方しようか、それとも幕府に味方しようか、県の中でも意見が分かれたりして」

朝廷「例えばどの県とか?」

将軍「いろいろありますけど、山口県とか、あと高知県とか」


その高知県(竜馬のふるさと)のようす。

仲間1「ちょっと調べてわかったんだけどさ、この高知県の偉い人って、尊王攘夷に反対みたい」

高知の親友「え、どうしよう? おれら尊王攘夷クラブなんて作って、怒られるかな?」

仲間1「バレなければ、いいんじゃない?」

高知の親友「やばいって。バレるって」

仲間1「うーん、まあ、バレるかもね」

高知の親友「あのさ、ところでその、尊王攘夷に反対してる偉い人って、誰?」

仲間1「後藤の親戚のおじさん」

高知の親友「え、あのいじめっ子の後藤の?」

仲間1「そう、あいつのおじさん」

高知の親友「怖そうだなぁ。バレたらかなり怒られるね」

仲間1「じゃあさ、いっそ正直に言ってみる?」

高知の親友「え?」

仲間1「こういうクラブ作りましたーって、正直に言ったら許してくれるかもよ」

高知の親友「そうだね。よく漫画とかで、正直に言ったら誉められるシーンあるもんね」

しかし・・・・・

後藤のおじさん「なに! おまえらそんなクラブ作ったのか!」

高知の親友「うわ、怒られた・・・・」

後藤のおじさん「下級武士のくせに生意気な!」

高知の親友「すいません」

後藤のおじさん「尊王攘夷ってのは。『外国人嫌いだ~』ってことだろ?」

高知の親友「はい。そうです・・・・」

後藤のおじさん「これからは外国人とも仲良くしていかなきゃダメなんだ。 日本は外国とたくさん貿易しなきゃ、これから先やっていけないんだ。 そんなこともわからんのか! そんなクラブ、解散しろ!」

高知の親友「いえ、しかし、朝廷さんが言うには、外国と付き合ってたらそのうち日本は植民地にされるって ・・・・・」

後藤のおじさん「下級武士のくせに口ごたえするな!」

高知の親友「・・・・・はい」


そして。

高知の親友「めっちゃ怒られたね」

仲間1「うん」

高知の親友「どうしよう。解散する?」

仲間1「でも、せっかく結成したのに、もったいなくない?」

高知の親友「また怒られたらやばいしょ。あーあ、他の県とかの尊王攘夷の人って、 こういうときどうしてるのかなぁ・・・・・」

仲間1「こういうとき、他の県とか都会ではね、邪魔者を暗殺するらしいよ」

高知の親友「え!?」

仲間1「尊王攘夷に反対する人をばんばん殺していくの。それが尊王攘夷派のやりかたみたい」

高知の親友「まじ?」

仲間1「うん」

高知の親友「じゃあ、なに、後藤のおじさんを暗殺しろってこと?」

仲間1「うん」

高知の親友「そーれは、・・・・・まずいんじゃない?」

仲間1「でもさ、このままだとこっちがいずれやられるかもよ」

高知の親友「うーん。でも、後藤のおじさんって、剣、めっちゃ強いんじゃなかった?」

仲間1「うん。強い」

高知の親友「そんな強い人を暗殺できるかな? 坂本の腕ならともかく」

仲間1「坂本、もういないしね」

高知の親友「おれたちの剣の腕じゃあ無理だよ」

仲間1「いや、3人くらいで一気に襲いかかれば、大丈夫だよ」

高知の親友「・・・・・うん」


こうして1862年4月8日夜。

後藤のおじさん(吉田東洋)が尊王攘夷派によって暗殺された。


後藤「うう~。おじさんが殺されちゃったぁ~(涙)」

後藤の親友「おまえのおじさんは剣の達人だったのにな」

後藤「そうだよ。剣の達人なのに、なんで殺されちゃったんだよ~」

後藤の親友「相手が複数だったか、それともよっぽど強いやつだったかだ」

後藤「強いやつ? あ、坂本だ」

後藤の親友「え、坂本ってあの下級武士の?」

後藤「そうだ。あいつ、脱藩したとみせかけてどこかに隠れてて、おじさんを暗殺したんだ」

後藤の親友「そうか、よし、さっそく逮捕状だ」

坂本竜馬は脱藩と暗殺の罪で追われる身となった。



第7話 長崎から江戸へ

竜馬は九州・長崎に着いた。

坂本「一応、九州の長崎に来たけど、べつになんもすることないや・・・・」

長崎の人「ここ、いいところでしょ」

坂本「あ、長崎の人っすか?」

長崎の人「うん。この町さ、いくない?」

坂本「そうっすか、まあ、はい」

長崎の人「だってほら、あそこの港とかすごくない? でっかい船いっぱいあるしょ」

坂本「うわ、ホントだ。なにあの船、でかくない?」

長崎の人「あれね、蒸気船」

坂本「蒸気船? あの、外人が乗ってるやつ?」

長崎の人「そう。長崎は貿易の町だから外国の船いっぱい来るよ」

坂本「へぇ~。かっこいいね。めっちゃ乗りたい!」

長崎の人「実はおれもね、自分の蒸気船持ってるさ」

坂本「うっそ!」

長崎の人「君、もしかして今ハヤリの尊王攘夷の人?」

坂本「うん。一応」

長崎の人「あー、残念」

坂本「え、なんで?」

長崎の人「もしよかったらおれの蒸気船に乗せてあげようかと思ったけど、 尊王攘夷の人なら、外国の乗り物に乗るのって嫌でしょ。残念」

坂本「え、いやじゃないよ。乗せて。すっごい乗りたい!」

長崎の人「気をつかわなくていいよ。本当は蒸気船を見るのも嫌なんでしょ? なにせ尊王攘夷の人だもんね」

坂本「・・・・・あ、いや、おれやっぱ、違ったかも。尊王攘夷じゃないかも」

長崎の人「いやあ、そんなことないでしょ」

坂本「ねぇ、蒸気船って高い?」

長崎の人「なにが、値段?」

坂本「値段」

長崎の人「高いよ。すっげぇ高いよ」

坂本「えー、そっかぁ。じゃあさ、蒸気船持ってる人って少ないしょ?」

長崎の人「少ないね。幕府はけっこう持ってるけどね。何隻か」

坂本「幕府? それって江戸だよね」

長崎の人「うん」

坂本「江戸、行こっかなぁ」

長崎の人「また長崎に遊びに来てくださいね」

坂本「うん。じゃあね」

長崎の人「気をつけて」


1862年8月。竜馬は江戸にやって来た。

坂本「江戸だ~。なつかしいなぁ~」

友達「お? 坂本さん?」

坂本「あ! 友達くん!」

友達「おれのこと覚えてる? 道場で一緒だった友達だよ!」

坂本「もちろん覚えてるよ、なつかしい~。4年ぶりだね」

友達「最近どうしてた?」

坂本「あ、おれね、尊王攘夷の人になったさ」

友達「うそ、おれもけっこう、それ」

坂本「まじ!? おんなじだね」

友達「やっぱ、時代は尊王攘夷だよね」

坂本「うん。あ。あとね、おれ脱藩したさ」

友達「えー、それびびるね。脱藩?  すごくない?」

坂本「すごいしょ。言って、みんなに言って」

友達「今までは何してたの?」

坂本「長崎に行ってた」

友達「長崎? 普通さ、尊王攘夷の活動するんだったら京都だよね」

坂本「えっ・・・・」

友達「そういえばさ、つい最近、京都に集まってた尊王攘夷の人たちが大量虐殺されたよね」 (1862年4月23日 寺田屋事件)

坂本「うっそ、それ知らない!」

友達「反対派のしわざらしいよ」

坂本「へぇ~。怖いね」

友達「あ、そうか。その危険を察知して坂本さんは京都に行かなかったんだね。さすがだなー」

坂本「え、いや・・・・」

友達「普通なら時代に流されて京都に行っちゃうところだけど、そのへん、やっぱ坂本さんは違うな~」

坂本「ま、まあね」

友達「長崎に行ったのにもなにか深い理由があるんでしょ? さすがだね」

坂本「も、もちろん・・・・・」

友達「坂本さんは将来のことをちゃんと考えて行動してるね。 今回、江戸に来たのにも重要な理由があるんでしょ?」

坂本「ふふ。あるよ」

友達「なになに?」

坂本「江戸にさ、蒸気船あるしょ」

友達「うん。あるね。幕府の」

坂本「それが理由さ」

友達「え? おれ頭悪くてよくわかんないや。まさか、蒸気船に乗りたいからとかいう幼稚な理由じゃないだろうし・・・・なにかな、教えて」

坂本「・・・・・(汗)」

友達「蒸気船といえば、海・・・・軍艦・・・・海軍・・・・あ、そうか!」

坂本「え!?」

友達「幕府の海軍大臣を暗殺しに来たんだね!」

坂本「暗殺!? なにそれ!」

友達「とぼけるなよ~。あ、そうか、ここは人目があるもんな。そんなところまで気を配るとはさすが坂本さん」

坂本「海軍大臣ってなに? だれ? おれ、知らんよ」

友達「とぼける演技も一流だね。本当に知らないみたいだ」

坂本「いや、ほんとマジでさ、知らんて」

友達「ここは大通りで人目があるから、おれも話を合わせるよ。知らないフリする」

坂本「フリっていうか、おれホントに知らないから」

友達「おれも知らないぞー。海軍大臣の勝海舟なんて知らないぞー。暗殺なんてしないぞー。 ・・・・・どお? おれの演技」

坂本「かつかいしゅう、ってだれ?」

友達「いい演技だね。よし、目立たないところで詳しく聞かせて。おれも暗殺に協力するよ」

坂本「いや、暗殺って・・・・」

ふたりは場所を移した。



第8話 初めての殺人

竜馬と友達は近くの居酒屋に入り、目立たない席に座った。

友達「しかし坂本さんもいいところに目をつけるね」

坂本「え?」

友達「海軍大臣の勝海舟を暗殺しようだなんて。奴は尊王攘夷の敵だからね」

坂本「あ、そうなの? 敵なの?」

友達「だってあいつ、『日本は外国と積極的に貿易するべきだ』なんて言ってるんだよ。そんなやつ、暗殺しないとダメだよね」

坂本「あのさ、おれ良くわかんないんだけど、なんでみんな外国をそんなに嫌うの?」

友達「だって、外国と仲良くしてたら、いつのまにか植民地にされちゃうんだよ。中国みたいに」

坂本「あ、そっか」

友達「でしょ。だから、外国と徹底的に戦わなきゃ。貿易なんて論外だよ」

坂本「なるほど。じゃあ、勝海舟、悪い奴だね」

友達「早めに暗殺しよう」

坂本「うん」

友達「ところでさ・・・・」

坂本「?」

友達「坂本さん、人を斬ったことある?」

坂本「いや、ないんだよね」

友達「おれもないさ」

坂本「じゃあ、お互い今回が初めての殺人?」

友達「暗殺って、どうやればいいのかな・・・・」

坂本「わかんないね。取りあえず勝海舟の家に行ってみる?」

友達「うん。こっそり侵入しよう」


1862年10月。ふたりは勝海舟を暗殺するため、彼の家にやって来た。

友達「ここが勝海舟の家か」

坂本「こんにちは~!」

友達「わ、なにやってるんだよ坂本さん!」

坂本「え?」

友達「こっそりだよ、こっそり」

坂本「うそ、やばっ」

勝海舟が出てきた。

勝海舟「はーい。どなた~?」

友達「あ、いえ、その・・・・・」

坂本「坂本といいます。どーも。えーと、暗殺しにきたんですが、今ちょっといいですか?」

勝海舟「ちらかってるよ」

坂本「いえ、おかまいなく」

勝海舟「でも普通さ、暗殺って夜道で待ち伏せしたりするんだよ」

坂本「え、まじっすか!」

勝海舟「あと、夜中に押し入ったり」

坂本「普通に玄関から来るのって、変っすか?」

勝海舟「なんかね」

坂本「うーわ、失敗した。夜に来ればよかった」

勝海舟「おれ、夜も空いてるよ」

坂本「じゃ、夜また来よっかなぁ」

勝海舟「あ、でもなー」

坂本「え? なに? なんか用事ありました?」

勝海舟「蒸気船のことでちょっと仲間と話し合いがあるかもしれない」

坂本「蒸気船!」

勝海舟「うん。おれ、幕府の蒸気船とか担当だから、まあまあ忙しくてさ」

坂本「蒸気船っすか。いいなー」

勝海舟「え、蒸気船、好き?」

坂本「好きっす!」

勝海舟「乗る?」

坂本「乗りたいです!」

友達「おいおい、ダメだよ!坂本さん」

坂本「え、なんでさ?」

友達「坂本さんは尊王攘夷の人でしょ?」

坂本「うん」

友達「だったら外国を憎まなきゃ」

坂本「いや、じゃあ憎むけど、蒸気船は関係ないしょ」

友達「関係あるよ」

坂本「なんで?」

友達「だってさ、蒸気船は外国から入ってきた新しい乗り物だよ。そんなのに乗ったら、外国かぶれだよ」

坂本「・・・・・うーん」

友達「坂本さん、ここはおれにまかせて。おれが勝海舟を斬ってやる。やい! 勝海舟!」

勝海舟「あ、はい」

友達「おまえ、外国とどんどん貿易したほうがいいって言ってるらしいな」

勝海舟「うん」

友達「外国は隙あらば日本を植民地にしようとしてるんだぞ!」

勝海舟「え、そうなの?」

友達「だって、隣の中国とかは植民地にされちゃったしょ」

勝海舟「うっそ、知らんかった・・・・」

友達「日本が植民地にされてもいいのか!」

勝海舟「・・・・・いや、だめっす」

友達「だめだろ」

勝海舟「はい」

友達「じゃあ、外国人を日本から追い払わなきゃ!」

勝海舟「はい、じゃ、追い払います。ホントすいませんでした」

友達「貿易もやめろよ」

勝海舟「いや、それはちょっと・・・・」

友達「話が違うじゃないか!」

勝海舟「ひえっ・・・・・あ、じゃあ、貿易で稼いだお金で強い軍艦買って、それで外国を追い払うことにします」

友達「うん。それならOK」

勝海舟「だから、そのためにも貿易つづけていいっすか?」

友達「そういう理由で貿易するならいいよ」

勝海舟「よかったー」

友達「そういうことなら、暗殺はやめるよ」

勝海舟「すいません、助かります」

友達「いいよ、がんばってね」

勝海舟「でもなんか、君すごいね。弟子にしてくれますか?」

友達「え? おれの弟子に?」

勝海舟「うん」

友達「急にそんな・・・・困るよ。ねぇ、坂本さん」

坂本「・・・・・・」

友達「坂本さん? 聞いてる?」

坂本「あ、ごめん、聞いてなかった!」

友達「え、今までの話、聞いてなかったの?」

坂本「うん。アリ見てた。めっちゃでかいエサ運んでるさ」

友達「・・・・・・」

坂本「話、どこまで進んだの?」

友達「勝海舟がおれの弟子になりたいんだって」

坂本「いいんじゃない? べつに」

友達「嫌だよおれ師匠なんて、めんどくさい! 坂本さんがこの人の師匠になってあげなよ」

坂本「師匠ってめんどくさいの?」

友達「うん。なにかとね。弟子が不祥事起したら責任とか取るし」

坂本「そんなの、おれだって嫌だよ」

友達「あ、じゃあさ、ジャンケンで決めるか。3人でジャンケンして一番負けた人が、 他2人の師匠になることね」

坂本「いいよ」

3人「じゃーんけーん、ぽん!」

勝海舟「げっ! おれ負けた!」

坂本「じゃあ勝さん師匠ね♪」

友達「よろしくおねがいしまーす♪」

勝海舟「えー、めんどくさいなぁ~」

1862年10月。坂本竜馬は勝海舟の弟子になった。

この二人の出会いが日本史を大きく動かしてゆく。



第9話 山口県民がゆく

将軍と勝海舟の会話。

将軍「ねぇ、勝さん」

勝海舟「なんすか?」

将軍「おれさ、今すっげぇ困ってるんだけど」

勝海舟「え、なしたんすか?」

将軍「今夜も、朝廷の人と密会するんだけどさ、またなんか言われそうで…」

勝海舟「朝廷の人、なんか文句言ってくるんですか?」

将軍「うん。いっつもなんだよね」

勝海舟「なんて言ってくるんですか?」

将軍「外国との貿易やめろ~! 外国人を追い払え~!って」

勝海舟「ああ・・・・」

将軍「そんなこと出来るわけないしょ」

勝海舟「はい」

将軍「攘夷なんて無理だよね」


攘夷(じょうい)=外国を追い払うこと


勝海舟「え? じょ・・・・?」

将軍「どう思う、勝さん。今の日本に攘夷なんてできると思う? 強い軍艦でもあれば別だけど」

勝海舟「・・・・・・さぁ」

将軍「そんな冷たいこと言わないで意見聞かせてよ」

勝海舟「はぁ」

将軍「攘夷に賛成? 反対?」

勝海舟「えーと、別にどっちでもないっす」

将軍「え、どっちでもない?」

勝海舟「あ、やばいっすか?」

将軍「いや、リベラルだね。いいよ。そういうのいいよ」

勝海舟「え、まじ? へへ」

将軍「朝廷の人はさぁ、外国と付き合ってるといつか日本が植民地にされちゃうって騒ぐんだ。 確かに中国の例もあるし騒ぐ気持ちもわかるんだよね」

勝海舟「はい」

将軍「で、外国は『貿易しよ~。仲良くしよ~』って来るしょ」

勝海舟「はい」

将軍「おれ、板ばさみだよ」

勝海舟「大変ですね」

将軍「なんかさ、貿易もできて、そして植民地にもされないっていうナイスアイディア、ないかな?」

勝海舟「あ。あるかも」

将軍「え! うそ!」

勝海舟「はい、この前、立ち話してて苦し紛れに口走った案なんですけど・・・・」

将軍「なに? なに?」

勝海舟「貿易で儲けたお金で強い軍艦を買って、それで外国に対抗するっていう・・・・」

将軍「なに!」

勝海舟「・・・・なんて、無理っすよね。いや僕もその場しのぎで適当に言っただけなんですよ。 できるわけないっすよね」

将軍「いいよ! いい! 君はいい!」

勝海舟「え?」

将軍「それってめっちゃ天才的なアイディアじゃない?」

勝海舟「・・・・・そうですか?」

将軍「それで開国貿易派(幕府など)も尊王攘夷派(朝廷など)も、どっちも納得するしょ!」

勝海舟「あ、なんかもう漢字ばっかりでわけわかんないっす」

将軍「よし、それでいこう!」


その夜。

将軍「朝廷さん」

朝廷「なに?」

将軍「今日はナイスなアイデーアを持ってきました」

朝廷「お。いいね」

将軍「幕府の海軍大臣の勝海舟が考えたアイデアなんですが。貿易で儲けた金で強い軍艦を買って外国に対抗するんです」

朝廷「ほぉ」

将軍「そうすれば貿易もできるし、植民地にされる心配もないでしょ」

朝廷「・・・・・うーん」

将軍「どうですか? 日本の危機を救うのはこの方法しかないですよ」

朝廷「どうもピンと来ないなぁ」

将軍「え!?」

朝廷「別にわざわざ新しい軍艦を買わなくたっていいんじゃない? 今ある軍艦で十分でしょ」

将軍「いや、でも外国は蒸気船を持ってますから、こっちもそれに対抗して蒸気船の軍艦を買わないと勝負になりませんよ」

朝廷「気合だよ、気合」

将軍「無理ですってぇ」

朝廷「気合入れればできるよ。よし、もうがまんできない! おれ全国の都道府県の知事にメール出そう」

将軍「なんて?」

朝廷「外国の船を見かけたらバンバン攻撃しちゃえ!って」

将軍「そんな無謀な・・・・」

そして・・・・・

山口県民A「ねぇ、みんなのとこにも朝廷さんからメール来た?」

その他の県民「来た来た」

山口県民A「なに書いてあった?」

その他の県民「あんね、外国の船見かけたらやっつけろ!って」

山口県民A「あ、おんなじだ」

その他の県民「でもさ、外国って蒸気船とか持ってるんでしょ? 強そうじゃない?」

山口県民A「そうだね」

その他の県民「どうする? もし見かけたら、攻撃する?」

山口県民A「えー、みんなは?」

その他の県民「どうしようかな~。外国は怖いけど、でも朝廷さんの命令だしなー」

山口県民A「おれ、みんながするんだったら、する」

その他の県民「あ。おれも」

山口県民A「する? まじで? 絶対?」

その他の県民「・・・・・うん」

山口県民A「よし、じゃ、攻撃することね」

その他の県民「わかった」

山口県民A「自分だけ攻撃しないのとかナシね」

その他の県民「うん」


1863年5月10日。山口県。

山口県民A「あ、外国船だ。よし、撃っちゃえ」

どーん。どーん。

外国船「うわー。なんでいきなり撃つの? 今まで撃たなかったしょ」

山口県民A「朝廷さんの命令で、外国船は撃つことに決まったんだよね」

外国船「まじ?」

山口県民A「まじ。ほらほら、どーん。どーん」

外国船「ひぇ~」

山口県民A「ふふ。勝った」

しかし。

その後、外国艦隊の報復攻撃で山口県は大敗した。

その他の県民「うわー。山口県ボコボコじゃん。怖ーっ。外国には逆らわないでおこうっと」

日本と外国の力の差が証明された。



第10話 幕府を倒そう

勝海舟の自宅。

勝海舟「ニュース見た?」

坂本「なんの?」

勝海舟「山口県がさ、外国にボコボコにされたらしいよ」

坂本「ああ、ちらっと見た」

勝海舟「山口県、大変だね。どう思う?」

坂本「山口県民じゃなくてよかったーって思う」

勝海舟「おれも」

坂本「あまり関わり合いにならないでおこうね」

勝海舟「うん」

坂本「なんか、最近、日本めちゃくちゃだよね」

勝海舟「おれもよくわかんなくてさ」

坂本「ちょっとさ、日本の今の勢力関係とか、図にしてみるか」

勝海舟「あ、いいね。描くか」

坂本「えーと、まず、幕府があって・・・・」

勝海舟「うん。あとは何があるかな・・・・・」

坂本「・・・・・・・・」

勝海舟「・・・・・・」

坂本「やっぱり、図にするのやめるか」

勝海舟「そうだね」


そのころ外国たちは・・・・

イギリス「いやー、日本、植民地にしたいね」

フランス「うん」

イギリス「フランスさんはさ、どういう計画?」

フランス「え、おれ? おれはねー。今日本あたふたしてるしょ、外国と付き合うべきかどうかって」

イギリス「うん」

フランス「で、なんか幕府の存在感ってなくなってきてるしょ」

イギリス「うん」

フランス「そこでさ、幕府にお金とか兵器とか貸して、恩売ろうと思ってるんだよね」

イギリス「おー、なるほど」

フランス「そうすれば幕府はおれらフランスに頭が上がらないしょ。 で、日本国内の混乱が収まった後は事実上フランスが日本を支配するってわけ」

イギリス「すごい計画だね」

フランス「ふふ。まあね。マネしたらだめだよ」

イギリス「しないよ。だっておれ、違う計画考えてるもん」

フランス「うそ。どんなの?」

イギリス「おれはさ、幕府、近いうちに滅びると思うんだよね」

フランス「まじで!?」

イギリス「おれの予想だと、鹿児島県あたりが幕府を滅ぼすと思うんだ。だから今のうちから鹿児島県と仲良くしてるの」

フランス「どっちにしろ一番いいのは、日本がめちゃくちゃな内戦やってくれることだよね」

イギリス「うん。そうすれば日本の国力もダウンするし、 おれらがドサクサにまぎれて介入しやすくなるもんね」

フランス「ところで、アメリカさんは?」

イギリス「今、忙しいらしいよ」

フランス「え、なんで?」

イギリス「国内で戦争が始まったんだって」(南北戦争)

フランス「ふうん。じゃアメリカさんがいないうちに、おれらで日本を料理しちゃうか」

イギリス「うん」


ここはふたたび勝海舟の自宅。

坂本「勝さんって、幕府の海軍大臣なんでしょ?」

勝海舟「うん」

坂本「てことは、いっつも蒸気船に乗ってるの?」

勝海舟「たまにね」

坂本「いいなー。今度おれも乗せて」

勝海舟「いいよ」

坂本「やった~。じゃあさ、船で世界一周の旅に出るか!」

勝海舟「あー、それ無理だわ」

坂本「なんで?」

勝海舟「だっておれ仕事あるもん」

坂本「え、休みとか取れないの?」

勝海舟「だってさー、世界一周ったらけっこうかかるしょ」

坂本「年末の土日とお正月の休みさ、うまく合わせたらなんとかならない?」

勝海舟「いやー、っていうかね、年末忙しいし」

坂本「そっか・・・・・」

勝海舟「幕府がなくなれば、出勤しなくていいんだけどな(ボソッ)」

坂本「幕府がなくなれば?」

勝海舟「うん」

坂本「でも幕府つぶすっていったら、かなり大変じゃない?」

勝海舟「幕府ってサムライの集団だからね。それをつぶすとなると、かなり強い軍隊が必要だね」

坂本「外国なみの軍艦がたくさんあればね、いいんだけど」

勝海舟「でも、軍艦があってもさ、それを操縦できなかったら意味ないしょ」

坂本「どっかで操縦のしかた教えてくれる塾ないかな」

勝海舟「そんな塾ないよ」

坂本「勝さん、いきなり作ってみたら、そういう塾」

勝海舟「問題がふたつあるんだ」

坂本「なに?」

勝海舟「まずさ、気合入れて塾作っても生徒がだれも来なかったら恥ずかしいしょ」

坂本「そうだね」

勝海舟「坂本さん、生徒になってくれる?」

坂本「いや、わかんない」

勝海舟「うそっ!」

坂本「おれひとりだけだったら恥ずかしいもん」

勝海舟「生徒がひとりってのも、アットホームでいいしょ」

坂本「まあいいけどさ・・・・。で、ふたつめの問題は?」

勝海舟「塾作る金がないんだよね」

坂本「金、けっこうかかるの?」

勝海舟「かかるね」

坂本「おれもなー、昨日CD買っちゃったしなー」

勝海舟「いや、それぐらいの金じゃダメさ。もっとドカーンと大金出してくれるでっかい組織をスポンサーにしないと」

坂本「日本で一番でかい組織ってどこ?」

勝海舟「そりゃやっぱ、幕府でしょ」

坂本「じゃ、幕府にお願いしちゃう?」

勝海舟「幕府を倒すための塾の資金を幕府に出してもらうの?」

坂本「やばいかな・・・・」

勝海舟「いや、『ドッキリ』みたいでおもしろいかもよ」

坂本「ネタばらしのとき、かなりウケそうだね」

勝海舟「あー、でもおれ笑っちゃうかも、途中で」

坂本「だめだよ笑ったら。ばれるしょ」

勝海舟「うん。がまんする」

そして・・・・・

勝海舟「ねぇ、将軍さん」

将軍「なんだい?」

勝海舟「幕府のお金で、海軍塾みたいなもの作っていいですか?」

将軍「あ、外国に対抗するためでしょ」

勝海舟「はい。まあ、それもあるんですけど・・・・」

将軍「いいよ、作りな」

勝海舟「ありがとうございます」

こうして1863年春。

幕府による海軍塾の建設が決定した。



第11話 ブーム終了

竜馬と勝海舟が海軍塾の準備に大忙しだった頃。

竜馬のふるさと高知県では・・・・

後藤「おじさんが暗殺されて1年たった・・・・・」

後藤の親友「犯人、まだ捕まらないね」

後藤「絶対、坂本が犯人だと思うんだよな~」

後藤の親友「坂本とか、あと、あの尊王攘夷クラブのやつらあたりだよね、犯人」

後藤「尊王攘夷クラブのやつら、やっつけてやろうかなぁ」

後藤の親友「いや。今はまだやめといたほうがいいかもよ」

後藤「なんで?」

後藤の親友「だって今さ、めっちゃ尊王攘夷ブームでしょ」

後藤「うん」

後藤の親友「ブームで、あいつらも人気あるから、へたに手ぇ出さないほうがいいんじゃない?」

後藤「でもブームっていつか去るしょ」

後藤の親友「うん」

後藤「ブームが去ったら、ソッコウやっつけてやる」


朝廷と鹿児島県民の会話。

鹿児島県民A「ねぇねぇ朝廷さん」

朝廷「ん?」

鹿児島県民A「朝廷さんさ、山口県のこと好きなの?」

朝廷「好きだよ。だっておれの言うこと聞いて外国船を攻撃してくれたしさ」

鹿児島県民A「これからも仲良くしていこうと思ってる?」

朝廷「思ってるよ」

鹿児島県民A「そっか」

朝廷「今の尊王攘夷ブームもさ、山口県民のおかげみたいなところあるし」

鹿児島県民A「でも最近、そのブームも下火だよね」

朝廷「え、マジ?」

鹿児島県民A「うん。最近あんまりパッとしてなくない? 尊王攘夷」

朝廷「えー、なんでだろ」

鹿児島県民A「山口県が外国船を攻撃して、その仕返しにボコボコにされたしょ」

朝廷「うん」

鹿児島県民A「それ見てみんな、攘夷って無理っぽいな~って思ったんじゃない?」


攘夷=外国をやっつけること。


朝廷「それで、尊王攘夷ブームが終わってきてるの?」

鹿児島県民A「うん」

朝廷「えー、なんかちょっと残念。ていうかかなり残念」

鹿児島県民A「朝廷さんも、いつまでも尊王攘夷とか言ってたら、流行遅れな人だと思われるよ」

朝廷「うっそ、気をつけよう」


そのとき朝廷の電話が鳴った。


朝廷「はいもしもし朝廷です」

山口県民A「山口県民Aです」

朝廷「ああ、どーも」

山口県民A「朝廷さん、今夜あいてますか?」

朝廷「え、なんで?」

山口県民A「尊王攘夷の思想を愛する者同士、一緒に飲みたいなーと思って」

朝廷「ああ・・・・・」

山口県民A「どうっすか?」

朝廷「いや、今ね、鹿児島県の人と会ってるし、今夜は無理だよ」

山口県民A「じゃ、明日は?」

朝廷「それがさ、もう尊王攘夷とかって古いらしいんだよね」

山口県民A「え!」

朝廷「だからおれもそろそろ尊王攘夷は卒業かなーって」

山口県民A「まじっすか!?」

朝廷「うん」

山口県民A「えー、でもせっかく僕たち、尊王攘夷でがんばってきたのに」

朝廷「気持ちはありがたいんだけどさ」

山口県民A「がんばりましょうよ。外国をやっつけて、朝廷さん中心の世の中を作りましょうよ。 僕もがんばりますから」

朝廷「でもやっぱ流行とかあるし・・・・・」

山口県民A「そんな~(涙)」

朝廷「そういうことで。じゃ。悪いけど電話切るね」

山口県民A「今から行きます! 話し合いましょう!」

朝廷「げっ! 来なくていいよ」

山口県民A「いや、行きます、すぐ行きます!」


電話は切れた。


朝廷「うわ、やばい。山口県民、来るって、ここに」

鹿児島県民A「パニックなんだよ、きっと」

朝廷「でもなんかさ、ストーカーみたいで嫌じゃない?」

鹿児島県民A「じゃ、僕が追い払ってやるか?」

朝廷「うん。お願い。なんかほんとストーカーみたいで気持ち悪いから、 2度と京都に来るなって言って」

1863年8月18日。山口県民は京都から追放された。(8月18日の政変)


山口県民A「うぇ~ん(涙)朝廷さんのために外国船まで攻撃して、やたらがんばってきたのに~」

山口県民の失脚により尊王攘夷ブームは終了した。


ここは高知県。(竜馬のふるさと)

後藤の親友「後藤! 嬉しいニュースだ!」

後藤「なんだ?」

後藤の親友「山口県民が朝廷に嫌われて、京都から追い出されたって」

後藤「え、山口県民ってさ、尊王攘夷の中心的存在でしょ?」

後藤の親友「うん」

後藤「それが京都から追放されたの?」

後藤の親友「うん」

後藤「てことは、尊王攘夷ブームももう終わりだね」

後藤の親友「そういうこと」

後藤「てことは、高知の尊王攘夷クラブをやっつけても炎上しないね」

後藤の親友「そういうこと」

後藤「よし、おじさんのカタキとってやる!」

後藤は高知県の尊王攘夷クラブのメンバーを捕らえ、処刑した。

竜馬の親友も、これにより死んだ。



第12話 公武合体

竜馬と勝海舟の会話。

勝海舟「坂本さん! ショッキングな出来事だ!」

坂本「なに?」

勝海舟「坂本さんの高知の親友が処刑された」

坂本「え!」

勝海舟「尊王攘夷のブームが終わったんで、弾圧されたんだ」

坂本「うそぉっ! 誰が処刑したの?」

勝海舟「高知県の上級武士の後藤たち」

坂本「うぅ・・・・・・」

勝海舟「坂本さん、泣きそうだね」

坂本「びえぇ~~~ん」

勝海舟「泣いたね。そりゃ泣くよね」

坂本「もぉ~。後藤腹立つぅ、いっつも腹立つぅ~(涙)」

勝海舟「いつか、仕返ししてやれよ、ね」

坂本「おれさ、船で世界一周するとき、勝さんとか高知の親友とか、みんなで行きたかったのにさぁ」

勝海舟「坂本さんが親友のぶんも世界を見てくればいいよ。でさ、 世界一周したら、親友のお墓の前でおもしろいみやげ話を聞かせてあげるんだ」

坂本「・・・・・うん」

勝海舟「ね」

坂本「勝さん、絶対おれと一緒に世界の海を回ってくれる?」

勝海舟「うん」

坂本「一緒に親友のお墓に行ってくれる? なんか一人じゃ恥ずかしいしさ、ちょっと」

勝海舟「うん。約束だ」


朝廷と鹿児島県民のようす。

朝廷「あーあ」

鹿児島県民A「どしたの? ため息ついて」

朝廷「いや、尊王攘夷ブーム終わっちゃったな~と思って」

鹿児島県民A「終わったね」

朝廷「ブームの間、おれけっこう人気者だったのになぁ」

鹿児島県民A「ブーム終わったから、人気落ちるね」

朝廷「うそ。やっぱ落ちるかな?」

鹿児島県民A「落ちるよ。そのうち忘れ去られるんじゃない?」

朝廷「えー、それ嫌だな~」

鹿児島県民A「でも、いまさら人気を維持する方法なんてないしょ」

朝廷「あのさ、おれ前から思ってたんだけどさ・・・・」

鹿児島県民A「うん」

朝廷「おれと幕府のコラボで曲を出したら、売れないかな?」

鹿児島県民A「あー、売れるかも」

朝廷「でしょ? おれと幕府ってなにかと意見が対立してるから、その二人のコラボって話題性あるよね」

鹿児島県民A「あるね」

朝廷「よし、曲、出そう。そしたら人気も維持できるしょ」

鹿児島県民A「いいねそれ、いけるよ」

朝廷「でもさ、いきなり幕府と仲良くしたら、世間がなにかとうるさいかもね」

鹿児島県民A「そのへんは僕がうまいこと有力者に根回ししとくよ」

朝廷「へへ。悪いね」

こうして、『朝廷と幕府は歩み寄るべきだ』という公武合体論が広まった。


ここは山口県。

山口県民A「ふふ。おれら、京都から追放されたね」

山口県民T「え、なんで笑ってるの?」

山口県民A「いや。もうなんか、脱力してきた。 朝廷さんがあんなふうに心変わりするとはなぁ」

山口県民T「きっと、鹿児島県のやつに騙されてるんだよ」

山口県民A「そうだよね。朝廷さん、騙されてるよね」

山口県民T「うん。だから悪いのは鹿児島県民だね」

山口県民A「だね」

山口県民T「朝廷さんを騙す悪い奴はやっつけないと」

山口県民A「そうだね」

山口県民T「軍隊を率いて京都に行って、悪い奴をやっつけよう!」

山口県民A「でもさ、うまくいくかな? 向こう、大人数だよ」

山口県民T「まあ、ダメかも知れないけど、やるだけやってみようよ」

山口県民A「うん」

山口県民は京都に軍隊を進めた。


朝廷「わー。わー」

鹿児島県民A「わーわー言って、どしたん?」

朝廷「山口県民が大勢で攻めてきた! 悪質だ! 悪質なストーカー行為だ!」

鹿児島県民A「どれ、僕がやっつけてあげよう」


1864年7月19日。

京都で山口軍と鹿児島軍が激突。(禁門の変)

わずか1日の戦闘で山口軍は壊滅した。


山口県民A「やっぱダメだったね。逃げろ。ぴゅーん」

山口県民T「おう。ぴゅーん」

このあと、さらなる悲劇が山口県を襲う。



第13話 征討軍

京都から逃げ帰った山口県民は・・・・

山口県民A「ふ~。やっと戻ってきた。我が家だ」

山口県民T「命からがらだね」

山口県民A「ほとぼりが冷めるまでしばらくじっとしてよう」

山口県民T「うん」

しかし。

外国船「おーい」

山口県民A「あ、外国さん。どーも」

外国船「なんかボロボロだね」

山口県民A「いや、ちょっと京都でけんかしちゃって・・・・」

外国船「山口県ってさ、いっつもボロボロだよね」

山口県民A「まあね。ところでなんか用かい?」

外国船「うん。やっつけに来た」

山口県民A「誰を?」

外国船「誰をって、そりゃー山口県を」

山口県民A「なんで!?」

外国船「山口県って外国船を攻撃したり、京都に殴り込みしたり、危険でしょ」

山口県民A「いろいろ事情があるんだよ」

外国船「そんな危険な奴はさ、徹底的にやっつけてやろうと思って。じゃ、行くよ。大砲どーん。どーん」

山口県民A「うわぁ。ちょっと待って!」

外国船「待ったナシね。どーん。どーん」

山口県民A「ひぇ~~~(涙)」

外国船「このへんでいいかな。じゃーね。またね!」

山口県民A「2度と来るなぁ!」

外国船「ばいばーい♪」

1864年8月5日。山口県は外国4ヶ国の連合艦隊に攻撃され敗北した。


さらに。

朝廷「ねぇ将軍」

将軍「はい」

朝廷「曲のレコーディング、いつする?」

将軍「その前にちょっと、山口県、やっつけておきたいんですよ」

朝廷「え。だって山口県って、京都で鹿児島軍にやっつけられて、 そのあと外国にもやっつけられて、瀕死の重症でしょ」

将軍「いやぁ、最近、幕府ってなんか忘れられてるんですよ。あんまり活躍してないし」

朝廷「そうだね」

将軍「だから、このへんで山口県あたりをサクッとやっつけて、存在をアピールしたいなーと」

朝廷「でも、瀕死の相手をやっつけても・・・・・」

将軍「それでも勝利は勝利ですから」

朝廷「それ、弱い者いじめじゃん」

将軍「ところで朝廷さん…」

朝廷「?」

将軍「『山口県をやっつけろ!』っていう命令をくれませんか? 書類で」

朝廷「え。なんでおれの命令が必要なの? 自分で勝手にやっつければいいしょ」

将軍「朝廷さんの命令としてやっつけるほうが迫力あるじゃないですかぁ」

朝廷「だってさ、おれの命令でやっつけるってことは、おれが悪者っぽくならない?」

将軍「でも実際やっつけるのは僕の仕事ですから」

朝廷「でもさー・・・・」

将軍「朝廷さんだって、これ以上ストーカー行為が続いたら嫌でしょう?」

朝廷「そりゃーね」

将軍「命令するのは朝廷さん、実行するのは幕府。ということで」

朝廷「なるほど。責任を半分半分にするんだね」

将軍「はい。それだと、もし後から責任を問われても、お互いウヤムヤにできますよ」

朝廷「わかった」

こうして『山口県をやっつけろ!』という朝廷の命令が下った。


1864年10月。

幕府の大軍が山口県を攻めた。(第1次長州征討)


山口県民A「うわ~。こんなの勝てるわけないじゃん!」

山口県民T「降伏しよう・・・・・」

山口県民A「なんでおれらばっかりこんな目にあうんだぁ」

山口県民T「元はと言えば、鹿児島県民が朝廷さんをそそのかしたからだよ」

山口県民A「くっそ~。鹿児島県民めぇ~~~」

山口県は降伏した。


一方、竜馬と勝海舟の海軍塾は。

勝海舟「塾、けっこう順調だね」

坂本「うん。生徒も集まったし、よかったよ」

勝海舟「このペースだと、意外と早く幕府を倒せるかもね」

しかし、勝海舟の身に事件が起きる。



第14話 廃止

海軍塾の休み時間。

坂本「りんご」

勝海舟「ゴリラ」

坂本「らっぱ」

勝海舟「パソコン・・・」

坂本「あ!『ん』付いた!」

勝海舟「パソコン・・・・・の本」

坂本「ダメじゃん」

勝海舟「くっそぉー」

坂本「勝さんの負けね」

勝海舟「また負けたぁ」

坂本「3連敗だから罰ゲームだよ」

勝海舟「わかったよ。なにさ、罰ゲーム」

坂本「えーとね。何にしよっかな。なんでもいい?」

勝海舟「うん。あ、ケガしそうなのとかナシね」

坂本「じゃあね、将軍の前で『幕府つぶれろ』って言うことね」

勝海舟「げっ! 無理だよ」

坂本「ダメだよちゃんと言わないと。罰ゲームなんだから」

勝海舟「だってそんなこと言えるわけないしょ」

坂本「あ。わかった。じゃ、3回言うことね。3回」

勝海舟「いや、言えないって」

坂本「小さい声でもいいんだよ。セキ払いしながらとか」

勝海舟「不自然だよ」

坂本「とにかく、罰ゲームなんだからやってね♪」


その夜。江戸城。

将軍「おれ今度ね、朝廷さんと一緒に曲を出すさ」

勝海舟「すごいっすね」

将軍「コラボだよ」

勝海舟「どんな感じの曲ですか?」

将軍「それがさ、なかなかお互いのイメージが一致しなくて、ちょっともめてるのさ」

勝海舟「でも、お互いちゃんと意見を出し合ったほうがいいものできるんじゃないですか」

将軍「うん。そうだよね」

勝海舟「・・・・・幕府つぶれろ(ボソッ)」

将軍「え?」

勝海舟「え? いや。なんでもないですよ。話変わりますけど、山口県ボロボロですね」

将軍「パワーはあるんだけど、なにせ無謀だからね。ああいう目にも合う」

勝海舟「・・・・幕府つぶれろ(ボソッ)」

将軍「え。幕府がどうしたって?」

勝海舟「いえ、別に(汗)」

将軍「なんかさ、幕府つぶれろって言わなかった?」

勝海舟「いやー。言うわけないじゃないですか」

将軍「・・・・・・もしかしてさ」

勝海舟「はい」

将軍「勝さん、あの海軍塾で強い海軍をつくって、幕府をつぶそうとしてるんじゃないの?

勝海舟「どきっ!・・・・・(汗)」

将軍「そうでしょ? そうなんでしょ?」

勝海舟「まさかぁ! そんなわけないじゃないですかぁ」

将軍「そんなわけない?」

勝海舟「はい。そんなわけないですよ」

将軍「そうか。そうだよね。疑ってごめん」

勝海舟「・・・・・・幕府つぶれろ(ボソッ)」

将軍「あー! やっぱり!」

勝海舟「いえ、これは罰ゲームで・・・・」

将軍「海軍塾なんて廃止だ! おまえなんか大臣やめろ、減俸だ、謹慎だ!」

勝海舟「はい(TT)」

1865年3月。海軍塾は廃止された。


残された竜馬と塾生は・・・・・

塾生「塾、いきなりなくなっちゃいましたね」

坂本「うん」

塾生「勝さんもいきなり失脚して消えちゃいましたね」

坂本「うん。別れを惜しむ間もなかった・・・・」

塾生「塾がなくなったら、僕たちただの無職の集団ですよ」

坂本「そうだね」

塾生「塾にいたときは、幕府がお金を出してくれたけど、 今はもう食費も宿もありませんよ」

坂本「うん」

塾生「どうしましょう、坂本さん」

坂本「どうしましょうって、ねぇ、どうしましょう・・・・」

どうする、竜馬。



第15話 曲

朝廷と将軍。

朝廷「さて、ふたりで出す曲の打ち合わせするか」

将軍「どんな感じのがいいですか?」

朝廷「まずじゃあさ、曲のタイトルから決めて、イメージ固めしていこう」

将軍「タイトルね~。僕、『ワニさん』がいいな」

朝廷「なんで!?」

将軍「黙々として強そうな感じしません? 今の時代、そういうリーダーが必要かなーっていう意味で」

朝廷「それだったら『カバさん』じゃない? ちょっとユーモラスだし、力もあるし」

将軍「えー、『ワニさん』だなぁ~、僕は」

朝廷「おれは『カバさん』がいいなぁー」

将軍「絶対『ワニさん』ですよ。これは譲れません」

朝廷「おれも『カバさん』という線は譲れないね」

将軍「じゃあ、残念ながら決裂ですね」

朝廷「ああ、決裂だ! ふんっ」

朝廷と幕府を結び付けようとする公武合体の試みは失敗に終わった。


そのころ山口県では。

山口県民A「ん? T君、なにやってるの?」

山口県民T「作戦考えてるの」

山口県民A「作戦ってなにさ」

山口県民T「この前、幕府にボコボコにされたしょ。だから仕返しするにはどうしたらいいかなーと 思って」

山口県民A「え、仕返しするの? やばくない?」

山口県民T「あ、あと、鹿児島県民も腹立つね。あいつにも仕返ししよう」

山口県民A「ちょっかい出して、わざわざまた怒らせることないしょ」

山口県民T「いや、もうね、幕府もムカつくし、鹿児島県もムカつくんだよね。 両方とも滅ぼしてやろうかと思ってさ」

山口県民A「でも、勝てると思う? 強いしょ、幕府も鹿児島県も」

山口県民T「やっぱ、戦争に勝つには近代兵器が必要だよね。ライフルとか蒸気船とか」

山口県民A「うちの県にそんなものないじゃん」

山口県民T「だから困ってるんさ。どうしよう」

山口県民A「近代兵器を手に入れるには、外国の武器商人と取引しなきゃね」

山口県民T「うん」

山口県民A「だけどさ、幕府以外が外国と貿易するのって禁止されてるしょ。 密貿易っていう手もあるけど、山口県って幕府に目ぇつけられてるから、そんなこと不可能だよ」

山口県民T「そうだよね。そこが問題なんだよ。武器を輸入しないと戦えない。 でも貿易は禁止されてる。うーん。・・・・・なんかいい方法ないかな」


一方。京都では。

将軍「おれさ、朝廷さんとケンカしちゃったさ」

鹿児島県民A「ほんとに!?」

将軍「うん。音楽性の違いで」

鹿児島県民A「え、じゃあ、一緒に曲を出すって話は?」

将軍「なし」

鹿児島県民A「なんだー。どんな曲になるか楽しみだったのにぃ」

将軍「ソロで出していくよ」

鹿児島県民A「まあ。がんばってね」

将軍「あ。そう言えばさ。また山口県が暴れ出しそうなんだけど、やっつけたほうがいいかな」

鹿児島県民A「うん。やっつけたほうがいいんじゃない?」

将軍「やっつけるの、手伝ってくれる?」

鹿児島県民A「え。僕?」

将軍「うん。君のところの軍隊って強いしょ」

鹿児島県民A「まあね」

将軍「だからさ、協力してよ」

鹿児島県民A「いやー。でもなんかちょっとメンドクサイしなぁ」

将軍「あ。そうだ。山口県民ね、君のことムカツクって言ってるらしいよ」

鹿児島県民A「え、僕のこと?」

将軍「うん。すっげぇムカツクって言ってるみたい」

鹿児島県民A「マジで!?」

将軍「マジで。どお、腹立たない? 腹立つしょ? ね、だからさ、やっつけようよ。協力してよ」

鹿児島県民A「・・・・・・僕、そんなにムカツクと思われてるの?」

将軍「うん。かなりね」

鹿児島県民A「うっそショックだ。・・・・あやまろ」

将軍「え!」

鹿児島県民A「山口県の人にあやまるよ」

将軍「いや。そんなこと言わないで一緒に山口県をやっつけようよ。手伝ってよ」

鹿児島県民A「だって、ますますムカつかれたらやばくない?」

将軍「あやまりに行ったら、やたら文句とか言われるかもよ。がーーって」

鹿児島県民A「えー、やだなぁ」

将軍「ね。だから山口県をやっつけちゃおうよ」

鹿児島県民A「それも嫌だよ。恨まれるもん」

将軍「もぉー。協力してくれるまでここから返さないよ!」

鹿児島県民A「じゃ、逃げる!ぴゅー」

将軍「あ、逃げた!待てー」

鹿児島県は第2次長州征討への参加を拒否した。


街角。

塾生「あ、坂本さん」

坂本「ん?」

塾生「向こうから誰か走ってきますよ」

坂本「ホントだ。追いかけられてるみたいだね」

鹿児島県民A「助けて~~~」

坂本「どうしたんですか?」

鹿児島県民A「僕は鹿児島県民Aといいます。ちょっと今、追われてるんです」

坂本「え、追われてるって? 誰に?」

鹿児島県民A「話せば長くなりますが、助けてください」

坂本「助けてって言われても、こっちも無職で無一文で・・・・・」

鹿児島県民A「あ。あなたもしかして坂本竜馬?」

坂本「え、なんでそれを・・・・」

鹿児島県民A「剣が強いんでしょ? 有名ですよ」

坂本「いや、あんまり強くないんですけど・・・・」

鹿児島県民A「隠してもダメですよ。坂本竜馬といえば北辰一刀流免許皆伝で、 あの有名な桶町千葉道場のキャプテンだった人でしょ」

坂本「ええ。まあ」


そこへ将軍が現われた。

将軍「鹿児島県民Aさん、考え直してよ~。むっ。誰だ君は」

坂本「あ、坂本です。どーも。で、あなたは誰?」

将軍「そんなことはどうでもいい。そこをどけろ」

坂本「いや。でもこの人、嫌がってるんで・・・・」

将軍「君には関係ないことだ」

坂本「でも・・・・・」

将軍「おれに逆らうのか? いい度胸だ。よし、勝負しよう!」

坂本「げっ!」

将軍は剣を抜いた。



第16話 会社

将軍「さぁ、剣を抜け。勝負だ」

坂本「いや。勝負とかってやめましょうよ」

将軍「いいから抜きたまえ」

坂本「まあまあ。落ち着いて・・・・」

鹿児島県民A「あ、坂本さん、あれを見てください。あそこに船があります! 船で逃げましょう!」

坂本「いいっすね」

鹿児島県民A「あ、僕、船の操縦できないんだった」

坂本「あらら」

鹿児島県民A「坂本さん、船の操縦できます? なんて、できるわけないか・・・・」

坂本「それができるんですぅ~」

鹿児島県民A「え! うそ! かっこいい!」

坂本「え? もっとみんなに聞こえるように」

鹿児島県民A「かっこいい!!(大声)」

坂本「えへへ。海軍塾で習ったから」

鹿児島県民A「じゃあ、操縦、お願いします。鹿児島まで」

坂本「いいっすけど、塾生のみんなも一緒でいいですか?」

鹿児島県民A「なんでもいいです。急ぎましょう!」

1865年4月。航海技術を高く評価された竜馬たちは鹿児島県に向った。


将軍「こらー! 待てー! ・・・・・あーあ。逃げられちゃった」


船上。

鹿児島県民Aはふるさとの友人に電話した。

鹿児島県民A「もしもし」

鹿児島県民Aの友人「はい。友人です」

鹿児島県民A「あ、友人? 僕、Aだけど」

鹿児島県民Aの友人「ああ。Aか。どうよ、調子は」

鹿児島県民A「今さ、坂本竜馬さんと一緒にそっちに向ってるんだ」

鹿児島県民Aの友人「へぇ~。じゃあ待ってる」

鹿児島県民A「あのさ、僕、坂本さんになるべくすごい人だと思われたいんだけど、どうしたらいいかな?」

鹿児島県民Aの友人「会話の中にコトワザとか入れたら尊敬されるかもよ」

鹿児島県民A「なるほどね。どんなコトワザがいい?」

鹿児島県民Aの友人「あんまりキザなのでもダメだから、無難に 『ただより高いものはない』とかは?」

鹿児島県民A「わかった。使ってみる」

鹿児島県民Aの友人「あと、相手の意見を受け止める器量を見せる意味で・・・・」

鹿児島県民A「うん」

鹿児島県民Aの友人「やさしく『それだけですか?』と言って相手の言いたいことをさらに引き出すといい ・・・・・って本に書いてあった」

鹿児島県民A「なるほどね。ありがとう」

そして。

一行は鹿児島県に到着した。

鹿児島県民A「助かりました。どうもありがとうございました」

坂本「うわ、でもさ、鹿児島ってすごいね。工場いっぱいあるし、火山もあるし」

鹿児島県民A「珍しいところでしょ」

坂本「このままここに住んじゃおうかなっ」

鹿児島県民A「いいですよ。じゃあ、この書類にサインして、ここにハンコ押して、 あと、住民票を提出して下さい」

坂本「え。住民票なんて持ってきてないよ・・・・」

鹿児島県民A「だらしないな~」

坂本「え。うそっ。別にだらしなくないしょ?」

鹿児島県民A「僕はいつも持ち歩いてるよ。ほら、これ」

坂本「なぜ!」

鹿児島県民A「とにかく住民票がないと住所移転の正式な手続きができません」

坂本「別にいいよ」

鹿児島県民A「それじゃ住所不定になっちゃいますよ」

坂本「わー! 何あれ! あれ見て!」

鹿児島県民A「人の話聞いてね・・・・」

坂本「あれ、蒸気船じゃない? あんなにたくさん! すごい! 鹿児島県すごい!」

鹿児島県民A「え、そお? すごい?」

坂本「鹿児島県ってあんなにたくさん蒸気船持ってるの? すごくない?」

鹿児島県民A「ええ。まあ」

坂本「1隻ちょうだいね」

鹿児島県民A「いや、そんなサラッと言ってもダメだし・・・・」

坂本「じゃあ、借して」

鹿児島県民A「住所不定の人が船なんか持ってどうするんですか!」

坂本「それはもちろん、いつの日か世界一周を・・・・・」

鹿児島県民A「あ! わかった!」

坂本「え?」

鹿児島県民A「坂本さんが船を使って何をしようとしてるか、わかった! いや~、 大胆だな~坂本さん」

坂本「え? え?」

鹿児島県民A「つまりこういうことですね。都道府県は外国との貿易を禁止されてる。 でも外国の武器を欲しがってる都道府県は多い。だから・・・・・」

坂本「なんの話?」

鹿児島県民A「だから、坂本さんが都道府県にかわって外国と取引して武器を仕入れ、 それを改めて都道府県に売ってあげるということですね!」

坂本「???」

鹿児島県民A「そうすれば都道府県は外国と直接貿易してるわけじゃないから罰せられないし、 坂本さんも住所不定だから責任の所在があいまい。すごい! 坂本さん、あなたは天才だ!」

坂本「いや、天才って・・・・」

鹿児島県民A「そうやって都道府県の軍事力をアップして、ゆくゆくは幕府を倒そうというんですね!」

坂本「げっ!」

鹿児島県民A「でしょ? 幕府、倒そうとしてるんでしょ?」

坂本「・・・・・・うん。まあ。・・・・内緒だよ」

鹿児島県民A「僕もね、最近、幕府は倒したほうがいいんじゃないかな~って思ってるんですよ」

坂本「え、なんで?」

鹿児島県民A「幕府って今、山口県をメッタクソにしてますよね」

坂本「うん」

鹿児島県民A「でも、 いつか我が鹿児島県もメッタクソにされちゃいそうで怖いんですよ。最近の幕府ってヒステリックだから」

坂本「そっか」

鹿児島県民A「幕府はもう指導力を失ってます」

坂本「ふうん」

鹿児島県民A「坂本さんももちろん日本の未来を考えて 幕府を倒そうとしてるんですよね?」

坂本「え!? ああ、うん。まあイロイロね・・・・」

鹿児島県民A「資金を提供します。ぜひ貿易をがんばって下さい」

坂本「え、良くわかんないけど、お金をただでくれるの?」

鹿児島県民A「はい」

坂本「ただ? うそぉ、ラッキー!」

鹿児島県民A「ただより高いものはない・・・・ってね」

坂本「え!Σ( ̄□ ̄;」

鹿児島県民A「いえ、気にしないで下さい」

坂本「・・・・・・やっぱ借りるだけにするよ。あとでちゃんと返すから(汗)」

鹿児島県民A「では1000万円をお貸ししますね」

坂本「じゃあ、必ず1000万円、返すね」

鹿児島県民A「それだけですか?」

坂本「え。・・・・じゃあ利子つけて1500万円返しますよ(汗)」

鹿児島県民A「え! ホントですか!」

坂本「はい・・・・」

鹿児島県民A「お金のある人から資金を出してもらって、そのお金を元手に商売をして、 儲かったら出資者に利子を払う。それってアメリカで今ハヤリの株式会社じゃないですか! 坂本さん、すごい!」

坂本「かぶしきがいしゃ? はぁ」

鹿児島県民A「日本で株式会社を作ろうだなんて、 時代の先端を行ってますね! 尊敬します!」

こうして、坂本竜馬によって日本最初の株式会社が設立された。



第17話 極悪人

その夜。竜馬と塾生の会話。

坂本「おれね、株式会社の社長っていうのになったさ」

塾生「え? 株式会社?」

坂本「君、社員ね」

塾生「いいですけど、どんなことするんですか?」

坂本「貿易とかするみたい」

塾生「貿易? 金儲けですか?」

坂本「うん。たぶん」

塾生「えー! だって坂本さん、幕府を倒すためにがんばるって言ってたじゃないですか~。それがいきなり金儲けですか~?」

坂本「いや。あのね、この貿易が幕府を倒すのに役立つらしいんだよね」

塾生「貿易で幕府を倒せるんですか? まさか」

坂本「らしいよ。鹿児島県民Aさんが言ってたもん」

塾生「騙されてるんじゃないですか? 坂本さん、すぐ騙されそうだからなぁ」

坂本「貿易の内容を詳しく説明するとね・・・・・」

塾生「はい」

坂本「外国の、武器、・・・・えーと、都道府県に、武器、えーと、禁止・・・・」

塾生「?」

坂本「・・・・とか。そんな感じ」

塾生「どんな感じ?」

坂本「まあ、難しいのさ」

塾生「もしかして、こういうことですか。つまり・・・・」

坂本「?」

塾生「地方自治体は幕府を倒すために外国の武器を欲しがってるけど、外国との貿易は禁止されてる。 だから住所不定集団の僕たちが両者の間に入って貿易を仲介する」

坂本「そう! それ!」

塾生「ようするに密輸ですね。悪いな~」

坂本「どきっ」

塾生「これは賭けですよ、坂本さん」

坂本「賭け?」

塾生「さっさと幕府を倒さないと、坂本さん、すっごい悪者として歴史に名を残しちゃいますよ」

坂本「うそ!」

塾生「だって、密輸団のリーダーだし、しかも幕府を倒そうとたくらんでるでしょ。極悪人ですよ」

坂本「極悪人!?」

塾生「はい。江戸幕府始まって以来の大反逆者ですね」

坂本「えー・・・・。でもさ、おれ、住所不定だから責任を追及されないって 鹿児島県民Aさんが言ってたよ」

塾生「責任を追及されないのは、坂本さんではなくて鹿児島県です」

坂本「え?」

塾生「出資者である鹿児島県の責任はあいまいになります。だって『坂本竜馬? そんなやつ知らん!  鹿児島の住民じゃないね』って言えるでしょ。でも坂本さん本人の責任はやっぱり追及されますよ」

坂本「マジ! そういうことだったの!?」

塾生「そりゃあ、そうですよ」

坂本「逮捕されたら、どうなるかな?」

塾生「極悪人だから、死刑ですね」

坂本「おぉ(TT)」

塾生「死刑になったら、世界一周もなにもできませんよ」

坂本「そんなの嫌だ…。幕府、ぜったい倒そ」

塾生「貿易、がんばりましょうね」

坂本「うん」

竜馬たちは長崎に拠点を構え、船を使った海運貿易業を開始した。

彼らの会社は『亀山社中』といった。


その長崎にて。

長崎の人「あ! おひさしぶり!」

坂本「え?」

長崎の人「忘れた? おれ。長崎の人」

坂本「あー。思い出した! 3年前、おれが長崎に立ち寄ったときにちょっと話した人だね」

長崎の人「そうだよ。約束どおり長崎に戻ってきてくれたんだね。今どうしてるの?」

坂本「今ね、念願の蒸気船を手に入れて、貿易会社やってるさ」

長崎の人「え! 蒸気船、手に入れたの!?」

坂本「うん」

長崎の人「おめでとう! やったね。商売もうまくいくといいね」

坂本「ありがとう」

長崎の人「実はおれ、小曽根英四郎っていう、長崎ではちょっとした豪商なんだ。 商売とかわかんないしょ? 教えてあげるよ」

坂本「マジで? 助かるな~」

長崎の人「で、どんな商品扱ってるの?」

坂本「えーと、武器」

長崎の人「え! 武器? そんなの商売になるの?」

坂本「いや。わかんないけど。ダメかな?」

長崎の人「だってさ、商売って、安く仕入れて高く売らなきゃだめなんだよ。 武器、安く仕入れられる?」

坂本「どっかで安く売ってないかなぁ、武器」


そのころアメリカでは。

アメリカ人1「アメリカもさ、やっと南北戦争が終わって平和になったね」

アメリカ人2「うん。よかった、よかった。って、やばっ!」

アメリカ人1「どうした?」

アメリカ人2「戦争もっと長引くかと思って、武器やたらいっぱい作っちゃった」

アメリカ人1「げっ、使い道ないじゃん」

アメリカ人2「あまっちゃったね。どうしよう」

アメリカ人1「アジアにでも、安く売るか」

アメリカ人2「そうだね」


というわけで。長崎。

坂本「なんか、アメリカ人がやたら安く武器を売ってたから、買っちゃった」

長崎の人「おぉ・・・・やるね」

坂本「これで商売できるね」

長崎の人「うん。ばっちり」

そのとき竜馬の電話が鳴った。

坂本「はい。坂本です」

山口県民A「あ、もしもし。山口県民Aです」

坂本「あ。どーも。むかし江戸で剣の修行してたとき、ちょくちょく試合したよね」

山口県民A「うん。なつかしいね。ところで坂本さん、密貿易の手伝いしてくれるんだって?」

坂本「うん。してるよ。今日も安い武器たくさん手に入ったさ」

山口県民A「マジ? 売ってくれない?」

坂本「いいよ」

山口県民A「おれらさ、また幕府にいじめられそうなんだよね。だから、いい武器が欲しくてさ」

坂本「うん。売ってあげる」

山口県民A「助かるよ。これで幕府をやっつけれる。あ。そういえば・・・・」

坂本「なに?」

山口県民A「今朝のニュースでやってたけど、坂本さん、全国に指名手配されたらしいよ」

坂本「え。おれ?」

山口県民A「うん」

坂本「なんで!? うっそぉ?」

山口県民A「やっぱ、武器の密輸とかして、幕府に反抗する勢力をサポートしてるからじゃない?」

坂本「それで幕府、怒ったのかな?」

山口県民A「うん」

坂本「えー、マジ嫌じゃない、それ」

山口県民A「武器は明日届けてね。じゃ、待ってる。途中で捕まらないように気をつけて。ばいばーい」

坂本「ばいばい・・・・・」

坂本竜馬、指名手配。



第18話 JR京都駅

民衆の会話。

民衆1「時の流れは速いね~。この前まで尊王攘夷ブームかと思ったら、その次は 公武合体ブームだったしょ。で、今のハヤリは倒幕だ」

民衆2「とうばく?」

民衆1「うん。倒幕。幕府をつぶしちゃうこと」

民衆2「へぇ~」

民衆1「幕府、頼りないからね。あんなのに日本をまかせてたら、 外国の植民地にされちゃうよ」

民衆2「そっか、幕府ってそんなにだらしないのか。じゃあ倒さないとね」

民衆1「でも、幕府ってあれでなかなか強いのさ」

民衆2「あ、やっぱり」

民衆1「ちょっとやそっとじゃ、倒せないね」

民衆2「でも、強い県が一致団結すれば、倒せるんじゃない?」

民衆1「いま日本で強い県といえば、山口県と鹿児島県でしょ」

民衆2「うん。山口県はやんちゃなパワーがあるし、鹿児島県は 近代化が進んでるもんね」

民衆1「そのふたつの県が協力すれば、 もしかしたら幕府を倒せるかもしれない。でも・・・・」

民衆2「でも?」

民衆1「そのふたつの県って、めっちゃ仲悪いんだよね」

民衆2「え、じゃあダメじゃん」

民衆1「ダメさ」


ここは山口県。

坂本「こんにちは~」

山口県民A「あ、坂本さん、よく来てくれたね。まあ上がって上がって」

坂本「お邪魔しまーす」

山口県民A「武器、持ってきてくれた?」

坂本「持ってきたよ。ばっちり」

山口県民A「ありがとう。これで幕府と戦えるよ」

坂本「勝てそう?」

山口県民A「わかんないけど、まあいいとこ行くんじゃない?」

坂本「じゃあ、前祝いに、飲むか?」

山口県民A「前祝いっていうか、ただ飲みたいだけでしょ?」

坂本「ビール、買って来たさ。ほら」

山口県民A「いいねー。じゃあ、倒幕に乾杯!」

坂本「かんぱーい♪」

山口県民A「よーし、武器も手に入ったし、今度幕府が攻めてきたら 思いっきりやっつけてやる」

坂本「マジでさ、幕府、倒してね」

山口県民A「うん」

坂本「あ、そうだ。せっかくの飲み会だから、友達も呼んでいい?」

山口県民A「え、いいけど誰?」

坂本「鹿児島県民Aさん」

山口県民A「えっ!」

坂本「電話しーよおっと」

竜馬は電話をかけた。

坂本「もしもし。鹿児島県民Aさんですか? 坂本です」

鹿児島県民A「ああ、坂本さん。こんばんは」

坂本「いま何やってたの?」

鹿児島県民A「いや別に、テレビ見たり、暇だなーって」

坂本「今さ、友達と飲んでるんだけど、来ない?」

鹿児島県民A「あ、いいっすね」

坂本「みんなで飲もうよ」

鹿児島県民A「はい。場所は?」

坂本「あのね、山口県民Aさんの家」

鹿児島県民A「え・・・・(汗)」

坂本「じゃ、待ってるよ。あ、つまみ買って来てね、じゃーねー」

鹿児島県民A「あ、ちょっと・・・・」

竜馬は電話を切った。

坂本「来るって」

山口県民A「来るって?」

坂本「うん」

山口県民A「坂本さんは知らないかもしれないけど、 おれら山口県の人間って、鹿児島県をすっげぇ嫌ってるんだよ」

坂本「え、うそお!」

山口県民A「ホント。会ったら、斬っちゃうかも」

坂本「そんなに嫌いなの・・・・?」

山口県民A「大っ嫌い。だって、あいつらのせいでおれたち失脚して京都から追い出されて、尊王攘夷ブーム終わって、幕府にメッタクソにされたんだよ」

坂本「かなり怒ってるね」

山口県民A「怒ってるよ」

坂本「でも、鹿児島県民Aさんっていい人だよ。一回会ってみ」

山口県民A「嫌だよ。奴が来ても、おれ、ドアの鍵開けてやんないよ」

坂本「そんな意地悪しないで、みんなで楽しくやろうよ」

山口県民A「だってムカつくもん」

坂本「鹿児島県民Aさん、つまみ買って来てくれるって言ってたよ」

山口県民A「え。ほんと?」

坂本「うん」

山口県民A「・・・・・ちょっといい奴だね」

坂本「でしょ?」

山口県民A「じゃあ、家に入れてあげようかな」

坂本「よかった♪」


ところが鹿児島県では。

鹿児島県民A「やばいな~」

鹿児島県民Aの友人「どうした?」

鹿児島県民A「坂本さんに飲み会誘われたんだけどさ、山口県なんだよね」

鹿児島県民Aの友人「山口県!? 敵じゃん」

鹿児島県民A「だよね。やっぱやばいよね」

鹿児島県民Aの友人「やばいよ。斬られたりして。ふふ」

鹿児島県民A「行きたくないな~」

鹿児島県民Aの友人「でも、行かないと坂本さんに悪いしょ」

鹿児島県民A「どうしよう・・・・」

鹿児島県民Aの友人「あ、いいこと考えた」

鹿児島県民A「え。教えて!」

鹿児島県民Aの友人「山口県に行くとしたらさ、JRでしょ?」

鹿児島県民A「うん。JRの特急で行こうと思ってる」

鹿児島県民Aの友人「じゃあさ、わざと乗り間違えれば?」

鹿児島県民A「え?」

鹿児島県民Aの友人「わざと山口行きじゃない列車に乗って、あとから 『いやー、行こうとしたんだけど、列車、間違っちゃってさ。ごめんね』とかって謝れば、むこうも許してくれるしょ」

鹿児島県民A「なるほどね。その手でいくよ」

1865年5月。鹿児島県民Aは竜馬や山口県民と会う約束をすっぽかし、京都に行った。


ここはJR京都駅。

鹿児島県民Aは坂本竜馬に電話を掛けた。

鹿児島県民A「もしもし。坂本さん?」

坂本「あ、鹿児島県民Aさん。遅いね。まだ山口県に着かないの? もうおれたち、かなり酔っ払ってるよ~」

鹿児島県民A「それがさ、JR乗り間違っちゃって、京都に来ちゃったんだよね」

坂本「え! 京都!?」

鹿児島県民A「うん。今、JR京都駅から掛けてるの」

坂本「えー、会えると思って楽しみにしてたのに~」

鹿児島県民A「ごめんね」

坂本「じゃ、今から京都駅に行くよ」

鹿児島県民A「え?」

坂本「山口県民Aさんと二人ですぐ行くから、待っててね~」

鹿児島県民A「え、え、・・・・」


そのころ、江戸城では。

将軍「最近、幕府をやっつけようっていうの流行ってるよね」

家来「気にしないほうがいいですよ。どうせ口だけです」

将軍「でも、本当にやっつけられたら、やばくない?」

家来「そりゃ、山口県と鹿児島県が手を組めば幕府に対抗できるくらいの勢力にはなりますけど、 そんなことは絶対ないでしょう」

将軍「そうだよね。あのふたつの県、仲悪いもんね」


よく言われる例えだが、当時の山口県と鹿児島県が手を組むというのは、冷戦時代のアメリカとソ連が手を組むのと同じくらいあり得ないことだった。


家来「そんなこと、あり得ませんよ。安心してください」

将軍「うん。そうだね。幕府はまだまだ潰れないよね」

しかし、坂本竜馬の登場で歴史の流れは一気に加速する。



第19話 薩長同盟!

竜馬と山口県民Aは京都に到着した。

坂本「さぁ着いた。JR京都駅だ」

山口県民A「坂本さん」

坂本「ん?」

山口県民A「おれ、鹿児島県民A見たらソッコウ斬るよ」

坂本「うっそぉ、やめてぇ」

山口県民A「いや、マジで斬るから」

坂本「今日だけ仲良く飲むのとか、だめ?」

山口県民A「だめ」

坂本「でもさ、斬るのはまずくない?」

山口県民A「いや、斬る」

坂本「ちょっと押すだけにすれば? ぽんって。あと、足踏むとか」

山口県民A「なんで? 斬ったらやばいかな?」

坂本「警察に捕まるよ。ただでさえ君は幕府の敵なんだから」

山口県民A「それを言うなら坂本さんもだよ」

坂本「ホントだ。てへ♪ とにかく、捕まったらまずいって」

山口県民A「・・・・・じゃ、押すだけにするかな」

坂本「うん」

山口県民A「そのかわりダァーンって押すよ。めっちゃダァーンって」

坂本「あ、いた! あれが鹿児島県民Aさんだ」

山口県民A「む、あいつか」

坂本「おーい。鹿児島県民Aさーん」


鹿児島県民A「あ、坂本さん。・・・・・山口県民Aさんも」

山口県民A「おい。おまえが鹿児島県民Aか」

鹿児島県民A「は、はい。なんすか、山口県民Aさん」

山口県民A「このぉ」(ぽん)←押す音

鹿児島県民A「うわ、なんで押すぅ? やめて下さいよぉ」

山口県民A「もー。なんですっぽかしたのさー?」

鹿児島県民A「いや、ちゃんと山口県に行こうと思ったんだけど、JR乗り間違えちゃって。 それで京都まで来ちゃった・・・・」

山口県民A「ほれ、地図見てみ。山口県と京都なんてぜんぜん遠いじゃん」

鹿児島県民A「ごめんね」

山口県民A「他にもいろいろ恨みがあるからね」

鹿児島県民A「いや、こっちにだって言い分ありますよ」

山口県民A「なんだと! 坂本さん、おれはこんな奴と酒を飲むなんて嫌だよ」

坂本「そんなこと言わないで、楽しくやろうよ」

山口県民A「坂本さんは山口県と鹿児島県、どっちの味方なのさ」

坂本「え。いや、おれは別に」

山口県民A「この際ハッキリさせよう。さぁ坂本さん、どっちの味方さ。 おれか鹿児島県民Aのどっちかを選んでバシッと指さしてよ」

坂本「えー・・・・いや、でも、人を指さすのって、なんか失礼でしょ」

山口県民A「じゃあ、この地図でバシッと指さしてよ。山口県と鹿児島県、どっちを選ぶ?」

坂本「げっ、地図・・・・・」

山口県民A「さぁ、早く」

坂本【心の声】「やばい。おれ目ぇ悪いし、昔から地図って苦手なんだよな~。 でも地図がわからないってバレたらカッコ悪いよなぁ。なんとかごまかさないと・・・・」

山口県民A「坂本さん、早く。どっちの県に味方するのかはっきり指さしてよ」

坂本「どっちでもいいじゃん」

山口県民A「え?」

坂本「県とかなんとかって、別にどっちでもいいしょ」

山口県民A「なっ・・・・・」

坂本「山口県民とか鹿児島県民とか言ってないで、同じ日本に住んでるんだから、みんなひっくるめて 日本人だよ。それでいいじゃん」

山口県民A「・・・・・・」

鹿児島県民A「・・・・・・」

坂本【心の声】「やばい。ふたりとも黙ってしまった。ごまかし方が見え見えすぎたか…」

山口県民A「坂本さん! おれは感動した!」

鹿児島県民A「僕もです! 坂本さんの言う通りです!」

坂本「え? え?」

山口県民A「これからは県同士でいがみ合ってる場合じゃないよね。 だらしない幕府を倒して日本を強い国にするために、県同士で協力して行かないとね」

鹿児島県民A「そうです。その通りです」

山口県民A「鹿児島県民Aさん、過去のことは忘れて、お互い、仲良くやりましょう! 宜しくお願いします」

鹿児島県民A「こちらこそ宜しくお願いします。ともに幕府を倒しましょう!」

坂本「あ、なんか知らんけど、よかった」

1866年1月21日。坂本竜馬の尽力により鹿児島県と山口県が和解し、幕府を倒すための同盟を結んだ。(薩長同盟)


坂本「いや~飲んだね。楽しかった」

山口県民A「おれと鹿児島県民Aさんはもうちょっと倒幕について話し合うよ。飲みながら」

坂本「難しい話っぽいね」

山口県民A「そうかも」

坂本「おれ、難しい話わかんないから、これで帰るよ」

山口県民A「泊まるところ、ある?」

坂本「ここ京都だから、ホテルいっぱいあるしょ」

山口県民A「寺田屋っていうホテル、いいよ。おすすめ」

坂本「マジ? じゃ、そこ泊まってみるかな」

山口県民A「じゃ、またね、坂本さん」

鹿児島県民A「坂本さん、お気をつけて」

坂本「うん。ばいばい」

竜馬は京都府伏見の寺田屋に泊まった。


その夜。

警察1「おい、指名手配中の坂本竜馬がホテル寺田屋に泊まってるぞ」

警察2「よし、仲間を集めて、寺田屋を包囲だ」

警察1「坂本は剣がめっちゃ強いらしいから、応援もたくさん呼ぼう」

警察2「おう。絶対、捕まえてやる!」

伏見奉行所の役人が寺田屋を包囲した。



第20話 新撰組も出動

1866年1月23日深夜。

伏見奉行所の役人たちは寺田屋に突入した。

警察1「警察だ! 動くな!」

坂本「げっ、わっ、なにさ?」

警察1「おまえ、坂本竜馬だな。逮捕する」

坂本「え・・・・・。いや、違いますよ」

警察1「うそつけ。坂本だろ」

坂本「違いますって」

警察1「ウソついて後でバレたら、すっごい怒られるぞ」

坂本「・・・・じゃあ、坂本です」

警察1「それ、みんな、坂本を捕まえろ~」

坂本「げっ! 怖っ! やめてぇ~」

警察1「抵抗すると斬るぞー。おりゃぁー」

坂本「痛っ・・・・そんな、刀振り回すから、手ぇ切ったしょー。痛いな~」

警察1「黙れ! 逮捕だ~」

坂本「うぇ~ん(TT)怖いよ~~」

竜馬は2階の窓から逃げ出した。

警察1「あ、待て~」


テレビでは。

アナウンサー「先ほどもお伝えした通り、坂本竜馬氏が宿泊している ホテルに警察が踏み込みました。坂本氏は倒幕勢力の幹部の一人と目されています。 短い小競合いの後、坂本氏は逃走。現在、警察では行方を追っています。・・・・ 現場のリポーターと中継がつながったようです」

リポーター「スタジオさん、聞こえますか?」

アナウンサー「聞こえます。現場の状況はどうですか?」

リポーター「はい。お伝えします。突然の出来事にあたりは騒然としています。 寺田屋の宿泊客らは『まさか、あの坂本竜馬がここに泊まっていたとは』と驚きを隠せない様子です」

アナウンサー「坂本氏はどの方向に逃走したのでしょうか?」

リポーター「はい。坂本氏は寺田屋の2階の窓から脱出し、付近の家々を屋根づたいに逃走している模様ですが、 逃走経路などは不明です」

アナウンサー「ケガ人は出ていますか?」

リポーター「坂本氏の左手が負傷したという未確認情報があります。 新しい情報が入り次第、またお伝えします」

アナウンサー「ありがとうございました。取材を続けてください」


そのころ、ネオン街では。

山口県民A「うぃ~。いい気分だ。もう一軒行こうか」

鹿児島県民A「僕の知ってる、いいバーがありますよ」

山口県民A「じゃ、そこ行こう。今夜はとことん飲もう」

鹿児島県民A「はい。飲みましょう」

山口県民A「・・・・・・あー!」

鹿児島県民A「なんですか?」

山口県民A「あそこの電光掲示板に流れてるニュース、見て!」

鹿児島県民A「どれどれ。・・・・・えーと『坂本竜馬が市内を逃走中』!?」

山口県民A「坂本さん、警察に追われてるんだ」

鹿児島県民A「・・・・・今から、京都市内にある僕の基地に行きましょう」

山口県民A「どうする気?」

鹿児島県民A「幕府と戦争します」

山口県民A「えっ! 幕府と戦争するのはいいけどさ、もっとちゃんと準備してからにしない?」

鹿児島県民A「幕府にカチンときました。坂本さんをいじめる奴はムカツクんです。即、報復です」

山口県民A「まあまあ、冷静に行こうよ(汗)」

鹿児島県民A「冷静になんかなれません!」

というわけで。ふたりは京都にある鹿児島県の基地へ。

鹿児島県民A「部下たち集まれ~。軍隊の出動準備だ。それと同時に坂本さんを捜索しろ。 警察より先に発見して我が軍で保護するんだ!」

部下「はっ」

山口県民A「おいおい、鹿児島県民Aさん」

鹿児島県民A「なんです?」

山口県民A「本当に今ここで幕府と戦争をはじめるの? いきなりすぎて準備不足じゃない?」

鹿児島県民A「考えてみてください。外国からの武器購入も、 鹿児島県と山口県の同盟も、ぜんぶ坂本さんのおかげです。坂本さんは日本を変える大人物です。 いじめる奴はこの僕が絶対に許しません!」

山口県民A「うん。確かに。・・・・よし、おれもいったん山口県に帰って、軍隊を率いてここに戻ってくる」

鹿児島県民A「一緒に幕府を倒しましょう!」

山口県民A「おう!」

山口県民Aは戦備を整えるため一旦ふるさとに戻った。


そのころ将軍は。

将軍「坂本、もう捕まえた?」

家来「まだです」

将軍「警察だけに任せておけないな~。なんかもっと頼りになる人たちいない?」

家来「新撰組とか見廻組というのがいますよ」

将軍「なにそれ?」

家来「治安維持のための武装集団です。まあ警察みたいなものですが、警察より剣が強いです」

将軍「よし、そいつらも投入だ」

家来「はい」


ここは新撰組の本部。

新撰組リーダー「坂本竜馬はおれたちの手で捕まえるんだ。出動!」

新撰組メンバー「おー!」


ここは見廻組の本部。

見廻組リーダー「坂本はおれたちが捕まえてやる。探せ~!」

見廻組メンバー「お~!」


鹿児島県の軍隊のようす。

隊長「坂本さんを幕府の手に渡すな。無事に保護するんだ~」

隊員「お~!」


警察は。

警察1「手柄を横取りされないように、がんばろう~」

警察2「お~」


そのころ竜馬は・・・・・

坂本「あー、もう、手ぇ痛いなぁ。めっちゃ血ぃ出てるし。とにかく暗闇にまぎれて遠くまで逃げよう」

しかし、まもなく朝日が昇ろうとしていた。



第21話 坂本竜馬vs勝海舟

竜馬は逃走中だ。

坂本「やばい。なんか夜が明けてきたかも・・・・」

新撰組リーダー「あのー。すいません」

坂本「どきっ。はい?」

新撰組リーダー「人を探してるんですけど、・・・・うわ! 手ぇケガしてるじゃないですか! 大丈夫ですか?」

坂本「いや、痛いっす」

新撰組リーダー「手当てしてあげますよ。見せて下さい」

坂本「人、探してるんですか?」

新撰組リーダー「いや、そんなことより手当てが先です。わ~。ひどいケガだなぁ」

坂本「親切ですね」

新撰組リーダー「名乗るほどのものじゃありませんが、新撰組のリーダーです」

坂本「新撰組っていうグループがあるんですか? カッコイイ名前ですね」

新撰組リーダー「カッコイイでしょ」

坂本「おれも一応、グループやってるんですよ。亀山社中っていう貿易会社」

新撰組リーダー「パッとしない名前ですね」

坂本「え、うそ。パッとしない?」

新撰組リーダー「亀山社中でしょ? なんかね」

坂本「えー。名前、変えようかな・・・・」

新撰組リーダー「でも、僕たちの仲間っぽい奴らで、見廻組っていうグループがあるんですよ。 その名前も、けっこう変でしょ」

坂本「見廻組?」

新撰組リーダー「うん。みまわりぐみ。街を見回るグループ」

坂本「そのままじゃん、って感じですね」

新撰組リーダー「でしょ? 変だよね。さ、手当て終わりました」

坂本「ありがとう!」

新撰組リーダー「気をつけてね」

竜馬は去った。


そこへ見廻組リーダーが現われた。

見廻組リーダー「よっ! 新撰組リーダー」

新撰組リーダー「ああ、見廻組リーダー」

見廻組リーダー「坂本竜馬、見つかった?」

新撰組リーダー「まだ」

見廻組リーダー「なにニヤニヤしてるの?」

新撰組リーダー「いや、いいことした後は気持ちいいなァ~と思って」

見廻組リーダー「うそ、何いいことしたのさ?」

新撰組リーダー「今ね、ケガ人を助けたの。亀山社中っていう貿易会社のリーダーな人」

見廻組リーダー「おい! それが坂本竜馬だよ!」

新撰組リーダー「え、うっそぉ? 思いっきり逃がしちゃった・・・・」

見廻組リーダー「あーあ。偉い人から『き、きみぃ』って言われるよ。『頼むよ、きみぃ』って」

新撰組リーダー「坂本は材木置き場の方に行ったよ。あと、見廻組って変な名前だって言ってた」

見廻組リーダー「えっ!」

新撰組リーダー「坂本のこと、みんなに知らせたほうがいいかな?」

見廻組リーダー「うん。無線で連絡しよう」

新撰組リーダー「よし。・・・・・こちら新撰組リーダー、捜索隊のみなさん聞こえますか? 坂本竜馬は見廻組のことを変な名前だと言っていました。どうぞ」

見廻組リーダー「・・・・・(汗)」


そのころ。

 竜馬は材木置き場に隠れていた。

坂本「痛ってー。やっぱ血ぃ止まんないや。ん? 誰か来る・・・・」

鹿児島県の軍隊「坂本さんですか? 鹿児島県の軍隊です。助けにきました」

坂本「マジ? ありがとう!助かったぁ…」(ばたん)

鹿児島県の軍隊「あ、気絶した。おおー、すごい出血! 大変だ~」

竜馬はすぐに、京都にある鹿児島軍の基地に運び込まれ、手当てを受けた。


そのころ。山口県では。

山口県民A「ただいまー」

山口県民T「あ。Aさん、おかえり~。どうだった、京都は?」

山口県民A「鹿児島県と同盟結んださ」

山口県民T「え! あのムカツク鹿児島県と!?」

山口県民A「うん。でもまだこれ、世間には秘密なんだよね。秘密同盟」

山口県民T「でも、なんでいきなり同盟なんか・・・・」

山口県民A「ちょっと、坂本さんに言われてさ」

山口県民T「なんて言われたの?」

山口県民A「日本の将来がかかってる大事なときに、県同士で意地の張り合いしてる場合じゃないって」

山口県民T「なるほど」

山口県民A「みんなで協力して、頼りない幕府を倒して新しい日本を作ろう!って意味のこと言われたよ」

山口県民T「坂本さんって、すごい人だね」

山口県民A「でさ、さっそく鹿児島県と協力して幕府と戦争することになったんだ。 今から軍隊を率いて京都に向う」


一方、将軍は。

将軍「くっそ~。坂本は鹿児島県の軍隊に保護されたか~」

家来「はい」

将軍「鹿児島県って強いからなー。手出しできないね」

家来「はい。それはそうと、将軍さん」

将軍「なに?」

家来「また山口県がこっちに攻めてこようとしてますよ」

将軍「うそっ!?・・・・・よし。向こうが攻めてくる前にこっちから攻めてやる。幕府軍、出動だ!」

家来「将軍さん」

将軍「ん?」

家来「今度の戦い、海戦がキーポイントですよ」

将軍「海戦?」

家来「はい。海の上での、船同士の戦いです」

将軍「じゃ、海軍が必要だね」

家来「海軍に詳しい司令官も必要です」

将軍「えー。幕府のメンバーで、海軍に詳しい人なんて、いたっけ?」

家来「ひとり、いるじゃないですか。自宅謹慎中の男が」


というわけで。

将軍「勝さん」

勝海舟「はい」

将軍「謹慎、解いてあげる」

勝海舟「え。マジ? やったー」

将軍「でさ、また、海軍大臣やってくれない?」

勝海舟「え? いいんですか?嬉しい~」

将軍「だってやっぱさ、幕府で一番海軍に詳しいの、勝さんでしょ」

勝海舟「えへへ」

将軍「で、さっそくなんだけど、今回の山口県攻撃の司令官、やってくれない?」

勝海舟「え・・・・司令官?」

将軍「うん」

1866年5月28日。勝海舟がふたたび幕府の海軍大臣に就任した。

その翌月。幕府軍は山口県に遠征を開始した。(第2次長州征討)


そのころ。ケガがほぼ治った竜馬は長崎の亀山社中に戻っていた。

坂本「あー。ケガ治ってきたら、暇になってきた」

塾生「元気が出てきたんですね」

坂本「山口県にでも遊びに行こうかな」

塾生「え?」

坂本「山口県にさ、行こうかなーって」

塾生「マジっすか?」

坂本「え・・・・うん。なんで、変?」

塾生「今、山口県は幕府の攻撃を受けてるんですよ。そんな戦場にあえて行くんですか?」

坂本「え。うそ!」

塾生「あ、そうか、山口県とともに幕府に立ち向かおうっていう魂胆ですね。さすが!」

坂本「いや・・・・」

塾生「うちは貿易会社だから船はありますもんね。その船で幕府の海軍をやっつけてやりましょう」

坂本「え。でもさ、幕府の海軍、すっごい強いかもよ」

塾生「司令官が勝海舟さんだったら、テゴワイですね」

坂本「え! それやばいよ。勝さんはおれらの航海術の先生だよ。 先生と対決して勝てるわけないじゃん・・・・」

塾生「でも、勝さんは今、海軍大臣をクビになって自宅謹慎してるはずだから、 戦場には出てきませんよ」

坂本「そうかな・・・・」

塾生「そうですよ」

坂本「でもさ、もし勝さんが海軍大臣に復活して、幕府軍の司令官になってたら、どうする?」

塾生「坂本竜馬VS勝海舟。師弟対決で、おもしろいかも」

坂本「おもしろくないよ~」

塾生「まあ、とにかく、出撃しましょ」

坂本「・・・・・あ、痛て。なんか手ぇまた痛くなってきた。これは無理できないなー」

塾生「そんなに痛いんですか?」

坂本「もう、すっごい痛いさ。あー、今も痛い。あ、まただ。痛い」

塾生「そんなに痛いんなら、その恨み、ぜひ晴らしてやりましょう。さあ、出発だ!」

坂本「・・・・・はい」

1866年6月12日。坂本竜馬は山口県を救うため、会社の船を率いて出撃した。



第22話 坂本艦隊、出撃

竜馬たちは山口県に到着した。

坂本「山口県民Aさーん」

山口県民A「あ! 坂本さん!」

坂本「幕府と戦争してるんだって? 応援に来たさ」

山口県民A「さんきゅー。じゃ、Tと相談してくれる? 軍事面はTに任せてるから」

山口県民T「どーも。Tです。坂本君、さっそく飲もう」

坂本「え、飲むの?」

山口県民T「うん」

坂本「作戦とか、立てなくていいの?」

山口県民T「飲みながら立てよう」

坂本「飲みながら・・・・」

山口県民T「飲みながらのほうが、大胆な作戦になっておもしろいしょ」

坂本「あ、そういうの、いいね」

山口県民T「僕の軍隊と君の艦隊が協力すれば天下無敵だよ」

坂本「へへ。そうかな? でもさ・・・・」

山口県民T「?」

坂本「おれの、あれ、艦隊っていうか、会社の船なんだけどね」

山口県民T「ま。いいじゃん」

坂本「ま。いっか」

山口県民T「君は海で戦う。僕は陸で戦う。絶対勝とう」

坂本「うん!」


というわけで7月。坂本艦隊、出撃。

塾生「海の戦い、まかされちゃいましたね」

坂本「うん」

塾生「自信あるんですか?」

坂本「別に」

塾生「でも、坂本さん、なんか嬉しそうですよ」

坂本「だってさ、海だったら、暇なとき泳げるかもしれないしょ。昼休みとかに」

塾生「え。泳げませんよ」

坂本「なんで?」

塾生「戦争に昼休みとかないですよ」

坂本「いや、あるんじゃない? 5分休みとか」

塾生「ないですよ」

坂本「・・・・・だましてる?」

塾生「だましてません(汗)」


幕府側の会話。

将軍「ね、司令官、やってよ」

勝海舟「海軍大臣にはなってもいいですけど、司令官はちょっと・・・・」

将軍「なんで?」

勝海舟「日本人同士で争うのってやばいですよ、戦国時代じゃないんだから」

将軍「君には責任をとってもらわなきゃならないんだよ」

勝海舟「え、責任?」

将軍「山口県に近代兵器を提供したのは、君の教え子の坂本竜馬だしさ・・・・」

勝海舟「坂本さん?」

将軍「しかも、坂本は艦隊を率いて山口県の応援にかけつけてるし」

勝海舟「マジですか? 坂本さんが!」

将軍「うん」

勝海舟「そっかー。でっかくなったな~坂本さん(涙)」

将軍「なに感激してるのさ」

勝海舟「坂本さん、本気で幕府を倒そうとしてるんだなぁ」

将軍「うん。とんでもない奴だよ」

勝海舟「よし、こうなったら絶対におれ、戦闘に参加しないっす」

将軍「なに」

勝海舟「坂本さんの邪魔しちゃ悪いもんね」

将軍「えー、勝さん、幕府の役人でしょ? おれに味方してよー」

勝海舟「さて、というわけで、大阪でぶらぶらします」

将軍「あ、ちょっと待って~」


出撃した坂本艦隊は海上をうろうろしていた。

坂本「敵、このへんの海にいるはずなんだけどなぁ」

塾生「いませんね」

坂本「あ、むこうからでっかい船、来るよ」

塾生「本当だ。めっちゃデカイですね。味方かな、敵かな」

坂本「おれらの船の5倍の大きさはあるね。たぶん味方じゃない?」

塾生「え、味方ですか? なんで?」

坂本「だって、あんなデカイ船が敵だったら嫌でしょ」

塾生「はい。嫌ですね」

坂本「だから、味方だよ」

塾生「・・・・・・」

坂本「手ぇ、振ってみるか。おーい。おーい」


デカイ船は、実は幕府の巨大戦艦・富士山丸だった。

船員1「ん? ちっちゃい船が手ぇ振ってるぞ」

船員2「敵かな、味方かな」

船員1「すっげーニコニコしながら手ぇ振ってる。味方だよ、きっと」

船員2「やたら近づいて来るね。なんか用事あるのかな?」


一方、竜馬は。

坂本「おーい。おーい」

塾生「げっ! 坂本さん、あれ、よく見たら敵じゃないですか!」

坂本「うそお!?」

塾生「あの船、幕府の富士山丸ですよ」

坂本「やっべ。すっげぇ近づいちゃった・・・・・」

塾生「砲撃しましょう。それ! どーん、どーん」

坂本「いや、そんなのいいから逃げようよ。ソッコウ逃げよう」

坂本艦隊は砲撃を開始し、敵が戦闘体制を整えた頃にはすばやく撤退した。


その夜。

山口県民T「坂本君、聞いたよ」

坂本「あ。山口県民Tさん」

山口県民T「幕府の巨大戦艦をやっつけたんだって? やるね」

坂本「ええ。まあ・・・・」

山口県民T「敵を油断させておいて接近し、すばやく砲撃、そして撤退。絶妙だね」

坂本「・・・・・どうも」

山口県民T「そういう絶妙な艦隊指揮ってすごいね。コツ、教えてよ」

坂本「え。コツとかって、別に・・・・」

山口県民T「そっか、言葉じゃ説明できないよね。剣の達人ならではの奥義? さすがだな~」

坂本「いや、まあ・・・・・」

山口県民T「坂本君がいてくれれば、山口県は幕府に勝てる! 頼りにしてるよ坂本君」

坂本「・・・・・どうも」


幕府のようす。

将軍「なんかいまいち幕府軍、弱いね」

家来「陸戦では山口県民Tにやられて、海戦では坂本竜馬にやられて、ボロボロですね」

将軍「どうしよう・・・・・」

家来「このままずるずる戦っても被害が大きくなるだけですよ」

将軍「だよね」

家来「撤退、しましょ」

将軍「それって、負けってこと?」

家来「はい」

将軍「マジで? 負け? なんか信じられない・・・・」

家来「やっぱ海戦での敗北は痛かったですね。あと、 山口県が近代兵器をたくさん持ってたのにも参りました」

将軍「それって全部、坂本竜馬のせいじゃん」

家来「はい」

将軍「260年間も日本を治めてきた、天下の徳川幕府が、 あんな住所不定のふらふらした男に負けたの?」

家来「はい」

1866年9月4日。幕府軍は撤退を開始。

徳川幕府の権威は完全に失墜した。



第23話 武力ではなく

ある噂が流れた。

人1「おい、ちょっとさ、噂なんだけどさ」

人2「なに?」

人1「鹿児島県と山口県ってあるしょ?」

人2「あー、仲悪いよね」

人1「それが、そうでもないのさ」

人2「え?」

人1「噂ではね、同盟を結んだらしいよ」

人2「同盟!?」

人1「秘密同盟」

人2「なんで?」

人1「やっぱあれでしょ、徳川幕府を倒すための同盟でしょ」

人2「そうか」

人1「鹿児島県と山口県は、協力して武力討幕するつもりだよ」

人2「武力討幕?」

人1「うん。力ずくで幕府を倒すことさ」

人2「じゃ、日本は大きな内戦になるね」


そのころ。山口県と鹿児島県は。

鹿児島県民A「山口県民Aさん、無事に幕府軍を追い払えてよかったですね」

山口県民A「うん」

鹿児島県民A「幕府もだいぶ弱ってますね」

山口県民A「そうだね」

鹿児島県民A「じゃ、いよいよ、武力討幕しますか」

山口県民A「しますか」

鹿児島県民A「・・・・でもさ」

山口県民A「ん?」

鹿児島県民A「武力討幕チームのリーダーは、誰にします?」

山口県民A「まあ、普通に考えたら、おれか君だよね。君、やりたい?」

鹿児島県民A「ちょっと、やりたいです」

山口県民A「おれも、ちょっとやってみたいんだよね。だってカッコイイしょ」

鹿児島県民A「カッコイイですよね」

山口県民A「・・・・・・・」

鹿児島県民A「・・・・・」

山口県民A「おれ、そういうリーダーとかって、昔っからやりたかったさ。夢なんだよね」

鹿児島県民A「いや。僕も昔っからの夢でした」

山口県民A「・・・・・・・」

鹿児島県民A「・・・・・」

山口県民A「じゃあさ、いっそ、坂本さんにやってもらうか」

鹿児島県民A「そうですね」


というわけで。

山口県民A「坂本さん」

坂本「なに」

山口県民A「おれたちさ、近いうちに幕府と全面戦争するつもりなんだ」

坂本「うん」

山口県民A「で、徳川幕府を完全にやっつけたいんだよね」

坂本「お、いいね」

山口県民A「坂本さんさ、そのリーダーになってくれない?」

坂本「え。リーダー?」

山口県民A「うん。武力討幕チームのリーダー」

坂本「それ、大変な仕事?」

山口県民A「大変だけど、カッコイイよ」

坂本「いや、でも、いろいろわかんなそうだしなー」

山口県民A「わかんないことあったら教えるよ」

坂本「ほんと?」

山口県民A「うん」

坂本「じゃ、ちょっとやろっかな」

山口県民A「ありがとう!」

坂本「具体的にどんなことするの?」

山口県民A「戦争だよ、戦争。幕府と戦うの」

坂本「ふうん」

山口県民A「将軍の首を取ったら勝ちさ」

坂本「おぉ・・・・けっこう物騒だね」

山口県民A「でも、やらなきゃ、こっちがやられるよ。で、坂本さんの首、取られちゃうよ」

坂本「え!? おれの首?」

山口県民A「うん」

坂本「なんでおれの首が取られるの?」

山口県民A「だってリーダーでしょ」

坂本「リーダー、やめよっかな」

山口県民A「そんなこと言わないで、もっとよく考えてみてよ」

坂本「・・・・うん」

山口県民A「じゃ、明日、返事を聞きに来るよ」

坂本「よく考えた。断るよ」

山口県民A「早っ! 考えてないしょ」

坂本「だってぇ、首取られるの嫌だもん(涙)」

山口県民A「戦争だからね」

坂本「戦争以外の方法ないの?」

山口県民A「え?」

坂本「戦争以外のやり方で徳川幕府を潰す方法って、ないのかな」

山口県民A「そんな手品みたいな方法、ないよ」

坂本「ひとつもない?」

山口県民A「ない」

ひとつ、ある。



第24話 友のカタキ

諸外国の会話。

イギリス「ふふふ・・・・」

フランス「なに笑ってるの?」

イギリス「いや、日本さ、内戦になりそうだなーって」

フランス「ああ、なりそうだね」

イギリス「内戦になったら、きっと幕府も山口県も鹿児島県もボロボロになるよね」

フランス「なるね」

イギリス「そうなったら、一気に日本に攻め込んで植民地にしちゃおうね」

フランス「うん」


ここは高知県。(竜馬のふるさと)

後藤の親友「あのね、山口県と鹿児島県が同盟結んで、幕府を倒そうとしてるんだってさ」

後藤「うそっ?」

後藤の親友「なんかね、坂本が同盟を結ばせたらしいよ」

後藤「坂本が!?」

後藤の親友「うん」

後藤「あの、おれにいじめられてた坂本が?」

後藤の親友「うん」

後藤「うっそー。あいつ、いつの間にそんな大物になったのさ」

後藤の親友「いや、知らんけど、そうなんだって」

後藤「でもさ、幕府が倒れたら、どうなるのかな?」

後藤の親友「新しい幕府、できるんでない?」

後藤「なに、じゃあ、鹿児島幕府とか山口幕府?」

後藤の親友「うん。だって、今までの日本の歴史を見てもさ、幕府を倒した人が新しい幕府を開いてきたしょ」

後藤「そうだね」

後藤の親友「だから、新しい時代になったら、鹿児島県とか山口県の人がすっげぇ威張るよ、きっと」

後藤「おれらの、この高知県は?」

後藤の親友「ぜんぜんダメでしょ」

後藤「なんで? 威張れないの?」

後藤の親友「だって、幕府を倒す手伝い、ぜんぜんしてないしょ」

後藤「えー・・・・」

後藤の親友「高知県出身で威張れそうなのったら、坂本くらいだよ」

後藤「え、坂本!? くっそー、あいつめ」

後藤の親友「しょうがないよ。あいつ活躍してるもん」

後藤「あ、でもさ、おれらも今から武力討幕チームの仲間に入れてもらえばOKじゃない?」

後藤の親友「え?」

後藤「そうすれば『高知県も一緒に戦った』ってことで、威張れるしょ」

後藤の親友「でも、そのためには近代兵器が必要だよ」

後藤「買おうよ」

後藤の親友「そんな金、ないよ」

後藤「じゃあ、稼ごうよ。がっぽがっぽ儲かる方法って、なにかな?」

後藤の親友「外国との貿易だね」

後藤「え、でもそれ禁止されてるしょ。幕府にバレたら怒られるよ」

後藤の親友「いいんじゃない? どうせ幕府は滅びるんだし、禁止もクソもないよ」

後藤「そうか。じゃ、貿易で稼ぐか」

後藤の親友「うん」

後藤「よし、さっそく、やろう!」

後藤の親友「おう!」

後藤「・・・・・・」

後藤の親友「・・・・・」

後藤「外国との貿易って、なにをどうすればいいのかな?」

後藤の親友「そんなの知らないよ」

後藤「じゃ、できないじゃん」

後藤の親友「貿易に詳しい人に、やり方、聞いてみるか」

後藤「うん。誰?」

後藤の親友「坂本」

後藤「え! また坂本!?」

後藤の親友「あいつ、長崎に貿易会社つくって、結構うまくやってるらしいから、 いろいろ教えてもらおうよ」

後藤「でも坂本って、おれの叔父さんを殺したかもしれないんだよな~」

後藤の親友「あ、それね、えん罪だった」

後藤「えん罪?」

後藤の親友「うん。間違い。おまえの叔父さんを殺したのは坂本じゃなかった。 大石と安岡と那須っていう3人だったさ」

後藤「・・・・・そうか、坂本じゃなかったんだ」

後藤の親友「うん」

後藤「・・・・でもさ。おれ、むかし尊王攘夷クラブのメンバー、処刑しちゃったしょ」

後藤の親友「尊王攘夷クラブのメンバーって、坂本の親友だったもんね」

後藤「坂本、怒ってるだろうなぁ」

後藤の親友「怒ってるだろうね。でも、今おれたちが頼れるのは坂本しかいないよ」

後藤「・・・・うん」

高知県民の後藤象二郎は、竜馬に会うため長崎に向った。


ここは長崎。竜馬の会社。

塾生「坂本さん、大変です」

坂本「ん?」

塾生「高知県の後藤が、坂本さんに会いに来ます!」

坂本「え! 後藤!?」

塾生「はい」

坂本「後藤って、おれの親友たちを処刑した、あの後藤!?」」

塾生「はい。坂本さんの力にすがりに来るんです」

坂本「すがりに?」

塾生「歴史の流れに乗り遅れそうだから、貿易を教えて欲しいんですって」

坂本「ふふ」

竜馬は剣を手に取った。

坂本「人の友達を殺しておいて、今になって力を貸してくださいはないよね」

塾生「・・・・・」

坂本「おれさ、今まで人を斬ったことってないんだ」

塾生「はい」

坂本「だってさ、斬られたら、痛いしょ」

塾生「はい」

坂本「だから、誰も斬りたくないんだよね。でも・・・・」

塾生「・・・・・」

坂本「友達のカタキなら、どうかな。斬れるかもしれない」



第25話 海援隊!

坂本竜馬と後藤象二郎は長崎の料亭『清風亭』で会見した。

後藤「坂本。すまん。おまえの友達を殺したことは謝る。この通りだ」

坂本「え、いやぁ、いきなり謝られても・・・・」

後藤「このままだと高知県は鹿児島や山口に遅れを取っちゃうんだ。だから手を貸してくれ。 あ、そうだ、これ見て」

坂本「?」

後藤「おまえ、むかし脱藩したしょ?」

坂本「うん」

後藤「これ、脱藩の罪を許す書類。これで、おまえの脱藩の罪はナシってことになるんだ。 これ書いてあげるから、仲良くしてよ」

坂本「そっか、おれ、脱藩の罪に問われてたんだっけ。忘れてた」

後藤「ね、脱藩、許してあげるからさ、同じ高知県民として協力してよ・・・・」

竜馬は刀を抜き、

後藤「なっ・・・・ちょっとぉ、なにさぁ!?」

振り下ろした。

後藤「ひぇっ!」

脱藩の免罪状がふたつに割れた。

坂本「正直に言うとね、おれ、地図って苦手でさ」

後藤「・・・・・は?」

坂本「だから、なに県とか、どこ出身とか、別にどうでもいいんだよね」

後藤「え? え?」

坂本「県同士でいがみ合う時代は終わりにしよう」

後藤「・・・・・ああ」

坂本「県の名前、いちいち覚えるのメンドクサイしょ。ひっくるめて『日本』でいいじゃん」

後藤「いや、県の名前くらい覚えようよ・・・・」

坂本「ついでに、刀で斬り合う時代も終わり」

竜馬はパチンと音を立てて刀をおさめた。

坂本「だから後藤さん、おれはあんたを斬らない。もう刀も抜かない」

後藤「・・・・・」

坂本「仲直りだ」

後藤「え、マジ? じゃあ、いろいろ協力してくれるの?」

坂本「うん」

後藤「ありがとう! ありがとう、坂本ぉ~(涙)」

坂本「おれ、旗つくったんだけどさ」

後藤「・・・・・旗?」

坂本「これ、読める? この字」

後藤「海援隊・・・・?」

坂本「そう。カッコイイしょ。うちの会社の名前をこれに変えようかなぁと思って」

後藤「どういう意味?」

坂本「海から援助する隊。貿易とか海運とかさ、そういうのでみんなの役に立つの。いいしょ」

後藤「援助? どこの援助するのさ? 鹿児島県? 山口県?」

坂本「うん」

後藤「えー。高知県は? 高知を見捨てないでよぉ!」

坂本「高知もだよ」

後藤「・・・・え、そうか。ああ。日本中の役に立とうっていうんだな」

坂本「違うよ、後藤さん」

後藤「なにが?」

坂本「日本だけじゃない。世界だ」

後藤「世界!?」

坂本「世界の海援隊だよ」

後藤「・・・・・・おぉ」

坂本「船で世界の海をまわるんだ。勝さんや塾生くんたちと一緒に」

後藤「・・・・・いいなぁ」

坂本「後藤さんも一緒においでよ」

後藤「え? おれ? いいの?」

坂本「みんなで楽しくやろうよ」

後藤「いいねぇ」

坂本「そのかわり・・・・」

後藤「?」

坂本「おれが地図苦手なこと、みんなに内緒ね」

後藤「ふふ。わかった」

1867年2月。坂本竜馬と後藤象二郎が手を組んだ。

世界の海援隊、発足。



第26話 大政奉還

竜馬と塾生の会話。

塾生「トマトジュース、飲みます?」

坂本「ああ、飲む」

塾生「はい、どうぞ」

坂本「どうも。ところで、おれね、やばいさ」

塾生「どうしたんですか?」

坂本「武力討幕チームのリーダーにされるかもしれないんだよね」

塾生「いいじゃないですか」

坂本「だって、もし万が一負けたら、首取られるんだよ」

塾生「こっちは近代兵器たくさんあるから、勝てますよ」

坂本「いや。でも、もし負けたらやばいしょ」

塾生「震えてますよ」

坂本「だって、怖いもん・・・・わ! ジュースこぼした!」

塾生「震えすぎですよ・・・・」

坂本「どうしよう。トマトジュース服についちゃった。シミになるぅ」

塾生「この前読んだ本に、シミの抜き方、書いてありましたよ」

坂本「え、どんな本?」

塾生「『清潔な服装100のポイント』です」

坂本「いいね。見して!」

塾生「図書館の本ですよ。今から借りてきますか?」

坂本「うん。急いで。赤いの取れなくなっちゃう。あーあ。お気に入りの服なのに」

塾生「一応、電話で確認してから図書館に行きます」

塾生は図書館に電話をかけた。

司書「はい。こちら図書館です」

塾生「あのー。本の貸出し状況を教えて欲しいんですけど・・・・」

司書「はい。本のタイトルをどうぞ」

塾生「えーと、『清潔な服装100のポイント』です」

司書「少々お待ち下さい。・・・・・・・お待たせしました」

塾生「ありますか?」

司書「現在貸出し中です」

塾生「えー。誰が借りてるか、教えてもらえませんか?」

司書「将軍さんです」

塾生「どうも」

電話を切った。

塾生「その本、今、将軍さんが借りてるんだそうです。 将軍さんが図書館に返してからじゃないと借りれませんね」

坂本「うっそ~。塾生くん。急いで将軍さんに電話して!」

塾生「え?」

坂本「でさ、その本を早く図書館に返すように言ってよ」

塾生「そんな、無茶ですよ」

坂本「だって早くしないとシミ取れなくなるしょ」

塾生「じゃあ、坂本さんが自分で電話して下さいよ~」

坂本「えー。緊張するしょ」

塾生「僕だって緊張しますよぉ。ピポパポ。はい、電話かけました。坂本さんがしゃべって下さい」

坂本「え? おれ? おれ?」

塾生「ほら、もうコールしてますよ」

坂本「うっそ、やばくない? うわー。めっちゃ緊張する・・・・」

将軍が電話に出た。

将軍「はい。もしもし」

坂本「あ、あの~・・・・」

将軍「はい?」

坂本「将軍さんですか?」

将軍「はい。そうですが・・・・」

坂本「どうも。坂本と申します」

将軍「坂本さん? 坂本さんって?」

坂本「坂本竜馬です」

将軍「え? あの坂本? 討幕チームのリーダーの?」

坂本「いや、リーダーってわけじゃ・・・・・」

将軍「もう、坂本さんたちのせいで、こっちは大変だよ」

坂本「はぁ。すいません」

将軍「今度、こっちに攻めて来るんでしょ?」

坂本「いや、まだわかんないっすけど」

将軍「隠してもダメだよ。武力討幕しようとしてるんでしょ?」

坂本「いやぁ・・・・・」

将軍「でもさ、いいよね、そっちチームは」

坂本「え?」

将軍「近代兵器いっぱい持ってるしょ」

坂本「ええ」

将軍「密貿易で仕入れたんでしょ? 悪いなぁ~」

坂本「えへ♪」

将軍「勝手に外国と貿易したらダメなんだよ。すぐきまり破るんだもんなぁ。ずるいよ」

坂本「いやぁ、なんか、すいません・・・・・」

将軍「ホントこっちはどうしていいかわんなくてお手上げだよ」

坂本「怒ってます?」

将軍「怒ってるよ。で、なんの用さ?」

坂本「いえ、やっぱり、いいです」

将軍「気になるしょ。言ってよ」

坂本「あの、あれ、あそこに返して下さいって、思って・・・・」

将軍「え? なにをどこに返せって?」

坂本「何だったかな、えーと、『清潔・・・・・」

将軍「せいけ・・・・?」

坂本「早くしないと、服が赤くなっちゃうんですよ」

将軍「なに言ってるのかわかんないよ。切るね」

坂本「あ、待って」

電話は切れた。

坂本「あーあ。切られちゃった」


一方、将軍は。

家来「誰からの電話だったんですか?」

将軍「坂本竜馬」

家来「え! なぜ?」

将軍「なんかわかんない。せいけ・・・・なんとかっていうのを、どっかに返せって」

家来「・・・・・・?」

将軍「早くしないと服が赤くなるって。わけわかんないよね」

家来「せいけ・・・・? あ! わかった!」

将軍「わかったの?」

家来「せいけ・・・・なんとかって、せいけん、かも」

将軍「政権?」

家来「政権を朝廷さんに返せ、っていことじゃないですか?」

将軍「政権を朝廷さんに?」

家来「はい。江戸幕府の権力って、もともと初代の家康さんが朝廷さんからもらったものですから」

将軍「あ、そうなの? この権力って朝廷さんからのもらい物なの?」

家来「はい。一応、そんな感じです」

将軍「坂本は、その権力を朝廷さんに返せって言ってるの?」

家来「はい」

将軍「なんで。ただで返したら損するしょ。そんなのダメだよね?」

家来「いえ、逆です。我々はすっごい得をするんです」

将軍「え? 得するの?」

家来「はい。説明します。いいですか・・・・・」

将軍「うん」

家来「武力討幕チームは、政治のトップである将軍さんをやっつけて、新しい政治をはじめようとしてますよね」

将軍「うん」

家来「我々幕府が奴らとまともにぶつかったら、正直言ってメッタクソにやられるでしょう」

将軍「まあ、むこうは近代兵器いっぱいあるしね」

家来「でも、 もし将軍さんが『政治の権力なんかい~らない。政治のトップや~めた』って言って、 政権を朝廷さんに返したら、武力討幕チームは将軍さんを攻撃する理由を失うんですよ」

将軍「・・・・なんで?」

家来「だって、そうなったらもう将軍さんは政治のトップじゃないんだから、 やっつけてもしょうがないんですよ」

将軍「なるほど。でもそれって徳川幕府が滅びることになるよね」

家来「戦いに負けて滅びるよりましですよ」

将軍「そうだね。戦いに負けたら、おれ、首はねられるかもしれないもんね」

家来「はい」

将軍「・・・・・・坂本、敵なのにおれのこと心配してくれてるんだなぁ」

家来「坂本の言った『早くしないと服が赤くなる』というのは、 血に染まるという意味だったんですよ」

将軍「そうか。武力衝突になったら、人がいっぱい死ぬもんね」

家来「犠牲者を少なくして、なおかつ将軍さんが生き残る道は、これしかありません」

将軍「うぅ・・・・坂本、頭いいなぁ。しかもおれの心配までしてくれてやさしいなぁ~(涙)」

家来「どうします。大政奉還、しますか?」

将軍「たいせいほうかん・・・・?」

家来「はい。政権を朝廷さんに返すことを大政奉還っていうんです」

将軍「うん。大政奉還か、ちょっと考えてみる・・・・・やっぱ、政権を手放すのって抵抗あるしさ」

1867年6月。坂本竜馬が大政奉還を提案。

幕府はこれを受け入れるか否か、揺れた。


諸外国の会話。

イギリス「・・・・・坂本竜馬って知ってる?」

フランス「誰それ?」

イギリス「密輸業者の、いんちきっぽい社長」

フランス「ふうん」

イギリス「彼ね、武力で幕府を倒すことに反対してるさ」

フランス「うそ!」

イギリス「一滴も血を流さないで革命を起そうとしてるみたい」

フランス「そんなことされたら、おれたちの計画、台無しでしょ」

イギリス「困るよねぇ。内戦のドサクサにまぎれて日本を植民地にしようと思ってたのにね」

フランス「うん」

イギリス「中国とかは余裕で植民地にできたのになぁ・・・・」

フランス「日本はそう簡単にはいかないかもね」

イギリス「もし日本を植民地にできなかったら、坂本のせいだ。ムカツク」

フランス「坂本って、ちょっと邪魔だね」

イギリス「どうする。暗殺する?」

フランス「・・・・・・しちゃう?」



第27話 無血革命

ここは長崎。竜馬と塾生の会話。

坂本「将軍さん、早くあの本を図書館に返してくれないかな~」

塾生「きっと将軍さんもあの本を気に入ってて、まだ返したくないんですよ」

坂本「それってそんなにいい本なの?」

塾生「めっちゃいい本ですよ。『清潔な服装100のポイント』」

坂本「タイトル的にはピンとこないけど・・・・。ただシミの抜き方とか書いてあるだけじゃないの?」

塾生「本の最後にクロスワードパズルがついてて、それを解いたら抽選でお寿司券が当たるんです」

坂本「それはいい本だね!」

塾生「将軍さんもお寿司券、狙ってるんですよ、きっと」

坂本「その券って何枚当たるの?」

塾生「ペアです。2枚」

坂本「将軍さん、もし当たったら誰と行くのかな~。おれを誘ってくれないかなぁ」

塾生「そんなわけないじゃないですか」

坂本「おれ、今から将軍さんに気に入られるようにがんばろうかな」

塾生「敵なのに?」

坂本「うん。だって、お寿司食べれるかもしれないしょ」


一方。

鹿児島県民Aと山口県民Aは・・・・・

鹿児島県民A「坂本さんって、武力で幕府をやっつけることに反対してますよね?」

山口県民A「うん、なんかね、そうみたい」

鹿児島県民A「僕たちだけでやっちゃいますか?」

山口県民A「坂本さんがいないんなら、リーダーはおれと君のどっち?」

鹿児島県民A「まあ、どっちでもいいじゃないですか」

山口県民A「そうだね。どっちでもいいね。じゃ、おれたちだけで武力討幕するか。あ、でもさ、いきなり幕府を力ずくでやっつけたりしたら、批判されないかな?」

鹿児島県民A「別に、されないんじゃないですか?」

山口県民A「でも、おれら山口県ってさ、いっつもハシャギ過ぎで文句言われるんだよね」

鹿児島県民A「今回は大丈夫ですよ。時代の流れに合ってるし」

山口県民A「でもなー。ちょっと不安」

鹿児島県民A「あ、じゃあ、許可証もらいますか?」

山口県民A「許可証?」

鹿児島県民A「はい。幕府を力ずくでやっつけていいよっていう許可証」

山口県民A「そんなのあるの?」

鹿児島県民A「ないです。ないけど、作ってもらうんです」

山口県民A「誰に?」

鹿児島県民A「そんな許可証を発行できる人間はこの世に一人しかいません」

山口県民A「・・・・・朝廷さん?」

鹿児島県民A「そうです」


そして。

鹿児島県民A「というわけで、朝廷さん、頼むよ」

朝廷「OK」

鹿児島県民A「ごめんね。メンドクサイことお願いしちゃって」

朝廷「いいって。おれと君の仲じゃん」

鹿児島県民A「許可証、どのくらいでできる?」

朝廷「なんも。すぐだよ、すぐ。5分くらい」

鹿児島県民A「よかった」

朝廷「ちょっとそこの椅子に座って待ってて」

鹿児島県民A「うん」


一方、幕府側は。

家来「将軍さん、まずいですよ」

将軍「え」

家来「武力討幕派が朝廷さんに工作してます」

将軍「なにさ、工作って」

家来「幕府を力ずくでやっつける許可証をもらおうとしてるんですよ」

将軍「うそ! やばいね」

家来「朝廷さんの許可が出たら、あいつら張り切って攻めてきますよ~」

将軍「えー。どうしよう・・・・・」

家来「この危機を回避するには、大政奉還しかありません」

将軍「でも、考えたんだけどさぁ」

家来「はい」

将軍「おれの先祖の家康さんは、すっごい苦労してこの権力を勝ち取ったわけでしょ」

家来「はい」

将軍「それをおれの代でポイッと捨てちゃっていいのかな・・・・・」

家来「でも、あいつらとまともに戦ったら将軍さんは負けますよ。それに今この時期に内戦なんかしたら、日本は外国の植民地になっちゃいます」

将軍「うぅ・・・・」

家来「混乱に付け込もうとしてる外国はいっぱいいるんですから」

将軍「うーん・・・・・・悩む」

家来「一庶民の坂本竜馬が敵味方の枠を越えて大政奉還という名案を示してくれたのに、 天下の将軍さんがそれに応えないでどうするんですか。徳川の将軍じゃなく、日本の将軍として決断してください」

将軍「・・・・・・そうだね。わかった」

家来「しますね? 大政奉還」

将軍「うん」

家来「急いで記者会見の準備をします」

将軍「頼むよ」

家来「武力討幕の許可証が発行される前に、大政奉還を発表しなきゃ」

1867年10月14日。

最後の将軍・徳川慶喜が大政奉還を宣言。徳川幕府は平和的に滅びた。


そのころ。

塾生「あー! 坂本さん!」

坂本「なにさぁ。でかい声だして」

塾生「テレビ見てください、大変です」

坂本「あ、そうだね。もう『ドラ○もん』の時間だ。見なきゃ」

塾生「『ドラ○もん』は中止です」

坂本「え?」

塾生「報道特別番組ですよ。将軍さんが大政奉還したんです。これはすごいですよ!」

坂本「大政奉還って?」

塾生「将軍さんが政権を返したんですよ。無血革命です!」

坂本「将軍さんが何を返したって? あの本を?」

塾生「これって歴史的瞬間ですね。やりましたね!」

坂本【心の声】「あの本を返したってことはクロスワードパズル、もう解いたのか。 すごいなぁ将軍さん。お寿司券、当たるかも。当たったらおれを誘って欲しいなァ・・・・・将軍さんに気に入られるようにがんばろ」

塾生「すごいですね! すごいことですね! ついにやりましたよ!」

坂本「ああ。すごいね! すごいよ! 将軍さんはすごい。おれ、将軍さんのためならなんでもするよ!」

塾生「え?」

坂本「いや、すごいしょ、将軍さん」

塾生「・・・・・坂本さん、やっぱ大物ですね~」

坂本「は?」

塾生「幕府を倒したことを喜ぶよりも前に、政権を手放した将軍さんの勇気をたたえるなんて、なかなか できませんよ」

坂本「え?」

塾生「しかも『将軍さんのためならなんでもするよ!』って」

坂本「・・・・うん」

塾生「いくら感動したからって、敵に対してそこまで言い切れる人はいません。さすがです、坂本さん」

坂本「・・・・・・どうも」

塾生「幕府を倒したことをただ喜んでた自分が恥ずかしいです。 そうですよね、一番つらい決断をしたのは将軍さんですよね。 僕も坂本さんみたいに敵を思いやる心を持ちます」

坂本「・・・・・・(・-・)?」


一方。武力討幕チームは。

朝廷「許可証、できたよ~」

鹿児島県民A「ありがと~~! よし、これで堂々と幕府と戦える!」

朝廷「あ。テレビ見て。ニュース速報」

鹿児島県民A「え?」

朝廷「幕府が大政奉還しました、だって」

鹿児島県民A「大政奉還!? うっそ~」

朝廷「武力討幕するまでもなく、幕府、滅びちゃったね」

鹿児島県民A「あーあ。この許可証、ちょっと使ってみたかったのにー」

朝廷「でも、肝心の幕府が自分から滅びたんじゃ、使えないね」


朝廷は武力討幕の勅許を下したが、まさにその同じ日、一足先に幕府が大政を奉還した。

これにより武力討幕派(鹿児島県&山口県)は挙兵の名目を失った。


鹿児島県民A「かなり残念」

朝廷「でも、これで時代が変わるしょ。めでたしめでたし」

鹿児島県民A「まあ、めでたしめでたしはいいけど、一から新しい国家を作るのもまたメンドクサイね」

朝廷「うん。今後の政治を担当する人、めっちゃ大変だね」

鹿児島県民A「でもさ、大政奉還っていうのは朝廷さんに権力を返すっていうことでしょ」

朝廷「うん」

鹿児島県民A「じゃあ、今後の政治を担当する人って・・・・」

朝廷「おれじゃん!」

鹿児島県民A「がんばってね」

朝廷「えーー(TT)」


テレビでは将軍の記者会見が始まった。

将軍「大政奉還を提案してくれたのは坂本さんです。坂本さん、ありがとう!」


それを聞いた朝廷は、竜馬に電話をかけた。

朝廷「もしもし」

坂本「はい。坂本です。どちら様ですか?」

朝廷「朝廷です」

坂本「え! 朝廷さん! びっくり」

朝廷「こっちもびっくりだよ」

坂本「・・・・・なにがですか?」

朝廷「君でしょ、将軍に大政奉還すすめたの」

坂本「・・・・・・なんのことですか?」

朝廷「とぼけてもだめだよ。君のせいでおれが政治をやるハメになったんだからね」

坂本「・・・・・はぁ」

朝廷「こっちは何百年も政治から離れてて、ぜんぜんやり方わかんないのにさ。迷惑だよ」

坂本「なんかわかんないっすけど、すません」

朝廷「君、責任とってよ」

坂本「え」

朝廷「政治の方針とか人事とかそういうの考えてよ」

坂本「えー。ちょっと待ってくださいよ~」

朝廷「じゃ、頼むよ」

電話は切れた。

坂本「そんなの全然わかんないよ(涙)」

こうして、新政府案が坂本竜馬の手で作られることになった。



第28話 新政府案

竜馬は友人Nの家をたずねた。

N「おう、坂本。いらっしゃい」

坂本「N君、ちょっと相談あるんだけどさ」

N「なに?」

坂本「おれね、朝廷さんから、いろいろ頼まれちゃってさ」

N「え! 朝廷さんから頼まれ事? すごいなぁ~」

坂本「新政府の基本方針とか人事とか決めて!って言われたんだよね」

N「うわ、大変だね」

坂本「だからさ、ちょっと一緒に考えてくれない?」

N「おれも全然わかんないよ、そういうの」

坂本「まあ、できるだけ協力してよ」

N「わかった。じゃ、とにかく思いついた基本方針をどんどん紙にメモしていこう。おれがメモするよ」

坂本「思いついたことって言ってもなぁ・・・・なんも思いつかないよ。 ほんと、みんなで勝手にやってって感じ」

N「えーと。書くぞ。基本方針その1。みんなで・・・・勝手に・・・・やって・・・・と」

坂本「いや、そんなことメモしないでよ、カッコ悪い」

N「じゃあもっとカッコイイ言葉で書き直すか?」

坂本「うん。せめて『みんなで相談していろいろ決めてね』って書いて」

N「あ! それってもしかして議会のことか!」

坂本「なに?」

N「今、欧米でブームの議会政治のことだよ。それをさっそく取り入れるなんて、坂本、さすがだな!」

坂本「そお? すごいの?」

N「うん。他には何て書く?」

坂本「えーとね・・・・やっぱ、わかんないや。 なんでおれがこんなこと考えなきゃならないんだ。 政治のことはもっと頭のいい人に聞いて欲しいよ」

N「頭のいい人って?」

坂本「わかんない。別に誰でもいいけど、 とにかくもっとちゃんとした人に聞くべきでしょ。おれなんかじゃなく」

N「例えば?」

坂本「誰でもいいよ、政治のこと詳しけりゃ」

N「なるほど。つまり『身分に関係なく有能な人材を登用せよ』ということだな。 それってすごいぞ! やるじゃないか、坂本。それもメモしよう」


こうして竜馬は8か条からなる政策方針を練り上げた。(船中八策)

それは議会の設置や身分に関係のない人材登用を謳った画期的な内容だった。


N「ふ~。基本方針はできた。次は人事だ・・・・・」

坂本「あのさ、イマイチわかんないんだけど、人事ってなに?」

N「新しい政治を担当するメンバーを決めるんだ」

坂本「政権のメンバー?」

N「うん。大臣とか、一番偉い人とか」

坂本「ふうん」

N「坂本、決めてよ。おれ、こっちにメモするから」

坂本「え、じゃあさ、おれが一番偉い人になってもいいの?」

N「もちろん! 住所不定の流浪人が無血革命で新国家のトップになるなんて、痛快だよ!」

坂本「へへ」

N「一番上に、坂本竜馬って書く?」

坂本「でもおれ、政治わかんないしな、いいや」

N「え、せっかくだから一番偉い人になればいいしょ」

坂本「ならない」

N「なんで! 一番偉い人になったら、世の中なんでも好き放題にできるんだよ」

坂本「でも、いいや」

N「じゃあ、2番目に偉い人になる?」

坂本「2番目もいいや。ならない」

N「もったいない~」

坂本「おれはそういうのいいよ。 新しい政治は、鹿児島県民Aさんや山口県民Aさんたちにやってもらうよ」

N「おいしいところは全部他人にゆずっちゃうのか~?」

坂本「おれ、勝さんとの約束があるからね」

N「約束?」

坂本「幕府を倒したら、世界の海を旅しよう、って」

N「おぉ・・・・」

坂本「だからおれ、権力なんか握ってるヒマ、ないんだよね」

N「世界の海援隊か」

坂本「そう。世界の海援隊」


ここは朝廷。

坂本「こんにちは~。朝廷さんいますか~?」

朝廷「あ、坂本さん。いらっしゃい。まあ上がって」

坂本「おじゃましまーす」

朝廷「新政府の基本方針と人事案、できた?」

坂本「はい。一応、できました」

朝廷「どれどれ、見せて」

坂本「これです。どうぞ」

朝廷「ふむふむ。え! 議会! すごいね。お! これもすごい!」

坂本「・・・・・どんな感じですか?」

朝廷「最高だよ。8か条も作ってくれたんだね」

坂本「はい」

朝廷「でも8か条は多くない? 受験とかで覚えるとき、大変でしょ」

坂本「多いですか?」

朝廷「あとで整理して、5か条くらいにしておくよ。いい?」

坂本「はい。全然いいですよ」


これが後年、明治政府の基本方針「五か条の御誓文」となり近代日本を支えることになる。


朝廷「で、人事案のほうは?」

坂本「これです。どうぞ」

朝廷「おー、なるほど。鹿児島県民Aさんとか山口県民Aとか入ってるね。 高知の後藤も入れてあげたの?」

坂本「はい。さっき電話して聞いたら、権力欲しいって言うもんで」

朝廷「それで入れてあげたのか」

坂本「はい」

朝廷「あと、鹿児島県民Aの友人も入ってるね」

坂本「はい」

朝廷「あれ?」

坂本「・・・・・どうか、しました?」

朝廷「坂本さんの名前がどこにもないよ」

坂本「あ、はい」

朝廷「なんで?」

坂本「僕は日本からいなくなるんで・・・・・」

朝廷「え? いなくなるの? どっか行っちゃうの!?」

坂本「世界を一回りしたら、戻ってきますよ」


諸外国の会話。

イギリス「ちょっとぉ、どうする?」

フランス「幕府、自分から滅びちゃったよね」

イギリス「ぜんぜん内戦にならなかったね」

フランス「うん」

イギリス「しかもさ、坂本の考えた新政府の基本方針、聞いた?」

フランス「いや、まだ」

イギリス「議会作ったり、身分差別やめたりしようとしてるさ」

フランス「すごいね。それってもう一人前の近代国家でしょ」

イギリス「坂本がいたら、日本がどんどん優秀な国になっていっちゃうよ」

フランス「うん。植民地にするどころじゃないね」

イギリス「でもさ、武力討幕チームの鹿児島県民Aとかは、やっぱまだ武力討幕にこだわってるみたい」

フランス「そうなの?」

イギリス「うん。せっかく朝廷から許可証もらったから、それ使いたいみたいだよ」

フランス「なるほどね」

イギリス「それに、幕府が倒れたとは言っても、まだ将軍も部下達も健在でしょ」

フランス「うん」

イギリス「だから、鹿児島県や山口県としては、 本当に武力で徹底的にやっつけないと安心できないんだって」

フランス「おれたちにとっては、内戦になってくれたほうがありがたいね」

イギリス「坂本さえいなくなれば、日本は内戦になるよ」

フランス「よし、じゃあちょっと手を打つかな」

イギリス「どうするの?」

フランス「まあ、見てて」

この日の夜。坂本竜馬は暗殺される。



最終話 世界の海へ

1867年11月15日。

フランス「ねぇ、ちょっと」

見廻組のリーダー「え? おれ?」

フランス「そう、そこの君」

見廻組リーダー「なんですか?」

フランス「坂本竜馬って知ってる?」

見廻組リーダー「はい」

フランス「坂本ね、君の悪口言ってたよ」

見廻組リーダー「え、なんて?」

フランス「見廻組って変な名前だ、って」

見廻組リーダー「ああ、それ、聞いたことあるよ」

フランス「ムカつかん?」

見廻組リーダー「ちょっとね」

フランス「しかもさ、坂本って指名手配犯で、捕殺命令出てるしょ」

見廻組リーダー「捕殺命令?」

フランス「『捕まえて殺せ』っていう命令」

見廻組リーダー「そういえばそんな命令、出てたっけ」

フランス「命令、実行すれば?」

見廻組リーダー「でも、その命令を出した幕府自体がなくなろうとしてるし・・・・」

フランス「すぐにはなくならないよ。それに、情勢がどう変化するかわからないしょ」

見廻組リーダー「うん」

フランス「捕殺命令ってのは上司からの命令だよ。実行しておいたほうがいいんじゃないの?」

見廻組リーダー「・・・・・うん」

フランス「坂本ね、 自分だけ『海援隊』とかいうカッコイイ名前の組織つくったんだよ」

見廻組リーダー「え! おれが見廻組っていう、そのままな名前の組織でがまんしてるのに?」

フランス「うん。ずるいよね」

見廻組リーダー「ずるいなぁ~」

フランス「やっつけちゃえば」

見廻組リーダー「・・・・・でも、坂本って、剣、強いしな~」

フランス「坂本は最近、刀をぜんぜん抜いてないらしいよ」

見廻組リーダー「どうしてさ?」

フランス「さぁ。でも、どっち道、みんなで一斉にかかっていけば勝てるよ」

見廻組リーダー「そうだね、じゃあ・・・・」


そのころ。

竜馬は勝海舟に電話していた。

勝海舟「はい、もしもし。勝です」

坂本「こんばんは! 勝さん」

勝海舟「おお、坂本さーん!」

坂本「ひさしぶりだね~」

勝海舟「坂本さん、やったね。ついに幕府を倒したしょ。すごいよ!」

坂本「うん。なんか知らないうちにね」

勝海舟「おめでとう」

坂本「いや、別におれの力で倒したわけじゃないし」

勝海舟「違うよ。誕生日おめでとう」

坂本「え? 誕生日?」

勝海舟「うん。11月15日、坂本さんの誕生日でしょ」

坂本「そうか。忘れてた。ありがとう。ところでさぁ、約束、覚えてる?」

勝海舟「世界一周の旅ね。もちろん」

坂本「幕府が倒れたから、もう出勤しなくいいんでしょ?」

勝海舟「うん」

坂本「じゃ、思いっきり世界の海を旅できるね」

勝海舟「できるよ~。待ちきれない!」

坂本「じゃあさ、明日の早朝に集合するか?」

勝海舟「早朝?」

坂本「うん。伏見の船着場に集合。時間は午前3時」

勝海舟「そんなに早く? なんでまた・・・・」

坂本「おれさ、夜明け前に出港して、海の真ん中で朝日を浴びたいの」

勝海舟「あ、カッコイイ! それ最高にいいね!」

坂本「気持ち良さそうでしょ?」

勝海舟「めっちゃ気持ちいいだろうね」

坂本「じゃあ、早朝3時に港に集合ね」

勝海舟「OK。塾生くんたちにはおれが伝えておくよ。久しぶりにみんなの顔も見たいし」

坂本「うん。頼むね」

勝海舟「3時集合かぁ。起きれるかなぁ」

坂本「ていうかおれ、どきどきして眠れなそう」

勝海舟「おれも。でも少しでも寝ておかないとね」

坂本「おれは一回眠ったら起きれなそうだから、このまま起きてるよ。どうせ眠れないし」

勝海舟「じゃ、3時にね」

坂本「うん」

勝海舟「遅れたらダメだよ」

坂本「わかってるよ。じゃあね」


その夜。

京都近江屋2階。竜馬の部屋。

N「こんばんは~」

坂本「あ。N君、いらっしゃい」

N「この前の、あれ、どうだった?」

坂本「ああ。基本方針とか人事案ね。好評だったよ」

N「そうか。よかったな」

坂本「手伝ってくれてありがとうね」

N「ほとんど坂本が考えたんでしょ。おれはメモしただけだよ」

坂本「なんか飲む? ビールとか」

N「うん。もらおうかな。・・・・・ん? 何あれ?」

坂本「ああ、あれ、荷物。旅に出るんだ」

N「お、ついに世界の海に出発するのか、おめでとう!」

坂本「ありがとう。明日、出発ださ」

N「朝、早いんじゃないの?」

坂本「早いよ。午前3時に伏見の船着場に集合」

N「え、じゃあもう寝なきゃダメでしょ。おれ、帰るよ」

坂本「いや、いてよ。おれ、一回寝たら早起きできないから、このまま起きてることにしたんだ」

N「このまま起きてるの?」

坂本「うん」

N「大丈夫か? 途中で寝ちゃうなよ」

坂本「寝ないよ。遅れたらみんなに悪いからね」


部屋をノックする音がした。


坂本「はい? どなたですか?」

見廻組リーダー「こんばんは。あなた、坂本さんですよね?」

坂本「はい。そうですけど。どうしたんですか大勢で・・・・・」


・・・・・・・・


将軍と家来の会話。

将軍「いや~坂本のおかげで、平和的に新政権に移行できそうだね」

家来「はい」

将軍「あ、そういえばさ」

家来「?」

将軍「坂本ってまだ指名手配中じゃなかった?」

家来「ああ、そうでしたね。取り消しましょうか?」

将軍「うん。新鮮組とか見廻組にも言っといて、坂本に手出しするなって」

家来「はい」


そのころ見廻組は京都四条通りを歩いていた。

見廻組リーダー「意外とあっけなかったね」

見廻組メンバー「はい」

見廻組リーダー「坂本と一緒にもうひとりいたしょ? 誰だったのかな?」

見廻組メンバー「さぁ。でも任務を無事に果たしたんだから、よかったじゃないですか」

見廻組リーダー「そうだね」

見廻組メンバー「でも・・・・」

見廻組リーダー「?」

見廻組メンバー「坂本、刀を抜きませんでしたね」

見廻組リーダー「うん」

見廻組メンバー「なんでだろう。自分の命が危ないのに・・・・」

見廻組リーダー「・・・・・そういえばおれ、坂本が刀を抜いて人を斬ってるところ見たことないや」

見廻組メンバー「僕もです」

見廻組リーダー「・・・・・」

見廻組メンバー「リーダー」

見廻組メンバー「ん?」

見廻組メンバー「僕たち、あれでよかったんですよね?」

見廻組リーダー「・・・・・うん」


竜馬とNは重傷を負った。

坂本「うぅ。痛ってぇなぁ。N君、動ける?」

N「・・・・・動けないよ。くっそぉ」

坂本「あいつら、何者だろ・・・・?」

N「知らないよぉ、・・・・・」

坂本「痛ってぇ、嫌んなっちゃうよ、刀で人を斬ったら痛いのにさ・・・・」

N「坂本、動くなよ、血ぃ出るぞ」

坂本「医者を呼んでくるよ。N君は、うぅ・・・・ここで待ってて」

N「無茶だよ坂本。おまえ、頭からすっげぇ血ぃ出てるぞ」


竜馬の前頭部の傷は脳に達していた。


坂本「N君のほうが重傷だよ。痛てて・・・・。医者、呼ばなきゃ」

N「動かないほうがいいって」

坂本「おれは大丈夫。大丈夫だよ。だってこんなところで、おれ、・・・・・」

N「じっとしてろって」

坂本「・・・・・あれ。なんか、・・・・・」

N「おい、どうした?」

坂本「なんか、急に、眠くてさ・・・・」

N「ちょっと、大丈夫か?」

坂本「・・・・・おれ、眠っちゃうかも」

N「しっかりしろよ、坂本」

坂本「勝さん、みんな、ごめんね」

N「おい・・・・」

坂本「おれ、少し遅れそうだよ、ごめん」


1867年11月15日午後9時過ぎ。

坂本竜馬、暗殺。


京都。海援隊の支部では。

勝海舟「こんばんは~。みんないる?」

塾生「わぁ、勝さん! おひさしぶりです!」

勝海舟「さっき坂本さんから電話があってさ」

塾生「あ、世界一周の件ですか!?」

勝海舟「うん。いよいよ明日、出発だよ」

塾生「ホントですか! やった~」

勝海舟「夜明け前に出発する予定なんだ」

塾生「早いですね」

勝海舟「そしてね、海の真ん中で朝日を見るの」

塾生「いいですね。海の真ん中で見る朝日ってきれいでしょうね」

勝海舟「きっときれいだよ。みんなで一緒に見ようね」

塾生「はい」

勝海舟「そして世界の海をめぐるんだ」


竜馬は、夜明けを見ることなくこの世を去った。


竜馬の死とともに無血革命の夢は消え、日本は内戦に突入した。

1868年。戊辰戦争。そして明治改元。

多くの犠牲の上に、近代国家日本が誕生する。


坂本竜馬 完

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