見出し画像

「部下は何人までなら目が行き届くの?」という歴史的な悩みの解決法 【コラム】

会社の組織づくりやマネジメントの悩みのひとつに、“ひとりのマネージャーが目の行き届く部下の人数ってどれくらいが最適なのか”という問題がある。

ぼく自身も昔、課長として直接20人くらい部下をひとりで抱えていた時があったけど、その全員ぶんの顧客営業に納品物に育成までぜーんぶを具体的に見ようとするとやっぱり目が行き届かないなーと体感した頃があって、どれくらいがベストなんだろうと毎年やりかたを試行錯誤してきた歴史がある。
これは組織づくりする人たちの長きにわたる課題ではなかろうか。
今回は少し事例を引用したりして、この問題をぼくなりに整理してみます。

1、学問的には『スパン・オブ・コントロール』という課題

この悩み、
経営学的にいうと『スパン・オブ・コントロール』という言葉がついて整理がなされている。
さすが、学問である。だいたいの事はすでに論じられている。
どういう考え方なのか、グロービス経営大学院のMBO用語集サイトから引用する。

一般的な事務職では1人の上司が直接管理できる人数は5~7人程度と言われているが、様々な要因によってspan of controlは左右される。
要因としては、部下の業務内容や業務レベル、権限委譲できるかどうか、業務管理手法、教育、トレーニング、社内制度やシステムなどがある。(中略)
部下に権限委譲したり、MBO(目標管理)などの仕組みにより日々の業務の自由度を与えることで、スパンは広げることができる。
一方で、権限委譲やMBOを効果的に実施するには、部下の教育、トレーニング、指導といった要因、企業側のサポートにも影響される。 最近では、グループウェアなどIT環境の整備も、span of controlを広げている。

なるほど。通常、5〜7名程度が適しているが、その範囲を拡張するべく策が列記されている。

また、たとえばこの直接管理する人数をより小さいロットにすればするほど、もちろんチームリーダーとメンバーたちの距離は縮まるので、目は行き届くし意思疎通ははかどるだろう。
だがしかし、その場合企業全体側から見てみると“管理職の数を大幅に増やすことにもなる”ため、利益構造は悪化するし、増えた小ロットが重なることになり“トップマネジメントへの伝達階層が深まってしまい”、現場の声が経営に届きにくくなるというデメリットも考えられる。
これも『スパン・オブ・コントロール』の重要性を示している。ひとりの上司が見る部下の数が多くても少なくてもメリット/デメリットが発生する。だからこそ、それぞれの企業がその企業に合った『スパン・オブ・コントロール』の試行錯誤が必要なのだ。

2、「会社が100人のときも1000人のときも、結局、密に話すやつは10人だから。」

この問題を考える時に、ぼくがいつも好んで思い出すのは、DMM.comグループ創業者の亀山敬司さんが、2017年にセミナーの対談でお話しされていたさりげないエピソードだ。
記事がまだネットに残っていたので転用させてもらう。

インタビュアー:今は亀山さんのところが3000人ぐらいで、たぶん、ある時期までは働いている方々の顔がほとんど見えてたと思うんですよね。でも、3000人にもなったら一人ひとりは見えなくなると思います。その辺の変化を通して直面した問題って、何かありましたか?

亀山: まあ、10人のときも100人のときも1000人のときも、結局、密に話すやつは10人ぐらいだから。そのなかで、さっき話したみたいにそいつらがどんなポジションを取れるか考えたりする。
で、たとえば会社をM&Aで買うとしたら、基本はそこの社長がやるけど、信頼できるお目付け役みたいな人間を付けたりする。(中略)
組織のスケールは100人ぐらいがちょうどいい気がする。それ以上になるなら権限もビシっと決めとかなきゃいけないかなって。俺が見てる10人がそれぞれ10人ずつ、100人を見るっていう感じ。
(一部、転載者が省略)

マネージャー側からの視点でいうと、この解答がすごくシンプルで明快。
会社がどんなに大きくなろうとも、自分自身が「結局、密に話すやつは10人ぐらいだから。」という。
わかりやすい。
信頼関係がきちんとつくれており権限移譲を徹底すれば、その10人をおさえるだけで、100人ぶんのコントロールまでは“手中における”という計算である。

ぼくの心の中の“マネジメント単位”の指針には、これが印象的に残っている。
この指針が自分のものになってくると、自分の傘下の組織が大きいときでもそんなに怖さは感じなくなった。どのみち自分がみる範囲は10人なんだと思えば。

3、モンゴル帝国に秦の始皇帝まで。歴史的な“10人ずつマネジメント”

のちのち、他の本を読んでいると、元・ライフネット生命保険の代表取締役の出口 治明さんが著作『任せ方の教科書』に、13世紀のモンゴル帝国の事例とともにこう紹介されていた。
ネットの著者インタビュー記事から(少し長めだけど)引用する。

日本生命にいた時代に、始めて持った部下は、1人だけでした。当初は「手取り足取り」丁寧に指導をしました。ところが部下の数が2人、3人、4人、5人……と増えていけばいくほど「一人ずつ、きちんと指導するには時間が足らない。これは何とかせなアカンな」と考えるようになり、出した結論は「部下を細かく指導するのはやめよう」でした。理由は「人間の能力の限界」が見えたからです。そこで、歴史上の人物で私がロールモデルとして尊敬しているモンゴル帝国の第5代皇帝クビライに習い「広く浅く、10人を均等に見る」管理方法に変更しました。 
かつて地上最強だったモンゴル軍の組織図を例にとると、1万人隊長は、「10人の1000人隊長」を部下に持ち、部隊の指揮を任せます。1000人隊長は、「10人の100人隊長」を部下に持ち、部隊を任せる。100人隊長は、「10人の10人隊長」を部下に持ち、部隊を任せる。そして、10人隊長は、「10人の兵士」を部下に持つ。つまり、どの隊長も、管理している部下の数は「10人」です。このように10人ずつマネジメントをすると、1万人部隊も容易に統率できるのです。多くの部下を持つなら、「部下の仕事をひとつひとつ丁寧に見よう」という考え方は捨て、部下に権限を与えて、仕事を任せるしかありません

ここでもやはり“10人ロット”だ。
しかも、13世紀から続く“人類の経験則”とも言える。

「10人長」といえば、人気マンガの『キングダム』を読んだことがあるが、あれは紀元前の秦の始皇帝の物語だが、すでに「10人長」「100人長」といった組織的な概念はあった。あれはもう、紀元前からの『スパン・オブ・コントロール』の始まりだったのだなと気づく。

4、まとめ

というわけで、一律正解の答えはないけれど、自分なりに適性人数範囲を考える上で参考になるところもあったのではないだろうか。

今回は“10人ロット”に焦点をあてて紹介したが、自分たちの環境、会社の文化や状況に合わせて、試行錯誤すればいいと思う。

コツコツ書き続けるので、サポートいただけたらがんばれます。