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古代日本になぜ“リーダーシップ”は誕生したか。リーダーの資質とは何か。(出雲と大和展2019より) 【美術館やアートの楽しみ方】 #10

『出雲と大和』展(東京国立博物館 2020年1月15日-3月8日)を鑑賞してきた。通常の展覧会紹介文ではなく、このブログではちょっと切り口を変えて、タイトルにある「古代日本になぜリーダーシップが誕生したか」について考えた事を書きとめておく。
一般の多くの人と同様に私も古代について全然詳しくないので、たまにこうした機会で触れ、現代人に当てはめて考えなおしてみると“気づきやヒント”がいろいろとあった展覧会だった。

「展覧会の内容」について詳しく知りたい方には、いろんなサイトを見た結果、下記のリンク「美術館ナビ」の【スペシャリスト鑑賞の流儀】がわかりやすかったのでそちらを推薦します。


1、現代なんかより“不確実性”が相当高い古代日本

古代日本ではとにかく「安寧」が問われている。
鑑賞していてそう感じた。

現代のビジネス社会は、テクノロジーの進化によって変化が早く不確実性が日に日に高まっている時代だと叫ばれており、この現象を総じてVUCA(ブーカ)という呼び名がつけられている。

VUCAとは、4つの言葉の頭文字からなる
「Volatility」(変動性)
「Uncertainty」(不確実性)
「Complexity」(複雑性)
「Ambiguity」(曖昧性)

VUCAとはすなわち「予測不能な状態」を指す。

しかし、古代日本に触れてみると、“変化の速度”こそは今より遅いといえるものの、古代人は現代なんかよりもっともっと“根本的で根源的な不確実性”に囲まれて、日々絶えず大きな不安に脅かされ続けている。“明日も無事生きられるかわからない”というレベルの不確実性だ。そもそもは学問や科学の未発達が要因とは言えるが、とにかく“わからない事”が多すぎるし、“突発的な現象”も多すぎる。天災、病魔、気候変動、農作物異変、殺し合い。まさに「予測不能な状態」である。予知能力が不足しているので、予防がままならず、死亡率も高く平均寿命は短い。
現代なんかよりよっぽど“不確実性”の世界だから、古代に思いを馳せると、「人間なんてずっとどの時代でも“予測不能な状態との戦い”を続けてきたのだな」と、なんだか勇気づけられもする。

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2、すべての出土品が“安寧への祈り”のためと言えるのでは

だから「安寧」のために、何かにすがりもする。

出雲大社の巨大神殿。青銅器を用いた荘厳な祭祀。四隅突出型墳丘墓という変わった形の祭祀場の登場。仏教と寺社の伝来。仏像への信仰心。

弥生時代から平安時代へとかけて、様式や形式は移り変わりこそすれ、それらはすべて“安寧への祈り”なのだと共通項を感じた。苦しみや悲しみからの解放の祈り。「予測不能で、不確実性の高い世の中」に対する祈り。出土品の数々は、時間をかけて丁寧に大量につくり、大掛かりな祭祀の準備をし、舶来の貴重な物品を惜しげもなく使い切り、全身全霊で“祈る”古代人たちの想いの塊りが見えた。

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3、古代日本になぜ“リーダー”が誕生したのか

古代にもリーダーが登場する。権力者の古墳が作られる。なぜリーダーや階層が生まれるのか。

ターニングポイントは、「狩猟から稲作」へとパラダイムシフトが起こり、「集団生活が始まった」ことだったのかなと展示を見ながら考えた。

ひとりひとりがバラバラで、群れない猿人類であるうちは、周りに食べ物がなくなったら移動し続けるし、雨が降れば洞窟で眠り、晴れたら狩りにでるだけでいい。

農耕が主流になると、団体行動で仕事をしたほうが農作業は効率化されるし豊作につながるので、集団生活があちこちではじまる。いわゆるムラ社会の誕生だ。人々が群れ始めると、秩序のためにはリーダーシップが必要になり、階層が生まれる。特に、農耕には天候や天災が大きく左右するため、気象学や地学の知見が大きいほど尊敬を集め、リーダーにはその経験や能力が期待された。天気をコントロールするのは神様で、その神様の気持ちがわかる人がリーダーになることで、リーダーはシャーマン的に“神のお告げを聞ける”といったポジションを得た。ざっくりまとめると、下記の構造だ。

農耕集団生活→ 群性ムラ社会→ リーダーシップと秩序→ 農学や気象学→ 祭祀の開催→ シャーマン化と権力→ 古墳埋葬と豪華な副葬品→ ムラの連携、ムラからクニへ

 こういった流れが自然発生的につながっていって、その時代に合ったリーダーシップ像が磨かれていったのだろう。

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4、出雲の“地の利”、出雲が発展した理由

かといって、祭祀の方法論や、雨乞い技法には、説得力もいる。リーダーには、“他の人とは違う”という特別な力があるほうがいい。

出雲は、地理的に大陸と近く、海洋ルートがあり、早くから舶来物の入手が進んだ土地だったようだ。農耕技術や製銅技術や建築技術、気象学の知識や祭祀方法の情報など、大陸経由の情報を仕入れながら、自分たちに合うようローカライズをうまく進めてきた土地だと思うと、出雲を理解しやすいかもしれない。
これは現代のビジネス用語でいうところの「タイムマシン経営」だ。ソフトバンクの孫正義社長が得意とした方法。“日本にまだないモノやコトを一番早くに導入し、大胆に広めて人心を集め、後発と大きく距離を開ける。”

鏡や、勾玉や、今まで見たことがないキラキラでピカピカで妖艶な美しさを見せられたら、「すごい人、すごい村」と思わせる説得力があった事だろうと想像できる。出雲には“地の利”があったのだと思う。

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(おわり)

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