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無人型店舗の先にある “スマートストアの可能性の広がり” 【マーケティング戦略の観察】

最近「無人型店舗」が注目をあびているが、ここらで一度その“注目をあびる背景や理由”をまとめておく。無人店舗化が進むと各社のマーケティング活動も相当変化が進みそうなので、そこらにフォーカスを当てて整理してみる。
(この記事は2019年3月時点で保存)

2019年3月に『リテールテックJAPAN2019』が東京お台場で開催された。これを話題の軸にします。

1、リテールテックとは

まず「リテールテック」とは、
“◯◯+テック(technology)”と呼ばれる一種で、ある特定の業界において業界特有にテクノロジー進化が進み、その業界のやり方やルールを根本から変えちゃうような活動の総称。
たとえば◯◯+テックの中ではフィンテックが有名でそれは“金融業界の変革”だが、
リテールテックはその名の通り、“流通小売業周辺での技術進化による業界変革”が目標である。

リテールテックの取り組みでいま最も勢いがあるのは“スマートストア”。いわゆる無人店舗化もここに含まれる。
前述の『リテールテックJAPAN2019』でも、スマートストア関連の技術がたくさん紹介されていた。

スマートストア(≒無人店舗化)が世間的に注目をあびはじめたキッカケは『AmazonGOの登場』である。これは間違いない。
AmazonGOの登場以来、各社やベンチャーによる“無人店舗関連技術への注力”は急速に進んだ。

2、“人材不足対策”にもなるスマートストア化

ただ、日本ではスマートストアは「人材不足への対応策」として語られる事が多いが、それはスマートストアが生み出すメリットの一側面でしかない。
このスマートストアの本質は、“リアル店舗のデジタル化”であって、その結果のひとつに「無人運営もできるので人材不足対策にもなる」が含まれていると考えるのが正しい。

しかし少子高齢化が進む日本の未来において人手不足が深刻な課題であるのも事実だ。
人手不足改善に対する記事を引用する。

多くの人手を要する小売り流通業では、特に「決済」プロセスの改善に躍起だ。「『品出し』と『検品』、そして『決済(レジ回り)』が最も人手がかかるところ。品出しと検品はすぐには自動化できないので、現時点では決済プロセスの改善に集中するのは正しい
ただ、顧客の利便性や購買体験を損なってしまっては、せっかくの省人化努力が報われない。店舗側の効率と顧客メリット、そのバランスを取りながら、しかもスピード感を持って省人型店舗を実現する

まずは無人化ではなくて“レジオペの省人化”だという。
一消費者としてのわたしは、別にコンビニで店員と話したいと思わないが、レジレス方式の操作がもしもめんどさいとそのスーパーやコンビニを使いたくなくなるので、そこは重要だ。

AmazonGOは、店舗中に複数の動画カメラを設置し買い物客が“棚から手にとった商品を判別”するので、欲しいペットボトルを棚からとって“そのまま店を退店するだけ”で、後ほどアプリでドリンク代が決済される。レジ動作がまったくいらないので画期的である。これは「ウォークスルー型」と呼ばれる方式でぜんぶがこうなれば買い物客としては一番ラクそうだが実現への技術的ハードルもあり、
現時点では「セルフレジ」「セルフレジ付きカート」「スマートカート」「RFIDタグ付き決済」など方法論も多様だ。『リテールテックJAPAN2019』でも各社様々なソリューション紹介を行なっているのが現状。“勝ち組”もまだ決まっていない。

3、JRの無人決済店舗への挑戦

JRグループも、早々に無人決済店舗化の実証試験を進めている企業のひとつだ。従来から、全国のキヨスクや小型の駅ナカコンビニを運用しているが、人材不足は深刻だという。

2018年10月には赤羽駅構内で、実際に一般客も利用できる無人決済実験店を期間限定でオープン。わたしも勉強がてら一度試しにいってみた。

これを発展させる形で、ベンチャーとの共同出資で省人型店舗構築の専門会社を設立するという。

子会社のJR東日本スタートアップを通じ、省人型店舗の専門会社設立の検討を開始。将来的にはシステムの外販も視野に入れる。
設立に向けて2019年2月21日に基本合意書を締結した新会社は、AI(人工知能)を活用した無人決済システム「スーパーワンダーレジ」を開発するサインポストとの共同出資会社となる。

少額だけど大多数の人が行き交い高頻度で利用される駅ナカで、スマートストアが浸透してくると、“日本人とスマートストアの距離”は近づくはず。それは大きな変化になる。

4、スマートストアはOMOの象徴。OMOとは?

OMO(Online Merges Offline)という概念が最近語られる。
これまではO2O(Online to Offline)と呼ばれていた活動があるが、これは、オンラインユーザーをオフライン(店舗やイベント会場等)へつなげる施策や活動の総称であった。この場合、“オンラインとオフラインは別物”として存在している。

OMOは、このオンラインとオフラインの垣根がなくなり、“ユーザーはシームレスにオンラインとオフラインを行き来し、その時々で便利な方法で体験価値を得る”ようになる状態の事を指す。
「スマートストア」というのはこのOMOの象徴的存在である。

どういうことかを「オフライン店舗型のAmazonGO」を例に少し丁寧に説明すると、
オフライン店舗にもAmazonIDで入店し、ペットボトルとサラダを物色して選んだら、そのままウォークスルーで退店。するとオンラインでいつも使うAmazonと同じ様式でショッピングの決済が完了したメール通知がはいる。そして翌日、オンラインのAmazonを開くと、昨日買っておいしかったペットボトル飲料の「新商品が出た」という情報が載っていたので、オンラインのショッピングカートにいれる。

こんな風に、“オンラインとオフラインの体験価値がどちらを選んでも同質に得ることができる”のがOMOの世界だ。

「人材不足の解消」という目先の具体的な課題への対応はとても重要だが、そこにだけ価値を見出していると、店舗都合のスマートストアになりかねない。
“ユーザー体験視点のスマートストア”が実現できてこそ、利用者が増え、市場に浸透する。

“新しいもの好き”はほんの一部だ。
市場を創造するには、大多数の“新しいものには抵抗感を感じる層”が、どう自然とスマートストアを使いはじめてくれるかである。そのためには店舗ではなく、ユーザーが価値を享受することが大切である。

5、スマートストアの本質は“データ活用にある”

3/22の日経クロストレンドでは「AmazonGOの新型店」の特性や狙いが記事にされている。
担当副社長は「Amazon Goの目的は人件費を浮かすためではない」と明確に述べている。

オフライン店舗がデジタル化される事で、ユーザーの店舗内行動や詳細な購買データが集まり、そのデータを活用することで、快適な買い物体験を得られる店舗へ進化するのが目的だと言う。

「どんな消費者がいつ、何を手にし、どんなふうに店の中を動いて、何を購入したか。そうした情報を基に、より欲しい品ぞろえ、買い物がしやすい店舗へと進化していくことができる」

18年12月にオープンしたサンフランシスコの新型店では、これまでのデータ分析を生かした「店舗デザインへの活用」も紹介されている。

日本国内の流通小売企業も挑戦をはじめている。

前述の日経クロストレンドの特集では、ローソンの取り組み事例の紹介もされている。

2019年2月12日から28日まで、ローソンゲートシティ大崎アトリウム店で、経済産業省主導による電子タグ(RFID)を活用した実証実験を実施した。(中略)
今回は、店舗スタッフの省人化と食品ロスの改善などを目的に、一部商品にRFIDを貼り付けて、リアルタイムに商品在庫や消費期限の情報を取得するシステムを導入。
このシステムを使い、「ダイナミックプライシング」「デジタルサイネージによるターゲティング広告」「RFIDリーダー付レジ」「情報共有システム活用」の4つを実験した。

時間帯によって価格を変動させたり、お客様ごとの特性に合わせて新たな情報を届けたり。オフライン店舗のデジタル化を進めることで、こういった新たなユーザー体験を提供することもできるようになる。

企業のマーケティングの元となる“収集データの規模”もケタ違いになることで、これまで知りたくても知れなかった事、手の打ち方にも、広がりができる。

“スマートストアの浸透”はまだまだ未知数だが、ポテンシャルは大きく、注目を浴びるのは、こういった背景があるわけである。


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