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「割引に興味ない層」には、キャッシュレスを通じた“新しい体験価値”がそろそろ必要だ。 【マーケティング戦略の観察】

割引割引が目につくキャッシュレス利用促進の取り組みだが、“値引き”だけで動く層ばかりを追い続けても決済事業者側は疲弊するばかりだ。
値下げだけではない“体験価値の提案”も必要なタイミングだと思うが、ここ数ヶ月で「いいな」と思った取り組み記事を紹介する。(2019年10月に執筆)

1、10月以降、キャッシュレス決済の“比率”は上昇傾向

2019年10月からコンビニなどでキャッシュレス決済で支払った場合には還元がつくようになり、買い物がお得になる。キャッシュレス化を推進したい“国の取り組みの一環”だが、そんなちょっとした還元率ごときで現金派が動くのかしらと冷めた目で見ていたけれど、速報を聞くと、意外とキャッシュレス比率は上がってるみたいだ。

ローソンの記事では、「消費税率が引き上げられた今月1日から6日までの6日間のキャッシュレス決済の比率が、従来のおよそ20%から25%程度になり、5ポイントほど増えた」という。(下記の記事より引用)
ファミリーマートも同じく「5ポイント増えた」と発表しているので、市場全体としてキャッシュレス支払いは増えているようだ。

還元割引効果、あなどれない。


2、“割引”に惹かれる人ばかりではない

そもそも日本で「〇〇ペイ」が世の中に認知しはじめたキッカケはやはりPayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」だろう。アレが2018年12月に第一弾。テレビのワイドショーなどでも相当とりあげられたので、アーリーアダプター以外にも広くサービス名称まで認知されたのは大きかった。一種の社会現象になった。
アレがなければ、バーコード決済なんていう使いにくい決済方法がこれほど短期間で市民権を得ることはなかったろうし、逆に、アレのせいで「バーコード決済というのは割引がある時に使わないとモッタイナイ」というズレたイメージが強まったともいえる。決済事業者同士の割引割引の競い合いが始まった原因とも言える。

でも、冷静に市場をみると、根本的に“割引キャンペーンだけでは動かない層”も一定いる。
年収が高い人ばかりというわけではなく、その決済手段を使ってると「割引が大好きの人」というブランドイメージがあまりにつきすぎていると「かっこわるいから使いたくない」と感じる人もいれば、「わざわざ数十円数百円のためにマニュアル読んで登録など手間な事やりたくない」というめんどくさがりもいる。

キャッシュレス決済のユーザー獲得もセカンドフェイズに入るタイミングだ。値引きで動く一定層の取り合いだけになってきている感がある。割引以外の価値、たとえば“新しい付加価値”のようなものをきちんと打ち出してアプローチすることが重要なタイミングだ。

この1か月ほどで、そういった“キャッシュレス を通じた付加価値”の面で、興味深かった提案が2点あったので紹介したい。

3、タクシー配車半額という“体験価値”

ひとつは、タクシーだ。
タクシー配車アプリ市場は以前から日本ではJapanTaxiが先行してサービスを広めていたが、ソフトバンクグループと提携する中国系企業のDiDiが日本上陸。そのDiDiアプリをPayPayで決済連携して使用すると、“タクシー代半額で乗車”できるという。(期間限定)


これも「割引の話しじゃん」と言われるとそうなのだが、ここには“新しい体験価値”がついてくる。
たとえば配車時間の指定もできるので、“明日の夜ご飯のお店の前に前日から予約して呼んでおく”こともできるし、コース指定も決済もすべてアプリ内で完結済みなので、もうタクシー運転手といちいち会話して到着場所を伝える必要もなくなるし、車内で支払い動作をする必要もない。
それに、“タクシー乗車料金”というのは規制産業でなかなか金額は動かせないという印象があるからこそ余計に、これは今までにない新しい提案だなとユーザーに期待を感じさせる。

先日ためしに使ってみたがとても便利だった。
歓楽街から自宅まで通常だと2,500円ほどの距離だが1,200円ほどで乗れたし、決済せずに降車するだけというのは気持ちがいい。新体験である。

4、決済アプリ内ミニアプリという“体験価値”

もうひとつは、ドコモが発表した「d払いアプリ内のミニアプリ」だ。

これは、“d払いの決済アプリの中”にあらかじめ他社のテイクアウトや予約のボタンがズラリと内在されていて、そこで商品を選んで決定するだけで、自動的に決済までを終えてあとは帰り道に店に立ち寄るだけ。いちいちいろんなお店のアプリを立ち上げたりする必要がなくなってラクそうである。

ミニアプリは、加盟店が自社アプリなどで提供している事前注文や事前決済などのサービスやクーポンをd払いアプリ内に組み込んだもの。ユーザーは各加盟店のアプリをダウンロードしたり会員登録したりすることなく、d払いアプリ内で加盟店のサービス利用から決済までを行える。

2019年度内には吉野家とローソンのミニアプリを提供する。吉野家の場合、d払いアプリ上で事前にテークアウトの注文と決済を済ませ、店頭では商品を受け取るだけ――といった使い方ができる。

「ミニアプリ」という言葉、まだ聞き慣れない言葉だが今後はたくさん聞くようになるんだろうと思う。


5、“新しい体験価値”を提供する重要性

紹介した2つのサービスはどちらも“単純に20%オフ”といった値引きだけにとどまらず、“新しい体験価値”が提案されている。

両方とも似ているのは、“オンラインサービスで手軽に”操作をするだけで、リアルな“オフラインサービス”のタクシー配車やテイクアウトを実際に可能にしている点である。
専門用語も使っていうと、これがいわゆる OMO(オンライン・マージ・オフライン)という状況だが、今後ますますこういった“オンラインとオフラインの垣根”をまたいだサービスアイデアがたくさん登場してくるだろう。
2019年下半期の今は、その“先駆け”の時期だと思う。

今回は、PayPayとd払いによる“先行事例”を紹介したが、ぜひ他の決済事業者からもそれぞれユニークな“キャッシュレスによる体験価値の提案”もみたいと思う。値引きだけだとすでにもうユーザー獲得は動きにくくなってくると思うので、各事業者のマーケティング戦略やアイデアに期待してます。

(おわり)
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