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札幌のテック・コミュニティと、協働で生まれる可能性 【 #NoMaps メディアアーツミートアップ 2021-2022 レポート】

Media Arts Meet-upは、札幌クリエイティブカンファレンス「NoMaps」関連イベントとして2017年から実施されている、メディアアーツにまつわるミートアップです。

2021年度版となる今回は、2022年2月12日に開催され、札幌のテック・コミュニティがオンラインのコミュニケーションツール「SpatialChat」上で集い、各々の活動と課題について話し合いました。

パンデミック下での生活が長引いていることもあり、心身ともに、馴染んだ活動圏内から出ることが少なくなった昨今ですが、きっかけをつくり、そこから少し外に出て、人と話すことで生まれる動きやアイデアがあるはずです。直接会うことが難しくても、そんなきっかけになることを期待して、今回のミートアップを開催しました。

ゲストは、未完プロジェクトの西村航さん、Code for Sapporo / Code for Japanの古川泰人さん、北海道大学 / SAPPORO AI LABの川村秀憲先生です。モデレーターは、NoMaps実行委員 / 株式会社トーチ代表のさのかずやが務めました。

ミートアップの詳細はこちらです。

また、同日に行われた、Sapporo Creative Community vol.3のレポートはこちらです。

■ 「NoMaps」とは?
2016年からスタートした、クリエイティブな発想や技術で、新たな価値を創る交流の場。2021年は、10月13日から17日の5日間にわたり、オンライン・オフラインを交えて開催。


札幌のテックコミュニティの現在地

まずは、SpatialChatの登壇機能を使い、それぞれのテック・コミュニティについて、ゲストのみなさまにご紹介いただきました。


未完Project 

未完Projectは、地方×デジタル×若者というテーマを掲げ、学生向けのハイレベルなテッククラスコミュニティの形成を目的に、2020年の2月、IRENKA KOTAN合同会社とコミュニティアンドプロジェクトグループ合同会社が共同で立ち上げたプロジェクトです。

西村「特に地方の若者世代をターゲットとし、技術を学び合う場と、学んだことを社会に活かしていく共創の体験作りを軸に事業をやっていきたいと考えています」

2020年9月にはエンターテイメント領域のエンジニアに必要とされる技術を学ぶイベント「Entertainment Dev with mixi」をmixiと合同で開催し、10月にはモバイルアプリやXRが広がっている昨今、それらに実際に関わっている方からテクノロジーの最先端領域を学ぶイベント「xR / Flutter Dev Day」をNoMapsとの連携企画で開催しました。

また、イベント運営のほかにも、北海道に住むエンジニア志望者の高校生、大学生に開かれたコミュニティベースの学びの場として、未完Laboを運営しています。

西村「『自ら興味を持って調べ、手を動かして作ってみる』という一連の流れは、エンジニアにとって大事な体験だと考えています。毎週開かれる未完Studyというワークショップや、ハッカソンは、そんな体験を提供し、独学でどんどん突き進んでいけるエンジニアを育成することを目指しています」

事務局長を務める西村さんですが、プロジェクトに関わるきっかけは中学時代の経験でした。

西村「中学生でITのエンジニアリングの世界に足を踏み入れた時、コミュニティに入りたくても、大学生向けだったり敷居の高さを感じたりして、入るのが難しかったんです。なので僕は独学で学んできました。そういった経験があったので、一緒に学び合える環境の重要性を強く感じています」

2021年2月で一周年を迎えた未完Projectですが、課題も見えてきました。

西村「これまでの活動はコミュニティという形態で、『学ぶ』と『つくる』の二段階で運営してきましたが、技術は使う形にまで落としこまないと、実際に使える人材やローカルの課題を解決できる人材の育成は難しいと気付きました。そこで視点を『使う』にまで伸ばす必要があると考え、2021年の春に一般社団法人化し、キャリア支援や、高度な技術を学ぶ未完ルートという新たなプログラムを展開する予定です」


Code for Sapporo / Code for Japan

Code for Japanは、地域の課題を市民がコードで解決するコミュニティ作りを支援する非営利団体です。 国内では約80グループが活動しています。

古川「Code for JapanやCode for Japanに関連するコミュニティが一番大事にしているのは、『ともに考え、ともにつくる』ことなんです」

市民がテクノロジーを活用し、課題を解決する取り組みをシビックテックと呼びますが、Code for Japanの活動はシビックテックそのものです。

古川「シビックテックやテクノロジーのコミュニティは、人の生存を脅かすようなリスクが発生した時に、とても力を発揮しますよね。コロナ禍では、Code for Japanとオープンソースコミュニティで、コロナ感染症対策サイトをつくりました。そのあと、Code for Sapporoを含むいくつかのコミュニティのメンバーで、北海道の新型コロナウイルスまとめサイトもつくりました。このときは、行政の方も一緒に入っていたので、お願いしてオープンデータにしてもらったんです」

こういった取り組みは、テクノロジー、データ、そしてデザインの3つを合わせたシビックテック的アプローチのもとに行われています。

古川「国内外のシビックテックコミュニティとして、政治を可視化する様々な活動があります。過去には、選挙区ごとに候補者の実績が調べられるイギリスのサイト、TheyWorkForYouを参考に、衆議院選挙候補者に関するオープンデータとその検索サイトを作成しました。最近では、条例について議論ができるバルセロナ発のプラットフォーム、Decidimのローカライズに取り組んでいます。オープンガバメントが謳われる昨今、信頼性や透明性を向上させる手段として、行政にもデータドリブンなDXが必要とされているわけです。また作成したツールをオープンソースにすることは、税金の効率的な運用にも繋がります

最後にテクノロジーに関わる際の心構えとして、古川さんが最近心に刺さった言葉を教えてくださいました。

古川「鳥嶋和彦さんという少年ジャンプ編集長の言葉なのですが、『頭の中にある傑作を早く世の中に出して駄作にしなさい』と。早く駄作にしてレビューをもらった方がいいんです」

始めから完璧につくる必要はなく、レビューをもらいながらアップデートし続けていくことが大切なようです。


SAPPORO AI LAB

SAPPORO AI LABは、AIを中心に研究開発ができる集団として、札幌市が主体となって作ったバーチャルなラボです。川村先生は、AIの社会応用に力点を置いて研究をする傍ら、SAPPORO AI LABを立ち上げ、ラボ長としても活動しています。

川村「札幌を含め、北海道全体のIT産業は、日本の中で下請けの仕事を多く受注しています。多くは人月単価の仕事ですが、この先エンジニアがどんどん増えていくわけではないので、続けるにも困難が生じます。一方、この先AIを真ん中に置いたシステム開発や事業開発は必ず起きてくる。それに対応する団体として、SAPPORO AI LABが生まれました」

出発点は、川村先生の、産学官の連携によるAIの研究開発の体制をつくる提案でした。

川村「北大をはじめとしてAIを研究している大学がありますし、北大発ベンチャーでAIを中心に研究開発をする会社もあります。そして、システムをつくる会社も札幌の周りには多い。ですから、そこが連携して、AIのロジックは研究者が担い、システム化や応用はそれを得意とする会社が担い、AIを組み込んだものづくりができるというブランディングをし、東京の会社から直接仕事をもらうようなことができないか?と、行政の方々や、周りの人に話していました」

メディアからも注目を集めている活動のひとつに、AIによる俳句生成があります。

川村「『AIが日本語を理解するとは、どういうことか』をテーマに、AIに俳句を理解させたり、作らせることを目指しています。俳句ではなく、川柳をAIに作らせるオファーをNHKからもらい、夕方5時のNHKニュースでキャラクターが時事ネタの川柳を読み上げるコーナーを持っていました。最近は、このプログラミングをドイツでやりたいという連絡ももらっています」

様々な方面から関心が寄せられているSAPPORO AI LABの活動ですが、バーチャルな活動ならではの難しさもあるようです。

川村バーチャルなラボの活動なので、組織的に動くことが難しいですね。毎年いろんな講演会やセミナーを IT業界に向けてオープンにやっていますので、こういった場面で札幌の他の団体と一緒に連携してなにかできたら面白いなと思っています」


札幌のテックコミュニティが向かう先

それぞれの活動を紹介していただいたところで、活動拠点としての札幌に関する質問からディスカッションが始まりました。

さの「札幌で活動を続けるうえで、いいところも難しいところもあると思うのですが、その意味をどんなところに感じていらっしゃるのでしょうか」

西村 「札幌には、北大さん、千歳科学技術大学さん、情報大学さん、周辺だと苫小牧高専さんや室蘭工業大学さんといった、IT、エンジニアリングの学校が多いと思うんです。そこで勉強する学生たちを横に繋げたい思いもありますし、エンジニアを目指し立ち上がったときや、なにか作りたいプロダクトがあるときに助けになりたい思いもあり、札幌で活動しています」

本州で活動することもある古川さんは、その経験を通して見えた札幌の特徴を挙げます。

古川「まず札幌のいいところですが、本州の行政やコミュニティでコンサルティングするときに出くわす、話を通す順などの複雑な人間関係がないところですかね。難しいところは、土地が広いから人同士の距離が遠くて、連携が取りにくいところだと思います。オンラインがすべてだとは思いませんが、どうしたらいいのかは昔から考えているところですね」
 
地理的な問題を踏まえたうえで、川村先生は、能動的に地域外に出ることの大切さを語りました。

川村「道内だけではなくて、日本の規模で考えても地理的な問題がありますが、面白いことをしている人たちにもっと会いにいくことが大事だと思います。たとえばイスラエルはテクノロジー大国ですが、宗教を考慮すると、僕たちと同じような生活を送っている人口の規模は北海道と同じくらいです。そう考えると、札幌に住む僕らが外に対して壁を作っているだけで、本当はもっとできることがあると思うんです。その壁を崩し、札幌というコミュニティが溶けて、東京はもちろん世界と交わることを目指さないとだめなんじゃないかと考えています」

「壁を崩す」という言葉に、ゲストのみなさんが頷きます。

西村「自分たちも、札幌という区切りが壁になるのはよくないと感じているので、たとえばイベントの際は、講師を東京のエンジニアの方々にお願いして、東京の水準に合わせた学びが得られるようにしています。そして、逆に内側に目を向けると、未完Projectは札幌が拠点ですが、興味関心があれば、北海道全域、北海道以外の人が参加してもいいのではないかとも正直思います。ですので、そういった点で自分たちができることからやっていきたいです」

さの札幌にいながらでも世界と繋がって活動できる方法があると思いますし、未完プロジェクトやCode for Japanが生み出している連携が、まずは身近なところ、札幌や北海道の垣根を越えていく活動になっていますよね」

川村「いまリモートワークの形態が浸透して、札幌のITエンジニアが札幌の会社を辞めて、フルリモートで東京の会社に雇われることが多くなっています。エンジニアにとってはチャンスが広がることでもあるのですが、札幌の会社にとっては厳しい状況です。しかし一方で、日本中の会社に就職できて、住環境の面で札幌が好きだから札幌にいるという働き方ができるようになるわけです。エンジニア同士の 競争が激化して、できる人はどこでも評価されるし、もちろん逆のことも起こる世界になっていくんだなと意識しています」 

ただ単に地域の壁がなくなるだけでは、格差が広がる。だからこそ「壁を崩す」「垣根を越える」能動的な活動がより重要になってくることが伝わります。そして、競争の激化はエンジニアを雇用する側にも起こっているようです。

古川「会社側の競争も激化していて、いまはエンジニアを採用できる倍率は9倍ほどです。札幌で働くことのどんなところがいいのか、自分たちの付加価値はどこにあるのか、いつも悩んでいます。ここで気になるのが、札幌への移住支援の助成金は、1都3県の特定の地域から引っ越してくる人にしか支給されないことです。その範囲が広がれば、札幌に引っ越しやすくなり、もっと人が集まるかもしれないですよね」

移住に関連して、さのさんが福岡市の取り組みを挙げ、今後の札幌のテック・コミュニティへの思いを語りました。

さの「先日福岡に行った際に聞いた話なのですが、福岡市はエンジニアフレンドリーシティの取り組みを支援しているみたいです。この取り組みによって、東京の会社が福岡にオフィスを作ったり、福岡でリモートで働きながら東京の会社の仕事をする方がいたり、福岡にもスタートアップが生まれたりしているとのことでした。先ほど川村先生がおっしゃっていたような、いい面も悪い面もありますが、東京の会社で働く札幌の人も、札幌の会社で働く人も、札幌だからこそやれることや、やったら面白いことなど、うまく協力していける部分があったらいいのかなと思っています 」

別々に活動していた団体の方々がこうして集い、話すことで、札幌という都市を軸に据えた協働の可能性が見えてきたディスカッションでした。


ディスカッションの後は、SpatialChatの交流機能を使い、ゲストの方々も参加した交流会が行われました。会場に集まって話すのに近い形態で、オンライン開催でもたくさんのコミュニケーションが生まれました。



NoMapsでは、北海道に住むクリエイターやアクティブな人々の活動を支え、また、その間口を広げるイベントを、今後もテクノロジーやスタートアップ、メディアアーツなどを中心とした様々な領域・トピックに関連して開催します。興味を惹かれるイベントがありましたら、ぜひご参加ください。


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