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7月8日 失敗の教訓が継承されないゲーム機の世界。

Games industry.biz;Opinion:AmazonとGoogleは間違った理由でゲームに参入している

〈引用〉
 ゲーム業界には,失敗作が数多く存在する。クリエイターが期待していたオーディエンスや関心を得られなかっただけのゲームから,発売前の大げさな宣伝やまともな予約数にもかかわらず,完全に的を外して急速に消えてしまうゲームまで,毎年,大手パブリッシャやスタジオからでさえも,うまくいかないゲームが数多く発売されている。
(中略)
 言うまでもなく,Crucibleへの関心がまったくないというのは,Amazonがゲーム業界でのスタートを切るには最悪の状況である。同社は基本的にこのゲームに関してすべてを誤算しているように見える。タイトル自体がつまらないし,現在の形では派生的なものにすぎず,ローンチは失敗しており,マーケティングやゲーム面では認ゲームの知度を高めるために何をしていたのか……。
(中略)
 実際,これはAmazonだけの話ではない。なぜなら,同社がやってしまった恥ずかしい「ローンチ後におっと,いや,ローンチをやめよう」というダンスは,ここ数か月の間に起きた最初の騒動でさえないからだ。昨年末には,別の1兆ドル(あるいはほぼ)規模のテック大手もゲーム業界のプレイヤーになろうと大々的な売り込みをしていたが,完全に突っ伏す事態になってしまった。 ―GoogleのStadiaがまったく新しいプラットフォームとして大々的に宣伝されていたことを除けば,Amazonがゲームパブリッシャになろうとしていたことよりも,さらに大きな取引であり,さらに厳しい失敗であった。
(中略)
 AmazonとGoogleの失敗には,大きく分けて2つのスレッドがあると思う。そのうちの1つ,おそらく最も重要なのは,両社ともそもそもゲーム事業に参入していることの正当な根拠を持っていないということだ。両社とも主要なクラウドサービスプラットフォームを運営しており,ゲームはクラウドサービスを活用する素晴らしい方法であるため,AWSやGoogle Cloudのバックエンドに依存したゲームを作りたいと考えているのだ。
(中略)
 GoogleやAmazonはまだその段階にはない。彼らがゲームを作っているのは,ゲームがまったく異なる柱を後押しするための有用な手段になると考えているからだ。もちろん,両社のゲーム部門には情熱的な人たちがいるのだが,彼らが目指しているのは「人々に愛される素晴らしいゲームを作ること」ではなく,「他の事業部門に関連したKPIを満たすこと」である限り,彼らの才能を発揮して,実際に意味のあるゲームやサービスを作ることはできない。AmazonやGoogleが,クリエイティブなプロセスや資金調達の決定をそのような考え方から切り離す方法を見つけられない限り,彼らの数十億ドルは成功を買うことはできないだろう。

 ……ふーむ。
 AmazonもGoogleも見事にずっこけたね。いや、もういっそ鮮やかというくらい。

 「ゲーム機の失敗」はゲーム史を振り返ってみると意外とたくさんある。有名どころでは、松下3DO REALやアップルのピピンアットマーク、バンダイのプレイディア。失敗の経緯を詳しく見ていくと、おそらく今回のAmazonやGoogleの失敗と似通ったところが見つかるんじゃないか、という気がする。
 まずいって、「ゲームを作ること」自体を主眼としていない。単に「ゲームが売れているから、そのプラットフォームになれば儲かるんじゃない?」くらいの動機ではないか。プラットフォーマーになれば、サードパーティーからの上納金だけでも結構な稼ぎになる。それで深い考えもなく、スタートし、泥沼化し、撤退……というパターンのような気がする。

 ゲーム機は伝統的に、「どんなタイトルが作られるのか」「どんなゲームが制作可能になるのか」、クリエイター、ユーザー双方に明確なビジョンを見せなければいけない。そしてそのビジョンは人をワクワクさせる新しいテクノロジーの予感を感じさせなければならない。それがないと、ゲーム機としての魅力があるとは言えない。
 かつての時代は任天堂、NEC、セガの3社が競っていた。現代では任天堂、ソニー、Microsoftだ。「子供の玩具」と思ってゲーム機戦争に軽々に参加してはならない。この3社しかいないということは、「どこも作らない」のではなく、それだけ「選ばれるのが難しい」からだ。

 かつて任天堂とセガと競っていたNECは、PC-FXというハードで惜しくも撤退となった。PCエンジン時代の2D表現を進化させ、より優れたアニメーション表現が可能、複雑なスプライト処理が可能で多重スクロールもスイスイ動くゲーム機を作ったが、幕が開けてみると時代は3Dの時代に入っていた。3Dという新しい表現がやってきてみんな興奮状態という最中に2Dのシューティングゲームの画像を見せられても、それはこれまでに見た映像とたいした変わりもなく、誰も見向きしなかった。
 たった1つの時代の読み違いをして、NECはゲーム機事業から撤退した。思えば、NECという会社の曲がり角も、ここにあったような気もする。

 任天堂の凄みは、自分で技術の提唱をし、さらにお手本となるソフトも自分で作ってしまうことにある。しかもその任天堂が提示するものが、毎回どれも楽しそうに見えてしまう。任天堂の技術は低く見なされがちだが、なんでもできてしまう自己完結的な能力は、他では見られないものだ。任天堂の強みは今も昔も変わらず、自分が“業界の中心者”でいられることにある。
 ソニーはソフトを作る力はないが、どのハードも未来感、異世界感を感じさせるワクワク感に満ちている。ソニーのハードは出るたびに「今回はここまでできるようになったのか」と感心させられる。その衝撃は世界中のユーザーを引きつけている。間もなくPS5が登場となるが、あの限界突破な感じはなかなかない感動だ(正直なところ、最初に「ノーローディング」を達成させられるのは任天堂だとずっと考えていた。まさかPSが先に実現するとは!)。

 ゲーム機制作の失敗はどうして「教訓話」として継承されないんだろうな……と考えたとき、パッと思いつくのがきちんと言語化されていないことだ。きちんと言語化して、本にする。これを誰もやっていないから、失敗が教訓話として継承されない。
 「サイトとかじゃ駄目なのか?」――駄目だ。そういうのはコアなゲーム好きしか見ない(はっきり言って、オタクしか見ない)。頑張って検索して探さないと出てこないし、大抵の場合、ほしい知識がまとまりなく分散して、ひと連なり知識になっていない。本じゃないと駄目だ。
 本で出ていれば、まっとうな経営者なら必ずそれを読んで勉強するはず。本になっていなければ、「何を読んで学べばいいかわからない」という状態になる。本になっていないと駄目なのだ。
 『失敗ゲーム機列伝 3DO篇』みたいな感じで、失敗事例を一つ一つ丁寧に取り上げて、当事者のインタビューを取り、どんなふうに世に出て、ユーザーに無視され、失敗していったかの経緯をきっちりまとめ上げる。
 誰か、そういう本書かない? きちんとしたビジネス書として。そこそこ需要あると思うよ。

 AmazonとGoogleの失敗だけど、これまでと違う点が2つある。
 1つはAmazonもGoogleもめちゃくちゃにお金を持っていること。普通の会社だったら、とっくに撤退話が出ている頃だ。でもなまじ金があるから、明らかに失敗しているけど「次があるさ。金ならいくらでもある」ってなる。なにしろGAFA様だからね……。
 MicrosoftのXboxもそういうところはあった。XboxはずっとPSシリーズ(と張り合っているけど)に負け続けているし、日本での話になると「Xbox? なにそれ?」レベルの惨敗っぷりだ。なにしろハードの週販が20台前後。どうしていまだにファミ通にデータが載っているのか、不思議にさえ思う。
 でもMicrosoftは撤退しない。Microsoftも金があるからだ。失敗しても無限リロード可能。それでどうにかこうにか、「任天堂VSソニーVSMicrosoft」の構図の中に捻り込んできた、という感じだ。

 もう一つは、ゲーム機というモノを持っていないこと。ゲーム機というモノを作っていたら、Googleといえど今頃は大赤字で撤退……みたいな話は出ていたかも知れない。でもハード自体が出ていないから、そこまでの大損害になっていない(多分)。

 GoogleのStadiaはまず初めに約束したものを守れていない。どんな環境でも高画質でストレスのないゲームを提供すること。それにYouTube連動だ。どちらも今もって実現していない。画質は下手したら現行機よりも低く、次世代機であるPS5などとは比べようもない。料金も微妙に高く、Stadiaへ数年お金を払うと、ゲーム機1台分よりも高くなってしまう。さらにソフト数も少なく、オリジナルタイトルもほぼなし。今の状況下でStadiaに興味を持つのはよほどの好事家くらいなものだ。
 これぞ新しいハード! というワクワク感をStadiaは持っていない。現行ハードとの明確な違いが見て取れない。まず出ているソフトはみんな既存のハードで遊べるものだし。Stadiaだからこそ、Stadiaでしかできないタイトルが出ていない。あったとしてもそれが楽しそうな感じがしない。PS5とどちらが魅力的かというと、断然PS5のほうだ。
 それともう一つStadiaで引っ掛かるところは、ノンゲーマーやカジュアルゲーマーへのアピールが弱く感じるところ。Stadiaはまだゲーム機自体を持っていない人、あるいはゲーム機自体発売していない地域にこそ強味を発揮できる。でも出ているゲームはゴリゴリのゲーマー向け。普段からあまりゲームをやっていない人に向けて、「クリアまでに50時間!」「難易度は超高い!」というゲームなんかおすすめしてもやってもらえるかって話で。あと大抵のゲーマーはすでにPSかXboxかSwitchのいずれかを持ってるでしょう。そういう人たちに向けてアピールしてどうすんの。
 間もなくPS5発売だけど、PS5は確実に売れる。でもSwitchと同じようには売れないでしょう。なぜなら遊び方が違えば設置位置も違う。完全なる別腹。でもStadiaは別腹じゃない。遊び方もゲーム内容も被ってる。だから存在意義があまりない。
 それでもGoogleはお金を持っていることが強みだ。今はどう考えても失敗しているが、お金の力で維持し、持ち直していくかも知れない。結果的に最初約束していたものを実現し、YouTube連動も本当に実現したら、風向きは変わるかも知れない。撤退が必要ないくらいお金を持っているから、その可能性だけはある。私はちょっとそこに期待はしている。

 と、そういうわけでやっぱり本が必要だよ。誰か『失敗ゲーム機列伝』書かないかな。しくじり話は成功した話よりも、よっぽど意義あるものになるとは思うよ。

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