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『ブレードランナー』/機械仕掛けの神話

あらすじ

 植民惑星から4体の人造人間=レプリカントが脱走……地球に潜入した。彼らの捕獲を依頼された“ブレードランナー”デッカードは、彼らを追うが……。

感想(ネタバレ)……人間よりも人間らしい敵

 僕はこの作品が好きだ。背後に横たわる豊かな世界観、主人公やレイチェルの葛藤、語れるものは沢山ありそうだ。しかし、僕をときめかせるのは敵役の存在だ。人造人間=レプリカントのボス、ロイ・バッティ……冷酷な殺人マシーンとされる彼だが、僕にとって主人公デッカード以上に人間味あふれる人物に思えてならない。

バッティ「天使も焼け落ちた 雷鳴轟く岸辺 燃え盛る地獄の火」                         原文 "Fiery the angels fell; deep thunder rolled around their shores; burning with the fires of Orc"

 序盤に出てくるバッティは整った顔に薄ら笑いを浮かべ人を殺す男だ。一方で、尋問中にウィリアムブレイクの作品の一節を改変して引用する教養の高さを見せる。しかし、バッティは逃避行の最中、自らが生きる意味について思いをはせ、人間らしい感情を持ち変化していく。

 作品終盤、バッティは自らの創造主であるタイレルを手にかける。この時の彼は、フランケンシュタイン(原作の方)などを思わせる。怒りと苦悩と悲しみがない混ぜになった、父への複雑な想いに満ちている。そこには冷酷な殺人鬼の顔など一切含まれていない。目を覆いたくなるようなシーンにも関わらず、彼の顔から目が離せない。

 バッティの人間性は、彼の今際の際で光り輝く。主人公デッカードをあと一歩まで追い詰めたバッティは、急速に迫りくる自らの死を予感する。

バッティ「俺はおまえら人間が信じられないだろう物を見てきた。オリオン座の近くで燃えた宇宙船。タンホイザーゲートの近くの闇に光る閃光。それらすべての瞬間が時の中に消えていく。雨に打たれた涙のように。死の時が来た」   原文 “I've seen things you people wouldn't believe. Attack ships on fire off the shoulder of Orion. I watched C-beams glitter in the dark near the Tannhauser gate. All those moments will be lost in time... like tears in rain... Time to die.”

 映画史上最も美しい台詞の一つだ、と思っている。今まで彼は詩を引用する教養を誇っていたが、自ら詩を作り出すことはなかった。命の最後の輝きと共に、彼はただの人間を超えて詩人になった。定められた寿命しか持たず、次世代を残すこともできない存在が、最後に詩を作り出した。その事実と発せられた言葉の美しさが僕は好きだ。

 『ブレードランナー2049』まだ怖くて見ていないんですが、見るべきですかね。なんて起きつつ、名作の続編は怖い。そのうち勇気を出そうと思う。


 



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