出会いの日 #05

#04のつづき

おばちゃんによる見事なレスキューにより、
ようやく赤ちゃん猫の姿が露わになったのだが…

おばちゃん、妻、私の3人はその姿に驚愕した。

全身がベタベタな何かに覆われていたのだ。(前回記事の写真参照)

後に動物病院へ連れて行き判明するのだが、
得体の知れない物体は鼠捕りに使われる粘着剤だった。

それは我が家に設置していないから、
察するに色々な家を徘徊している間にくっついてしまったのか、はたまた……
答えは誰もわからない。

おばちゃんが、
「市役所に連れて行けば保護してくれるよ」
と言った。

しかし、実は私たち夫婦は既に家族として迎え入れることに決めていた。
話し合った記憶はないのだが、お互いの考えは同じだった。

私たちはおばちゃんに、我が家で飼うという意志を伝えた。

このとき、私たちとこの子は家族となった。




粘着剤は全身の毛に絡まり、タオルで拭く程度では全く取れる様子がない。

いずれにしても健康状態も気になるため、
我々はすぐに動物病院へ連れて行くことにした。

「どこの動物病院が良いんだろう?」

と本来ならここで迷うところなのだろうが、
幸い私たちの近所には犬や猫を飼っている家が多かった。

この騒動を聞いて集結していた先輩たちから、
「あの先生が親切」「あっちの先生はぶっきらぼうだ」などどいう情報をもらい、
私たちはとある動物病院を訪れた。

「こんな状態の子を連れて行ったら、さぞ驚くだろうな…」
と思いながら病院の扉をノックした。

この子を診察台に乗せると、
先生は私の予想を裏切り全く驚く素振りもなく、
「あー、とりもちだね、こりゃ。根気いるよー」
と、淡々と診察を開始。

この子も暴れたり泣き叫んだりすることなく、一番落ち着かなかったのは私たち夫婦だったかもしれない。

幸いなことに、ケガ・病気・ノミなどは見当たらず、健康状態は良好だった。
ほっとした気持ちで我が家へ連れて帰る。

さぁ、ここからが大変だ…

「猫を飼うには何が必要なんだっけ??」

ネットを見ながらリサーチ開始。
ご飯、おやつ、ゲージ、トイレ、歯ブラシ、おもちゃ、除菌シート、、、結構ある。
しかし、近所にあるビバホームは全てのニーズを満たしてくれた。
(結局あれがない、これがないと、何度か往復したが)

だが、何より大変だったのは粘着剤。
動物病院でもらった粘着剤を溶かすシャンプーを使いながら、丁寧に、丁寧に。
我が家に来てくれてありがとう、という想いを込めて。



だが、私たちの愛情たっぷりのシャンプーは、
この子にとっては苦痛だったようだ。

床下から聞こえていたあの鳴き声が風呂場に響く。
(結局粘着剤が完全に取れるまでは約2週間かかった)



そして、名前が決まった。
種類はキジトラ、そしてフーテンの寅さんのようにふらっとやってきたこの子。

命名 寅次郎

3人の新しい生活が始まった。

つづく