見出し画像

【翻訳実例集】マーケティング翻訳ならここまでやる!

こんにちは、翻訳者・レビューアの小島です。以前の記事で「マーケティング翻訳」の概要についてお話ししました。ですが、大枠がわかったところで、「実際どういう工夫をしたらいいの?!」と困ってしまう方もいるかもしれません。

そこで今回の記事では、実際にいくつか例文を挙げて考えてみます。それぞれの例文について、技術翻訳寄りの訳例とマーケティング翻訳向けの訳例を記載するので、比較してみてください。少しでもヒントになれば幸いです!

例文1:ウェブサイトのコピー

さっそく見ていきましょう。以下の例文は、新製品のスマートフォンを紹介するウェブサイトの文言です。

This smartphone appeals to users who are looking for new, differentiated premium experiences.

【技術翻訳寄りの訳例】
このスマートフォンは、新しい差別化されたプレミアムエクスペリエンスを求めているユーザーにとって魅力的です。

【マーケティング翻訳向けの訳例】
このスマートフォンは、他にはないプレミアムな新体験を求めているユーザーにぴったりです。

いかがでしょうか。【技術翻訳寄りの訳例】も間違いとは言えません。ですが、この文は一般消費者向けのコピーなので、消費者が読んで魅力を感じられるような表現にする必要があります。この視点で考えると、【技術翻訳寄りの訳例】では、以下の点が気になります。

◆ "differentiated"を「差別化された」と訳すのは間違いではないが、一人の消費者として読むと意味がわかりにくく、魅力も感じない。

◆「エクスペリエンス」はマーケターには馴染みのある言葉だが、一般消費者がその言葉から具体的なイメージを持てるかは微妙。

◆ “appeal to”の訳として、「にとって魅力的である」は訴求力に欠ける。

これらの点を工夫したのが、【マーケティング翻訳向けの訳例】です。一見してチャーミングで、わかりやすいコピーになっています。

例文2:営業用スライドの見出し

次は少し趣向を変えて、見出しの例を考えてみましょう。以下の例文は、生産性向上ツール「SolutionXX」(仮名)の紹介スライドの見出しです。

Exclusive features and other benefits make SolutionXX an attractive choice.

【技術翻訳寄りの訳例】
独自の機能とその他のメリットにより、SolutionXXは魅力的な選択肢となります。

【マーケティング翻訳向けの訳例】
独自の機能とさまざまなメリットで選ばれるSolutionXX

ここで気をつけたいのは、この文が見出しだということです。見出しにはシンプルでキャッチーな表現が好まれます。【技術翻訳寄りの訳例】は説明調で、インパクトに欠けます。以下のポイントに注意すると、【マーケティング翻訳向けの訳例】になります。

◆ 文形式よりも、体言止めで言い切った方がインパクトが強い。

◆ “other”を素直に「その他の」と訳すと、直訳調で堅い印象になる。他にも多様なメリットがあることが文脈からわかるようであれば、「さまざまな」などとした方が魅力的かつ自然になる。

◆ “… make SolutionXX an attractive choice”(…によってSolutionXXが魅力的な選択肢になる)とはどういうことかを考え、より読みやすくまとめる。→「…で選ばれるSolutionXX」

例文3:ブログのリード文

最後は、コラボレーションツール「CToolXX」(仮名)を提供する企業の、宣伝ブログのリード文です。

Our company has brought to market many innovations that will transform the way your employees work and create a more inclusive workplace. We are so thrilled to announce the addition of CToolXX to our collaboration suite!

【技術翻訳寄りの訳例】
当社は、従業員の働き方を変革し、よりインクルーシブな職場を作る多くのイノベーションを市場にもたらしてきました。CToolXXが当社のコラボレーションスイートに追加されたことを発表できて、とても興奮しています。

【マーケティング翻訳向けの訳例】
当社が市場に送り出している多くの新技術は、これまでにない働き方や、インクルーシブな職場環境の実現に貢献しています。このたび、当社のコラボレーションスイートにCToolXXが新たに仲間入りしました。

【技術翻訳寄りの訳例】は、少し意味が取りにくいと感じるのではないでしょうか。また、「興奮」という表現がやや浮いて見えます。リード文の段階でひっかかりを感じるようだと肝心のブログ記事を読んでもらえないので、日本の読者が違和感なく、すっと読めるような表現にする必要があります。この例文のポイントは次のとおりです。

◆【技術翻訳寄りの訳例】では、「イノベーション」にかかる修飾部分が長すぎてわかりにくい。また、「当社は、従業員の働き方を変革し…」だと、「当社の従業員の働き方」を変革しているようにも読めてしまう。

◆ 比較級の意味で使われる「より~」は硬いイメージや翻訳調の印象を与えるので、削っても原文のメッセージを損なわなければ削る。

◆ “We are so thrilled to~”を素直に訳すと違和感を与える(「~できて、とても興奮しています」という表現は、日本語で一から書き起こす場合にはあまり使わない)。「このたび~しました」のようにすれば、この表現自体が”announce”(発表)になるうえ、勢いのある言い回しで”so thrilled”のニュアンスも出る。

まとめ

いかがでしたでしょうか。技術翻訳寄りの訳例は、語やフレーズのレベルで原文とほぼ一対一対応になっているのに比べて、マーケティング翻訳向けの訳例は、文全体の意味や意図をとらえ、日本語としてわかりやすく魅力的に表現しているという違いがおわかりいただけたのではないかと思います。

ぜひ今後の翻訳に生かしてみてください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?