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誰の役にも立たない外部院進攻略術

⚠ ネタ記事です

私は昨年の夏に情報系修士課程の大学院入試を経験した。外部院進に至る経緯や、試験当日の様子は別の記事に記したが、この記事では院試に役に立った個人的経験を記そうと思う。

「院試ノウハウ」と銘打って一般化するようなことはせず、私が思ったこと、考えたことを書いていこうと思う。大学院入試は大学ごとに実施内容や合否基準が大きく異なり、その対策もまた千差万別だ。故に数回の大学院入試を経験しただけの私が下手に院試ノウハウの一般化を試みても意味がないと思うのだ。

ざっくりいうと

- GPAを上げまくる
- 早めに研究室に入る
- 飛び入学入試を受けて経験を積む
- 勝ち癖をつける
- PodcastやYouTubeで効率よく周辺知識を蓄える

0. (前座) 大学院入試の概況

まず大学院入試というものを俯瞰してみる。なお、ここで述べる大学院入試とは修士課程(博士前期課程)のことであり、博士後期課程については扱わない(ボク修士学生だからドクターのことなんてわかんないしー)。

学部入試と院試

しばしば大学院入試は、学部入試と比較して難易度が低いと言われる。事実として、1990年以降進められてきた大学院重点化によって多くの国立大学の大学院の募集定員が増加し、日本全体の修士課程への入学者数は増加傾向にある。

入試倍率については、私が受験した筑波大学大学院情報学学位プログラムの入試倍率が2倍前後(※1)であるのに対して、この大学院専攻直属の学部である情報メディア創成学類の倍率は3.6倍、知識情報・図書館学類の倍率は3.0倍である(※2)。このように、数字を眺めると院試は学部入試よりも簡単なように思える。

※1 情報学学位プログラムwebサイトで公表されている入試状況データをもとに2021年度入試の倍率を計算すると、一般入試は約2倍、推薦入試は約1.3倍である
※2 代々木ゼミナールwebサイト 入試情報 参照

院試は簡単なのか

では、院試は学部入試よりも簡単なのだろうか。これについては一概には分からない。なぜなら、院試と学部入試では求められる能力が異なるからだ。

学部入試はとりあえず願書を提出すれば受験できるが(より厳密にはセンター足切りということもあり得るが)、多くの大学院は願書を出すだけでは入試を受験できない。出願時には研究計画書の提出を求められるのが一般的だし、大学によっては指導希望教員の事前の内諾が必要な場合もある。そして入試当日は面接を行い、研究内容をプレゼンしたり、面接官と議論を交わす必要がある。このように、学部入試が暗記ベースの筆記試験であるのに対して、大学院入試ではその分野の基礎知識に加えて、研究計画能力やコミュニケーション・プレゼンテーション能力が求められるのだ。

そのような観点から、本番一発勝負の学部入試と、長期的な計画やプレゼン能力が求められる院試では性質が異なり、どちらが難しくてどちらが簡単とは言えない。やや雑な例えだが、学部入試が期末試験に似ているのに対して、院試は就活に似ていると思う。単なる学力だけではなく社会性や問題解決能力が求められる上、志願者の専門分野とのマッチングが重視されるという院試の特徴は、就活と同様ではないかと思う。

院試で記念受験ってないよね

学部入試では記念受験という概念があったり、そこまで酷くなくとも合格すればラッキーくらいの感覚で難関大に突撃することがある。就活においてもとりあえず大企業を受けておいて、次に中小企業といった戦略を取る。しかし、大学院入試は基本的に自分の専門分野と指導希望教員とのマッチングなので、無謀で実力不相応な受験をすることは少ない。

就職という進路を選ばず、大学院進学という道を選んだような志願者たちは皆、基礎的な研究能力やプレゼン能力を有しているはずだ。このような背景から、大学院入試の志願者は受験前からある程度フィルタリングされ、その大学院に能力相応の者たちが集まっているのではないかと思う。

そういった意味でも大学院入試は、倍率の数字以上の難しさがあるのではないかと考えている。しかしそうは言っても先述の通り大学院の募集定員は増えているので、過度に恐れる必要もない。巷にあふれる学歴ロンダは簡単だとかいうウワサを信じて舐めているとエライ目に遭うということをお伝えしたかっただけだ。

つらつらと

このように、院試というのは結構特殊なもので、この問題集を解けば受かるとかいうものではない。院試に正攻法は無く、各個人がうまい方法を模索するしかないのだ。それ故に、冒頭の述べたとおり、この記事では「院試対策にはこれがオススメ!」などと一般化したノウハウは記さず、院試に役に立った経験をつらつらと書き連ねようと思う。読者の皆さんはここに書かれていることを真に受けたりせず、エッセンスを1mmくらい持ち帰って頂けたらと思う。

1. GPAを上げまくる

ガリ勉野郎爆誕

まず、当然なことだが学部の成績は高ければ高いほど良い。特に外部院進の場合、大学院の指導希望教員とコンタクトをとる際に「学部成績1位です」と告げると、非常にスムーズにその後の話が進む。1位というのは極端だが、基礎学力を証明する手段として学業成績に勝るものはないだろう。また、GPAが高いと大学院によっては、外国語試験や筆記試験が免除となることもあり、試験を有利に進められる。

私はロクに勉強しなかった高校時代の反動で大学ではガリ勉と化していたので、最高成績は席次学科1位 - GPA: 3.7、出願時はGPA: 3.6くらいだった。私は大学入試で大ゴケした経験から地頭が良くないという自覚があり、馬鹿でも良い成績をとる方法として、勉強時間を沢山確保するという大馬鹿なソリューションを思いついて実践していた。学部1年の頃は、ほぼ毎日図書館閉館時刻の22時まで自習している寂しい人だった。このような私の例は参考にすべきではないが、本気で院進を考えているなら自分の時間をどこまで学業に割けるかを考える必要はあるだろう。

資金管理

ガリ勉野郎と化した大学時代だったので、単発ではないシフトの決まったバイトをする時間は、学部4年間を通して確保できなかった。しかし、成績が良いお陰で返済不要の民間奨学金を頂くことができ、一般的な学生のバイト代くらいの収入は得られた。バイトの代わりに勉強をすれば、結果としてお金が入ってくるなんて世の中良くできているなあと感じた。

とはいえ民間奨学金 + バイト代くらいの収入があると学費や生活費の工面が楽だったので、就学支援新制度(文科省が手動する給費奨学金+学費免除制度)や、日本学生支援機構の貸与奨学金を利用してどうにかした。貸与奨学金に関しては、借金であるため利用したくないと考える人も多いが、バイトに時間を割く代わりにお金を借りて勉強時間を確保し、その結果大学院進学という目標を達成できるのだとしたら、取り得る選択肢の一つとしてアリではないかと思う。こういった、時間とお金のトレードオフを勘案した上での資金管理能力も大学院入試には必要なことだと思う。

鶏口牛後

ところで、GPAは所属する大学内での成績なので、成績優秀者が集まる難関大よりも、そうではない大学に通っている人の方が有利になる。このことはある先生が「この大学のGPA3.7と東大のGPA3.7は、大学院に出願する際には同じ重みを持つ」と表現していた。なんだか不公平な気もするが、ボクのような私立中堅校(最近は中堅校であるかも怪しいが、一応お世話になった大学を立てて中堅校ということにしておく。実はnote運営のの深津さんの母校だったりする。)に通う者にとっては、お得なシステムだ。これでは難関大に通う者が不利である印象も受けるが、そもそも難関大の学部生は内部進学によって自らの通う大学の大学院課程に進学すれば良いので、案外合理的なシステムなのかもしれない。

2. 早い時期から研究室に参加

早期に研究スキルを身につける

私は学部2年から研究室に通っていた。大学の制度的には研究室配属は3年になってからだが、研究室の先生にお願いして2年時からゼミに参加させてもらったのだ。これは院試を見越しての事ではなく、単なる知的好奇心からの行動だったが、結果として院試にも役に立った。

普通より1年早く研究をスタートしているので、学部3年末には卒論ができあがっており(実際には完成手前だったが)、4年になり外部大学院の研究室訪問する際に卒論を見せることができた。また、後述の飛び入学試験においても学部3年中に卒論が書き上がるということは、4年をスキップして飛び入学する正当性をアピールする材料となった。

また、2年時からゼミに参加すると、研究計画書作成や文献サーベイなどの基本的な研究スキルが早期に身につくので、院試に向けた計画書作成が行いやすいという副次的なメリットもあった。

3. 外部大学院に行きたそうな雰囲気を出す

ありがたい引き止め

外部院進の阻害要因は、大学内にも存在する。私が通う大学(学部)の大学院担当の先生が、私に対して個人的に大学院への内部進学を勧めてくれていた。大学院担当の先生は、人柄が良く、話もうまく、そのセールストークを聞いていると外部院進をやめて内部進学しようかという気が起きてくる。外部大学院に進むより、内部進学の方が奨学金が出やすいとか、ウチのような小規模な大学の方が教員との距離が近いし学内表彰されやすいとか、内部進学した方が今の研究室のボスが喜ぶはずだとか、君はこの大学でドクターまで取る運命にあるだとか、いろいろと上手いお話を頂いた。

先生直々に内部進学を勧めてくれるのは本当に有り難い話なのだが、有り難い話であるからこそ、鋼の意志がないと断ることができない。せっかく自分の能力を買ってくれているのに、それを断るというのは精神的コストがかかるものだ。

私はあらかじめ指導教授や、大学の就職課の職員などに、外部大学院へ行きたいと伝えていた。そのおかげで、私が大学院担当の先生のセールストークに乗って、この大学の大学院へ内部進学しようとした際には、皆が引き止めてくれた。(それでもやっぱり良くしてくれた研究科長の先生を振り切って外部院進してしまったのは申し訳なかったという気持ちもある。)

なお人によっては大学院担当教員ではなく、研究室のボスが外部院進を引き止めてくるケースがあるかもしれない。そういう時は逆に大学院担当教員や他研究室の先生など研究室外の大人を頼る必要があるだろう。

4.  飛び入学試験を受ける

この記事は全体を通してあまり役に立つ情報を提供していないのだが、唯一目からウロコなTipsがあるとしたらこの項目だ。

試験慣れするための究極手段

私は試験慣れするために学部3年時に飛び入学制度を用いて院試を経験している。ここで言う飛び入学とは、学部3年から修士1年に進学できるシステムのことだ。日本の多くの大学院がこの制度を設けている。飛び入学で入学するためには、本試験の前に、学部の成績などによる予備審査が行われるのが一般的で、大学によって基準はまちまちだが、難関校でもA評価が取得単位の 80%ほどあれば通過できる。

なぜ飛び入学試験を受けるかというと、試験慣れするためである。もちろん、飛び入学試験で合格し、学部4年をスキップできればそれに越したことはないが、やはり学部3年の段階で学部4年と一緒に試験を受けて合格を勝ち取るというのは高難易度だろう。なので、飛び入学での試験結果はどうでもよく、来る学部4年時の院試本番に向けた練習として飛び入学試験を利用するのだ。

たった3万円で本物の教授に質問してもらえる

受験料約3万円で、本物の試験問題を解かせてもらい、本物の大学教授に面接試験をしていただけるのだから、どんな試験対策よりもコスパが良い。第一志望としている大学院の飛び入学試験を受けるのがベターだが、予備審査を通過できなければ他の大学でも良いと思う。試験に向けて研究計画を作成するプロセスや、試験当日の緊張感、面接での質問内容などは、他大学であっても得るものは多いだろう。

私自身は慶應義塾大学大学院を飛び入学で受験したが、テレビで見たことがある有名教授が面接官で驚いた。面接中の質問に対しては特に問題なく無難にやりすごせたので、もしや合格したのではと思ったが残念ながら不合格であった。しかしながら、そもそも学部3年であったので精神的ショックは少ないし(とはいえ数週間病む程度にショックではあった)、慶應院の面接試験まで進めたことはむしろ自信に繋がった。翌年の志望校の院試本番の面接対策では、慶應の面接官から質問された内容が非常に参考になった。プロの研究者である面接官が、私の研究のどこに興味を持ち、どこに疑問を感じたのかを知ることができたので、自分の理論や論拠を補強するのに大変役に立ったのだ。

5. Podcastで情報収集

楽しく・スキマ時間を活用に

私は自分の研究分野に関連するPodcast番組で大学院の面接で役立ちそうな知識を収集した。普通、研究分野の情報収集となると、学会や論文誌が一般的だろうが、Podcastは場所を選ばずどこでも聞くことができる上に、論文を読むより圧倒的に楽しく、心理的負荷が少なく情報収集できる。通学時間や寝る前、勉強しようと机に向かったけどどうも集中できない時などにPodcastを聞くようにした。

音声情報は視覚情報以上?

院試面接での質疑応答で答えにくい質問をされた際に、とっさにPodcastで聞いたうまい説明の例えを引用して切り抜けた、という事が実際にあった。どうやら私は認知能力的に文字を読むより音で聞いた情報のほうが定着しやすいようで、論文で読んだ内容よりPodcastで聞いた内容が先に頭に浮かんだのだった。歌の歌詞を眺めてもそれを暗記することは難しいが、実際に歌を聞けば歌詞を覚えることは容易いのと同じような現象ではないかと思う。もしあなたが音声の方が記憶しやすいタイプだったらPodcast作戦を試してみて欲しい。

2021年現在、情報系に関しては「テック系Podcast」と呼ばれるジャンルの番組がかなり役に立つ。それ以外の分野についても軽く検索してみたところ、医学論文をまとめた番組や生物系の研究者が配信する番組、宇宙物理学の博士号保持者が配信する番組などが確認できた。

とはいえ、Podcastだけでは専門性が低かったり、根拠が薄かったり、情報に偏りがある場合もあるので、番組中に気になるキーワードがあったら後に自分で調べ直すことは必要だろう。

6. 学会喋りをマスターする

学会標準の話し方で

専門職大学院などを除いて、ほとんどの大学院では面接で研究計画のプレゼンが求められる。プレゼンってどうやればいいんだろうと、Googleでプレゼンの仕方を調べると検索結果の多くがビジネス向けのプレゼン手法で埋められるが、院試で求められるプレゼンはそれではない。院試では、学会発表でのプレゼンに近いスタイルが求められるのだ。

学部時代から学会発表に慣れている方なら問題ないが、私はそうではなかったので、YouTubeで様々な人の学会発表を見て、そのスタイルを学んだ。学会プレゼンでの論理の展開方法等はここでは省略するが(これに関しては自身の指導教員や、本等を参考にした方が安全だ)、私は学会特有の喋り方に注目した。カンファレンスにもよるだろうが、学会発表では独特の言い回しが用いられる。私はこれを「学会喋り」と呼んでいる。

学会喋りとは以下の例のような、ちょっと回りくどく、独特の用語を含む喋り方のことだ。

■「それでは、〜〜という研究題目で、わたくし〜〜大学の〜〜が発表させていただきます」
■ 「以上の手法を用いまして検討を重ねた結果、〜〜という点が今回明らかになりました」
■(質問に対して)「なるほど、それは〜〜という点についてのご指摘でしょうか?それでしたらまず、〜〜という議論がございまして〜〜」
■(質問に対して)「わたくしの至らぬ点を的確にご指摘頂きありがとうございます。その点につきましては、XX年に〜〜が〜〜という論文の中で理論化した概念でして〜〜〜」

別に、面接試験でこの喋り方を実践する必要性はない。しかし、学会喋りをした方が学会慣れしているという印象を与えることができるし、普段から学会に参加している面接官の先生方には学会喋りの方がより自然に内容を理解してもらえると私は考え、面接当日は学会喋りでプレゼンを行った。

7. 物申す系YouTuberを見る

かなり邪道な方法だが...

私は圧迫面接の類が苦手で、どうにかして克服しようとした。そのために利用したのがYouTubeだ。YouTubeには「物申す系YouTuber」というジャンルがあり、その系統の動画を暇な時に見ていた。このジャンルのYouTuber全てが良いものとは思わないが、彼ら彼女らは、例え常識から外れた持論でも自分なりのロジックで意見を正当化してしまうというテクニックに長けており、そういった点を学ばせてもらった。

面接試験においては、自分の知識を超えた質問がされた場合に、持ち得る知識を総動員して自分なりの見解を導き出す必要がある。そういった際に、物申す系YouTuberから培った極端な自己正当化能力が役に立った。

8. 勝ち癖を付ける

メンタル系が嫌いならこの項目はスキップ

メンタル寄りの話だが、自信の形成というのも大切だと思う。私は大学(学部)入試で失敗したことを引きずっていて、院試も同様に失敗するのではないかという妄想に取り憑かれていた。

景気づけにいくつかの資格試験を受験し、合格することで、後ろ向きマインドの改善を図った。意識高いふうに言えば小さな成功体験を作るということになるが、予備校時代の先生は「勝ち癖」を付けると表現していて、その方が胡散臭さが脱臭された私好みの表現だ。皆さん薄々お気づきだと思うが、自己啓発本や自己啓発YouTube動画を見たって中途半端な自尊心が形成される以外に効果はない。具体的な実践を通して作られた自信だけが本質的であると私は思う。

具体的な資格試験についてだが、文系ならFP3級、理系ならG検定あたりが手頃な難易度でおすすめだ。

9. 怪しい院試対策講座にご用心

院試で頼るべきは先生です

大学院入試対策に関しては、どの学校についても情報が少なく、そこにつけ込んで高額の院試対策講座・情報商材を売りさばいている業者が存在する。この手の商材は大抵何ら訳にも立たないというのが太古の昔からのお約束なので注意しよう。

頼るべきは、学部の指導教員と、進学先の指導(予定)教員だ。大学院に提出する研究計画書の添削や面接練習は、怪しい院試講座ではなく、先生方にお願いするのが鉄則だろう。少なくとも私の周囲に怪しい院試講座を利用した者は一人もいない。世の中には院試対策予備校というものもあるらしく、これに関しては一定の実績があるようだが、やはり周囲に利用した者はいない。

・・・

以上!

冒頭で宣言したとおりとりとめもなく、自身の経験を列挙してしまったが、この記事で伝えたかったのは、院試対策に王道無しということだ。院試のためにPodcastやYouTubeを参考にしたり、飛び入学試験を受けたり、喋り方を工夫するなんて例は多くないだろうし、この方法を万人に勧められる訳でもない。

院試に正攻法はないので、もがき苦しみながら自分なりの方法を考える姿勢が大切だという事が皆さんに伝われば幸いだ。

※ アイキャッチ画像は、研究計画書作成中に迷走極まってヨクワカランメモを書いていたときの写真。



わゎ