椿 三十郎(黒澤明)
家人が撮りためてたDVDやらBlu-rayやらを整理するってガチャガチャやってたら、ワシが録画しててすっかり忘れてたのも出てきた。で、それには「七人の侍」「用心棒」と一緒に「椿三十郎」とワシのコキタナイ筆跡で書いてあったわけで、どうせTVもつまんないしで見てみることにしたわけです。
あらためてみるとやっぱ面白いですわ。ワシの発掘されたDVDにあった3本見とけば、黒澤映画を見たって威張れるぞ。もう一本スターウォーズのエピソード4の元ネタになったと言われる「隠し砦の三悪人」を見とけば完璧だ(しらんけど)
で、前に見たときには気にしてなかったけど、若侍たちと奥方&姫君って敵の本拠の隣に潜んでたんよね。まあ襲撃の合図が隣の屋敷から流れてくる小川に椿を流すって趣向だから、隣じゃないとダメなわけだけど、それよりも劇中で三船敏郎が言ってたように「灯台下暗し」っていう設定が素晴らしいアイディアだと見直してそう思いますたね。
それから「用心棒」でもあった味方のフリして相手を撹乱させるっていうやり口もいい。普段ダラダラしている三十郎がこのときばかりは気合はいりまくりでめっちゃ強いし。
で、この作品のもう一つ魅力は、粗雑で老獪な三十郎と血気盛んだが世間知らずの若侍たち、そして超絶お嬢様で物腰柔らかくその言動に全くの悪意がない(まるでみんごだ)奥方の対比(三十郎も口では悪態をついているが、奥方にはさりげなく敬意を払っているのがわかる)だろうし、徐々に若侍を応援し始める奥方の一言で殺されず屋敷に連れ帰られた敵方の侍の飄々とした風情、そして室戸半兵衛の悪役としての強烈な個性や悪役陣の姑息な悪さ加減などといったバラエティに富んだキャラクタ設定であり、それに加えて背景として映画全体に散りばめられたユーモア描写でしょうね。ラストにやっと登場する実は思慮深く切れ者だけど、マヌケな馬面のために(って自分で言ってるし、出だしからそんなことを匂わせるセリフが出てくる)全くの無能と思われていた城代家老もいい味だしてるのもよい印象でした。
で、ワルモンをやっつけ風来坊の三十郎が誰にも告げずまたどこかに行ってしまったってとこで終わってりゃ爽やかでちょっとユーモアがある痛快時代劇で終わってたのが、ラストは有名な仲代達矢演じる、こちらもまたその立ち振舞の厳しさから抜身の刀と称される剣豪 室戸半兵衛との実に重苦しい対決シーンになる。ちょっと映写機が壊れたかなって思えるくらいの長い間の沈黙&静止のあと、一撃で勝負が決まってしまう迫力もすごいけど、その後の三十郎が拳を握りしめて肩で息をしているところにどちらかが必ず死ぬことを予感している剣豪二人の魂を削った対決っていう感じがすごくして、世間でよく言及される血がドバドバでる迫力シーンよりも、対決直前の猫のケンカみたいに直ぐ目の前で対峙し、懐からゆっくりと手を出し間を読み合うといったシーンと並んで心理戦を繰り広げてる緊張感のほうがドキドキしましたね。ラストシーンは映画全体のトーンと違うけど、これがあったから名作たり得たのかもしれんし。
ラストシーンといえば例の奥方が物語の途中で「あなたは切れ味鋭いけれど、鞘がない抜き身の刀のようなお方。でもよい刀というものは鞘に入っているものよ」って(全くの悪気なく)三十郎の本質を看破するってのがあって、三十郎もそれは自覚していて、最後に対決する室戸半兵衛にもそれを感じてたらしいことや、それまでの二人の関係性もあり、ラストの二人の対決からただ単に虚仮にされたから決着をつけるっていうようなメンツ云々じゃない別の意味が立ち上がって来る気がしてよいラストだなって思いますた。
てなことで、やっぱ黒澤映画はオモロイわ。
とりあえず「用心棒」「椿三十郎」「七人の侍」の3本見とけば、最初に書いた通り黒澤時代劇映画を制覇したと言っても過言ではないよ(ちょっと過言だけど、間違いではない)
そういやこの映画の完全リメイクである森田芳光版もあるけれど、あれは同じ台本を使ってカットも全く(ほぼかな?)同じだから、こっちを見ときゃ特に観なくてもオーケーです。(ワシは森田芳光映画も好きだから観たけど、はーんって感じだすた)
ってことで、また書きますね。