イギリスの国語(英語)のナショナル・カリキュラム (学習指導要領)

イギリスの英語教育の基礎となっている考え方を知るには、ナショナル・カリキュラム(学習指導要領)を読んでみると、良く分かります。ナショナル・カリキュラムは、全学年共通のPurpose of Study(学習の目的)から始まり、Aims(目標)の章へと続きます。その後に各学年の学習内容の詳細へと移っていきます。

「English programmes of study: key stages 1 and 2、National curriculum in England September 2013」を見てみましょう。

まず、Purpose of Study(学習の目的)です。(筆者訳)

英語は、教育や社会において極めて重要なものと位置づけられます。質の高い英語教育を通じて、児童は自分の考えや感情を話したり書いたりして他人に伝達できるようになり、逆に読んだり聞いたりすることで、それらを他人から伝達してもらうことができるようになります。特に読むということは、文化的、感情的、知的、社会的、そして精神的に発達するきっかけになります。文学は、そうした児童の発達における、重要な役割を果たします。児童は読むことで知識を身につけて、既に知っていることの上に更に新しい知識を積み重ねて広げることができるようになります。言語に関するすべてのスキルは、社会の一員になるために必要不可欠なことなのです。それは逆に言えば、自由に自信を持って話すことや読み書きをすることを学ばない児童は、事実上、社会の一員になる権利を失っていることになるのです。

そして、こちらがAim(目標)です。(筆者訳)

英語のナショナル・カリキュラムの包括的な目的は、児童に話し言葉と書き言葉を自在に駆使する力を身につけさせることによって、高水準の言語と読み書きを促進し、色んなものを読む楽しみを通じて文学への愛情を育むことです。英語のナショナル・カリキュラムは、すべての児童が以下のことをできるようにすることを目指しています。
・容易に滞りなく英語を読み、十分な理解をする
・常日頃から幅広い内容ものを読み、楽しみながら知識を得ることを習慣づける
・語彙を増やし、読むのに必要な文法や言語的習慣を理解する
・文脈や目的、読み手に合わせた言語と形式で、正しく明確に、かつ理路整然と書く
・議論から学ぶこと。すなわち、自分たちの理解や考えを掘り下げて、解りやすく説明する
・話す技術、聞く技術、フォーマルなプレゼンテーション、他者への論証と議論への参加、に十分な能力を持つ

これを日本における国語の学習指導要領と比べてみると、違いが良く分かります。

以下は小学校学習指導要領(平成 29 年告示) 第二章 第一節 国語)における、目標の記述です。

言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
⑴ 日常生活に必要な国語について,その特質を理解し適切に使うことができるようにする。
⑵ 日常生活における人との関わりの中で伝え合う力を高め,思考力や想像力を養う。
⑶ 言葉がもつよさを認識するとともに,言語感覚を養い,国語の大切さを自覚し,国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う。

イギリスのナショナル・カリキュラムには、学習の目的として、社会の一員となること、その権利を失わないようにすること、という目的が記載されています。

イギリスにおいて英語を自在に操れるようになるということは、意思や考えを伝達し合えることです。そして、言語を通じて培われた知識や思考を議論によって磨き上げることのできる社会の一員を構成する、ということなのです。

ダイバーシティがある環境で社会を作り上げていくためには、共通言語による意思疎通が不可欠だからです。イギリスらしい記述だと思います。

ちなみに、イギリスの教育について、日本との対比で非常に良く考察された本があります。

間接的には英語教育の基本的な考え方にもつながっていると思うのですが、「いい子」の定義について書かれた、実に興味深い一冊でした。

自分が日本で受けてきた教育を客観的に考えられるという意味でも、もっと早くに出会っていたかったと思いました。

イギリスでは「自己主張」と「自己抑制」が矛盾しない。

このコンセプトは衝撃的でした。

イギリスのいい子日本のいい子―自己主張とがまんの教育学 (中公新書)

今回は、以上になります。
最後までありがとうございました。

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