※この文章は『文學界』2020年3月号に掲載されたものです。 人は毎日色々なものを触る。参考書を触り、領収書を触り、寿司を触り、ハンバーガーを触り、犬を触り、猫を触り、自分の顔を触り、自分の性器を触り、他人の肩を触り、他人の性器を触る。何も触らず生きていくのは難しいし、試さないほうがいい。しかし、触る必要のないものまで触るのはやめたほうがいいだろう。2019年12月29日18時11分頃、私は原宿駅でなぜか他人に右腕を掴まれた。暖かそうな黒のダウンを着た年上の男だ。身長は私よ