見出し画像

やっぱり遠野物語は面白い㊶

遠野文化研究センター研究員 木瀬公二

 出版された「原本遠野物語」のお披露目の意味を込めた、遠野文化フォーラム「いま甦る 原本 遠野物語」が2022年1月29日、遠野市民センターで行われた。
 最初に三浦佑之編集委員長が「『柳田國男自筆 原本 遠野物語』出版発表」と題して話をした。赤坂憲雄らが出版を思いついてから刊行された1月19日までの461日の出来事を丁寧に説明する。「初校・再校・三校・念校のやり取りは数え切れなかった」などと臨場感を交え、本の体裁なども説明する。「原本」が柳田から池上隆祐に渡ったいきさつなどにも触れ、最後に「遠野物語が読み深められ、いくつもの議論が起きることを期待している。そして、今まで以上に多くの方々が山深き遠野郷に関心を持ち、遠野へと足を運んで下さらんことを」と本書が出版された意義を伝えると同時に、読み込まれることへの期待を寄せた。

㊶文化フォーラム2

三浦佑之編集委員長による出版発表

 小田富英は、「『原本遠野物語』から新たな「謎解き物語」の世界へ」と題して講演。柳田は日記をつけており、佐々木喜善と初めて会った明治41年11月4日の欄には「その山ざとはよほど趣味のあるところなり、其話を其ままかきとめて『遠野物語』をつくる」などと書かれていたことを披露。「私は(喜善が)話を持っているのには、ともかくびっくりしましたね。ちょっと異常心理をおこしたりしましたね」などと岩手日報のインタビューに答えている内容も紹介した。「柳田の学問は謎解きの学」と位置付けた先人の話にも触れながら、柳田が苦心しながら推敲した痕跡を、本文と照らしながら解説した。そして、毛筆本を書いてから初版本が出るまで1年かかったことを取り上げ、「原本では『二、三年前』となっていた部分が、出版された本では『三、四年前』となっている。聞いた時点に1年加えたため」と説明。それは、序文に書いた「現在の物語である」という点を重視していたための直したのだと説き、その実例を11カ所に渡って紹介した。

㊶文化フォーラム3

小田富英編集委員による講演

 木瀬公二は、講演の中で2人が話していた「翻刻」という意味の説明から入った。柳田が筆で続き文字で書いた文章は何と書いたのかを正確に活字化することが「翻刻」だが、その過程で読み違いが起きる。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を例にとり、賢治の手帳にはっきりと「ヒドリ」と書かれているが、それでは意味が通じないと、出版時に「ヒデリ」に翻刻した本がいくつ出ていることを例に出し、この編集会議でも「これはどういう字か」という議論を積み重ね、ようやく「原本 遠野物語」ができたことを紹介した。民俗学者の宮本常一は「民俗学とは何か」と聞かれて「昔は今につながり、今は明日につながる。つまり日本人の今を考え、明日を考える学問だ」と答えたことを紹介した。その上で「この『原本 遠野物語』を手に取り、今を考え、明日を考えるのと同時に、それぞれの読み解き方をして、楽しんでみてください」と話して終わった。

㊶文化フォーラム4

「やっぱり遠野物語は面白い」筆者 木瀬公二による出版支援事業紹介 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?