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フードデリバリーのLegal Design~Uber Eats編~

Uber Eatsの配達員が起こした追突事故について、Uber Eats運営企業の日本法人が提訴されるというニュースがありました。この件に限らず、そもそもフードデリバリーというのはどのような契約関係のもとで成立しているのか。実はそのあり方は事業者によって異なるため、そのLegal Desginを図解してみます。

今回図解してみるのはフードデリバリー市場でシェアが圧倒的に高いUber Eatsです(2020年7月20日付MMD研究所調査)。業界2位の出前館も次回扱ってみようと思います。

追記:業界2位の出前館を始め、フードデリバリー業界の主要なプレイヤー(楽天デリバリー、dデリバリー、Wolt、menu、Chompy)のLegal Designも整理しました。よろしければ下記記事よりご高覧ください。

結論

Legal Design図解【フードデリバリー】Uber Eats編

結論から述べると、Uber Eatsは、ユーザと店舗、配達員の情報を掲載し、フードデリバリーのマッチングを行う技術プラットフォームサービスという立場に過ぎず、調理業務と配達業務そのものに関して契約関係を構成しません。あくまで調理・配達業務に関する契約が成立しているのはユーザ・店舗間とされています。もう少し詳しく見ていきましょう。

1.Uber Eatsは契約の仲介役

Uber Eatsの利用規約では、「2.本サービス」において以下のような記載があり、自らはデリバリー等のサービスを提供する当事者にはならないとしています。

本サービスは、(略)独立した第三者の提供業者(略)の配送及び/又はデリバリー等サービスを手配し、スケジュールすることを、本サービスの一部として提供されるUberのモバイルアプリケーション又はウェブサイト(略)の使用者に可能ならしめる技術プラットフォームを構成するものであります。(略)貴殿は、Uberがデリバリー等サービスを提供するものではなく、全ての当該デリバリー等サービスはUber又はその関連会社により雇用されていない独立した第三者の契約者により提供されることを了承することとします。

Uber Eatsが行うのは、
①ユーザ・店舗間の調理・配達業務委託契約をマッチング(仲介)すること
店舗・配達員間の配達委託契約をマッチング(仲介)すること
当事者間の支払いをUber Eats上で行えるようそれぞれの当事者を代理すること
です。

ユーザは、Uber Eats上で支払いを行っているため、Uber Eatsに対して代金を支払っているように感じますが、実はこれはUber Eatsが店舗を代理して代金を徴収しているという整理になっています。利用規約の「4.支払い」には以下のような規定があります。

貴殿が本サービスの使用によりサービスを受領し又は物品を取得した後に、Uberは本第三者の提供業者の限定的な支払回収代理人として当該本第三者の提供業者に代わって、貴殿による該当する本手数料の支払いを促進します。かかる方法による本手数料の支払いは、貴殿が本第三者の提供業者に直接行う支払いと同じものと判断されます。

同じく、後述する店舗と配達員の間の配達委託契約において発生する報酬支払いもUber Eats上で完結するよう、Uber Eatsは代理人としての地位があることを各契約において明らかにしています。

2.ユーザ・店舗間の関係:ここが契約関係にある

Legal Design図解【フードデリバリー】Uber Eats編

すでに述べたとおり、Uber Eats上でユーザが注文したフードデリバリーは、店舗との関係で直接契約関係を構成します。ネット上に転がっていたUber Eatsの店舗向けの規約(と思われます)では、以下のような規定があります。英語を直訳している箇所も多いため少し難解ですが、基本的には以下について定めています。
①Uber Eatsは、情報を掲載しマッチングするプラットフォームであること
②ユーザが店舗に支払う代金を代理受領すること
③レストランは、食事の調理・提供のみならず配達についてまで責任を負うこと

1.配達
(略)Uber および関連会社はいずれも、配達サービスまたは物流サービスを提供しないが、Uber は、 貴社のようなレストランに対し、配達サービスを目的として、マーケットプレイス配達パートナーと連絡を取り合い、かつ、需要予測と支払処理、および関連情報サービス、レストランの顧客に対する食事の売上に関連する情報 を受領するためのプラットフォームを提供する。
(略)
限定的支払徴収代理人としての Uber
貴社は、(i) Uber Eatsアプリが提供する支払処理機能を通じて、貴社の代理で貴社から支払を受けることを専ら目的とした、貴社の限定的支払徴収代理人としてUberを指定し、(ii) 貴社顧客が Uber (または Uberの代理人を務める Uber の関連会社) に対して行った支払を、貴社顧客が貴社に直接行った支払と同一とみなすことに同意する。
(略)
プラットフォーム プロバイダーとしての Uber
(略)
貴社は、配達パートナーが提供するサービスを通じ、食事の配達について責任を負い、常に食事の占有、管理および注意を維持する。Uberは、顧客に生じた 配達に関する損傷または紛失について責任を負わず、食事の配達に関し、貴社が提供する合理的な指図に従う。 Uberは、貴社が食事の配達に関して提供する合理的な指示を、マーケットプレイス配達パートナーが利用できる ようにする。

3.店舗・配達員の関係:配達委託契約

Legal Design図解【フードデリバリー】Uber Eats編

2.で見たとおり店舗が食事の配達まで責任を負うわけですが、自前で配達ができない店舗もあります。そこで、Uber Eatsは店舗と配達員の配達委託契約のマッチングも行っています。上記の店舗向け利用規約では、配達員は店舗の代理人であって、Uber Eatsが雇用したり、または配達を委託しているわけではないことを、様々な箇所で明確にしています。

定義
「アグリゲーター配達パートナー」とは、マーチャントの代理で配達サービスを供給する、Uberとは独立して手配されたマーチャントの従業員、請負業者、作業員または代理人を指す。
「マーケットプレイス配達パートナー」とは、Uber またはその関連会社の一社のライセンスのもと Uber Eats アプリを利用してオンデマンド配達サービスをマーチャントの代理で提供する意図を有する独立請負人を指す。マーケットプレイス配達パートナーは、Uberまたはその関連会社の従業員または作業員ではない。

加えて、ネット上に転がっていた配達員向けの規約(と思われるもの。2019年12月1日時点のものであるため最新版ではない可能性があります)によると、こちらでも以下のことが明確に定められています。
①Uber Eatsは配達業務を行うものではなく技術プラットフォームに過ぎないこと
②配達員と店舗との間で配送委託契約が直接成立していること
③したがって、配達員は店舗に対して配送料を請求することができるが、これをUber Eats上で完結させるため、Uber Eatsに対して配送料受領権限を授与すること

前文
貴殿は、Uber 及び Portier JP が技術サービス提供業者であり、Uber 及び Portier JP 並びにその各々 の関連会社がいずれも、配送サービスを提供するものでないことを確認し、その旨同意する。
2.3 貴殿とユーザー及び配送受取人との関係
貴殿は、貴殿からユーザーへの対象配送サービス の提供により貴殿とユーザーとの間に直接的な取引関係が生じることを確認し、その旨同意する。Uber 及び Portier JP はいずれも、配送に関する契約の当事者ではない。従って、Uber 及び Portier JP はいずれも、貴殿の活動又は輸送手段に関連してのユーザー又は配送受取人の作為又は不作為について法的責任その他の責任を負わない。貴殿は、貴殿の対象配送サー ビスの提供に起因して生じるユーザー、配送受取人その他の第三者に対しての義務又は責任 を単独で負担するものとする。
4.1 配送料計算及び貴殿による支払
貴殿は、Uber サービスを介して取得された対象配送サービスの案件であってユーザーに提供され完了されたものごとに、配送の手数料(これを「配送料」という。)を本件レストラン請求することができる。
(略)
貴殿は、(i)貴殿の対象配送サービスの提供に関連して Uber サービスの提供する支払処理機能を介して 貴殿の代理で配送料、該当する通行料金等並びに地域に応じて又は貴殿の求めに応じて 該当する租税及び手数料をユーザーから受領することを専らの目的として、Portier JP に対し、貴殿の配送料債権にかかる支払いの代理受領権限を付与し、また、(ii)ユーザーからPortier JP に行われる支払がユーザーから貴殿に直接行われた支払と同じものとみなさ れることに同意する。

4.その他

なお、Uber Eatsの利用規約については、準拠法や免責事項がそのまま日本法に適用されるのか非常に怪しい点もありますが、Legal Designとは異なる議論になるため、この点は別稿に譲ろうと思います。
また、Uber Eatsに限らず、Uberが世界中に展開するシェアリングエコノミーの画期的なサービスについては、各国毎に法体系が異なる以上、ひずみが生じてしまうこともあります。そのあたりは裁判所や社会の声を反映して、Uber EatsがLegal Designを変えうる余地があることも言及しておくべきかと思います。
ちなみに業界第2位の出前館は、店舗自身で配達員を抱えていない場合、出前館が配達代行業務を店舗向けに提供するオプションを持っており、その点でUber Eatsとは異なり、配達業務を自ら請け負う(実際には配達業者に再委託する)という形にしています。

本稿の執筆にあたって、図解はチャーリーさんの「ビジネスモデル図解ツールキット」を使用させていただきました。ありがとうございます。
なお、ビジネスモデルと法律上の権利義務関係は図解にあたって異なるルールを適用させたほうがわかりやすいため、図解ルールに異なる点がございます。ご了承ください。


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