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うつくしい

幼いころ

花が好きだとかいう趣向が 生意気で男勝りだったわたしには いかにも女らしいものにかんじられた

ケーキ屋さんやお花屋さんになりたいという夢が 物知らずなわたしには あまりにも稚拙にかんじられた

たまに両親が連れていってくれた美術館はいつも退屈で 古き良き、なんてものはださいと決めてかかっていた

うつくしさってものを、しらなかった



雨上がりの夜、代官山を歩いていた

レコード屋に立ちよって かえってから聴くためのあたらしい音をさがした

蔦屋書店には人が集っていた 細部にまで気をくばって服装を纏う人々が それぞれの趣向を慈しんでいた

まるでセンスをもてあましたかのような美しい写真集とデザインの数々のあまりのうつくしさに息をのんだ そのうつくしさと自分自身との距離をはかってはくるしくなった


いつも 心惹かれるものそれ自体になってしまいたくなる
近づくよりも、手に入れるよりももっと 憧れがつのる

あの人のようになりたくて でもなれなくてくるしい

あんな写真を同じように撮りたくて でも撮れなくてくるしい


うつくしさを前にして じぶんのうつくしくないことにくるしくなる

だってわたしはあまりにも無力で

わたしがうつくしい、とはどういうことだろうというのをいつも考えてくるしい

あるひとつのことに向かっている人は輝いてみえる いつもそんなうつくしい姿に憧れては よそ見して寄り道して そんなことがどうしてもたのしくて 結局なににもなれなかった

心の所在が定まらないのは きっと本当はぜんぶになりたいから ひとつになんてきめられないから

そんな自分を受けいれて堂々といられるようになりたい、いつかちゃんと形にしたいなんて、

いまはただそう思いながら うつくしさってものを浴びながら 自分をみてはくるしみながら たくさんのよそ見と寄り道を