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その5センチに許されたい

これから生理用ナプキンの話をするのだけれど「昨日食べたハンバーグが美味しくて幸せ」ぐらいのノリで書くので、男性もギョッとせずよかったらそのまま読んでいってください。生理の話つったって、これから書く話は痛いツライを男の人に理解してほしい話じゃないし、そもそも女性のカラダの話だからって別に女性しか読んじゃいけないわけじゃないし、隠されがちな生理の話を男女分け隔てなく気軽に読んでほしいですし、おすし。


渡米準備中、アメリカの生理用品はゴワゴワするから日本で買って持って行ったほうがいいと駐在帯同家族の先輩は私にアドバイスした。たしかに二十代前半の頃に行ったアイルランド一人旅中に、予定より早く生理が来てしまったとき駆け込んだコンビニで買ったナプキンはゴワゴワしていて、パンツとお股の間に食事用ナプキンが挟まっているような感触がなんとも心許なかった。吸水力が心配で、立ち寄る先々でトイレに行きこまめに取り替えたのをよく覚えている。

渡米直前の2020年2〜3月、コロナの混乱が始まった頃の日本。店頭からマスク、アルコール消毒液、除菌シートが消え、ついでにトイレットペーパーも品薄になっていた。なぜ人類は不安になるとトイレットペーパーを買い占めてしまうのか。そしてそのとき、なぜか生理用ナプキンも品薄になっていた。なぜなのだ。Amazonパントリーの生理用ナプキンはことごとく在庫ゼロ、楽天もゼロ、カインズオンラインショップもゼロ、人類よ、パニックになるやいなやシモ関係の日用品に殺到する癖をやめよ。わかるよ、シモの衛生は大事、でも落ち着け。

日本製の生理用ナプキンをたっぷり買って船便に詰め込むつもりでいた私は出鼻をくじかれ「もういいや」モードになっていた。常日頃から家に数ヶ月分は常備していたし、2歳を連れてドラッグストアの長蛇の列に並ぶのも面倒だし、買い置きがなくて縋る思いでドラッグストアに来た人たちの生理用品を横取りしてしまうのも申し訳なかったし、まぁ、アメリカに5年住む予定なのだゴワゴワと噂の生理用品といずれは仲良くならねばならないだろうし、と思って日本で買いだめをせずにアメリカへ渡った。コロナめ。そして渡航後2週間の自主隔離明けすぐドラッグストアに行って「?????」を頭にたくさん浮かべながらアメリカの生理用ナプキンを買った。


それから一年が経つ。ご報告があります。私、けっこうアメリカの生理用ナプキン好きかも。アメリカのナプキンばかり使っていて日本から持ってきたナプキンがあんまり減らない。

アメリカのナプキンの何がいいって、「長い」のだ。 


比較してみよう。まだ残っている日本のナプキン「ロリエ しあわせ素肌『多い昼用』」。

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そしてアメリカのナプキン。COSTCOで安く買った「always ULTRA THIN『size2 long super largas』」……よく見たらカナダ製だった。併用しているドラッグストアCVSプライベートブランドのアメリカ製ナプキンも似たようなつくり・使用感だし、この記事では便宜上「アメリカのナプキン」と呼ばせていただく。ごめんなさいカナダ。

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お気づきだろうか。小さな違和感。私が「?????」となりながらアメリカナプキンを買った理由。

アメリカのナプキンには「長さ(cm、inch)」表記が無いのである。ドラッグストアには豊富な種類のナプキンが並べられていたがいずれも長さの記載がなかった。これは大問題だ、と日本から引っ越してきたばかりの私は思った。

生理の経験がある人なら分かるだろう。生理期間中は常に、経血量とそれに見合ったサイズのナプキン選び、そしてナプキンを貼る生理用ショーツのジャストな位置の見定め、トイレのたびに神経を張り巡らす心理戦が繰り広げられることを。失敗すれば死(血が漏れて自己嫌悪 or 無駄に大きいサイズを使ってしまって勿体なくて自己嫌悪、自己嫌悪で死ぬ)が訪れる。

生理中、毎度のトイレで突きつけられる勝負に勝つために「長さ表記」は非常に重要なのだ。

だから、渡米直後は大いに戸惑った。
長さ表記が無いだと……?定量的目安無くして勝負に勝てるとでも言うのか……?

よく分からなかったから、とりあえず全サイズ買った。

そして、驚いたのだ。アメリカナプキンのおおらかさに。


実物を見てほしい。上がアメリカナプキン、下が日本ナプキンだ。いずれも「多い日の昼用」に相当するナプキンである。一目で分かるほどにアメリカナプキンの方が長い。

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測ってみた。

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アメリカナプキンは27.5cm。日本ナプキンは22.5cm。なんと5cmも差がある。
※ 開封したナプキンは清潔に保管し、後でスタッフが、じゃない、私が快適に使用しました。


ナプキンの5cmは大きい。

日本ナプキンは「多い日の昼用」で22.5cm、もう一段上の「特に多い日の昼用」でも25cmである。他メーカーはもっと短かった気がする。
22.5cm、これはギリギリの長さだ。生理用ショーツのクロッチ部分(縫い目)を基準に、マイジャストフィットポジションに正確に貼り付けなければ敗北をきたす。常に立っているならまだ良いが、立ち座りを繰り返すとポジションがずれて漏れる可能性が飛躍的に上がる。また「ちょっとしんどい」と横になろうものなら一発アウトだ。何度、あと5cm長ければとナプキンを呪ったか。何度、ベッドに鮮血の染みを作ったか。何度、血に濡れたおショーツとおズボンとベッドシーツとをメソメソしながら洗ったか。ベッドマットについた染みは取れないので、生理が終わってもシーツ交換のたびに自己嫌悪で「あーーーー!」となるのだ。メソメソ。

だから今まで「特に多い日の昼」は夜用ナプキンを使っていたし、「多い日の昼」は贅沢に「特に多い日の昼」用もしくは夜用ナプキンを使っていた。夜用ナプキンは高価な上に1パックにちょっとしか入っていない。非経済的である。

5cm。この5cmで救われる心がたくさんあります。

なんせミリ単位で貼る位置に神経質にならずとも良いのだ。多い日の昼に夜用ナプキンを使わずとも「あ、ちょっとしんどい……」と思ったら自由に横になって良いのだ。

というか、それが本来の生理日の過ごし方なんじゃないのか?

日本ナプキンは、たしかに吸水力では上回る。肌触りも良い。高スペックである。しかしアメリカナプキンを知った今、どこか厳しさを感じるのだ。その高スペックさを享受するためには、ナプキンを生理用ショーツのピッタリジャストポジションに貼る繊細な作業が不可欠である。目視での見定め力、手先の器用さが求められる。そして、できるだけ座らず。横になってはいけない。そう、あれだ、高収入でルックスも良くて優しいのだけれど、それに見合った仕事ができる女じゃなければその恩恵には預からせないよ?それに、昼は立って仕事するのが当たり前だよね?っていうメンズ。モラハラじゃん!モラハラ彼氏じゃん!

対してアメリカナプキンは吸水力・肌触りでは日本ナプキンに劣るものの、多少ラフな貼り付けでも問題ない。座るも寝るも許してくれる。「生理中なんてそれだけでしんどいんやから、ナプキンで悩んだらあかん。長さ表記?いらんいらん!ちょっとぐらいは僕がなんとかしたるから、何も考えんと横になって休んどき!」……好き(トゥクトゥーン)。イケメンである。なんという包容力か。

※ ただし吸水力・せき止め力はあまりないので多い日に長時間、4時間ぐらい付けっぱなしにすると横から漏れる。こまめに換えられない職業の人はたぶんタンポンを使っているのだろう。アメリカはタンポンの利用率が高い。というか多い日に4時間付けっぱなしにしてたら日本製でも夜用じゃなきゃ漏れますわ。

アメリカナプキンに、すっかりお股を許してしまった。いや、なんかいかがわしい表現になった。股を開いた、みたいな。違うのだ「心を許した」とかそう言うニュアンスの、お股の心を許してしまったのだ。えー、なんなん、お股の話をすると自動的にエロい話っぽくなるのムカつくな。お股も身体の一部のくせに。単なるパーツにエロさが付随してくるのやめてくれよ。


私はすっかりアメリカのナプキンを気に入っているのだが、日本のナプキンが劣っていると言っているのではない。通気性はやはり日本のナプキンが優れている。アメリカのナプキンはカリフォルニアのカラッとした気候だからこそシンプルなスペックで問題ないのであって、日本で着用したらきっとお股が蒸れるであろう。

日本のナプキンが短いのは、おそらく吸水性・肌触りの良さを追求したがゆえ。この品質で長くしてしまうと材料費がかかりすぎてしまうのだ、きっと。わかります、私も会社員やってたから原材料費と値段設定はギリギリを攻めてるんだろうって。何かを得たら何かを失うのだ。蒸れにくい生理用ナプキンの開発に頭が下がります。


しかし私は長いナプキンの優しさを知ってしまった。その5cmに「テキトーにやっても大丈夫やねんで」と許されている感覚、「合わせなければいけない」プレッシャーから解放された心の底からの安堵。鼻ピアス臍ピアス臍出しファッションのプリスクールの先生や、ハロウィンの日に子どもと一緒に全身タイツのヒーローコスチュームを着て闊歩していたプラスサイズのパパ・ママを見たときと似たような気持ち。自己の解放。

きっと日本に帰るときにはアメリカのナプキンを買い溜めて船便に詰めてしまうのだろう。梅雨どきの日本なんかで使ったらお股が蒸れるかもしれないが。


(あ、日本のナプキンメーカーさん。もしも日本のナプキンが短い理由が「長くする発想がなかった」ならば、ぜひリーズナブルかつ長いナプキンの製造をご検討お願いしたいです。)

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