VWポロ(6代目)試乗記

実家に帰ったところ、車庫に現行ポロを見つけた。

どうも実家のゴルフは自動変速機DSGのリコール修理が大掛かりになってる様で(DSG丸ごと交換で部品待ちらしい)その代車との事。

10年落ちのゴルフなのに、ディーラーも大変だ。

1.VWポロとは

VWゴルフの下、up!の上のポジション、Bセグメント向けハッチバック車である。

初代は1975年に登場。

先行で1974年にアウディ50としてリリースされ、翌年にポロが登場した。

この時代最先端のエンジン横置き前輪駆動のダンテジアゴーサ式に、フロントストラット式、リアトーションビーム式トレーリングアームという構成は初代ゴルフと同様。

エンジンはゴルフより小さい0.9L。要はゴルフの縮小版である。後席ドアを持たない3ドアハッチバックのみ。

1981年に登場した2代目ポロは、2代目ゴルフと同様に初代のコンセプトのまま進化した。

1994年登場の3代目は古臭いデザインの2代目とは打って変わって現代的なデザインとなり、後席ドアを持つ5ドア版も追加。
日本仕様の変速機が漸く4速ATとなり(2代目までMTのみ)人気モデルとなった。

2001年登場の4代目はボディサイズを一気に拡大し、2代目ゴルフとほぼ同じサイズ(全長4m級)とし、全高も一気に高くした。
即ち、4人乗り乗用車としてギリギリ成立するパッケージが可能となったのだ。

同世代の4代目ゴルフが大型高級路線になった為に、4代目ポロこそ初代ゴルフの正統後継なイメージもある。
SUV風クロスポロがラインナップされたのもここから。

先代の5代目登場は2009年。
日本仕様のポロはゴルフと同様に変速機は7速DSGが搭載され、エンジンもダウンサイジングターボTSI仕様車が用意された。

2.6代目ポロについて

VWのこのクラスは初代ポロから5代目ポロ(先代アウディA1も)までA0x及びPQ2xと言う小型車向けプラットフォームを採用していた。

今回の6代目ポロはより大きなパサートやゴルフと共通モジュラープラットフォームのMQBとなる。
トヨタのTNGAなど世界的に流行となっているモジュラープラットフォームの先駆けだ。

超ハイレベルな要件だけ言えば、MQBは運転席ペダル位置と前輪位置だけを固定したもの。

MQBはポロからパサートまで、つまりトヨタのTNGAならヤリスのGA-BからカローラプリウスのGA-C、更にはハリアーやカムリのGA-Kまで、トヨタ開発の前輪駆動車全てを共通プラットフォームでカバーする様な話なのだ。

ここまで幅広い共通プラットフォームは他に無い。ならばどこの要件を統一すべきか自ずと決まる。

なんだそれだけかって話もあるが、コレが非常に重要なのだ。

ココを縛れば、前輪とエンジン位置が決まる。前面衝突設計やエンジンルーム内設計要件が統一できる。つまり車体の大小に関わらず、これら設計要件が統一できるのだ。
この意味は非常に大きい。

エンジンや変速機はもちろん共通の要件に沿っている。

日本仕様ガソリン版はVW主力のEA211エンジンにDQ200型7速乾式DSG変速機の組み合わせ。
EA211は4気筒1.2Lが主力だったが、6代目ポロ及び8代目ゴルフは3気筒1Lを用意した。

日本仕様の6代目ポロはこのターボ過給版だ。

サスペンションはフロントストラット式、リアトーションビーム式。ゴルフ下級モデルと同様。

つまりはポロは8代目ゴルフとほぼ同じ構成である。

3.ボディサイズ

同クラス各車の寸法は以下。
新型6代目ポロ 先代ポロ 現行欧州ヤリス 現行日本ヤリス 現行フィット

全長 4060mm 3995mm 3940mm 3940mm 3995mm
全幅 1750mm 1685mm 1745mm 1695mm 1695mm
全高 1450mm 1470mm 1470mm 1500mm 1540mm
ホイールベース 2550mm 2470mm 2560mm 2550mm 2530mm

新型ポロは先代から拡大し、全幅は1750mmにまで達した。
非常に大きくなったと言われているが、実は欧州ヤリスとほとんど同じ大きさである事がわかる。
参考までに、このサイズはゴルフなら3代目と4代目の間くらい。
4人乗り小型車として最低限必要なサイズとも言える。

4.静止検分

グレードはTSIコンフォートライン。
フル液晶メーターとなるテクノロジーパッケージ、ナビやメディアのインフオテイメント付き。

パッと見ゴルフ級の大きさのポロに乗り込む。

シートはゴルフより小さ目だが、VWらしい出来。
サイドサポートは非常にしっかりしており、シート背面も座面もサイズや形状に全く問題無い。背面は肩までサポートされ、サイドサポートも万全だ。

ただ、身体への当たりは非常に硬い。
シートと言うより、身体矯正治具と言うイメージだ。
10分程度乗れば身体は慣れてくるが、チョイ乗りしかしない方なら面食らうだろう。

ポロは体重の軽い女性ユーザーが多いので少し心配になる。

右ハンドルのポジションを確認する。
ステアリング位置はシート中央、ブレーキペダルはステアリングの少し右下。ペダルオフセットはほぼ無い。ここはVWらしく素晴らしい出来だ。

メーターパネルはフル液晶を奢っている。
キチンとメーターナセルに収まっており悪くないが、メーター角度はかなり直立。
上から見下ろすドライバーの目線の角度に合わない。映り込みを気にしてるのだろうが、気持ち悪い。メルセデスAクラスのようだ。

ナビ表示もメーターパネルに表示されるのは良い。
センターのナビ&オーディオ画面は左右に配置されるツマミ2つとタッチボタンで操作するが、
小さい右ツマミ(ナビ拡大縮小)を操作する際に周囲のタッチボタンに触れやすく、操作性は良くない。運転中操作不能な出来。

センターのエアコン吹き出し口は先代から相変わらず低い。
一応上への角度へ吹き出すことは可能だが、人体に風が当たりやすく、あまりいい位置では無い。

運転席そのものは広く、ポジションも問題無いのでコレらは些細な話かも知れないが。

後席は明確に狭い。
背面角度も立っている。

とは言え座面長や角度は適切で、前席下への足入れもヒール段差(シート座面高さ)もマトモ。サイドサポートもまぁマトモ。
ひとまず座れる事は座れるし、破綻はしていない。

内装質感は悪くは無いが、見た目チョイと安っぽい。
基本的に硬い成型プラスチックに、ディスプレイ周りはグロスパネル、ガンメタ塗装のレリーフだが、位置や形状がなんだか行き当たりばったりな感じで安物に見える。

加えるなら、パーキングブレーキのレバー質感も最安値クラスのチープさを感じた。ノッチが粗く安っぽい。

5.実車検分

ATのセレクターをDに入れて走り出す。

走り出しは1Lと言う小排気量を意識する事は無く、むしろ力強く感じるほど、前に出る。

幹線道路に出て、50〜60km/hまでの加速に不満はない。
この速度域では7速DSGはスルスルと6速までギヤを上げ、巡航モードに移る。常に1500rpm以下を維持しようとしてるようだ。
この状況でアクセルを少し踏むと、エンジンは死んだフリ、全く無反応だ。
一旦巡航モードになると、頑なに加速したがらない。
この辺りに小排気量ターボを感じる。

もちろんアクセルを床まで踏み込むと、一気に3速まで落としてガッツリ加速するが、基本はギヤを極力維持する制御である。

以前ゴルフの7速DSGは日本の走行シークエンスではのべつ変速してビジーではあった。
それよりは好感が持てるが、乗せられてる感じが強くなった。昔の省燃費プリウス的な感じと言えばいいだろうか。

また、停止寸前からアクセルを踏んで走り出すと、スロットルは一瞬遅れる。
恐らく停止準備で半クラッチ状態の時にはエンジンを吹かさず、クラッチが繋がるまで待ってる様だ。

元々DSGはこの傾向はあるが、このポロはチョイと顕著だ。アクセル踏んでも前に進まない感覚に陥る。「あれ?」と更に踏み込んでしまうと、その後意図しない加速を始める。

低回転域ではターボは回らず、吸気配管内の流速が低過ぎるのもあるだろう。

柔らか目のエンジンマウントによるエンジン揺れがコレを増長させている。

端的に運転し難く感じた。

慣れてしまえば、そんなもんかな、と言うレベルではあるが。

静粛性は猛烈に良い。ビックリする程静かだ。
アイドリングストップ機能をOFFにしていても全く気にならない。このクラスではダントツで最高。

加えて、アクセルを踏み込んでエンジンを回し気味にしても不快な騒音や振動は無い。静粛性に関して言えば、完全に高級車のジャンルに入る。

エンジン回すと途端に雑音で煩くなるヤリスとは正反対だ。

ステアリングホイールは最近のVW共通のDシェイプで、下が平らなタイプにACC等スイッチ付き本革巻き。

真円じゃない上に、よく見るとセンターも上方にオフセットしている。大舵角から手を離すと手を添える位置が上下にチョコマカ変わる。まぁ細かい事は言うまい。

ステアリングフィールは非常に人工的。
タイヤの状況とは無関係に人工的な重さが乗る。極論すると静止状態だろうが走っていようが同じバネの様な反力が返ってくる。

グランツーリスモなど自動車ゲームでお馴染み、反力機能付きアナログコントローラーの風情だ。

元々電動パワステへ移行してからVW車は皆この傾向はあったが、このポロはかなり強い嘘っぽさを感じた。

ただし、ボディやアシの強さも手伝い、ステアリングを操作した際の反応は良い。左右にスパスパと方向を変える。
浅目の評価だとスポーティと言えなくも無い。

ブレーキフィールはカックン気味だ。
コントロールの幅が狭く、奥で制動力が急激に立ち上がる。そして踏力を抜いても制動力がリニアに弱まらない。

もしかしてブレーキマスターが左ハンドルのままで、棒で右へ延長するダサいタイプか?と思ったが、エンジンルームを見るとブレーキマスターは右にキチンと設置されている。

なんだろうな、と車体周りを見回して気が付いた。リアブレーキが大径のドラム式だ。

先代ポロは低級グレードから全輪ディスクブレーキ式だった為、見落としていた。

回生ブレーキ搭載と共にドラムに格下げか。

路面からの当たりは硬い。
ハーシュネスが非常に強い。
タイヤはコンチネンタルのプレミアムコンタクト5、185/65R15H。そんなに無理のあるサイズや銘柄ではない。

もしかするとタイヤの空気圧が高めかも。未チェックで申し訳ない。

ただ、車重が軽く、ボディが硬い感じで、不快では無い。スッキリはしてる。

6.総括

ポロに乗って感じたこと。

コレ、まんま現行ヤリスだ。
ポロが先に登場した事を考えると、ヤリスは綿密にポロをターゲットに作られていると感じた。

乗り味が極めて近い。
日本のヤリスこそ小さいが、欧州ヤリスはサイズもポロと同等だ。

ステアリングフィール、パーキングブレーキの安っぽさ、空間の設計。

エンジンや静粛性、細かいパッケージはポロが上だが、それ以外はどれもほぼ同じ。

ヤリスは乗り味でポロを完全に踏襲している。
トヨタ恐るべしだ。

同時に、私はVWのクルマ造りに失望した。

各要素の性能は高い。

安全装備やステアリングアシストはフルで装備されている。
シートの出来もいいし、この大きさでは室内空間の造りに瑕疵はない。
ヤリスより後席はマトモだしトランクも広い。昔のゴルフ並みだ。
動力性能や燃費性能も高いだろう。

しかし、ワクワクする要素が皆無だ。

いわば、栄養価の高いベースフードやサプリメントを食してる感じだ。

特にマンマシンインターフェース、フィールは全く褒められない。

私は古い人間かもしれないが、私の望むドイツ車のイメージは、論理的なコクピットの操作性、ステアリングやブレーキ及び動力フィールが良く、
それは人間が操作する自動車という製品を安全に提供する上で無視できないからこそ追求してきた結果である。
それは例え下級グレードの実用車であっても、だ。

そこに感銘を受けるからこそドイツ車が好きだったのだ。
美味しい白米だったのだ。

それらはこのポロから何も感じない。

そして、それはエンジニアリングや製造能力が低い為では決してないだろう。

VWは意図してこう言うクルマ造りをしている、そう思うのだ。

運転手との対話を拒むクルマ。

そう、自動運転なら運転手と対話する必要は無いのだ。

コレは比較的素直に自動運転に移行しようとしてるドイツ車ならでは、なのかと思った。

栄養価は高い。
でも、全然欲しくない。

世の中がこんなクルマばかりになるのなら、私はクルマを買うことはないだろう。
カーシェアやレンタカーで充分だ。

恐らくだが、今後日本に入ってくる8代目ゴルフも、電気自動車ID.もこの延長であると思われる。

今後の自動車に絶望を感じた。

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