2009年10月10日_隠し砦の三悪人_トークショー出演者

樋口真嗣監督と坂野友香が語る『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』

これは、2009年10月10日に山梨県甲府市で開催された『隠し砦の三悪人THE LAST PRINCESS』上映&トークショーの記録である。司会の黒塚まやさん、樋口真嗣監督が絵コンテを手がけた『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する第3新東京市立第壱中学校の制服姿のファッションモデル・齋藤恵さん(当時)の呼びかけで登場したのは、『スター・ウォーズ』のストーム・トルーパーら帝国軍に護衛された樋口真嗣監督と、真壁六郎太の妹・さよ役の女優・坂野友香さんの2人である。このトークショーでは、隠し砦とカリ城の関係や、エヴァと山梨県甲府市の意外な関係も判明した。是非、確認していただきたい。

黒塚まや(以下黒塚):監督が何故ストーム・トルーパーに護衛されてきたのでしょうか?

樋口真嗣監督(以下樋口):僕はダークサイドに落ちた人間なんで(笑)。

坂野友香(以下坂野):ダークサイドは任せてくれと(笑)。

黒塚:オリジナル版が、ジョージ・ルーカス監督に影響を与え、『スター・ウォーズ』のキャラクターにも反映されたんですね。それできょうは、トークイベント中、護衛されています。

樋口:居眠りしている人は撃たれますから(笑)。

黒塚:本作品を手がけるということになった時、監督はどんな思いだったのでしたか?

樋口:さっき、カリオストロの城のトークショー(このイベントの前が『ルパン三世カリオストロの城』上映&トークショーだった)を見てて思いだしたんですけど、俺、カリオストロの城をやろうとしてたんですよ。最初頂いたストーリーは、『グラディエイター』みたいな話で。トラが出てくるんです。これは隠し砦ではないなと。で、お姫様とそれを狙う悪人、悪人イコール泥棒、えっ?カリオストロでいけるじゃん!と。実は下敷きにしてあるのは、カリオストロの城なんです。長澤まさみさんと椎名桔平さんの芝居で、悪者は姫様の顎をぐっと上げるというのは、カリオストロ伯爵と同じ芝居なんです。これは主催者側の嫌がらせかと思いました(笑)。比べて観てください。

黒塚:プレッシャーはありましたか?

樋口:プレッシャーは絶えずありました。こういう時、黒澤さんならどうしたのかなとか。特に冬場で寒い撮影だったので。役者さんは皆、寒いのに草鞋を履くわけですよね。見えないところで肌色の足袋を履いて温かくするんですが、どうしても見えてしまうんです。足袋だから。それで、黒澤さんだったら絶対裸足だと思って、皆泣きながらやっていたんですね。で、ある日オリジナル版を観たら思いっきり役者がブーツみたいなのを履いてて、あれー何それって(笑)。黒澤さんより酷いことをさせてしまって反省しています。

坂野:実際は夏に撮影する予定でしたよね?

樋口:夏の予定がスケジュールの都合で一番寒い時期になってしまいました。残念なことに甲府を通り越して、山梨県以外で撮っていました。

黒塚:撮影地を拝見しますと長野県とか・・・。

樋口:長野県とか静岡県はあるんです。何故か山梨県だけ飛ばしちゃったんです。

黒塚:会場から「ああ」という声も聞こえてきました。

樋口:後で週刊誌のグラビアを見たら、すごくいい山があって、なんでこの山行けなかったのと聞いたら、山梨の奥地で行けないと言われました。昇仙峡もいいところがあるんですが人は行けないんです。景色はいいんですけれども、人を絡めるとなかなか難しいんです。でも甲府は、エヴァンゲリオンの昔の映画の時にちょっとだけ実写があるのですけれど、そこのロケは甲府でやりました。

黒塚:具体的にどういう?

樋口:第3新東京市の全景は、甲府の愛宕山に登って、朝もやに煙るすごい良い感じだったんで、そこに後でビルを合成しました。エヴァンゲリオンは甲府で撮ったんです。

黒塚:坂野さんはこの作品に出演される時、どんなお気持ちだったんですか?

坂野:すごく重い・・・(笑)。ひたすらヘビーな。本当どうしようと思いました。

黒塚:役柄は真壁六郎太の妹・さよということでしたね。

坂野:そこが問題で。長澤まさみさんよりか年下でなければならないんじゃないかって。実際は長澤さんの方が年下なんで、本当にゴメンナサイ。

樋口:でも、阿部寛さんの妹だったらそんな離れていたらおかしいだろうと俺は思ってたんですけど。

坂野:でも撮影前、台本には「さよも19(歳)なら・・・」という台詞が。どうしようかと悩みました(笑)。

黒塚:撮影現場での思い出はありますか?

坂野:監督がものすごく元気なんですよ!すごくパワフルで。体育会系というか。ねじり鉢巻なんですよ(笑)。

樋口:手拭いです。ねじり鉢巻きじゃない。バカボンパパじゃない。

坂野:声は大きいし、現場大好き!みたいな感じで。こんな元気な監督は初めてじゃないですかね。

樋口:えっ?静かにしてていいの?

坂野:話がヘビーだから、それで救われていましたね。私のシーンは、阿部さんとのやりとりとか、シリアスな場面ばっかりで、そういう時も監督はすごい元気で。元気に妥協しないんですね。ダメも大きな声で。

樋口:頭悪そうじゃん俺が(笑)。

黒塚:体育会系の監督さんということなんですか?

樋口:文系です。昔はスポーツもできず・・・。

黒塚:それが一転、映画監督に。

樋口:いやいやそれは髭を伸ばし始めて。髭が男らしさですね。関係ないですけど(笑)。

坂野:このお話が戦国時代だということで、太っている人は1人もいないということで、役者さん達には皆さん痩せろ痩せろということだったんですね。私は役が決まったのがギリギリだったので、1週間で10キロ近く痩せました。

黒塚:1週間で10キロ!?

坂野:ひたすら何も食べずにずっと走りまわって。

黒塚:プロ根性ですね。

樋口:寒い衣裳が多いんですよ。特に松本潤君や宮川大輔君は裸に布1枚みたいな恰好で。これは申し訳ないなと思って、俺もTシャツ1枚でやるからって3日ぐらい頑張ったんです。それで3日目のロケ終わりに焼肉行ったら、すごい酒のまわりが1人だけ早くて、気が付いたら40度位熱が出てて。やっぱTシャツじゃ無理だ(笑)。で、役者もすごい支度に時間がかかるんですよ。何してるんだろうと思ったら、衣裳の裏側にカイロを40枚位貼ってるんですよ。走り回る芝居するとカイロが落ちてる(笑)。

黒塚:オリジナル版と違って主役が、侍の真壁六郎太から山の民である松本潤さんになったのはどういうことだったのでしょうか?

樋口:これは脚本の中島かずきさんと話してて、侍がうまくいく話よりも、侍じゃない身分の低い立場の人間が、侍に一泡吹かしてやろうという話の方が面白いかなと。

黒塚:主役の松本さんにはどんな演技指導をされたのですか?

樋口:姿勢ですね。カッコイイんで。いつもなるべく逃げ出しやすい腰の落とし方だったりとか、どうカッコ悪く姿勢を崩せるか?みたいな。演技そのものは真面目な人なので、毎日台本読み込んできては、「ここってどうしよう?」とか時間をとりました。一緒に考えてあげながらやってましたね。

坂野:その真面目さに皆心を打たれて・・・。一言一句ですよね。「この台詞はどうして?」とかすごい真面目な方ですね。羨ましいです。真面目に考えられて。阿部さんも真面目でした。

樋口:独り言が多いんです。「どうしようかな?どうしようかな?」って。阿部さんは面白いですよ。

黒塚:監督から見て、坂野さんはどんな女優さんですか?

樋口:普段、こんなぐにゃぐにゃしているのが許しがたいぐらいなんですけどね(笑)。でも真面目な芯のある芝居をする人なんで。時代劇の経験が多いです。

坂野:10代の頃からかな?時代劇だけを5~6年かもうちょっとやってた時期がありました。


Q&A

Q.監督が『さよならジュピター』に参加されていたと聞いたのですが、どのようなお仕事をされていたんですか?

樋口:仕事というか、高校生だったんで。現場に見学に行って、プラモデルの部品をミニチュアの模型に貼ったりとか、アルバイトではないですね。お金はもらってないので。あの時は「これでもしかしたら日本のSF映画が変わる!」と何度もそういうことを思っては裏切られるんですけど(笑)。

黒塚:最後になりました。皆さんに一言ずつお願いします。

坂野:監督の『ローレライ』や『日本沈没』は観てました。で、今回の作品は客観的に「面白いな。」と思ったんです。自分のところは抜きにして、「こういう面白い映画なんだ。」って思いましたね。
なので楽しんでいただけたら幸いに思います。(会場拍手!)

樋口:自分の企画ではなくて、東宝さんから頼まれて、面白そうだなって思って引き受けたプレッシャーの大きさにですね、もがいてなんとか撮った映画です。意外と時代劇がことのほか面白かったです。

黒塚:きょうは本当にありがとうございました。

この後、樋口監督は『シン・ゴジラ』(2016年)の監督を担当し、『シン・ウルトラマン』(2021年)も手がけることになる。ヒットメイカーとなった樋口監督の今後に期待したい。

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