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ロシアに移住してから思うベルリンの魅力

「ここはドイツではなく『ベルリン』という国のようなものだ」

とドイツ人は言った。ベルリンはドイツの首都だが所謂”ドイツらしさ”のようなものはない。同じ色の屋根が連なってベランダに花が飾っているということは全くない。ただイメージ通りなのはみんなビールを飲みまくっているということだけ。そんな美しい景色とは無縁な街だが私がドイツで一番好きな街はベルリンだ。

ベルリンは他の大都市と比較してもかなり多国籍な街である。他のヨーロッパからくる白人もかなりいるが、中東系の移民、アフリカ系、そしてアジア系が共存している。そしてトルコにルーツをもつドイツ人もとても多い。

そんなベルリンはかなり混沌とした状態にも見え、様々な文化や言語が混ざりあう坩堝のようなところになっている。そこがとても魅力的なところだ。

大学の学費はほとんど無料に近いうえ奨学金も充実しているため大学にもかなりの数の外国人が集まる。特に芸術系においてはドイツ人よりも数が多いくらいという体感である。

そうすると田舎のドイツ人にあるような「おれたちはドイツ人だ!ドイツはドイツ人のものだ!」といった感覚が薄れているように感じる。外国人や別人種が自分のコミニュティ内にいるのが当たり前の環境で育っているからだろう。

ベルリンの東西の現在

そして統一から30年経った今も東西の差が大きくあるというのも興味深い。西と東で非常に大きな差があったドイツだが、それが一つの街の中であったという状況がいかに異常なものか想像もつかない。そしてその差は今も街の雰囲気や地価として色濃く残っている。

ロシアに住みだしてから分かったことだが、東ベルリンの街のなんとも暗い雰囲気はロシアの街の郊外とそっくりだ。建物のスタイルの違いというようには感じないがどこか嫌なオーラがある感じが似ている。

幸いなことに今は地方都市でも街の中心に住んでいるのであまり感じることがないが、あの貧しく寂しい雰囲気でベルリンのように天気が悪いととても辛くなる。

ベルリンの治安

ベルリンの治安はあまり良いとは言えない。私が住んでいた2013年当時は難民問題でとてつもない数の人々が中東からやってきて、それに紛れて多くの犯罪者も流入してきたので治安がかなり悪化していた。

特にスリや置き引きはかなり多く、iPodをすられたことは今も悔やまれる。物乞いのふりをして恵んでくださいと書いた紙をみせてきてそれを断っているすきにテーブルに置いてあるスマホを盗む手口が多発していた。

電車のドア側に座りでスマホをいじっていたらドアが閉まる瞬間にひったくられるという手口も多かった。

それだけ軽犯罪は多く、それをするのが全員中東系の人々だったからドイツ人からの風当たりはとても厳しかっただろう。この人種を見たら全員犯罪者だと思おう、というくらいに警戒しないとやられてしまう。結果的にその人が善人で傷つけてしまうことになったとしても、そんなことまで気遣えない情勢だった。

明らかに警戒している人にはあまり近寄ってこないからとても差別的に冷たくふるまうしかない。悲しいことだが自分や家族の身を守ることが一番大切だと20歳ながら思った。

ニコニコと楽しそうに歩いているとろくな目に合わないのがベルリンということもある。ヴュルツブルクではニコニコ歩いていてもスリに合うことはない。頭の悪い若者に「チントンシャーンHAHAHA」と喧嘩を売られるくらいのものだ。

音楽の中心

ベルリンはクラシック音楽にとってもその他のジャンルにとってもこの上なく刺激的な街である。

まずベルリンフィルがあり毎週3回演奏会をしている。それを立ち見1000円で聴ける。ベルリン国立歌劇場というトップオペラハウスも毎日のように公演していて、バレンボイムが指揮を振っている。ドイツオペラ、コミッシェオーパーという大きな歌劇場まであり毎日のように公演している。

それに加えてドイツシンフォニーオーケストラ、ベルリン放送響、ベルリンコンツェルトハウスなど多数のオーケストラが毎日フル稼働し、毎日のように巨匠指揮者やソリストがやってくる。

ピアノのリサイタルも本当に頻繁にある。アルゲリッチ、バレンボイム、ツィンマーマン、シフ、ルプー、ソコロフ、アンデルジェフスキなど数多くの名演を聴くことができた。ただ聴くだけならアマチュアと同じだと言われたこともあったが、自分は音楽が好きなんだということを何度も確信させてくれたのは素晴らしい演奏会を日常的に聴けたから。

どんな演奏が魅力的でどんな演奏だと素晴らしい技術でもあまり感動しないのかを体験できたことはとても貴重な体験だった。ストレートでいきなり田舎の音大に入っていたら4年留学してもたいした成果はなかったのかもしれない。

音楽のことは別の記事で書くことにしよう

混沌としているのがベルリンのよさ

ドイツらしさ、というものが薄れているのはそれだけ多様化していることでもある。人々の価値観もより柔軟なものになっていると感じる。ドイツ人から見たら自国のアイデンティティが薄れていくのは残念なことのように感じるだろうが、一つそういう都市があることはとても恵まれたことだ。

色んな文化がぶつかり合い混ざり合うことで常に新しい物が生まれていく。ライブ会場でオーケストラがマイク付きで演奏してベルリンフィルのマイヤーがオーボエを吹き、若者が酒を飲みながら聴いているなんて素晴らしい。

ドイツ観光で行くにはイメージと合わないかもしれないがおすすめしたい思い出深い街。


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