小さな店
住宅街にある≪食事処≫の幟が目印の居酒屋で、ランチ営業を片付けた午後に店内でご主人と話す機会があった。
「やっぱりさ、おいしかったって言われるのが何より嬉しいよね。この豚カツも、肉屋には『そんな金額で出しているところないよ。定食にしたら1500円はとれる』って言われてるんだよ。でもさ、儲けじゃないんだよね」
病気の後遺症で半身麻痺が残る体で、妻と二人切り盛りしている。
以前からの人気メニューはネギトロ丼で、魚が評判の店だから、豚カツを始めるのはちょっとしたチャレンジだったそう。
「心配だったけど、最初に食べた長女が、『大丈夫。これなら絶対人気が出るよ』って。実際そうなったよ。インターネットのどこかに、いいこと書いてくれた人がいたんだってさ。お店やっている人はみんなそうだと思うよ。お客さんの喜んだ顔が見たいんだよ」
お店に入った正面に「1万円札の両替はお断り」の紙が貼ってあった。
「まったくさ、忙しいランチ時間に万札出すようなマナーの悪いお客さんもいるよ。たかが30秒かそこらでも、おつり取りになんて行ってられないよ。火を使ってるんだからさ」
*2015年1月
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