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すべて美しく成り立つ

大浴場の湯舟に天井から一滴、
水滴が落ちるときに鳴る音の
余韻が響き
さざなみみたいに広がると
やがては
今宵の月明かりが明るくなる。

苦悩する詩人が蠟燭の炎の中に夜の海を見るとき、
コーヒーペーパーから
液体が落ち、
砂漠がより干上がり
やがては
全部が上昇し始め、
詩人の紙のうえを
文字が滑り抜け
時間の端っこで
けっして
触れることができない
永遠ができあがる。

3時の時間に
君は昨日よりもよく笑い、
木琴の調べを聴きながら
あなたのことが好きよと言って
パスタソースからピザソースを作った。

君のその美しい笑い声は
涼し気な夜の風や
星の光を想起させ、
やがては
すべて思い出すようにして
すべて忘れていく
淡い
僕の思い出となる。

嫌な気分の朝や
仕事上のつらさ
人の嫌なところ
存在のしにくさ
自分勝手さ
貪欲さ
浅ましさ。

いずれ死ぬというやりきれなさ
生きる意味や希薄な目的
何もかもめんどくさく
僕が一生懸命書いた、
キャリアプランの恥ずかしさ。

夢や希望や絶望のわざとらしさよ、
生きる意味のなさよ、
あまりにも平凡で
あまりにも無能で
あまりにも
努力とか忍耐がなく
あんまり楽しめず、
何も実現できない、
ぜんぶに嫌気がさしたときにこそ
そう
そうだ、
心一杯に
愛を感じよ。

すべてから愛を感じよ。
心の片隅でもいいから
愛を感じよ。
さすれば
すべて美しく成り立つ。

きっと
君は
矛盾なく
淀みなく
平仄を保ちつつ、
世界は動いていると
感じるだろう、
愛とはいったい何だろうかと思うかもしれない
ただそれは、君の中にだけある最後の切り札だ、最後の場所だ、
そう思えばいい、
自分自身で
ただひたすら
感じればいい
感じた気になればいい。

やがては
すべてから愛を感じよ。
君自身で、全力で
愛を感じよ。
さすれば
日々の憂鬱など凌駕し
光はいっそう輝く。


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