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【100均ガジェット分解】(32)ダイソーの「何でも使える万能ケーブル」

※本記事は月刊I/O 2021年11月号に掲載された記事をベースに、色々と追記・修正をしたものです。

ダイソーで「USB PD(Power Delivery)」の最大100Wでの給電に対応した「何でも使える万能ケーブル」が販売されています。今回はこちらを分解します。

パッケージの外観

パッケージと製品の確認

パッケージの表示

パッケージの表面には「最大100W PD USB2.0対応」「eMarker搭載」と明記されています。USB充電の規格であるPD(Power Delivery)ではケーブルに「eMarker」と呼ばれるICを搭載することで、最大5Aの電流を流すことができるようになります(eMarkerなしの場合は最大3A)。USB PDの最大電圧は20Vですので20V x 5Aで「最大100W」となります。

パッケージ裏面には商品説明があります。本体・パッケージに「USBロゴマーク」はなくUSB認証を取得しているかは不明です。(USB認証は必須でないので販売すること自体は問題ありません。)

パッケージ裏面の商品説明

生産国は中国、供給元は「株式会社 ECore(http://e-core2006.co.jp/)」です。

結線と抵抗値

まずは「USB CABLE CHECKER 2 (https://amzn.to/2XZ5lzG)」 を使いケーブルの結線と充電用ラインの抵抗値を確認しました。結果はパッケージの仕様通りで、USB2.0の通信ライン(D+/D-)とType-Cの制御信号(CC)もきちんと結線されていました。充電ラインの抵抗値は150mΩとかなり小さく、大電流に対応した設計です。

結線と抵抗値

本体の分解

外装の開封

コネクタ部分の外装をニッパ等で切って外すと、樹脂で固められた基板があらわれます。基板はケーブルの両端に同じものがついていますが、ICチップ(eMarker)は片側にのみ搭載されています。

開封したコネクタ部分(eMarker搭載側)

回路構成

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の4層基板です。eMarker搭載側のコネクタ部に実装されているのはeMarkerのICのみ、基板の型番「HM-074-D V1.2」はシルクで印刷されています。

ケーブルのリード線(8本)は直接ハンダ付け、VBUSとGNDは大電流対応のためにリード線が2本になっています。

メインボード(eMarker搭載側)

使用されているケーブル

基板に直接半田付けされているケーブルはシールドなしです。
USB2.0の”HSモード”(480Mbps)ではシールド付きのツイストペアケーブルケーブル(Shielded Twist Pair、STP)が要求されているので厳密にはUSB2.0の規格を満たせていません。STPを使用しない場合はHSモードでの通信時に速度が低下する可能性があります。

使用されているケーブル

回路図

基板パターンから回路図を作成しました。

回路図

USB2.0の結線(VBUS,GND,D+,D-)に加えてUSB PD用の信号(CC,VCONN)が結線されています。

eMarkerのIC(U1)にはCC(PD通信ライン)とVCONN(PD制御IC用電源ライン)が接続されていて、USB PD対応の充電器とデバイスが接続されたことを検出してPD制御を行います。

USB PDの規格では、CCとVCONNはUSB Type-Cコネクタの上下対角の位置に配置されており、充電器側でCCラインの抵抗値を検出することで、挿入したコネクタの裏表に応じてCCラインとVCONNラインを入れ替えます。

主要部品

次に主要部品について調べていきます。

eMarker IC 詳細不明

eMarker IC

eMarker ICはQFN 6ピンで裏面にGNDパッドがあります。表面のマーキング「332 2048」を参考にWebで検索をしたのですが該当するものは見つかりませんでした。

実機での動作確認

本製品を使用してUSB PD関係の動作を確認してみます。

USB PDの解析には「ChargerLAB POWER-Z KT001 (https://amzn.to/3i4T43G)」を使用しました。

ChargerLAB POWER-Z KT001

利用可能なUSB PDパワールール

USB PD対応充電器に接続したときの利用可能なパワールールを確認してみます。
USB充電器は65W PD対応のもの(出力仕様: 5V@3A, 9V@3A, 12V@3A, 15V@3A, 20V@3.25A)を使用しました。

まずはeMarkerなしのUSB type-C充電・通信ケーブルで接続して利用可能なパワールールを確認した結果です。20Vでの利用可能な出力電流は3.0Aとなっています。

eMarkerなしケーブル接続時の利用可能なPD出力

次に本製品で接続したときの利用可能なパワールールを確認した結果です。20Vでの利用可能な出力電流は充電器の最大値である3.25Aとなり、eMarkerが正常に動作していることが確認できました。

本製品(eMarkerあり)接続時の利用可能なPD出力

eMarker情報の確認

以下は本製品のeMarkerの情報を読みだした結果です。製品仕様通りの「20V 5A USB2.0」対応であることが最下段の表示で確認できました。

ただ、IDHeader”0x18001234”を参考にLinuxのUSB IDリスト(http://www.linux-usb.org/usb.ids) を確認したのですが、本製品に該当する情報は見つけられませんでした。

eMarker情報の確認結果

USB PDプロトコルの確認

USB PD機器を接続したときのUSB PDプロトコルを確認してみます。
デバイスにはUSB PDの急速充電トリガをエミュレートする「USB PD Trigger P30(https://www.aliexpress.com/item/32997568785.html)」を使用し、出力電圧を20Vとしてデバイス接続時のPDプロトコルをキャプチャしました。

USB PD Trigger

まずはeMarkerなしのUSB type-C充電・通信ケーブル使用時のPDプロトコルのログを取得しました。PDプロトコルの流れは以下になっています。

1.Data: Source Capability: 充電器→デバイス
  出力可能なパワールールを通知
3.Data: Request: デバイス→充電器
  出力要求(5th:20V, 3.00A)
5.Control: Accept: 充電器→デバイス
  出力要求の受領
7.Control: PS_Ready: 充電器→デバイス
  出力設定完了(20V出力開始))

eMarkerなしケーブル使用時のPDプロトコル

次に本製品(eMarkerあり)使用時のPDプロトコルのログを取得しました。PDプロトコルの最初にeMarker情報の確認が追加となっています。

1.Data: Vender Defined(追加): 充電器→eMarker
  Markerを発見したので情報を要求
3. Data: Vender Defined(追加): eMarker→充電器
  eMarkerの情報を応答
5.Data: Source Capability: 充電器→デバイス
  出力可能なパワールールを通知
7.Data: Request: デバイス→充電器
  出力要求(5th:20V, 3.25A)
9.Control: Accept: 充電器→デバイス
  出力要求の受領
11.Control: PS_Ready: 充電器→デバイス
  出力設定完了(20V出力開始))

本製品(eMarkerあり)使用時のPDプロトコル

まとめ

100円ショップで購入可能なeMarker内蔵ケーブルということで、一通りPD対応機能について確認しましたが、100W対応ケーブルとしては問題なく動作しているようにみえます。

USB2.0の通信ラインの処理は規格通りではないところが残念ですが、急速充電用としては十分使えるので、なによりeMarker内蔵ケーブルの入手が容易になるのは大きなメリットだと思います。

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