【100均ガジェット分解】(59)「USB Type-C イヤホンジャック変換コード」
本記事は月刊I/O 2024年2月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。
イヤホンジャックのないノート PC・タブレットに有線イヤホンを接続するための DAC チップを内蔵した「USB Type-C イヤホンジャック変換コード」をダイソーの店頭で見つけました。早速分解してみます。
パッケージと製品の外観
パッケージの表示
「USB Type-C イヤホンジャック変換コード」はスマートフォン用イヤホンコーナーにありました。
価格は300円(税別)。オーディオ用DACを内蔵し、マイク入力対応の3.5mm 4極ジャックを搭載しています。
型番は「JT22-P12」、輸入元はダイソーの製品でよく見かける「株式会社ラティーノ エコラ事業部(http://www.eco-la.jp/company/)」です。
パッケージ裏面の記載によると、対応する4極プラグのピンアサインは「CTIA規格」、マイクなしの3極ステレオミニプラグも利用可能です。
マイク入力に対応した4極プラグにはCTIA規格とOMTP規格の2種類があります。両規格の違いはグランド(GND)とマイク(MIC)のピンアサインです。
CTIA規格(Cellular Telephone Industry Association)はiPhone、Nintendo Switchなどで採用されている規格で、ピンアサインは端子の根本から①MIC/②GND/③Right/④Leftの順になっています。
OMTP規格(Open Mobile Terminal Platform)は欧州を中心に、一部Android系スマートフォンなどが対応する規格で、ピンアサインは端子の根本から①GND/②MIC/③Right/④Leftの順になっています。
日本国内で販売されているマイク付きイヤホンはiPhone対応(CTIA)がほとんどですので問題はないと思われますが、このピンアサインを入れ替えるためのアダプタも存在して、Amazon等で「CTIA-OMTP変換アダプタ」で検索すると見つけることができます。
本体の外観
パッケージの内容は「本体」のみです。
本体のケーブル部分の長さは約5cm、Type-Cプラグ及びステレオミニジャックの外装は白のABS樹脂で覆われています。
ケーブルが柔らかいために、スマートフォンに接続した際に邪魔になる感じはほとんどありません。
次の写真はType-Cプラグの内側にある電極を顕微鏡にて確認したものです。Type-CプラグのUSB3.xの”SuperSpeed(SS)”に対応するための電極がないものを使用しているので、DACとの接続はUSB2.0相当の信号(D+/D-)を使用していることがわかります。
USB規格書の入手先: https://www.usb.org/documents
動作確認のためにスマートフォンに接続して音楽を再生しましたが、ノイズも少なく音楽を聴く場合でも問題はなさそうです。
本体の分解
本体の開封
Type-Cプラグ及びステレオミニジャックの外装は接着剤で固定されているため、超音波カッター等でカットして外します。
ケーブルとの接続部分は柔らかい樹脂で覆われていますので、これを切断して外すとケーブル接続部が見えてきます。
ミニステレオジャックは4極タイプ、4色のリード線が直接半田付けされています。
Type-Cプラグ自体はプリント基板にハンダ付けされています。ミニステレオジャックにつながっている4色のリード線はそのプリント基板にハンダ付けされています。
CTIA規格での接続なので、ミニステレオジャックのシェルに接続されているリード線(黒)がプリント基板のマイク入力(M)に接続されています。
Type-Cプラグは顕微鏡で確認した通り、電極USB3.xのSSに対応するための電極がない16ピンのタイプ、プリント基板を挟むように両面にピンが出ています。シェルはGNDに接続されています。
部品構成と回路図
Type-C基板
Type-C基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板、基板の型番「TX-HP31Z-V1.0」はシルクで印刷されています。
部品は全て面実装部品で片面に実装、使用されている部品はメインプロセッサと抵抗、セラミックコンデンサのみです。USB通信に対応したICではよく見かける外付けの基準クロック用水晶振動子(12MHzまたは24MHz)は使用していませんので、メインプロセッサ内部に基準クロックを持っているタイプとなります。
Type-Cコネクタのパターンは、USB3.xフルスペック用のType-Cプラグ(24ピン)の実装にも対応できるようにSSピン用のランドがあります。
裏面には製造時の動作確認用テストランド(USB通信用の信号であるVBUS/DP/DP/GND)があります。
回路図
基板パターンからメイン基板の回路図を作成しました。回路番号は基板上に表示がないので筆者が割り当てました。
Type-CプラグのCCライン(A5)はUSBデバイスとしての規格通り5.1kΩの抵抗(R6)でプルダウンされています。
メインプロセッサ(U1)はUSBからの電源(VBUS: 5V)が直接接続され、内部でIO回路やオーディオ出力用の中間バイアス電圧を生成しています。本機ではUSBオーディオDACとして動作していますが、ICとしては単機能ではなく、プログラム可能なマイクロプロセッサで汎用IOを持っています。
マイク入力のプルアップ用電源はUSBのVBUSからRCフィルタが2段入っています。これはノイズ対策だと思われます。
4極のステレオジャックのGNDピン(G)はUSBのGNDと分離されていて、U1の中間電位出力(VCMBUFR)と接続されています。回路定数が”NMT”となっているのは未実装のコンデンサで、ノイズ対策用だと思われます。
プリント基板はGNDパターンや信号の流れもわかりやすく、きちんと設計されている印象を受けました。
主要部品の仕様
メインプロセッサ: AB136D
メインプロセッサは深圳市中科蓝讯科技股份有限公司(bluetrum, http://www.bluetrum.com/)製のオーディオインターフェース用SoCの「AB136D」です。製品概要は以下にあります。
https://www.bluetrum.com/product/ab136d.html
CPUコアは「32bit RISC-V」でDSP(125MHz動作)を搭載、プログラム用の2MBのフラッシュメモリを内蔵しています。ADC(マイク入力)はモノラルです。
データシートは以下のサイトからWeChatのアカウントを登録することで入手できます。記載内容はピンの説明と電気的特性が中心でレジスタマップ等のプログラミングに関する情報は記載されていませんでした。
https://www.52bluetooth.com/page-34523.html
USBデバイス情報の確認
Windows PCに接続してUSBデバイス情報を"USBView"で確認してみました。
USBViewの入手先: https://learn.microsoft.com/ja-jp/windows-hardware/drivers/debugger/usbview
PCからは標準の”Audio Interface Class”として認識されています。
次にデバイス情報を確認してみます。
PC上では”TX USB AUDIO”という名称で認識されています。接続はUSB2.0のFull Speed(FS,12Mbps)です。
ベンダーIDの”0x001F”はUSB規格を管理しているUSB-IF(https://www.usb.org/)のリストには存在していません。製造業者名(iManufacturer)の"TX Co.,Ltd"から判断すると、開発時に仮で使用していたものがそのままになっている可能性があります。
まとめ
これまでに本連載で分解した中では3機種目のbluetrum製のICを採用した製品です。bluetrumはほぼすべてのCPUコアにRISC-Vを使っていますので、ローエンドの製品にもRISC-Vが普及しているのを再度確認する結果となりました。
コントローラは汎用I/Oポートを多く持っており、プログラミングできれば色々な製品への応用が出来そうですので、bluetrum社から情報が公開されるのを期待しています。
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