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がん治療の状況をオープンに伝えることが復職への第一歩

調査によると、がん罹患者の約3人に1人は20代から60代でがんに罹患し、仕事を持ちながら通院していると言われています※1。会社員として勤める傍ら、一般社団法人がんチャレンジャーの代表理事としても活動する花木裕介さんもその1人。今回はそんな花木さんに治療中の心境や、復職の際に意識していたこと、そして現在の状況まで、「仕事」をテーマにたっぷりお話をいただきました。

※1 参照:厚生労働省ホームページ がん対策情報「仕事と治療の両立支援」

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検査の段階から会社とは密にコミュニケーションを

花木裕介さんががんと診断されたのは38歳。2人の子どもに恵まれ、家族のために、そして自己実現のために、医療関連サービスの会社でバリバリと働いているときのことでした。首の腫れが気になって耳鼻科を受診したものの一向に腫れが引かず、不安を感じて総合病院で検査を受けたところ、一週間後に中咽頭がんと診断されました。まだ30代ということもあってまさに青天の霹靂。「この先どうなるのかという不安で頭がいっぱいになりました」と花木さんは当時の心境を振り返ります。

半休を取る必要があり、職場には検査結果を聞きに行く旨を事前に伝えていた花木さん。「検査結果を聞きに行くと言っている以上、黙っているわけにはいきませんから、結果をストレートに伝えました」。“言わざるを得ない”状況だったものの、もともと良い関係が築けており、すべてをオープンに話せたことが、後々、いい影響を及ぼしました。

治療法は抗がん剤と放射線。治療期間の4ヵ月半と療養期間を合わせて、休職期間は9ヵ月間に及んだと言います。
「告知されてすぐの頃は、“自分はきちんと治るのか”という不安で頭がいっぱいでしたし、治療中は治療中で、今を乗り越えるので精一杯。投薬が始まってからは眠れないし、人と話しても楽しめないし、メンタルは相当やられていました。復職について具体的に考え始めたのは、治療が無事に終わって、復帰の目途が立ってから。体の心配がひと段落してからは、“生活は大丈夫かな”とお金について悩むようになりました」。

検査の段階から細かく連絡を取っていたため、上司と良好な関係が築けていた花木さんは、フルタイム勤務で復職したい、こういう仕事がしたいなど、しっかりと話し合ったうえで復職することができたと言います。

「私の場合、病気になる以前から上司とはなんでも話せる関係を築いていたのが幸いでした。ただ仕事と治療の両立に関してはケースバイケース。職場の環境はもちろん、治療の種類や病状によってもまったく変わってくると思います。しかしどういう状況だったとしても、治療の見通しや自分の復職後の希望を含め、包み隠さず話してみなければ始まらないのは同じ。誰にでも、というわけにはいかないかもしれませんが、可能な限り状況をオープンに伝えて、こまめにコミュニケーションを取ることで、“本音で話せる”土壌をつくっておくことが重要だと思います」。

花木さんが勤める医療関連サービスの会社は、もともと商品として、セカンドオピニオンやメンタルヘルスのカウンセリングサービスを提供していました。花木さんはがんと告知されてから、これらの自社サービスを積極的に活用しながら復職に至ったこともあり、復職後は担当業務と並行し、自身の経験を人前で話したり、記事を書いたりと、自社サービスのPR活動をスタート。そこには「ハンデを抱えて戻る以上、会社にとってメリットのある活動になれば」という花木さんの想いがありました。

がん罹患経験者の多くがモヤモヤを抱えながら生活している

現在、花木さんは引き続き医療関連サービスの会社にフルタイムで勤務する傍ら、2019年に立ち上げた「一般社団法人 がんチャレンジャー」の代表理事としての活動も行っています。メディアに出る機会も多く、人前で堂々と話す姿は“前向き”な印象がありますが、花木さん自身は「いろいろ葛藤は抱えていますよ」と笑います。

「社内でのキャリアアップが遠のくなかで、新たな生きがいを見出すために法人を設立しました。もちろん“自分の経験が誰かの役に立てばいい”という想いで設立したのも事実ですが、同時に自分自身の“悔いなく生きていきたい”という願いを実現するためでもありました。がんになった以上、いつ何が起きるか分かりませんし、私の場合、次また再発した場合、声が出なくなる可能性もあります。仮にそうなってしまっても“やれるだけのことはやった”と後悔せずに、そのときを迎えたかったのです」。

「一般社団法人 がんチャレンジャー」がスタートして約3年。シンポジウムで講演を行ったり、がん罹患者にかかわる方必携「寄り添い方ハンドブック」を作成したりと、着実に活動の場を広げてきた花木さん。「自分なりにやりたいことはやれている」と評価する一方で、「それでもモヤモヤは残っている」と話します。花木さんは自身の経験をもとに、がん罹患によって失ったものや、生まれた挫折のことを「キャンサーロスト」と名付け、がん罹患経験者にアンケートを実施。すると79.1%の方が「がん罹患によってキャンサーロストといえるような喪失体験があった」と答えたそうです。「自分も含めて、がん罹患経験者の多くはモヤモヤや挫折感を抱えて生活をしています。この声なき声を少しでも多く社会に届けることが、私が活動する原動力の一つでもあります」。

花木さんはYouTube番組にて、がんサバイバーやサバイバーを支える方をお招きして、寄り添い方や体験談を話してもらうライブ配信も行っています。なかにはこの企画に参加したことが、新たな一歩を踏み出すきっかけになったと話す方もいたそう。

「一歩を踏み出すお手伝いができたのであれば、こんなにうれしいことはありません。がん罹患経験者にとって誰かに話すというのはすごく大事なこと。私自身、治療中は心理カウンセラーにずいぶんお世話になりましたし、担当ナースとの対話サービス「Tomopiia」(https://www.tomopiia.com/)の価値もそこにあるでしょう。“頑張れ”と押し付けられるより、“話を聞いてもらえる”という安心感のほうがよっぽど、次の一歩につながりやすいと思います」。

挑戦しよう。目標を持とう。がん罹患経験者のまわりは前向きな言葉であふれがちです。しかし花木さんは、「病気になってしまって悔しいという思いも口に出していい」とメッセージを送ります。

「昔は“一緒にチャレンジしましょう”なんて、気合いを入れたことを発信していたのですが、多くのがん罹患経験者と関わるなかで、“そうはいってもやっぱりつらくて苦しいよな”と考えるようになりました。後ろ向きになってしまうのは当然ですし、みんな同じです。ただその苦しさを受け止めてくれる人は必ずいます。気持ちを吐き出しながら、焦らず、無理せず、ゆっくりと進んでいってほしいと思いますし、私の活動がその一助になれればいいですね。それも私の重要な仕事の一つですから」。

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人が人に寄り添う社会づくりに貢献したいと願っている、がん罹患者に関わる方専門の産業カウンセラー。中咽頭がんステージⅣ治療中よりがんから学びを深め、これまでできなかったさまざまなことに挑戦中。医療関連サービス会社勤務の傍ら、一般社団法人がんチャレンジャー(https://www.gan-challenger.org/)代表理事としての活動をダブルワークで行っている。

今後の活動
一般社団法人がんチャレンジャーでは、ただいま以下の企画を実施中です。

■企画名:「キャンサーロスト」に関する悩みを抱えた方向けのカウンセリング、ただいま無料受付中!
 
■企画内容:がん罹患によって失ったものや機会について悩みを抱え続けている方々が、カウンセラーとの対話を通じて、少しでも自分らしく生きやすくなるよう後押しします。(直接的な課題解決というよりも、心が少し軽くなるようなイメージです)

■実施期間:〜2022年10月31日(月)までの平日21時〜21時50分
※先約により、ご希望に添えない場合もございます。

■対象者:キャンサーロストに関する悩みをお持ちのがん罹患経験者の方(治療中の方でも治療後の方でも受け付けます)
 
■費用:無料(お一人様一回限り)

■担当カウンセラー:花木裕介(一般社団法人がんチャレンジャー代表理事/産業カウンセラー/両立支援コーディネーター)
プロフィール

■申し込み方法:以下ページにある申し込みフォームより「無料カウンセリング希望」と書いて希望候補日(2〜3日いただけると嬉しいです)とともにご連絡ください(名前はニックネームなどでも結構です)。
https://www.gan-challenger.org/counseling/


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