「PoCごっこ」を越えよう

デザイン思考からの学びはたくさんありますが、デザイン思考のフレームワークとIT業界での実態の乖離が激しいのがPoC(Proof of Concept)と言われるフェーズでしょう。そこで作られるモノはプロトタイプと呼ばれますが、本来のプロトタイプの意味を超えて、割とガッツリとプロダクトを作ってしまっています。

IDEOのティム・ブラウンは、

初期のプロトタイプの目的は、アイデアに実用的な価値があるかどうかを把握することだ

と著書の中で語っています。

石川俊祐さんは著書「Hello,Design 日本人とデザイン」で次のように語っています。

プロトタイプは「完成品の見本」ではありません

以上のように、プロトタイプとはプロダクトづくりではないのです。

その一方で、IT業界の会話は、「AIのPoCですと、1000万円ぐらいは必要になります。」というような景気の良いお話しがポンポン出てきます。ここでいうPoCは、アイデアに実用的な価値があるかどうかの検証をはるかに越え、「完成品の見本」作りをやっています。

本来行うべきPoCを行わず、一足飛びに「完成品の見本」作りに着手するも、中途半端なお金で中途半端な見本を作り、作った見本はプロダクトには昇格できず、結局そこそこお金と時間をかけてPoCフェーズのみで終わってしまう。PoCの崖とも言われますが、墓標のない「完成品の見本」の屍が累々と積み上がる光景は見ていて辛いものです。

大企業は現在DXバブルです。カルチャーを変える為には失敗はつきもの!という勇ましい掛け声は良いのですが、放蕩的狂瀾騒ぎが美化される風潮をも作り出しているように思います。プロダクトファーストは行動として素晴らしいのですが、意識が「製品」にばかり行って、「人間」への意識が疎かになっていないでしょうか?

デザイン思考は「人間中心」です。「モノ」から「コト」へ、とも言われますが、「コト」とは人間の為す「コト」であり、人間に向き合う事が重要です。

幸いなことに人間は物語りを理解できます。
不幸なことに人間は物語りしか理解出来ません。

PoCで確認すべき内容は、どのような物語りを人に語りかけるのか。事業会社もITベンダーも一度頭を冷やして「完成品の見本」作りの「PoCごっこ」から抜け出しましょう。

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