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街をゆけば、祈る声が歌になって【タイ・チェンマイ】

いくら時差が少なかろうと、ウェブの恩恵を存分に受けて毎日を過ごしてみようとしたとしても、私がいまタイのチェンマイの街にいることに変わりはなくて、ふとPCから目を話してそとを見れば、そこは英語とタイ語が行き交う見知らぬ地だった。

でも今日、丸一日観光をしようと自転車を借りて街を流して、買い物をしてごはんを食べてお寺に行って祈りを聞いて疲れてはぁ、と思ったときに

家に帰ろう、と思った。

家ってどこだ。私はたしかにツーリストのはずなのに、もうずっとここにいるような、それでいてすぐに消え去ってしまうような どこにつかずの不要なものとして、今この場所にいるんだろう。

朝起きてカーテンを開ける。顔を洗って歯を磨いて、朝の支度をして英語の勉強を少しする。ドアを開けておはようと声を交わして、ねぇスムージーちょうだい、とベイさんにオーダーする。

「THE RAW PASSION」- passion fruit juice, mango, pineapple & coconut oil with hose-made probiotic yoghurt & local honey

今日はこれにしよう、と思う。89バーツ。×3だから、300円しないくらいか。明日はその下の「THE AVOCADABRA」にしよう、と思う。

朝8時はまだ街が涼しくて、クーラーをつけなくても吹く風だけで気持ちよく過ごせるな、と思う。部屋にいてもいいのだけれど、なんとなくこじゃれたカフェで佇むのは気持ちが良いじゃない。今日もここに座ろうと思って、良い香りのする虫よけスプレーを体に吹きかけて日陰に座る。

ベイさんがスムージーを持ってきてくれる。ありがとう、と言う。「今日はCafe DinDeeに行くの」と彼が聞く。「うん、行こうかな」と答える。

決めてなかったけど、行こうかな。タクシーを捕まえてもいいのだけれど、街を移動したばかりだから少しこのあたりをゆっくり見たい、と今日は自転車を借りようと思い立つ。

「ねぇ、自転車借りれる?」と聞いてみる。「いいよいいよ」と彼は言う。でも空気入れなきゃね、とつぶやいて、自転車の整備のために足を向ける。あとでいいよ、と言おうとするけど、きっといまやってくれるのだろう。ついていく。

スムージーを飲んで自転車を借りて、少し原稿を書いて事務処理をして、会社のひとと繋がる社内チャットで無駄な会話を繰り広げて、さぁ行こうか、と思ったらもう12時を過ぎていた。

お腹がすいたなぁ、と思う。12時になっていたのは別に意外でもなんでもなくて、12時まで仕事をしようと決めていたから、よしじゃあ行こうか、と腹を決める。

「なにもこんな暑いお昼に出かけなくても」。私が私を外から見たら、いまきっとそう声をかけるなと思う。今日も30℃くらいあるんだろう。

でも街が見たかった。旧市街ではなくて、ニマンヘミン通りをふらりと通ってみたかった。道を行くひとの中で、自転車勢は圧倒的に少数だ。おそらく交通ルールは車と同じ方向を行くことのようだから、みんなにしたがってそのままゆく。自家用車、ソウテウという名のバス……いやタクシー(交渉制)、トゥクトゥク、バイク、歩行者、そして自転車。凸凹した道をゆくには、ちょっと装備が軽すぎるわねこの自転車、と思いながら、「あ、やべ、ベイさんのだったこれ」と思ってごめんと思う。


ニマンヘミン通りはおしゃれな街……だった。たぶん。以前取材をした兵庫県の丹波篠山市で古民家改修を手掛けるノオトさんのことばを思い出す。

「ここは、街全体がホテルなんです。縦に長い高層階のホテルではなくて、ホテルをそのまま横に倒したような、"街全体"でホテル機能を有する街。宿泊施設、飲食店、ショップ、リラクゼーション、レクリエーション。すべてがひとつの施設でなくて、街全体で体現されます」。

なるほど言い得て妙だ、と思った。この街もそれに通ずるな、と思う。

点在しているのだ。何もかもが。「はいここ、表参道ですよー!」「わーヒルズ、ヒルズ!」「はいここ、代官山ですよー!」「きゃー、蔦屋、蔦屋
!」みたいなランドマークは「MAYAショッピングモール」しかなくて、(あるんかい)あとはすべて、徒歩で言えば15〜25分圏内くらいの土地に、ハイセンスだったり、今時だったり、昔ながらだったり、屋台だったり、ホテルだったりゲストハウスだったりスパだったり何やらだったりが

そう、街全体でなにか表現されていた。

カフェに入りながら進む。服を見て、アクセサリーを見て、雑貨を見て、お茶を飲んで、またお茶を飲んで、服を見る。そのうちひとつ、ひらめく。あぁそうだ、今度これをやってみよう、と思い立つ。街歩きは楽しい。新しいものを見ているようで、たぶん私たちは自分の中を見ているのだ。

夕方になる。ひとつ新しい思考がまとまったから、楽しくなって調子に乗る。前に泊まっていた旧市街に行こう、と思う。ここから10分くらい自転車を走らせれば、旧市街の城壁にたどり着く。

街の徘徊をはじめて4時間半は経っていた。そろそろ暑い。なにしろ12時から16時というピークすぎる時間帯を動き回っていたのだから。でも行きたい、なぜか行きたい。じゃあ行こう。どうせ私は暇なのだから。

***

今日は長い。でもここからが一番印象に残っていたから、今日はもう少し書いておきたい。

暑かった。すごくすごく暑かった。その上私は方向音痴だ。たまに道に迷いながら、ほぼ一本道のはずのルートを進む。

着いた、と思った時には17時を過ぎていた。ここでいいのかな?と思う。「ワット・プラシン」。チェンマイ市内でもっとも格式が高いとされているお寺。

自転車をとめて、礼拝堂らしき建物に近づいていく。履物を脱げ、と書いてある。ふと横を見るとみな靴を脱いでいる。じゃあ脱ぐ、脱ぐ脱ぐ、と思ってはだしになって入ってゆく。

夕暮れにはまだ少し時間があるのに、空は少しだけオレンジ色になってきてた。金色のたくさんの仏像と、その前に活けられた花、開け放された扉、すこしの観光客。そのすべてに挟まれるようにして、たくさんのお坊さんが、座っていた。

なにかの合図がなる。「チーン」。ひとり、ふたり、さんにんじゅうにん、たくさんのお坊さんがもっともっと入ってくる。

座れ、と言われた。わかった座る。正座をして、様子を見る。30人、いや40人、いやもっとか。60代くらいのお坊さんから、したは20代、いや10代か。60人くらいのオレンジ僧が、私から5メートル先に座っていた。

よく見ると彼らとの間にはロープがあった。「ここから先はだめ」うんわかった。そういう意味ね。

声が聞こえるようになる。唱えているのだ、なにかを。


聞いていた。久しぶりになにも考えなかったな、と思うくらい、ただ聞いてた。音は唱える「声」から、いつしか旋律を伴う「歌」になっていた。みんな、歌を歌っていた。ときおり頭を下げながら、祈りながら、唱えながら。歌を歌ってた。私には何を言っているのかわからないことばで。

時計は、17時10分だった。終わったのは、45分だったと思う。

不思議だったのは、犬だった。犬が入ってくるのだ。礼拝堂のなかへ、次から、次へ。もとから生き物の多い街だな、とは思ったけれど、誰も拒まない。むしろいま、ひとりの僧が「こっち、こっち」と手招きしているのを見た。ふぅん。そうなんだ。

犬は、8人くらいいるかな? というまたしても圧倒的少数の観光客を横目に悠然と歩いて、ロープを超えて僧の間に入っていく。そして、なぜか正面の仏像はまったく無視して、私たちのほうを見てこれまた悠然と座る。

そして眠るのだ。歌の中で。1匹じゃない。2匹、3匹、4匹。私が目を開いていた間だけでもそれだけ見たから、もしかしたらもう少しいたのかもしれない。みな眠る。なぜ? なぜなの・・・・・・

一番最初に鳴った音 「チーン」という金属音が、また小さくなった。ハッと思う。ひとは動かないのに、犬が動いた。歌は止んでた。

出て行く。1匹、2匹。その後姿を見送って、また3匹目、が出て行く。

・・・・・・なぜなの・・・・・・・・・


不思議な時間だった。いいなぁ、と思った。暑かったけど、きてよかったな、と思う。今回は私にしてはとてもめずらしく、ガイドブックなるものを持ち合わせていない。どこに行くべきかとか、なにを食べるべきかとかは、私の気分に委ねようと思っていた。

「ワット・プラシン」Wat Phra Singh / วัดพระสิงห์

そのあと私は、日が暮れるのを待って自転車をこいで、MAYAショッピングモールに向かう。ごはんを食べて、ポカリを買って(20バーツだから60円?)、家に帰ろう、と思った。

家? 

まぁいいか。

家に着いたら、すこし休んで、Wi-Fiをつないで旦那に連絡する。ねぇ今日ごはんを食べてたら、正面にカップルがいたの。ふたりで食べてて、分け合いっこしてて、お互いのごはんがくるまで、片方は冷めちゃうのもかまわずに、待ってたの。そういうの、いいね。そういえば3週間も、一緒にごはんを食べてないね。

会いたいなぁ、と思う。

あぁそういえば記事を公開したものがあるから、先方連絡を入れなくちゃ、と思ってすこしPCを開く。

シャワーを浴びて、noteを書く。

クアラルンプールにいた頃は新月だったのに、そろそろまた満月に近くなってきた。

日本に一旦帰るのは、7月末か。

そろそろ日本…は恋しくないけど、日本食が恋しくなる。おそば食べたいなぁ、と思って、ポカリを飲んで眠る。たぶん起きたら、また今朝みたいに晴れているんだろうなと思う。


いつも遊びにきてくださって、ありがとうございます。サポート、とても励まされます。