「自分の未来と、地域の未来を重ねて語る人」。
黒いスーツを着込んで就職活動というものに励んだ時期が、人生の中で数ヶ月だけある。何を、どこから、どうすればいいのか。半ばお祭りのように、本気で焦りながら、「社会見学みたいなものよね」とひとり強がりながら、知らない東京という町を歩く日々。
大きなコンサルティング会社の人が、ある時私に向かって言った。もとい、たくさんの集団の中に埋もれる私たちに、言う。
「あなたが人生でやりたいことは、何ですか?」
何だろう、と考える。数十秒与えられた私たちは、みな黙って考える。
「シチリア島に家がほしいな」
「地球の裏側で、壮大な自然を見ながらスカイダイビングがしたいな」
何をどう捻じ曲げても、「旅に出たい」と思いながら就活する不毛な女、21歳。(私)
思いかけた時に、人事の人が再び口を開いて言う。
「あなたはなぜ、それを 今 やらないのでしょう?」
……ずきゅーん
なるほど。たしかに。たしかにそうだ。なぜ私は、それを「今」やっていないのだろう?
「私は」何をしたいかな。
「今」何がしたいかな。
「今後私は」何をしようかな。
起点が、私に。「誰かのために」「何かのために」と願いながら、どうしても、思考が、追いつかない。ギゼンとキボウの、区別ができない。
そんなことが有楽町でかつてあったと、たまに今でも思い出す、29歳。
***
「灯台もと暮らし」というウェブメディアを作り始めたきっかけは、「灯台もと暮らし」を一緒に作ろう、と思った人と出会ったからだと度々話す。
ローカルにひどく興味があったわけではない、という言葉をそのまま用いると、ひどく誤解を招くので、あまり文章のみで使いたくはないのだけれど、けれどそんな私が、なぜ「これからの暮らしを考えるウェブメディア」の編集長として、曲がりなりにもなぜこれほどまでにのめり込んで、仕事に向かってしまうのか。
ひとつ明確な理由がある。(誰かの口癖がうつっている気がする)
何をしたいか、と尋ねた時に、「自分の未来」に、「地域の未来」を、重ねて語る、人がいる。
徳島県神山町も、島根県海士町も、岩手県遠野市も、蔵前も、西荻窪も、品川宿も。訪日外国人対策特集で取材させていただいた方々も、宮崎県小林市の方々も。滋賀県東近江市「VOID A PART」プロジェクトの登場人物だって、きっとそう。
「あなたはこれから」と尋ねているのに、「私たちはこれから」と最後は少し主語が変わる。仲間、土地、食材、子ども。少し先の未来も遠い未来も、まとめて「私の未来」と語る。
……素敵だ
と思った。
なぜ、と思った。なぜあなたはそんなに、と 思った。
悔しいのか、羨ましいのか。素敵なのか、畏怖なのか。何かひとつ、踏み出した人たちは、その目に今何を映しているのか、と。
***
「何をしたいか」と語るときに、自分から範囲を広げた、少し広い世界のことを語る人。その人たちに、私は今惚れがちなのだ、と思います。
それは、土地だけじゃないかもしれない。家族かもしれないし、モノかもしれない。
私の場合は、何だろう。地球の裏側でスカイダイビングをし終わったら、何か視えることがあるかしら。(たぶんない)
「今」と「少し先の今」の時間軸の違いを少しずつ理解しつつ。短絡的なことだけではなくて、少しずつ積み重ねていくことを、今はまずしなければ、と思いながら。遠い未来も、今の続きに置かなければ、いつまでも辿りつけない。
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そういえば明日は、有楽町でイベントだ。もはや今日か……。有楽町。「あなたは今何をしたいですか」とかつての私が問われた場所で、「私らしく生きるため」に、ぺちゃくちゃ喋らせていただくとは。
■灯台もと暮らし http://motokurashi.com/
■「灯台もと暮らし」というウェブメディアを作っています。|佐野知美|note(ノート)
■2/21実施・私らしく生きるためのNew weekend STYLE ~きんぎょ女子 × Uchila × 編集女子 ~
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