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春と夏と秋と冬の、全部が同じ島にある場所で【台湾・台南→台北】

緑色の外壁がかわいい豆花屋の、窓際の席に座っていた。台湾・台北の土曜日の午後。窓の外は黄色のタクシーや、白色のヒュンダイ、見慣れたトヨタや、その上には何やら高架が走っているようだった。台北は都会だ。台南や高雄とはぜんぜん違う。

白色に輝く豆花を一気に食べる。豆花は、名前からしてわたしが台湾で一番好むデザートのことだ。ほんのりと素材の甘さ光る豆乳のプリンみたいなつるり、とした見た目のそれに、店にもよるが紅豆やタピオカ、シロップなどをかけて食べる。

わたしが今座っているこの「庄頭豆花坦」は、ハトムギやかぼちゃのペースト、愛玉ゼリーや紫芋団子など、ありとあらゆるトッピングを無限に楽しめるという夢のエンターテイメント施設みたいな豆花屋だった。

偶然入ったコーヒー屋さんで、ふと手渡された日本語の台湾案内の本。そこに載っていたお店を、すこしだけめぐる。わたしは、そうゆうやさしい風に乗るみたいな旅が好きだった。

こうゆうことを、一緒に楽しんでくれるひと、いやいっそ、わたしより率先して楽しもうとするひとが存在することは、たぶんとても、心底、死ぬほどに幸せなことなのだと思う。大切で大事で、手を離してしまうことなど、考えただけで泣きそうになる。

台湾を訪れたのは、これで3度目だった。緑色の外壁のその店のガラス張りのドアを、お父さんくらいの年の男性が、ひとりで押す。そして店内を見渡し、席をとって、あたたかな豆花にたっぷりのトッピングをして、わたしに背を向けて食べる。きっとおいしそうに食べているのだと思う。食を楽しむ文化が根付いている街は、すごくすてきだ。

海外の街の風はやさしい。だからこそ、やっぱり強く、歩き出したい、とも思う。そのためにはまた、捨てるものも出てくるのだろう。削ぎ落としたい。そして心を込めた量を散りばめて、愛せる質をこの手にもう一度つかまなきゃ。この春、きっとまた暮らしは少し変わる。

台北の最後の夜が更ける。再び帰らねばならないのか。いつまでも空気みたいに、ふわふわと浮いていられたらいいのに。そんなわけにもいかないから、わたしたちはいつも試行錯誤で生きているの、だろうけれども。


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