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ともみの部屋 #2

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伊佐知美の、世界一周の旅とエッセイ。2016年10月〜
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2016年11月の記事一覧

寂しさにきちんと向き合える大人になろう【オーストラリア・パース→シドニー】

寂しさにきちんと向き合える大人になろう【オーストラリア・パース→シドニー】

その夜私はとても寂しくなってしまって、ひとり空港で、広いがらんとした空間を少しだけ眺める。

こういう時、スマホに頼ってはいけないのだ、と私たちは知っていた。

誰かとつながることは容易いけれど、きっと私はこの孤独にきちんと向き合って、咀嚼して、そしてまた進まなければいけないんだな、となんとなく本能が言っていた。

誰かと一緒に暮らすのは楽しい。

たった9日間だったけれど、私はあの家で、たしかに

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こぼれ落ちる言葉を拾い集めて【オーストラリア・ロットネスト島】

こぼれ落ちる言葉を拾い集めて【オーストラリア・ロットネスト島】

時折、指先から出てくる言葉の速さにキーボードが追いつかないことがある。

ごく稀にだけれど、そういう時は溢れる言葉たちをこぼさないように、一字一句を慈しむように、けれど心地よく焦りながら文字を画面に収めてゆく。

今日はそういう日だった。

けれど私は、今日は悲しいかなパソコンを家に置いて出かけてきてしまった。代わりに親指にすべてを託して、それでも精一杯の速さでスマホに文字を収めはじめたのが今。

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「選んで待って、一番いい波に乗れ」【オーストラリア・ゴールドコースト】

「選んで待って、一番いい波に乗れ」【オーストラリア・ゴールドコースト】

一歩足を踏み入れた時に「少し冷たい」と感じた海の水は、慣れたらもうそうでもなくなっていた。

いや、冷たいとか、暑いとか、なんかそういうことはもうどうでもよくなっていたのだ。

とにかくそこは気持ちがよかった。

右も左もどこまでも続く白い砂浜。前からは押し寄せる海。背景にはきらびやかなビル群。歩くと「きゅっ」という音を立てる砂浜。ウェットスーツに、まだ少し残るその砂。透明な海水。時は満潮。やっぱ

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旅ガールはいつだって「行かないで」を待っている

旅ガールはいつだって「行かないで」を待っている

オーストラリア、エアーズロック。赤い大地と乾いた緑、雲の白と空の青のコントラストが美しい空を見ながら、小さなショッピングモールに向かう。

旅に出てから、いつも何かが心に引っかかっていた。

なんだかすべてがスムーズだ。うまくいきすぎていて、障害がない。

そして、さえりさんのブログの、ワンフレーズが心に残っていた。

寝ても覚めても「どうして誰もわたしを日本につなぎとめておいてくれなかったん

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街の音がよく聞こえる一人旅【オーストラリア・パース】

街の音がよく聞こえる一人旅【オーストラリア・パース】

すれ違う人のヘッドホンから漏れ出る音楽、通り抜けざまのエスプレッソの香り。出勤前に足早に街をゆく男性の足音、微かに聞こえる車のエンジン音。工事現場から響く金属音、飛び立つ鳥の羽の気配に、風になびく波、etc...

なぜだろう、一人でいると街の音がよく聞こえる。

私は、どうしても一人旅が好きでたまらないというタイプではおそらくない。

基本的に寂しがりだから、できれば誰かと一緒にいたい。そして東

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紫の花咲き誇る、西海岸の街【オーストラリア・パース】

紫の花咲き誇る、西海岸の街【オーストラリア・パース】

パースの街中をシンボルのように流れる川を、「スワンリバー」というらしい。

夜、私はその川の向こうに見えるサウスパースの街並みの夜景を、美しいな、と思って高層階から眺める。

今朝は、5時過ぎに朝日の気配に一度目を覚ました。昨夜、テラスの西側に沈んでいった太陽が今度はテラスの東側から、顔を出しそうだった。

空の色はオレンジ。あと1時間もすれば、2歳の女の子と4歳の男の子が、元気に起き出してきて、

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半年間の勝手な決算をしてきた【オーストラリア・アリススプリングス】

半年間の勝手な決算をしてきた【オーストラリア・アリススプリングス】

「数年ぶりに会う、さきちゃんは元気にしているだろうか」
「私は、鳥井さんに出会わなければ、今の人生はなかったな」
「なんて広い、空だろう」

そんな雑多なことを思いながら、カンタス航空の飛行機に乗って、飛び立つ時を待っていた。

スピードを上げて走っていく滑走路。機体が地面から離れる瞬間。この瞬間を、この1年で何度感じただろう。

アリススプリングスという、オーストラリアのちょうど真ん中に位置する

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今までで一番きれいな夕焼けを見た【オーストラリア・ウルル】

今までで一番きれいな夕焼けを見た【オーストラリア・ウルル】

今まで見た中で、それは一番きれいな夕焼けだった。

昨日までは、全然そんなこと思っていなかった。夕暮れはたしかにすごく、毎日美しかったけれど、雲がひとつもないせいか、「今まで見た中で、一番空が広いなぁ」という感想だった。

けれど違っていた。今日のそれは、もう言葉が出ないくらい、とにかく美しい色をしていた。

少し、展望台に立ち寄ろう、と気軽に足を向けただけだった。夕方突然の雨が降ってきて

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「分かる」と「一緒に怒ってくれる人」

「分かる」と「一緒に怒ってくれる人」

あんまり怒らない。というとすごくきれいな人みたいだけれど、私は大人になってから、本気出してそんなに怒ったことがない。

というか人生を通して、めちゃくちゃ怒ったことって、記憶にない。きれいさっぱり忘れているだけだろうか。

ムッとしたり、イライラしたり、「え、それはないんじゃない?」と思うことはあったけれど、「もうそんなの許せない」と我を失うことはない。

「そうだよね、あなたの立場なら、きっとそ

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ついに行くのだ、憧れの場所へ【オーストラリア・エアーズロック】

ついに行くのだ、憧れの場所へ【オーストラリア・エアーズロック】

飛行機の上。一面に広がる空の青。空と地面の境目に、濃くてぼやける緑。手前に近づくに連れて、段々と乾いていく大地。色は赤。そして最寄りの眼下は黄色に近い黄土色。

なんて色のグラデーションなんだろう、と思いながら流れていく景色を見ていた。

こんなに乾いた大地は、見たことがなかった。なんだこれ。ケアンズ、ゴールドコーストと海沿いを南下しながらやってきた。ここへきてシドニーを経由して、オーストラリアの

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吸い込まれそうな青い目の沈没【オーストラリア・バイロンベイ】

吸い込まれそうな青い目の沈没【オーストラリア・バイロンベイ】

通りの奥に、これからまさに歌い始めようとする人を見つけた。男の人が、ふたり。

ギターを持って視線を下げる、小麦色の肌をした髪の長い人。その一歩後ろでバナナをフォークで切りながら、ミューズリーらしき何かをボウルに入れて、これからまさに食べようとしている人。

歌う人と、食べる人。何なんだその組み合わせは、と思って視線を彼らに投げること数秒。

その隙を掴まれる。

目が、合った。そして私を見つめて

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名前も知らない誰かと人生を交わして【オーストラリア・ケアンズ】

名前も知らない誰かと人生を交わして【オーストラリア・ケアンズ】

今日はどこかで仕事をしよう、と思ってケアンズの街をふらつく。この街には、あまりWi-Fiが飛んでいるカフェがなさそうだ。

店は、17時、18時には軒並み閉まる。電源があっても、Wi-Fiがない。Wi-Fiがあっても、電源がない。あるのは、プールと海だ。あとは1食18ドルくらいする、食事とドリンク。

あんまり仕事、しすぎんなよ、ということか。だって、仕事も遊びも、あまりもう区別がないんだもの。何

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旅に出られなかった過去の私への鎮魂【オーストラリア・ブリスベン】

旅に出られなかった過去の私への鎮魂【オーストラリア・ブリスベン】

どうして私は、移動を続けるのかな、とずっと思っていた。

色々理由はあるはずだ。海外が好き、知らない世界が見てみたい。

今はもうないけれど、旅や移動を繰り返し始めた頃は、「ここではないどこかに、きっと」「きっと私の求めている何かが」。

成田からケアンズへ向かって、すでにいくつかの街を訪れてみた。

キュランダ、パームコーブ、ポートダグラス、ゴールドコースト、ブリスベン。

昨日は、ブリスベンを

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続く海岸線と、日焼けの止まらない肌なのに【オーストラリア・ゴールドコースト】

続く海岸線と、日焼けの止まらない肌なのに【オーストラリア・ゴールドコースト】

朝起きたら私は知らない人の家で寝ていて、そこがゴールドコーストだってことに、気が付く。

Airbnbで泊まる家は、割と吟味する方だと思う。できれば女の子のホストの家、難しいならばせめてカップル、代理店などお店を営んでいるおうち。

中でも今回のおうちは、かなりの当たりだな、と朝6時の朝日の中で思う。

ゴールドコーストの中心部、サーファーズパラダイス近郊。海までは徒歩5分。駅まで2分。悪くない外

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