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ALBUMS OF THE YEAR 2021 by 高橋アフィ

 2021年はありがとうございました&2022年もよろしくお願いします!2021年の私的ベストアルバム10枚+αです。

2021年雑感

先に総評として5つのトピックス。

  1. 「アンビエント」「チル」から「メディテーション」「スピリチュアル」へ
     「チルくて気持ち良い」リラックスムードを求める方向から、そこから更に精神世界への探究や覚醒を求める方向に深化した印象。一番わかりやすい作品としてはJon Hopkins『Music For Psychedelic Therapy』ですかね。
     「コロナ禍で自分と向き合う時間が増えた」という気もしますが、昨年のNetflixのドキュメンタリー『サイケな世界 ~スターが語る幻覚体験~』とかアニメ『ミッドナイト・ゴスペル』的な話な気もする。多分来年もトレンド。

  2. 即興演奏の再解釈
     ベルリンのジャズシーン(Petter EldhやChristian Lillingerなど)をみていると、ヨーロッパ的なフリージャズや即興を再度現代ジャズ的な、つまりビートが細分化された観点から捉え直している気がしました。あるいはSam Gendelの瑞々しい演奏の質感も即興的といえば即興的な。その人の味やミスやヨレとしてきたものを意識的に強く音楽の基盤に入れているように思えます。

  3. 「新たな解釈が面白い」から「似ている所が面白い」へ
     Silk Sonicですね。とはいえニューエイジっぽいやつとか(あえて)スタンダードなジャズとかも、(元ネタとの)違いを探すよりも似ている所を探す方向になってきているように思います。その似方で楽しむというか?当時の質感を積極的に取り入れたMakaya McCraven『Deciphering The Message』もその一つかも。
     これは「歌(メロ)はあまり寄せきれない/寄せない」(現代的なフロー感が入ってしまう/入れたい)という前提ありきな気もしますが、どうなんでしょうか。

  4. 親密さ/速度を感じさせる音源
     デモ的な親密さ、出来てから届くまでの速度が速い(と感じさせる)音源が増えた気がします。別の言い方をすると、非プロダクション感の入れ方が重要になってきているというか。即興性/偶発性が入っているものやローファイ感も、ある種の非プロダクトのイメージなのかなと。

  5. 完全に馴染んだアフロビーツ系
     「2,4にアクセントが来る」だけでは無い世界になりましたね。とはいえ、ドラム的にはそこまでそのブームは来ていないように思えます。このリズムのムーブメントがプレイヤー的な方向まで広がるのか、それともある種DAW的なビートとして止まるのか気になるところです。
     ドラムで取り入れ辛い理由として、アフロビーツ系はバスドラとスネアだけで聴かせるというよりは、複数の打楽器が重なって成り立っているのがあるかと思います(少なくともシェイカーとクラップくらいは重ねたいですよね?)。ちょっとポリっているというか、複数アクセントというか。ここを解決するドラムの奏法が見つかるかが一番の鍵か?

 それでは特に印象深かった2021年のベストアルバムです。

#10 
Petter Eldh "Projekt Drums vol. 1"
(Edition Records)

 プロデューサーPetter Eldhとしての才能が発揮された、ドラマーのリズムをメロディアスに解釈したとも言える異色のコラボ作。
 Petter Eldhはスウェーデン出身、現在ベルリンを中心に活動しているベーシスト/プロデューサーで、自身のユニットKoma Saxoの他、Christian Lillingerの作品やY-Otisなどに参加しています。
 本作はEric HarlandやRichard Spaven、Nate Woodなどを現代ジャズのトップドラマーたちを招き、一曲ずつコラボしていくアルバム。なんですが意外にドラム中心に聞こえないバランスが面白く、ドラマーのリズムの癖をアレンジで取り込んでいくような作りが異質でした。フレンチホルンやマリンバ、フルートなどが加わることで、ビート・ミュージック的な世界観からより広がった音像になっており、DAW的変態感というより何がどうなって作れられたわからない変な音楽になっています。
 そして何よりもこのポップさ!数々の尖り具合を超越するメロディ/リズムセンスの良さが素晴らしいです。演奏の方向も実験的だし結構欧州フリーな文脈もあるはずなんですが、そこをビートミュージックやクラブシーンとの繋がりを感じさせる世界にまとめる、かつ実験性は強く残っている状態に聞こえるのが凄いですね。USやUKのジャズからは出てこなかった、新たな「現代ジャズのポップさ」がここに花開いているように思います。
 ちなみにPetter Eldh参加のThe World『Kosmos』も滅茶苦茶良かったです。

#9 
Mndsgn "Rare Pleasure"
(Stones Throw)

 ここ数年のStones Thorwの集大成では無いでしょうか!Mndsgn5年振り、3枚目のフルアルバム。
 ヒップホップの印象だったStones Thorwですが、ここ数年はBenny Singsなどのポップな方面、Jamael DeanやKieferなどのジャズ/演奏、そしてRejoicerなどのRaw Tapes周辺、など色々なベクトルに音楽性を広げている印象でした。

 が!!すべては一つだったのです!

 という印象になったMndsgn『Rare Pleasure』。チルアウトの感覚を突き詰めた結果、演奏だからこそ表現出来るスムースさと小洒落た変拍子、そして甘いコーラスワークと、プロデューサーがひなたぼっこしながらみる夢みたいな音で素晴らしかったです。激スムースで甘く、メロウでサイケデリック、浮遊感とビート感が違和感無く共存する極上空間でした。
 KieferやSwarvy、Carlos NiñoやMiguel Atwood-Fergusonが参加しています。

#8 
Dean Blunt "BLACK METAL 2"
(Rough Trade)

 個人的Dean Blunt元年!フォーキーなギター中心のラフな作りにぼやくような歌/ラップ、他人のデモをこっそり聞いてしまったようなドキドキ感が良かったです。
 つまり音源としての親密さと速度が凄く、出来たものをその場で聴いているような、ある瞬間をそのまま体験しているようなアルバムでした。そっけないジャケ含めて完璧。

#7 
Little Simz "Sometimes I Might Be Introvert"
(Age 101 Music)

 プロデューサーinfloの凄みでした。自ら元ネタを演奏し、それをサンプリングする手法はSaultでも見られましたが、本作でついに完成したように思います。サンプリングのマジックを起こす、そして突き詰めればその元ネタたちがレコーディングされていた録音状況に着目する、というこだわりまくりの音作りが素晴らしかったです。
 レコーディングにおけるノイズや荒さを積極的に取り出し、それをエディットすることでヒップホップ的な快楽をより強化する、というのは、実際バンドのレコーディングでも使えそうな手法だと思いました。

#6 
Nate Mercereau "SUNDAYS"
(How So Records)

 「エッジーなアンビエント」というよくわからんジャンルを開拓していました。ギターシンセを使用するNate Mercereau、Carlos NiñoやJosh JohnsonやJamire Williamsが参加したアルバム。アンビエントの音色のみがそのままバキバキのシンセになったような音楽で、チルでは終わらない音の強さが面白かったです。
 個人的にはこの前身がOPNなんですが、本作の特徴ははっきりとメディテーションやアンビエントの質感があることだと思います。音色へのフェチズム的な方向から、その強い音色を残したまま音を混ぜて溶かしていく感覚が入っているのが素晴らしいですね。

#5 
The Zenmenn "Enter The Zenmenn"
(Music From Memory)

 詳細不明の謎の新人The Zenmennのデビューアルバム。ニューエイジの怪しい部分のみを取り出したような音楽性でずっと笑ってしまいました。スピリチュアルな雰囲気はあるんですが、なんというか良い意味で軽薄で、その猥雑さこそ僕たちが昔のニューエイジに惹かれる理由なのかもしれません。
 中国?日本?のような音色の使い方もフレーズも荒いんですが、結果どこかわからない桃源郷のような音楽になっています。「どこにもない理想的なアジア(?)の音楽」=地球に存在しないという意味では、もはや宇宙的でもあって面白いです。
 これが嫌な悪ふざけに聞こえない理由は、音楽への絶妙な距離感と一方でメロはきちんとポップであるバランスかと思います。謎の新人というポジションだから出来た気もする快作。

#4 
feeo "feels like we're getting older doesn't it"
(Upcycled Sounds)

 ロンドン拠点のシンガーfeeoの初となるEP(今まではシングルのみ)。あえていうならエクスペリメンタルR&Bでしょうか。アンビエントR&BとUKエレクトロが混ざったような、浮遊感あるけど低音ゴリゴリ聴かせる音がカッコ良かったです。
 トラックが特徴的な人だと思っていたら、ライブ動画を見たらルーパーを駆使したかなりディープな演奏で、歌はR&Bベースだけど音楽性はMoses Sumneyなどから考えた方がわかりやすいかも?声に向き合った結果エクスペリメンタルになった(フォーマットからはみ出ていった)ということかもしれません。

#3 
BADBADNOTGOOD "Talk Memory"
(XL Recordings)

 Arthur Verocai優勝ということでもあります。BBNG、3人編成になっての新作。ミックスはRussell Elevado。
 (良い意味で)勢い系だったバンドが紆余曲折を経て、再び勢い系に戻ってきた感動です。ライブでの弾けるような勢いをそのままに、そしてさらに研ぎ澄まされていて素晴らしかったです。即興性が一つのテーマのようで、非プロダクション的な面白さを入れ込んだ音楽性は、生々しいし圧があるミックスも相まって過去最高の演奏に。
 だけだと結構荒い音源にもなりそうなんですが、そこを埋めるArthur Verocaiのアレンジが流石でした。Hiatus Kaiyoteでもその手腕を発揮していましたが、フリーキーな演奏をスムースにも聴かせるのは、レジェンドだから出来る技かなと思います。
 個人的には初めてなくらいスピリチュアル/メディテーション感あったのも良かったです。Laraajiの参加はもろですが、それ以外にも全体的に演奏の方向性がだいぶLA的(というかCarlos Niño周辺)な雰囲気に。しかもそれがあるからこそより演奏が弾けたように感じました。

#2 
Nala Sinephro "Space 1​.​8"
(WARP)

 UKジャズ・シーンで活躍するカリブ系ベルギー人の作曲家/ミュージシャンのデビュー作。モジュラーシンセやペダルハープを演奏する他、録音やミックスなども行ったとのこと。
 UKなりのスピリチュアル・ジャズという感じで、USでのスピリチュアルの磁場から離れた、エレクトロと融合していくスピリチュアル感が良かったです。別の言い方をすると、Sun Raを通らずに作れたスピリチュアル・ジャズというか。これは本人がパワフルな楽器を使っていないからこそという気もします。
 それと同時に品の良さが面白いですね。メディテーションやサイケな雰囲気はありつつも、UK的な丁寧さを凄い感じました。ある程度腕力的な所が問われがちなスピリチュアル系において、匿名性があるサウンドでアプローチしていくのは新たなやり方に思えました。

#1 
John Carroll Kirby "Septet"
(Stones Throw)

 アンビエント/ニューエイジの今まで取り上げられてこなかった側面に着目したようなStones Throwからの2枚目。前作のチルなニューエイジ作から一転、リズムを強調したアルバムに。80sや90sを過渡期の面白さとして取り上げている気がしてます。音が割れちゃっている感じ含めて、今までのニューエイジのイメージを覆すような、かつ結果凄いスピリチュアルにも感じるのが良かったです。
 John Carroll Kirbyは本気かネタか曖昧、というかそういう概念で捉えてもしょうがない感じが好きなんですよね。The Zenmennで書きましたが、それ以上に存在自体が猥雑で、これこそニューエイジだ!というかっこ良さでした。こういう音楽は匿名的になりそうなんですが、思いっきり顔を出していく感じ、それがメロをはっきり弾ける強さにもなっていると思います。あと衣装が割とタンクトップなのが意外かつしっくり来て好きです。

 次点はSam WilkesやHiatus Kaiyote、Mild High Club、Julian Sartorius、Eli Keszlerなど。今年も豊作でした。

最後に印象的だったライブ動画を3つ。

 音源だとちょっと距離を感じたTIrzahですが、ライブ動画滅茶苦茶良かったです。そこから音源戻るとより楽しめます。

 ベルリンのジャズ・シーンの面白さことY-Otisです。Petter Eldhが参加。全員複数の楽器を使い分けながら音を作っていく感じが、良い意味で素朴な感じというか(全部滅茶苦茶上手いけど)、ジャズ的な身体性と少しずれる感じで面白かったです。

 配信ライブの絵面一位でした。オブジェクトして人を呼ぶのは最高ですね。この派手な装飾に負けない、アルバムの世界観、そしてそれをライブで再現/アップデートしているのが素晴らしい。

 今年はTAMTAMの音源を自分でミックスしたり、ソロ作をついにリリースしたり、自分で積極的に動こうという年でした。来年は人といろいろやるのを目標にしたいですね!

それでは2022年もよろしくお願いします。

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