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グラハムテクニックにみるダンスの言語

アメリカモダンダンスといえば、マーサ・グラハム(1894〜1991)。
グラハムはモダンダンスを技法として確立、いまもダンスの基礎訓練として活用されているのがグラハムテクニックです。

イザドラ・ダンカンの時代はダンス表現に変化が生まれた、モダンダンス初期といわれます。

グラハムが影響を受けたルース・セント・デニス(1879〜1968)も東洋文化をダンスに取り入れていたりと、表現を開拓した時代。

ここで考えたいのは芸術動向として、変化が現れ→変化の特徴が確立し→また変化するという繰り返しのなかで、グラハムはその確立に位置し、その位置によってモダンダンスの特徴が捉えやすくなるのではということ(グラハムは自らをモダンではなくコンテンポラリーと呼んでたらしいけど)。

そんなグラハムのテクニックは、コントラクション(緊張)とリリース(弛緩)が土台のシークエンスです。


藩麗、頭川昭子の先行研究(1)では、グラハムのフロアテクニックとインドヨーガの関係が比較されていて面白かった。呼吸による緊張と弛緩、背骨へのフォーカス、床での動きに共通点があり、東洋的な動きや思想を取り入れることで、それまで西洋のダンスではみられなかったフロアテクニックや、呼吸と動きの連動から肉体の情動性を作りだしていったのですね。

技法というのは身体訓練法ですが、訓練の目的はダンス表現として舞台作品を立ち上がらせることです。例えばダンスが身体から発する言語だとするならば、技法によってダンス言語を同じくする事でどんな効果が生まれるでしょうか?共通多数による説得力や動きが揃う美しさを見るものに与えるかもしれない。作品における空間支配を強めインパクトを与えるかもしれない。このダンス言語の構造ってバレエも同じなんですよね。バレエ形式からの脱却をしていったモダンダンスですが、共通の言語で舞台作品をつくるという意味で再形式化していったともいえます。

逆にいえばこの形式化がモダンダンスとしての確立であったんですね。体系的なテクニックは伝わりやすさでもあり、マーサ・グラハム舞踊団は健在でグラハムテクニックは世界中の多くのダンサーに影響を与えています。グラハムは100以上の作品を遺していてそれもすごいのだけれど、バレエと別軸のダンス言語をつくり新しい形式を成立させた功績が素晴らしいのです。

モダンダンス中期は、グラハムをはじめとしたダンス言語の開拓ともいえる新しいテクニックが生まれた時代。というかその開拓は現在進行形で、ダンス言語の探求はコンテンポラリーダンスに移行しつつ続いています。


Ben Schultz PeiJu Chien Pott and Lloyd Knight and 0ther dancers from the Martha Graham Dance Company in Night Journey
Photo by Brigid Pierce
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/newyork/detail003790.html

参考文献
註(1)藩麗、頭川昭子「マーサ•グラームのフロアー•テクニックとインド•ヨーガとの関連」『身体運動文化研究』7巻1号、2000年
小川原春恵「マーサ・グラハムとグラハム・テクニックについて」『東京女子体育大学記要』第15号、1980年
和田春恵「"クリュタイメネストラ"とグラハム・テクニック」『藤村学園女子体育大学紀要 』第16号、1981年
白須尋子「コンテンポラリーダンス論」『東京学芸大学紀要』第5部門、48号、1996年

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