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午前4時。
陽の光の要素など微塵もない。

月影で碧(あお)く煙(けぶ)る寝室の中。
体内で一番重たいボールを少しだけ持ち上げる。

ちくしょうという思いと
ありがたいという思いが
一緒に胸の奥に宿り
取っ組み合いの喧嘩をする。

どうやら今日はちくしょうの日だ。
しかもちくしょうにも負けている。

3回戦どころか、1回戦で負けたボクサーみたいに
重たいボールはシーツの海へと沈む。

もう今日はこのまま負けだ。
ずっと勝っていなくたっていいじゃないか。

自分でも格好悪いとわかる負けの言葉を羅列する
動きの鈍い重たいボール。

そうか………今日は負けるのか。

ふいに横から強い力が
ぎゅいと腰のあたりを
ベッドの淵へと押し出した。

あ、起きてるのか…?

当たり前だ。
開店直後のパチンコ屋さながらに
盛大に目覚ましを鳴らしているのだから
起きていないはずなどなかった。

それでもまだ決心がつきかねて
今朝、何度目かの突っ伏しに溺れようとした時
横で小さくクスクスと笑う声が聞こえた。

残酷である。
だが、この残酷さがとても優しい。
そこに私は惚れたのだ。

はい、はい、はいと
口の中で空気を噛み潰しながら
私は体を一気に起こした。

一斉に秋の終わりの冷たい粒が
体の中に入って弾(はじ)ける。

あ、おはよ。
自分自身につぶやいてみる。

おはようさん。
ねぎらいのありがとうが
今日はやっとこさで勝てたようだ。

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