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「美しい」の先を創る。燈師~あかりし~ 服部高久さん

寺社仏閣や日本庭園などを中心に、和を基調とした光表現「燈明」-みあかし- をデザインする照明デザイナー。燈師(あかりし)でもあり、上達を確約するテニスコーチでもある、世界でただひとりの異色のクリエイター 服部高久さんにお話を伺いました。

■服部 高久(はっとり たかひさ)さんプロフィール
出身地:東京都世田谷区
経歴:12歳からテニスを始め、現在もプロテニスコーチとして活躍。2009年から照明デザインの第一人者、河原武儀氏に師事。2015年にSPACE CALDOを立ち上げ、寺社仏閣や庭園のライトアップ、舞台、作品展など、空間を演出する照明デザイナーとして活躍。2018年法人「SPACE CALDO Inc.」を設立。
主な受賞歴:
2013年 目白庭園「秋の庭園ライトアップ」デザインコンペ最優秀賞受賞
2014年 目白庭園「秋の庭園ライトアップ」デザインコンペ優秀賞受賞
照明学会認定 照明コンサルタント

Q.どのような夢やビジョンをお持ちですか?

服部さん(以下服部、敬称略):幾つかありますが、ひとつは日本全国を桜の開花を追いかけるように縦断しながら、日本中に燈明を広げていきたいです。もうひとつは、日本人が持つ独特な感性や繊細さなどの「和の世界観」というものを世界の方々にも伝えていきたいです。
そして一番の最大の目標は、視覚障害者の方にも楽しんでいただけるような光表現をしたいということです。なぜならば、私の燈明(みあかし)というものは五感覚全てで楽しんでいただくものなので、通常光は視覚で見るものですが、健常者とか障害者というようなものは関係なく、それぞれの持っている感覚を使って楽しんでいただけるのではと思っています。そして視覚障害者の方々は、我々には分からない視覚とは違った、何かもっと鋭い感覚を持たれていると思うんです。それがどういうものなのかを理解した上で、感覚を研ぎ澄ませられるような空間を創り出し、全ての人とその場の感動を共有したいと思っています。将来的にそれが実現したら、ライトアップと燈明との違いがはっきりすると思っています。


記者:ライトアップと燈明の違いをもう少し詳しく教えてください。

服部:一般的にライトアップというのは、樹木や建造物に光を当て、対象物を浮かび上がらせ綺麗に見せていきますが、私の場合は、まずその場所の歴史、文化から紐解き、数分間の「ものがたり」を作ります。そのものがたりにちなんで名称を決めたり、シーンを展開、細分化するんです。

光の動きや色の変化などで魅せていく。対象物を浮かび上がらせたり、その場所に光を当てるのではなく、その場所を浮かび上がらせ、場所と人を繋げる、そこが神社仏閣であれば、神仏とそこにいらして下さる方をつなぐ、それが燈明です。

記者:正に見えるものと見えないものも表現されている感じですね。


「美しい」の先を創る。
そこに居続けたい、ずっと観ていたいと思う空間


服部:視覚だけではなく、場の空気感、香り、音、味など五感で感じられる空間を追求しています。ですので、観る方の感覚や考え、感性によって観え方が異なっていきます。何度足を運んでいただいても、その時その時の見え方や感じ方が違う、発見がある空間、常に「美しい」の先を創ることを心がけています。

「美しい」の先ってどういうこと?ってよく聞かれるんですけど、それは、ずっとそこに居続けたいと思うこと、ずっと観ていたいと思ってもらえることが「美しい」の先だと規定しています。私は、お客様と感動の共有がしたくて、できる限りイベントはその会場に常駐してるんです。静か~にお客さんに紛れ込んで(笑)。そうするとお客様の生の声が聞けて、お客様の感動で自分もまた感動するといった、感動の連鎖が起きるのが好きで、そのひと時を大切にしています。

Q.ビジョンを具現化するために、どのような計画を立てていますか?

服部:実はまだ立ち上げてさほど時間が経っていないんです。燈明は神社仏閣、日本庭園とも相性が良いので、まずは認知度を高めるために、お寺さんのコミュニティに参加したり。あとは視覚障害者の見え方・感じ方の研究をしています。実際に眼科医さんのお話を聞きに行くこともあります。


Q.今の活動に至るようになったきっかけは何ですか?

服部:私は元々はテニスの指導者です。ジュニア時代からプレーをしていました。光に興味を持ったのは、たった7~8年前です。
以前から建築や洋服といったモノ・デザインは好きで、たまたま自宅のリビングを改装をする中で、照明器具や配置を変えて工夫してみました。すると、家具を変える云々ではなく、光で空間がガラッと変化したんです。そこで初めて、「光ってすごいなぁ」と興味を持って、自分の中に認識の変化が起きました。そこからのめり込むように光の勉強をして、照明の会社に入ってもっと光のことに携わりたいと履歴書も送ったのですが、企業もビックリしたんでしょうね、テニスコーチやってた人が何で照明?って(笑)。見事に落ちました。そんな時、知り合いの方から日本庭園のライトアップコンペに誘われて、そこで最優秀賞をいただいたことがきっかけです。


記者:初参加で初受賞も凄いですが、テニスと光のアートは全く違う分野に思えます。どのように意識の変化をさせているのですか。

服部:テニスを教えることも光のデザインも、自分の中では何の変わりもないんです。表現するツールが違うだけのこと。要は先にゴールを見据えて、逆算してデザインをしていきます。テニスを指導するときも、老若男女様々な方がいらっしゃいます。その方の目指すものや、指導者側の観点から観てゴール設定をし、そこからその方に合わせたカリキュラムを組んでいきます。光の表現も、最初にその空間を知り、歴史や文化に思いを馳せながら最終的なイメージを作ります。そこからシーンを作っていきます。

Q.活動を通してどのような認識の変化がありましたか?

服部:光の表現を追求していく中で、「和の心」を再認識しました。ある日本庭園のデザインをさせていただいた時、ふと和菓子という言葉が浮かびました。この日本庭園をお皿や漆器のように見立てたとき、和菓子をこの空間に表現するとどうなるだろうと。そうやって和の文化を知る中で、和菓子というものがどんどん自分の中で大きな存在になっていったんです。あの小さな数センチの中に四季を表現していたり、職人さんの技術だったり、正に芸術品なんですよね。とてもインスピレーションを受けます。そこから茶道、生花・・と和の世界観に触れていった時に、「日本」「和」への尊敬が強くなりました。

記者:最後に、座右の銘を教えてください。

服部:座右の銘は敢えて持たないようにしているのですが、「自信を持つこと」「自分を信じること」は常に思っています。また、日本人であることに誇りを持って、毎日を丁寧に生きたいと思っています。


記者:場と人を調和させる燈明、是非京都の神社仏閣でも、服部さんの光表現を5感で味わいたいです。近く体験できることを期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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服部高久さんの情報はこちら
https://m.facebook.com/spacecaldo
https://spacecaldo.com/
https://www.facebook.com/takahisa.hattori.18
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【編集後記】
インタビューを担当した森、山口、長尾です。テニスは1:1のスポーツ、光のデザインは「間」を大切に繊細な感性を追求されている服部さんが、まるで侍のように思えました。ふと仰った「天邪鬼なんです。人と同じというのが嫌で」という言葉の中に、真を追求する意思や精神的な力強さを感じました。軸があるからこそ、二刀流の生き方ができるのだと思いました。

今後のさらなるご活躍を応援しております。
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この時期はリライズ・ニュースマガジン"美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36

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