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社費と私費のどちらで海外MBAを目指すのが良いかの議論に終止符を

過去記事で最も読まれているのは、当初の自分の予想と異なり、以下の記事です。

考えられる要因としては、「社費」というキーワードが読み手の心をざわつかせる、そしてそのざわつきが「光と闇」という私の言葉選びによって一層大きくなっているというところです。

他方、中身は、社費派遣会社目線を中心に描写していますので、タイトルから期待される内容と実際の記載内容が一定程度乖離している可能性があります。

高評価をもらうことより少しでも新鮮な視点を授けることを優先しているので、そうだとしても何も気にしないのですが、今回はもう少し読者の視点に寄り添っている可能性が高い内容に仕上げます。

但し、この議論は元々可燃性が高く、客観的に書こうとする方が逆に反発を招きやすい可能性があるため、あえて通常より主観的かつ自分の体験に寄せて書くことを意識します。

そうすれば、「それってあなたの感想ですよね?」「そうです、かつ主に私の経験談です」ということで収まるかと思いますので。


社費 is to 私費 what 男性 is to 女性

受験英語で、"A is to B what C is to D"という構文があったことを読者の皆さんは覚えていらっしゃいますでしょうか(ご存知でしょうか)。

受験英語勉強以外でこれを見聞きした経験が一度もなく、受験英語と生の英語の典型的な乖離(あるいは死語?)なのかなと思っていますが、いずれにせよ、意味は「AとBの関係はCとDの関係と同じ」というものです。

ここで言いたいことは、男性と女性はわかりあえる部分も当然あるけれども絶対にわかりあえない領域が複数ある(例えば奢り奢られ論争?)、それと同じことが社費と私費の間にも成り立つということです。

海外MBAに行く人達は、通常社会人経験を一定程度重ねた大人なので、社費生が同級生の私費生にマウントを取ってとかそういう直接的な攻撃はしていない(少なくとも私の周りで観測したことはない)はずです。

しかし、社費と私費で求めているものと優先順位が違いすぎるので、ある程度の深さを超えると話が全く噛み合わない、したがって雰囲気悪化の回避のために深い話を避けた方が良いことが場面によってはあるというのが実態でしょう。

日本は市場全体で社費が50%もしくはそれを少し超えているくらいのはずですが、こういった状況を踏まえ、社費と私費のバランスというのは私の職掌においても、ほぼ日本のみながら多少考慮すべき事項になってきます。

結論、どちらかに極端な偏り(例:社費14名、私費1名)がなければ良いという程度の拘りしかありませんが、コミュニティの雰囲気及び特定の個人にとっての居心地といった観点からだけでも、この点は十分考慮するに値します。

私がIESE(イエセ)に入学する前の某学年において、社費と私費いずれかへの極端な偏りが両者の関係性を多少難しくしたという事例を聞いたことがありますし、そういう実例がなかったとしても、卒業した今、可能性として十分想像できる内容です。

そして、これをIESE独特の現象とみなし得る根拠は多くありません。

日本人の数がさほど多くない学校においては考慮するに値しない事柄かもしれませんが、逆に、日本人がそれなりに例年入学している学校を考慮する海外MBA受験生にとっては、その立場によっては、考慮するに値する切り口ではないでしょうか。

人生のオーナーシップ

別の記事でも述べましたが、前例に基づくと、私はあと3-4年待っていればほぼ確実に社費で海外MBA取得に踏み切れた状況をぶった切って私費でキャリアチェンジ目的のためにIESE MBAを志しました。

ちなみに、入学前の時点で、休職ではなく退職していました。

つまり理論上、タイミングこそ違えど社費と私費の両方を現実的に十分検討可能な立場にありました

「その時間軸で、ほぼ確実になんてある?」という疑問を持つ方もいるでしょうが、実際にそうだったし、それを事細かく納得感あるように説明することが本稿の趣旨ではないので、詳細は割愛します。

その前提で、私費で海外MBAに行って本当に良かった(社費で行かなくて本当に良かった)と、入学してから今までほぼ全ての瞬間でずっと思ってきました

社費を羨んだ文脈は、留学中の居住環境の差だけ(かつそれを初めて認識したタイミングのみ)です。

海外MBA前と比べて仕事の国際性が社費ではほぼ想定できないレベルまで増え、そこで活躍できる本質的な力も身につき、世界中に素敵で頼りがいのある友人及びそこから拡張可能性が大いにあるネットワークができてそれを使いやすい立場に落ち着いた、とか理由は色々あります。

それらの全てが重要でありながらも、もう1つ高いレイヤーから観察すると、結局、人生のオーナーシップを自分に手繰り寄せることができた、という言い方が最適な印象です。

もちろん、社費であってもそれは一定程度可能だったでしょうが、相対的な比較において個人差を度外視した場合には、私費で、前職から完全に解き放たれた状態の方がその度合いが大きいことにさほど議論の余地はないでしょう。

特に、日系企業においては、担う仕事と働く拠点という両面において会社側に生殺与奪権があるケースが大半で、私もその枠組の範疇にいました

私が海外MBA前に財務(戦略投資管理)の仕事をしていたのは、その前段階として希望していた2年間金融庁国際室への出向を受け入れるための対価だったので、出向後の状況として少なくとも短期的には受け入れる覚悟は早期からできていました。

社内で複数ある花形と言われていた担当の1つの仕事とはいえ、それは自分が好きで得意なことではなかったので、何らかの手段を通じて、中期的にそこからの脱出を試みることは、出向期間の前半から既に考え始めていました。

しかし、それを社内で実現することは色々痛みを伴うものだし実現できない可能性もあったし、そうした動きを取ることで前述の社費派遣の可能性も消滅していたかもしれなかったことも、時間経過とともに真剣に考えるようになりました。

つまり、逆に、社費で海外MBAを取得していた場合、自分が好きで得意というわけでも全くない財務の背番号を永遠に背負わされながら、自分に嘘をついて周りからの目線に寄り添った社内昇進を重ねる人生を歩んでいた可能性があります

海外MBAに行って自分に向き合うこととそれにあたっての視点が増えた結果、自分が成長したくもない分野に時間とお金を投資することへの拒絶感が増してもいました

また、働く拠点という観点でもリスクがありました。

前職での働く拠点に関するポリシーは、新卒の内定期間中に一度変化があり、国内に関しては東京も含めてではありますが全国転勤の可能性が3年毎にありました。

私は社会人最初の3年を新潟で過ごしており、それは最初の経験としては良かったし貴重でしたが、プライベートな事情も相まって、二度とこれ(自分で望んだわけでもない土地に会社から派遣される)を人生で味わいたくないという思いは強くなっていました。

それが海外であっても同様でした(若干、土地次第ではありましたが)。

例えば、私は米国への興味が希薄だし色んな別の感情もあるので、ニューヨーク駐在であっても極力拒絶したいと思っていました。

また、前職では、昇進する人ほど地方も含めた転勤が一層必要になると聞いたこともあります(但し、新型コロナウィルスを機に、国内であればフルリモート可になったような話も聞いたので、実態は知りませんが、多少変化があった可能性があります)。

それと比べて今の仕事は、担う仕事と働く拠点という意味で圧倒的にオーナーシップがあります

ちなみに、これ以上昇進しようとするとバルセロナに拠点を移す必要があるはずですが、色々な事情がありそれはできない/したくないのと、そもそも諸事情で昇進したくない、そしてそれを既に内部で公言済(ここにそれを記載できていることがそれとそれが今後も不変であることへの確信の証明)という状況です。

私のこの方針を知って残念だと指摘した人も複数名いますが、あえて指摘してくれる勇気と率直さには感謝するものの、私の人生のオーナーシップは私が握るので特段何の変化にも繋がりません。

また、そもそもフラットな組織なので、担う仕事という意味で、現在でも十分なオーナーシップがあります。

こう書くと、そのオーナーシップは海外MBA起因というよりこの仕事に帰する部分が大きいのではないかと指摘する人もいるかもしれません。

それに対して言えることは2つあり、まず1つは、この仕事は海外MBAがなければ少なくとも自分の場合絶対にたどり着けなかった到達地であるということです。

次に、全部と断言はできないしあくまで社費との相対比較ではあるものの、私費で海外MBAを志した方の大半は、どの学校かを問わず、卒業後の人生にオーナーシップを多く有している印象です。

社費と私費の「いいとこ取り」

学費の高騰や円安の影響による実質的金銭負担増を考慮した結果、以前よりも私費ではなく選択肢として存在する場合社費をまずは考えるという人が増えていても不思議はないですし、実際に私の観測範囲では増えている印象もあります。

似たような理由で、私費休職も以前より増えている印象があります。

私費休職はさておき、社費と私費の「いいとこ取り」をどう捉えるべきでしょうか。

「いいとこ取り」の具体的な中身として想定している内容としては、社費で一旦海外MBAを卒業し、タイミングはともかく、社費派遣会社に戻るよりも魅力的で私費生が目指しそうな選択肢を見つけた場合には転職する、というものです。

前提として、そういった行動に出た場合、留学中の関連費用全額(費用に含まれる中身はケースバイケース)の一括/分割返金を会社側に求められる場合と、留学後の経過期間に応じた漸減措置が取られた上での関連費用の一括/分割返金を求められる場合の2つに大きく分かれるはずです。

その負担分の一部を新たな就業先がカバーするなどの可能性もありますが、議論の些末な部分になりますので、ここでは割愛します。

また、そういった行動を取ることの倫理・道義的観点やその会社(後世の派遣生など)に残る可能性のある負の影響も、一旦割愛します。

その上で、その個人に関わるキャリア上のインパクトのみに焦点を当てると、2つ指摘したい内容が思い浮かびます。

第一に、「覚悟/準備」です

社費生の優位性は会社から選抜されている点及びそれがもたらす平均的な質の高さにあると考えられ、これは海外MBAの採用企業からもポジティブに捉えられる場合が少なくないでしょう。

しかし、一般的な就職活動同様、海外MBAにおける就職活動の文脈においても、準備の重要性は全く小さくありません。

退路を自分で断って覚悟が強い私費生の準備の度合いは、一般的に非常に高いものです。

就職活動におけるパフォーマンスを雑に二分するのであれば、個人の元々の資質と準備の度合いに分かれます

あくまで平均値としてながら、社費生は私費生と比べて前者の文脈で優位する可能性がありますが、後者をかけ合わせた時の総合値で劣っては元も子もないということになります。

つまり、社費生にとっては私費生に負けないくらいの覚悟を持ててそれに基づいた就職活動向けの準備ができるかが成功の鍵となります

うまくいかなかったら元の巣に戻ればいいやくらいの心持ちで就職活動に挑み、結局元の巣よりも魅力的な先からオファーを得られず元の巣に戻った事例は、他校も含め多数認識しています。

(もちろん、オファーをもらった上で元の巣と慎重に比較した上で元の巣に戻った例も一定数知っています)

第二に、「タイミング」です

例外もありますが、社費生として海外MBAを卒業したけれど私費生が目指す方向にキャリア転換した事例を俯瞰すると、基本的に卒業から近ければ近いほど成功率が高い印象です

ここでは、「成功」を、海外MBA後のキャリアチェンジ先として称賛されやすいものと関連づけて想定しています。

また、「近い」の時間軸としては、卒業後最大1年前後程度を念頭に置いています。

遠くなると成功率が低くなると考えられる背景としては、海外MBA卒として採用段階で特別扱いしてもらえる可能性は卒業から遠ざかれば遠ざかるほど小さくなっていくこと、及び、転職経験がないあるいは限定的な人としてのリスクを懸念視される可能性が高まる(社費派遣は一部例外を除きそんなに早いタイミングで発生しないことも背景)、等があります。

ということで、社費と私費の「いいとこ取り」をどうしても狙いたいなら「覚悟/準備」と「タイミング」の2つの切り口(+α)に留意するのが望ましいというお話でした。

ちなみに、私自身が社費留学していたとしても、就職活動に必要なレベルの覚悟/準備はできなかったと確信がありますので、やはり私費で正解でした。

議論に終止符を

さて、本稿のタイトルは「社費と私費のどちらで海外MBAを目指すのが良いかの議論に終止符を」でした。

結局、「終止符を打てませんでした(ごめんなさい)」が結論となります

私自身は、一切の躊躇いなく私費で100%良かったと思っていますが、それが他の人にも同様に当てはまるとは一言も申していません。

正直、社費で留学し卒業した人は社費で本当に良かったと思っているでしょうし、私費の人は私費で本当に良かったと思っているのが、ほぼ全ての事例に当てはまるのではないでしょうか

私も、そういった社費の方を論破するだけの理屈は何ら持ち合わせていません。

ステータスに関わらず、海外MBA留学した人は皆幸せ(というのは論理が一部飛んでおりずいぶん雑な結論ですが)ということで、めでたしめでたしです。

社費と私費の間で色々考える必要のある状況にいらっしゃる方は、目指す学校に関係なく、是非両者の話を聞いてみてください

ちなみに、蛇足ですが、私自身が私費であったことに大満足していることは、私の職掌上、私費を優遇(つまり社費を冷遇)することに1ミリも繋がりません。

私費の方が社費の方よりも望ましい結果をIESEの入学審査にて得られるとすれば、それは完全に個別要因です。



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