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「くまのぬいぐるみ」(06)

落としもの箱を組み立ててニスを塗り、しっかり乾かすのに2日掛かってしまったチャックまたち。その間くまさんはコグマとすっかり仲良くなり、もちろんチャックまもますます好きになっていました。

いよいよ落としもの箱を設置しようという日。その日はまた雨が降る、いつも通りの梅雨の日でした。

「くまさん、いよいよおうちに戻れるかな?持ち主さんが現れなくても心配しないでね。うちにいればいいんだから」
コグマはそう言うとくまさんをふんわり抱っこして頭をポンポンとやさしくたたきました。
「雨になっちゃったね、降っていない日にずらす?」コグマの様子を見ていたチャックまが訊きました。コグマがこたえました。
「ううん、あんまり長く一緒にいると、ずっと一緒にいたくなっちゃうから…今日でいい」

あの、くまさんを拾った日みたいなひどい雨ではありません。梅雨らしいシトシトと降り続く、鬱陶しいけどちょっとやさしい雨です。

チャックまがお腹から、自分用の大きい傘とコグマ用の小さい傘を取り出しました。そして、すっかりニスの臭いも抜けた落としもの箱の中にくまさんをそっと入れました。

「あっ!ちょっと待って…なんか木の端切れあるかな?」
コグマが急に言いました。チャックまが傘と箱を置いて、裏に入ってすぐにかまぼこ板くらいの木っ端を持ってきました。
「これくらいでいいかな?」

コグマはそこに、丁寧に『おとしもの』と書きました。
「これを箱の前に立てておこうよ!少しでも気付くように」コグマがにっこり笑ってチャックまに手渡しました。チャックまも喜んで落としもの箱のくまさんの脇にそおっと差し込みました。
「忘れ物はない?じゃあ行こう!」

いつもは二人でおしゃべりしながら楽しく歩く散歩道。でも今日はちょっとお話もとぎれとぎれです。コグマはついつい箱の中のくまさんを見てしまいます。この2〜3日の楽しかったことを思い出して、チャックまに『やっぱりおうちの子にしようよ』と言いたくなるのをグッとこらえたり、短い時間の中でもこんなに好きになるんだから持ち主さんはきっとすごく辛い思いをしているに違いない、と思ってみたり。道のりはそれほど長い距離ではありませんが、コグマの頭の中では色んな思いが渦巻きました。

「さあ、ここだよ、ボクがこの子を拾った場所は」チャックまが言いました。ついに目的の場所にたどり着いてしまったんです。周りを見渡すと、ちょうどいい感じに木の切り株があります。チャックまはその上に箱を乗せ、道の方に向けました。中のくまさんが居心地いいように慎重にお尻の位置を決めて置くと、例の木札をコグマに渡しました。
「これはコグマが置いてあげなよ」

コグマは慎重に『おとしもの』と書かれた木札を箱の前に立て掛けました。終わると二人で少し離れた場所から落としもの箱を眺めてみました。ちょうど道の曲がり角にあたっているので、どこから歩いてきても気がついてくれそうです。
「…良さそうだね」コグマがポツリといいました。

二人はしばらくそうして眺めていました。中のくまさんは、ちょっと心細そうでもあり、でも嬉しそうにも見えます。
「お祈りしようか」チャックまがいい、二人で心のなかで「どうか、どうか、くまさんが元の持ち主のところに帰れますように」とお祈りをしました。

「さぁ、せっかくだからお散歩を続けよう!また少ししたら、ここを見にこようね」チャックまが明るく言いました。

07に続く


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