子どもの方が、案外大人だったりする時もある。
べつになにってわけでもないのに、虫のいどころが悪いときもある。まさに今日がそれで、小さなことにイライラ。
いつもなら、笑ってすませられることに過剰に反応してしまう。
車からなかなか降りない娘に、ついイラついた声をかけてしまったり。飛びついてきたヒジが顔に当たって、そのヒジをガサツに払ってしまったり。お菓子を食べたいと騒ぐ娘とやり取りするのが面倒くさくて、イライラしながらお菓子を与えたり。
一つひとつは小さなことかもしれない。
だけど、いつもより3割増で感情的だし雑なコミュニケーション。
ひとつリアクションするたびに「いかんいかん」と思い直すけど、あんまりうまくいかない。小さな自己嫌悪が自分のなかに蓄積する。
子どもはこういう態度の違いを敏感に察する。いつもならご飯をつくっても、洗い物をしても平気で勝手に遊んでいるのに、今日は超かまってちゃん。
洗い物はできない、メンヘラみたいにまとわりつく娘にムシャクシャする、離れたら泣いたり不平をもらしたり、すぐに用を言ってきたり。
悪循環だ。
わかっている。
こういうときは、自分のやりたいことを全部投げ出して、できる限り娘のほうを向くのが、じつはいちばん自分を楽にしてくれるのだと。
娘に対して、イライラをぶつける苦しさはいつまでもお互いに残るが、終わらない家事は後でどうにでもなる。
洗い物もせず、部屋も片付けずに、お風呂に入った。
湯船で娘が水鉄砲に水を入れて、ぼくにわたす。
「はい、これ。パパ水鉄砲好きやろ?」
娘が、粛々とアンパンマン、ドラえもん、トナカイなどの小さなフィギアを浴槽のフチに並べてぼくを見た。
「これ、撃ってもいいで」
ピュッ、ピューッと撃つ。フィギアたちは水に打たれてパタパタと倒れて落ちる。娘がパチパチと手をたたいた。
「パパじょうずー! 楽しかった?」
真剣な眼差しで娘はぼくを見つめた。
ああ、この子は自分なりにぼくを楽しませようとしてくれていたんだ。
機嫌の悪い父親を、慰めて、笑顔にしようとしてくれていたんだ。
泣いたのも、いつも以上にまとわりついてきたのも、離れないでピッタリしていたのも、水鉄砲を用意したのも。
全部、彼女なりのトライアンドエラーだったのだ。
ぼくは、娘の顔を見つめた。
「パパ、今日はどうも調子が悪くて。イライラしててごめんね」
ちゃんと、言葉にして謝ろう。大人だけど、親だけど自分をうまくコントロールできない日だってある。
「まあ、そういうときもあるやろ」
そう言って、娘はぼくの頭をペシペシと叩いた。まったく、これじゃどっちが親なのかわかったもんじゃない。
ありがとう。
では、また明日。
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