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4月の雨の晩に、子猫を保護した

2度目の子猫保護

ある日の夕方、子猫の鳴き声をマンションの軒下で聞いた。そこは1年半前に先住猫(ミーコ・メス・1歳)を保護した場所だった。「もしかして、また子猫がはぐれているんだろうか?」と心配して懐中電灯を当てて覗くも、姿は見えない。

時間を空け何度か様子を見に行ったが子猫は鳴き続けており、夜になって小雨が降り始めても親猫が戻ってくる気配はない。その不安げな鳴き声に、いても立ってもいられず、夜の8時ごろ家族と子猫を保護することに決めた。先住猫ミーコも、同じ場所で鳴き続けていたのだ。「今回もうまくいくに違いない」と謎の自信があった。

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前回と同じ方法で挑む

軒下と地面の隙間は僅かで、手を差し込むことはできない。奥は土が窪んでおり、懐中電灯を当てるも子猫の姿を確認することは難しかった。先住猫の成功体験を思い出しながら支度を進める。

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始めに紙コップと突っ張り棒で簡単な柄杓を作る。先っぽに猫用ミルクを入れ、空腹に鳴く子猫をおびき寄せ自力で軒下から出させる作戦だ。そのためには子猫の位置を把握しなくてはならない。

鳴き声は聞こえてもなかなか姿を見せない猫。家族で雨の中やいのやいの言いながら懐中電灯を照らし、子猫の居場所を探った。

生まれたてほやほやの猫だった

焦れる気持ちと小雨のせいで、ずいぶんと長い時間がかかったように感じた。ジリジリした気持ちで窺っていると、カサっと小さな音がする。明かりを照らすと、奥の土の間からまだ目も開かない状態の小さな赤ちゃん猫が顔を覗かせた。先の丸い耳は頭の横にぺたりと張り付き、か細い尻尾が申し訳程度にお尻についているのが見える。猫というより、ネズミのようだ。こんなに小さな猫は初めて目にする。ビックリした。

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柄杓で奮闘

子猫はプルプルと震え、母猫を探して鳴いているようだ。こちらを警戒してか、顔を出したり引っ込めたりしている。地面に寝転ぶようにして、柄杓を慎重に子猫の元へ差し伸べる。(この作業は2度目でも苦労した)

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何度か失敗を繰り返し、ようやく子猫の元へ近づけることができた。ミルクに気づいた子猫はよほどお腹が空いていたのか、おぼつかない足取りでよちよちと必死に柄の先のミルクへ向かって歩き始めた。その様子は1年半前のミーコの姿と重なる。高ぶる気持ちを抑えながら、柄杓を少しずつ手前に引くと子猫も続いて這い出てきた。(すごく偉い!)苦戦はしたものの、ミーコとまったく同じ手順で子猫を誘い出すことができた。

身体をうっすらと覆う埃っぽい柔らかな灰色の毛は、濃淡でぼんやりと縞模様を描いている。両手ですくい上げると、突然大きな人間に捕まってしまった可哀想な子猫は、ピンク色をした小枝のように細い手足を必死にばたつかせていた。

何もかもが危うく生熟れのように見えるその生き物は、手の中で確かに温かかった。その驚くほどしっかりした鳴き声や、手に食い込む小さな爪の力強さは、先住猫ミーコを初めて抱き上げた瞬間をはっきりと思い出させた。手のひらから伝わる全ての感触に、生きようとする生き物のパワーを感じる。その熱量に、私は前回同様に深く感動していた。

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1年半ぶり2度目の子猫保護は、こうして無事に終えた。

その晩は子猫を温かくしてミルクをやり、小さな箱にカイロや湯たんぽを敷き詰めて朝まで見守った。子猫の様子や外見から、体調面の心配はそれほど感じることもなく人間もほっと一安心だった。

「既に老犬と猫がいる我が家でこの子を飼えるんだろうか」「譲る場合里親は見つかるだろうか」とか「親猫の去勢をしないとまた同じことを繰り返すんじゃないだろうか」と考えるべきことはたくさんあった。けれど空腹を満たした子猫が身体を丸め満足そうにすやすやと眠る姿を見ると、何もかもがどうでも良くなってしまう。

「また子猫の命を救った」という誇らしさにのぼせながら、箱の中で眠る小さな灰色のかたまりを何度も何度も覗きこんだ。

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まるこが我が家にやってきた騒がしい一日は、家中を興奮で満たしたまま過ぎて行った。これが1ヶ月ほど前の話である。

人生で2度も子猫を保護するとは。不思議な縁を感じながら、今日も子猫の成長を楽しく見守っている。