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イタリア旅行記2019⑤

■6日目:ローマ自由時間
8:00 am、今日は1日自由行動なので早朝から動く。観光地を回るというよりは、街歩きしながら現地の雰囲気を楽しむのがメインだ。タクシーでトレヴィの泉へ向かう。
 
・ローマの道事情
昨日の時点で思ったことだが、ローマは道が悪すぎる。歴史価値と景観のため道路は全て石畳のままにしてあるが、そのため超デコボコ。タクシーに乗っていても上や横に飛び跳ねるぐらい超揺れる。車酔いしやすい人は10分も持たないだろう。おまけにイタリア人は運転がかなり荒いので、急発進、急ブレーキは当たり前、強引な割り込みも良くあるので余計に車が揺れる。でも事故率は極めて低いらしい。不思議だ。
ちなみにこの石畳の道は歩いても相当疲れる。ローマは暮らすに適した街ではない。
 
①トレヴィの泉
8:10 am、早朝は人も少なく写真撮り放題。おまけに昨日に比べ少し晴れたので景観が良かった。

早朝のトレヴィの泉。街中にあるのでアパルトメントの影になってしまう
泉部分。でかすぎて写真に収まらない

付近の散策もしていたら8:30を過ぎてしまい、観光客も増えだしたのでナヴォーナ広場の方へ向かう。
 
②パンテオン
でかい(またか)。古代ギリシャのような円柱の石造り神殿で築2,000年らしい。遺跡というと僻地にあるイメージだが、ローマ遺跡は街中にしれっとあるから良いね。散歩のついでに見れる。

パンテオン全景。アパルトメントの隣に世界遺産がある
パンテオン正面。入口の扉の大きさに注目
パンテオン前のオベリスク。ローマはオベリスクだらけ

オベリスクとは記念碑のことで、主にエジプトで太陽神の象徴として飾られていた。それをローマの十字軍が戦利品として持ち帰った。つまり略奪してきたわけだ。そう考えると結構すごいモニュメントだよね。意味がわかると「う~ん…」となってしまう。
 
③ナヴォーナ広場
オベリスクと噴水で有名な広場。特にこれという場所ではないが、この周りにはレストランや教会が沢山あるので人の往来は多い。

ナヴォーナ広場とサンタニェーゼ教会。白と青が美しい

④カンポ・デ・フィオーリ(青果市場)
ナヴォーナ広場から少し南にある青空市場。野菜果物の他にもチーズやハムなども売っている。

青果は相場がわからんので安いかどうかはわからん

店員はほぼ黒人で、イタリア人はいなかった。ここもフィレンツェの露店みたいにヤバイとこかと思いきや、みな人当りが良く、日本語を話せる黒人もいた。申し訳ないが正直なことを言うと、イタリアにいる黒人=移民=詐欺・盗み、のイメージが強かった。
※補足
2019年は移民問題で治安が急激に悪化しており、ガイドさんからも「今までのイタリアとは違う」と釘を刺されていたため、必要以上に警戒していたのは事実だ。ミラノとフィレンツェでは怪しい動きをする黒人が多数おり(人込みを狙って何度も往復する、行く手を遮る、後ろから付けてくる等)、街中には警官だけでなくライフルを持った軍人(カラビニエリ)まで常駐しているほど。観光場所だけでなくただの広場や大きい交差点など、一定間隔で警官や軍人が立っており、特にローマは多かった。このぐらい軍人がいないと犯罪抑止できないほど治安が悪いというわけだ。イタリアというと華やかで美しい街のイメージだったが、そこそこ緊張感のある街になっていた、というのが実情だ。街を歩いていても観光6割、スリや黒人への警戒が4割と、常に気を張っている状態だった。
 
イタリアにいる黒人に対してはかなりネガティブな印象を持っていたのだが、このカンポ・デ・フィオーリにいる彼らはとても真面目で礼儀正しく、真剣に商売で稼ぐ、というやる気と熱意に満ちていて全く悪い気はしなかった。むしろイタリア人よりやる気があるので好印象だった。当たり前のことだが、黒人が皆全員危ない、というわけではない。彼らのように真面目に仕事に取り組んでいる人もいる。そんな当たり前なことすら忘れてしまうぐらい、当時のイタリアは治安が悪かったのだが、肌の色だけで人を判断してしまったのも事実だ。これは俺の幼いところだろう。反省すべき点だ。人種差別というのは、こういうところから生まれてしまうのだろうなと学んだし、多くは彼らへの理解不足から来るものだ。肌の色関係なしに、ちゃんとその人に向き合って安全かどうかを見極めよう、という風に意識が変わった。
これまでは白人のイタリア人だけ観察していたが、この一件からは黒人も同じように観察するようになった。良いチェンジだと思う。同時に、無自覚に人種差別してしまったことへの恐怖も感じた。気づけて良かったと思う。
 
ということで、早速カンポ・デ・フィオーリにいる黒人店員を観察してみた。すると彼らのほとんどが「ハロー、ニイハオ、コンニチワ、アニョハセヨ」と声を掛けてくる。なるほど、アジア人とはわかるが、日本人とはわからないようだ。チャオ!とだけ返して商品を見ていると英語で色々説明してくる。中には日本語で説明してくる店員もいた。思った以上に彼らは優秀なようだ。関西人のような押しの強さがある割に、意外としつこくない。観光客との適切な距離感をよく知っているのだろう。手慣れたものだ。
ドライトマトを見ていたらイタリア語で商品の説明をしてくれたんだが、流石に細かい説明まではわからず何回も聞き返していたら「イングリッシュ?」と聞いてきたので「ok」と答えたら今度は英語で話し始めた。かなり優秀じゃないか? 彼は商品説明に加え調理法やパスタソースの作り方まで教えてくれた。なんかもうその真面目さと熱意に感心してしまって、つい買ってしまったのだが、全く悪い気はしなかった。会計の時にサッとピスタチオの試食を持ってきて「うまいだろう?6ユーロでどうだ?」と。商売人としても十分優秀だ。ただ何となく買ったら負けみたいな気がしたので、ドライトマトだけにした。
近くでチーズも売っていたので試食して購入。リコッタチーズが300gで€7(840円)ぐらい。若干安い。
 
⑤サンタマリア・ソプラ・ミネルヴァ教会
一番行きたかった教会(ローマ唯一のゴシック様式)だったけどミサのため18:00まで見学禁止。18時以降はオペラの予定があったので断念。仕方ないので別の教会に行くことに。

サンタマリア・ソプラ・ミネルヴァ教会。ステンドグラスが有名

⑥サンタニェーゼ・イン・アゴーネ教会
さっきのナヴォーナ広場前の教会。ミネルヴァ教会に入れなかったので戻ってきた。中に入ってみると意外と華やかではない。教会というとすごい豪華できらびやかに飾り立てているイメージだったが、ここはそうではない。中央は飾り立ててあるものの、横や入口上部などは石むき出しのところが多く、打ちっぱなしのコンクリートのような無機質なグレーの壁だ。金がなかったのだろうか。
 
⑦ラ・カルボナーラ
カンポ・デ・フィオーリ近くにあるパスタ屋。カルボナーラ発祥の店らしい。妻が前々から「ローマのランチはカルボナーラ」と決めていたのでここをチョイス。カルボナーラ、カーチョエペペ、水、ソフトドリンクで€35(4,200円)ぐらい。

手前がカーチョ・エ・ペペ。奥がカルボナーラ

カーチョエペペはかなり黒胡椒強めだったが味はまあまあ。値段に見合っているとは言えないが、イタリアではまだマシな方か。カルボナーラはパスタがパッケリ(でかい筒状)だったので微妙だった模様。
 
昼食後はジェラートを食べ歩きしつつ、お土産を買おうと近場のショップを巡るものの、ナヴォーナ周辺には良い店がなかったのでレプッブリカ駅近くの大型スーパーに行くことにした。近くにホテルがなかったのでタクシー乗り場まで行ったのだが(この頃タクシーの手配はホテルフロントに頼むのが普通。今はUberとかで頼むのかな?)、ぼったくりタクシー:通称白タクに捕まってしまった。最初からメータを動かさなかったので、メータを動かせと言おうとしたが、若干歩き疲れていたのとレプッブリカ駅周辺のことを教えてもらっていたので、そのままにしてしまった、料金は€15(1,800円)。距離的に€8(960円)ぐらいだと思うが、まあ勉強代と思うことにした。タクシー乗り場で乗れば安全、という言葉を過信しすぎてしまったかな。イタリア語の参考書に「メータを回してください」という例文があったが、こんなの使わんだろうと思ってスルーしていた。よく使うから例文となっているのだ。勉強になる。
 
⑧サンタマリア・デラジェリ教会
レプッブリカ駅前にあるでかめな教会。外観は教会というより砦に近い。強そう。ぼったくりタクシーのおっちゃんに「ここも見学してみたら?」とオススメされたので一応寄ってみることに。
中に入ると外観と同じように、最小限の装飾しかない。質素なサンタニェーゼ教会よりも、さらに石むき出しの部分が多い。いや十分綺麗なんだが、それでもドゥオモとかと比べるとかなり控えめだなと思ってしまった。
 
ここでようやく気付いたが、街に多数ある、いわゆる「普通の教会」とはこのレベルなのだろう。今までミラノのドゥオモとかサンマルコ寺院、サンピエトロ大聖堂などの超豪華な世界遺産ばかり見てきたのでそれが「普通」だと思ってしまったが、このデラジェリ教会がいわゆる「普通の教会」なのだ。そうなると、ドゥオモやサンマルコ寺院がいかに異常で、いかに凄まじいかが今になってようやくわかってきた。ミラノのドゥオモも最初見たときは「でけぇ!FFじゃん!」程度の小学生並みの感想しか出てこなかったが、今思い起こすと完全に常軌を逸している、ある種の恐ろしさすら感じられるようになった。10mもある入口の扉、ビル10階建てぐらいの高さで吹き抜けのワンフロア、壁面に敷き詰められた彫刻とステンドグラス、確実にサイズ感を間違えていて異常としか思えない。

参考画像:質素なサンタニェーゼ教会内部
比較画像:ミラノのドゥオモ

確かにこれは世界遺産だわ。造りが異常すぎる。ローマの普通の教会を巡ることで、自分が見てきたもののヤバさを、今更になって体感した。
 
⑨大型スーパー
デラジェリ教会の目の前にあるはずだが、どこにも見当たらない。Google mapで調べて場所は間違いないが入り口もなければ店もない。色々調べていくと、なんと閉店していた! オープンして1年ちょっとで閉店してしまったらしい。どうりでタクシーのおっちゃんと話が噛み合わなかったわけだ。
俺「駅前のスーパーに行きたいんだ」
おっちゃん「? 駅前にスーパーなんかないよ?」
俺「旅行ガイドに載ってたんだ。高級土産も扱うスーパーらしい」
おっちゃん「いや駅前にそんな店なかったけどなー?」
 
仕方ないのでテルミニ駅(となりの駅)のデパートまで行くかと歩いていたら、変な中東系のおっさんに悪意を持って絡まれた。流石にイタリアも6日目で慣れていたので、毅然とした態度と大声で(他の人に聞こえるように)「俺は何もしてない、自信がある、俺が何をしたのか言ってみろ」と英語で5回ぐらい繰り返したら舌打ちと共に去っていった。どうも英語が通じていなかったようだが、観光客狙いのゆすりに間違いない。この6日間を過ごして、イタリアの悪意をもった連中は「スリや詐欺はするが、生死に関わる犯罪はしない」と何となく感じ取れていたのでここまで強気に出れたが、初日とかではこうはできなかったかもしれない(海外では下手に出ないのが鉄則。謝る=100%自分が悪いと認めた、になってしまうので死ぬほど付け込まれる)。
その後、ガイドさんとツアーメンバに遭遇。この先はカツアゲ集団がいるから通らない方が良い、と言われ、「早速さっき絡まれましたよ」と笑い話にした。テルミニ駅周辺はさらに治安が悪いらしい。日本でいうと上野みたいな場所なのだが。
 
15:00、オペラ座近くのショップに寄ったら良いお土産があったので購入し、一旦ホテルに戻り休憩。30分ぐらいしたら妻が再起動したのでローマ散策を再開する。ミネルヴァ教会に入れなかったのが妻の心残りだったようで、それなら北にあるポポロ教会に行ってみよう、ということになった。
 
⑩地下鉄に乗ってみる
ポポロ教会はフラミニオ駅の近くにあるので、どうせならタクシーではなく地下鉄で行ってみようということに。金の問題ではなく、現地の地下鉄に乗ってみたい、という俺の希望だ。
チケットはトラムと同じで時間制。100分乗り放題で€1.5(180円)。硬貨の入れ方が、昔のビンのコーラの自販機みたいなやつでちょっと時代を感じた(丸くくぼんだとこに硬貨を立てかけてレバーをガチャンと下にさげるやつ。平成生まれにはわからんだろう)。改札機は読み取り部分とチケットを挿入する部分がありどっちだ?と迷っていると、駅員が来てやり方を教えてくれた。やはりわからなくても行動すれば何とかなるものだ。
 
事前情報によると地下鉄はスリの巣窟らしい。テルミニ駅なんてでかい駅は特にそうだ。だが流石に6日間もイタリアにいると、やばい奴を見分けられるようになってくる(特に俺は人間観察しまくっていたので)。ポイントは警戒心だ。バッグを前に持って手で抱えている人や、ポケットに常に手を置いてガードしているおっさんなどは「盗られる側」なので安全。逆にリュックサックを背負っている人、ショルダーバッグを後ろにしている人、手ぶらでスマホを見てる、ケツポケットに財布を入れている等、スリを全く警戒していない奴は「盗る側」なので危ない。これらは黒人が大多数だったが、中東系もかなりいた。またこいつらは等間隔でいることが観察でわかった。乗車ドアがあるところにひとりかふたり、それ以上はいない。スリの効率を考えると確かにそうだ。一ヵ所に集まっても目立つしターゲットが減ってしまう。なので場所を移したのだが、恐ろしいことに全ての乗車位置に彼らがいた。いやちょっといすぎだろ…
 
観察を続けると警官がいないことにも気づいた。なるほど、街中には警官や軍警察がいるが、この地下鉄のホームには一切いない。だからスリがこんなにも堂々と居座れるのだろう。また地下鉄は€1.5(180円)で100分乗り放題となっているが、厳密には入場時間の制限で、出る時間は関係ない。つまり1回入場したら終電まで居座っても€1.5だけで済む。スリの巣窟になるわけだ。
 
地下鉄が来て乗り込むと、発車間際に黒人の若いやつが滑り込んできた。俺が乗ったのは2号車で、あえて階段から一番遠い車両を選んでいるのだが、そこに発車間際に乗り込んでくるのは明らかに不自然だ。近くにいたイタリア人女性はバッグを両手でガードしながら彼をガン見していて、横にいたおっさんもガン見しながらポケットをガードしていた。なるほど、ガン見が有効なのだなと気づいた。「おまえを警戒しているぞ」というアピールになるしね。
で、この若い黒人はバーをつかむために変な体勢で体を入れてきたので、俺もショルダーバッグをガードしながらこいつの目ともう一方の手を、わざとらしく見続けた。周りの人がこの黒人をガン見する中、こいつだけは視線をキョロキョロさせている。どう見てもスリだ。
その後、2駅で若い黒人は降りて行った。それだけでだいぶ気持ちが楽になった。周りの人も同じ気持ちだったと思う。何かされたわけではないが、スリと肩を並べてけん制し続けるのは人生初なので少しは緊張した。
 
地下鉄を降りた後、妻にどうだった?と聞くと、人生で一番怖かったと。確かにスラム街に紛れ込んだような閉鎖的な恐怖感はあった。ただ一般客もそこそこいたので(一般7:スリ3ぐらい)多勢の安心感はあったが、かなり危ない雰囲気なので観光客は乗らない方が良い。また「隣の女性はバッグをガードして、さらにチャックまで握っていた」とのこと。過去に同様のことがあったか、または誰かから聞いたのか、普通の感覚ではそこまでできない。バッグの底をナイフで切って財布を抜き取る奴もいるようで、地下鉄の治安は極めて悪い。
イタリアに来るまでは、イタリア=ユートピアみたいな綺麗なイメージを持っていたが、実際はそうではなかった。これも体験してみないとわからないことだね。日本にいては決してわからなかったことだ。
 
フラミニオ駅で降りると駅前には服の露店がたくさん並んでいた。ワゴンセール的な雑な取り扱いで店主はみな黒人、物色しているのも黒人でイタリア人はいない。肌の色だけで判断してはいけないと午前中に学んだばかりだったが、地下鉄を降りた直後は無意識に体が緊張してしまった。頭では理解しつつも、体は恐怖感を覚えている。
 
⑪サンタマリア・デル・ポポロ教会
フラミニオ駅前に大きなポポロ門があり、それを抜けたところにある教会。外観は修理中のためシートで覆われていた。中に入るとやはり町教会といった感じで石の部分が目立つ。というかそういうところに目が行くようになってしまった。こういった町教会を巡って普通の教会がどういうものか学習してからミラノのドゥオモやサンマルコ寺院に行く方が、真の観光と言える気がする。少しもったいない気持ちだ。
ポポロ教会の付近にも小さい教会が2つあるのでそこにも立ち寄る。ただ俺はクリスチャンではないし時間も押していたのでさっと中を見て後にした。
 
帰りはフラミニオ駅には戻らず、隣のスパンニャ駅まで歩くことにした。ポポロ広場からスパンニャ駅周辺まではファッション街になっている。イタリア旅行記念にジャケットを買いたかったので、メンズのスマートカジュアルを中心に回った。日本と比べるとスマカジ店はかなり多い。日本がカジュアル75、スマカジ5、セミフォーマル20だとしたら、イタリアはカジュアル55、スマカジ35、セミフォーマル10みたいな感じ。俺の好きな店がたくさんあって最高だ。価格はピンキリだがデザインの幅が広い。日本にない配色で攻めた感じの割に地味すぎず派手すぎずでバランスが良く、ボタンとか裏生地とか襟にこだわりがあって見ていて飽きない。堅苦しくなく品もあって、このジャンルがよく洗練されているとわかる。流石だ。
 
服だけじゃなくイタリア人は着こなしも上手い。50歳以上のおっちゃんでもタイトジャケットにニットマフラーとか攻めたコーデでも全く違和感がない。帽子とかアクセサリーに頼っていないのも印象的だった。ボトムスは皆一辺倒だったのでトップスで勝負する文化(流行?)のようだ。タイトジャケットで品のある人が多い。野生のジローラモみたいな「ザ・イタリア人」みたいなのも結構いた。
 
値段と好みのバランスを取って、途中で寄ったややフォーマルな店に戻った。若干予算オーバだったが(€140:16,800円)、配色とデザインが気に入った。仕事でも使えそうな紺のフォーマルで、控えめに白とオレンジのチェックが入っている。ぱっと見大人しい感じだが、オレンジでちょっと攻めているところが気に入った。日本にはない配色だ。試着しても良いか?とイタリア語で言いたかったが咄嗟に出てこず結局英語で。まぁ仮に言えたとしても、その後イタリア語で服のことについて会話できないだろうから、結局英語になったに違いない。
サイズを心配していたがMで案外ぴったりだった。でも店員からは「サイズはベストだけど、そのブルーのシャツとは合わないね」とはっきり言われた。これがまた新鮮で面白かった。普通言わんやろ、買おうとしてる客に店員がnot goodとか(笑)。気を悪くする人が出てきてもおかしくないが、逆に俺はこの店員に興味が湧いたのでトークしてみることに。
 
俺「このシャツがダメってこと?それともブルーが?」
店員「ブルーがダメ。でもシャツももっとフォーマル寄りのほうが良い」
と言って近くの白の小綺麗なシャツを見せてきた。おいおいそれも一緒に買えってことか?と営業トークを疑ったけどそうではなかった。
店員「ジャケットがフォーマル寄りだからシャツも合わせてフォーマルにした方が良い。白のシャツか、明るいカラーのハイネックは持ってる?」
俺「白のシャツならある。ハイネックはグレーしかない」
店員「グレーはやめよう。白のシャツに…ネクタイやマフラーはする?」
俺「あまりしないな。ほとんどシャツとジャケットだけ」
店員「そうか…白のハイネックがあれば首回りがベストなんだけどね。白シャツだけでも良いけどちょっと弱いから、明るい色のハイネックを合わせてみたらどうかな?」
俺「明るい色ねぇ…例えば?」
店員「ブルーでも良いよ。但し明るいブルーね。あとは薄いグリーンとかでも良いけど…でもやっぱり白かな」
俺「オーケイ。白ハイネックは難しそうだから、カラーハイネックを試してみるよ」
 
日本だと「似合ってますね~」とか「格好良いですね~」とか、「その服を着た本人」を褒めることが多いけど、こっちは「その服がどうすればカッコ良く見えるか」にこだわりがあるようだ。他にも「Tシャツに羽織るにはフォーマルすぎるからやめた方が良い」とか「かといって全部フォーマルにするとジャケットが浮くから少しはシャツを崩すべき」など結構細かいアドバイスまでしてくれた。たまたまこの店員がこだわるタイプだった、というだけかもしれないが、ショップ店員とこんな話をしていたら自然とコーディネート感覚も身につくのかもしれない。イタリア人がおしゃれな理由が、少しわかった気がした。
 
買い物を終えたのは18:00過ぎで外はもう真っ暗。あと€30ぐらい買えば免税になったが、無理して手間かけてまで買わなくても良いかと思い店を出た。帰り道でも気になるショップは沢山あったが、入ったらまた買ってしまいそうになるので外からのぞくだけにしておいた。気づけば地下鉄のチケットも残り10分ぐらいだったので足早にスパンニャ駅に向かう。またあの危険ゾーンに戻ってきたわけだが、2回目なのでそこまで緊張はなかった。
 
18:30過ぎ、テルミニ駅に戻ってきた。駅構内のスーパーに行こうとしたら死ぬほど迷った。GPSは合っているのにグーグルマップと駅構内のマップが全く一致しない。何回も往復してようやくスーパーへの入り口を発見した。30分くらい迷っていたと思う。
(なんとスーパーがあるのは駅ビルAのB1Fで、俺らは駅ビルBのB1Fを彷徨っていた。AとBは便宜上今つけただけで、そんな区分けは一切なく、同じ1つのビルとして標記されている。しかもこのAとBは同じビルで同じ場所にあるのに全く行き来が出来ない仕様。なんやそれ)
ようやくたどり着いたと思いきや駅地下なためか地味に高い。これならホテル近くのショップの方が安いということで結局何も買わずに出てしまった。
 
夕食はパニーノにしようと思っていたが、歩き回って疲れていたのと雨が降ってきたのもあって、座って食べれるところにした。本当ならうまいパニーノで最後のイタリアの夜を締めくくりたかったが、この後もオペラが控えていたのでレストランにした。頼んだのはトマトのピッツァとボンゴレビアンコ、それに水を併せて€37(4,400円)ぐらい。会社をクビになったらイタリアでシェフでもやるか、と自信を持たせてくれるような味だった。
 
その後はサンパオロ・エントロ・レムーラ教会にて、オペラ・アリアズを鑑賞する。通常のストーリーがあるオペラではなく、各オペラの代表曲(アリア)を順番に歌うコンサート形式だ。教会でやるというのも雰囲気があって良さそうだし、S席でも2人で€80(9,600円)とオペラ座の1/4だったので軽い気持ちでチケットを取ったが、結論を先に言うと人生で五指に入るほど良かった。最高過ぎた。それこそオペラ座が霞んでしまうぐらいに…
 
レムーラ教会は少し小さめの町教会といった感じだが、夜に教会に入るのは初めて。ステンドグラスやフレスコ画がライトアップされていて雰囲気が出ており綺麗だった。15分前に着いたらもう満席だった。時間にルースなイタリア人にしては珍しい。と思いきや、このオペラ・アリアズは席が先着順らしい。S席といっても、S席のブロックがあってその中で先着順になるので、俺らが到着したころにはS席の後ろの方しか空いてなかった。確かにチケットには席番までは書いてなかったし、どういうシステムかは調べてなかった。これも勉強かと思い素直に着席した。学習することばかりだ。そして先着順ならイタリア人は時間を守る、というか早く来る。これも意外な一面だ。

レムーラ教会、オペラ・アリアズ、S席5列目

開演と共に6人も伴奏者が出てきて驚いた。生演奏とは知らなかったからだ。バイオリン、ピアノ、フルート、オーボエ、ホルン、チェロの6人。教会なので音源再生だろうと高を括っていたが、これはかなり嬉しいサプライズだ。音源と生演奏とでは天と地の差がある。
1曲目は椿姫のプレリュードから始まったが、最初のバイオリンの1音で「これは当たりだ!」と確信した。過去一テンションが上がったかもしれない。音響が言葉にできないほど素晴らしく、バイオリンの音がとてもよく伸びていた。下手なコンサート会場より音響が良いまである。教会内部のぽっかりと空いた構造は、このためにあるのではないかと思うほど。今思えば聖歌やパイプオルガンをここで演奏するのだから、音響を意識して作られているのかもしれない。単純に俺がバイオリンの音色が好きというのもあるが、生演奏(しかも約3m!)は、やはりとても良いものだ。良すぎる。これなら1.5倍払ってVIP席(最前列)にすればよかったと本気で後悔した。
 
歌い手はソプラノ、テノール、アルトの3人。有名曲のアリアズと言えどオペラは詳しくないので、ほとんど知らない曲ばかり。それでもソプラノとテノールはパワーがあったので終始圧倒されっぱなしだった。声量と質がとにかく素晴らしい。1部のラストは椿姫の乾杯の歌。日本だと歌なしのクラシックBGMとして、多分誰もが一度は聞いたことがある曲だ。俺も「ああ、これ椿姫だったのか!」となったし、男女のデュエットというのも初めて知った。休憩中、頭の中でずっとこの曲がリフレインしていた。そのぐらいとても良かった。
 
10分の休憩をはさみ2部へ。2部のラストがネッスンドルマだったので、ようやく念願の生ネッスンドルマを聞けるのかと楽しみにしていた。しかも1部と同じテノールが出てきたので、席の下で小さなガッツポーズをしてしまった。このテノールは結構良い。彼が歌うネッスンドルマなら期待できそうだ。
 
プログラムも最後、とうとうネッスンドルマになってテノールが出てくると拍手と声援が1.5倍ぐらいになった。やはりみんな思っていることは一緒だ。ネッスンドルマの伴奏が生バイオリンで始まっただけでちょっと泣きそうになった。もうこの時点でだいぶ高まっている。歌は期待通りの内容でとても良かった。人生初の生ネッスンドルマですよ。途中でルチアーノやポールポッツとの歌い方の違いを発見して楽しんだり、後ろの席の奴が口笛でメロディを吹き始めてちょっと笑ったりした。「ああ、ここは自由な空間なんだな」と解釈して、自分も口ずさんで歌ったりと非常に心地よい瞬間だった。俺の他にも何人か歌っていた。この自由で、音楽好きが伝わってくる空間が最高に良かった。
余談だが、改めてルチアーノが化け物だったと再認識した。このテノールも十分素晴らしいが、どうしてもルチアーノのネッスンドルマが記憶にあるので、少しだけ物足りなさを感じてしまったのも事実だ。ルチアーノを基準にしてはいけないんだけどね。
 
俺は基本的にスタンディングオベーションをしない人だが、気づいたら立っていた。真っ先に立ったかもしれない。レ・ミゼラブル以来だ。文句なしに100点を付けれる内容だった。アンコールはずっとリフレインしていた乾杯の歌。まさかもう一度聞けるとはね。
イタリア最後の夜は、最高の夜になった。

その⑥に続く イタリア旅行記2019⑥|tomo_1851 (note.com)

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