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なぜお客さんは「この店は品揃えが悪い」と言うか

初noteです。何か書こうかなぁとずっと思ってましたが、そういえば毎週社内向けにマガジンを書いてるので、まずはその中で興味ある方も居るかもという内容の時に試しに転載してみようと思います。あえて社内向けほぼそのままで載せるのでその前提でお読み頂ければ。今回は「品揃え」について書きました。

はじめに

お客さまから見て「品揃えが良い・悪い」と感じられる事は小売業にとって永遠のテーマです。その方にとって「この店ならあるだろう」という期待(イメージ)に添えなかった時、「この店は品揃えが悪い!」となります。モチベーションクラウドのエンゲージメントスコアにも似てますが、この期待度と満足度を一致させた時に「この店は品揃えが良い!」と満足してもらえるのでしょう。
この品揃えの話につながる事で先週、あるIT企業さんから「棚割をAIで適正化するシステムを開発したので意見を聞かせて欲しい」と言われたのでお話を聞きました。その仕組みは簡単に言うとPOSデータから分析して自動的にその店ごとの最適な棚割を提案するというものでした。つまり個店ごとに変えていくという事です。そこで私からお話した事が私のというかチェーンストア上の考えにも繋がると思うので皆さんにも共有します。(ずっと変わっていないものですので改めてになりますが、ずれてきているかもしれないので)

「棚割」と「品揃え」

まずその会社さんの方々に前提としてお話させて頂いたのは「棚割」と「品揃え」の違いです。単なるIT会社の人と話すとそこがごっちゃになっている事があります。「棚割」は商品をどこの棚のどこの場所にどれぐらいの割合(フェイシング数と陳列量)で置いていくかというものです。まさに「棚割」です。「品揃え」はその前提でのどの商品をどのお店に取り扱うかというものです。これもまさに「品揃え」です。この会社さんが「棚割」の最適化と言ってたのは「品揃え」の事でした。
ちなみにアメリカのチェーンストアではバイヤーが品揃えを行い、別な役割の人が棚割を行うのですが、わが社及び日本では両方ともバイヤーが意思決定を行う事が多いです。「棚割」には陳列量も含まれるので、お客さまから見た時の選びやすさや訴求の観点の他にオペレーション上の観点が含まれます。わが社でもここがお店からのバイヤーへの不満になってると思います(笑)。(「何回も補充しなければいけない!」「入らない!」など)この辺の組織分担は色々と検討が必要でしょう。
どちらかと言うとここの陳列量の適正化にアルゴリズム(算法)とAIを使う方が有効でしょう。これは発注−物流−品出しまで関わるところなので自動発注システムへのアルゴリズムになります。ここから逆算しての陳列量を棚割に反映していくのはまだまだ不十分でこれから新自動発注システムとの繋がりの中で強化していく所でしょう。
(そもそも今回の提案はAIまでが必要かどうかは疑問でここ数年は何でもAIと入れてきます)

その店ならではの品揃えなどない

そのシステムは基本的にPOS解析をしてその店ならではの品揃えを提案していくというものでした。そこで話した事は「その店ならではの品揃えなどない」という事です。厳密に言うと「ない」というのは言い過ぎで経験上5%未満だと思います。一部の日配品や調味料などその土地ならではの嗜好性が高いものは確かにあると思います。薬などその店で一定のお客さまがついている商品もあるでしょう。そこは対応すべきものもあります。ただ全体で私たちが扱う日常品においては極めて少ないと言えます。私が卸で勤務していた時に何度もそのお店ならではの商品を提案してくれと言われ実施したのですが、特徴的な商品が何品かあるだけで、それが売れるととても売れた気になるのですが、結局そのカテゴリーの数字はほとんど変わらなかったです。その数%の売上の為にとても大きな労力をかけている事がほとんどです。それは当社に入社した後に商品部や営業をやってからも同じ事で大体5%未満でした。じゃあその5%を追求する事が意味のない事かと言うとそれは優先順位の問題です。チェーンストアでは誰もが(8割の人が)欲しがる商品がいつも最適化して品揃えされる方が95%を占めるからです。そしてその95%を完璧に出来ていて5%に注力できるチェーンはなかなかないのではと思います。この95%をどうしていくはとても奥が深く大変です。
当社では棚割のパターンを減らしていきましょうという事でABCパターンぐらいに集約出来ないかと取り組んでいますが、まだまだ出来ていません。棚割を変えていくのは改装などが絡む事があり時間がかかります。数年前に商品部と話したのはまさに「棚割」の前に「品揃え」のABCパターンの最適化を先に注力してきましょうという事でした。そしてそのABCのどのパターンでも取り扱うべき商品が全店での定番です。スポーツチームに例えるならスタメンです。このスタメンは常にその時のチームの最強でなければいけません。AやCのパターンにいるスタメン以外の補欠にこれから伸びる、またはすでに活躍している選手がいればスタメンにしていかなければいけません。またはチーム外に大活躍する選手がいるかもしれません。その時々のコンディションや環境で組むべきスタメンも変わっていきます。そしてこのスタメンの最適化をする為にはデータを出しただけでは終わらずにそれを実行するまでの様々な努力が必要になります。
ですので残りの5%以下に注力していく労力はなかなか取れないでしょう。そしてこのシステム屋さんに言ったのは「その店ならではの品揃えを求めてアルゴリズムを回していけば、やればやるほどこのスタメンを調整していく事に繋がりますよね?」という事です。「そうなりますね。」とそこに居た小売出身の方が言いました。「だったら遠回りせずに最初からスタメンを作るためのアプローチのシステム作りにした方がいいんじゃないんですか?」と言うと苦笑いをしていました。恐らく各企業に蔓延している「その店ならではの品揃えをしましょう!」という当時卸時代に言われてたような所に引っ張られているのですが、ニッチな分野を行う大商圏型のお店ではない日常品を扱う小商圏型チェーンストアではそのアプローチでは成果が出ないでしょう。小商圏型チェーンストアの役割は人口が少ない場所でも成り立つ8割の人に支持されるお店なので。
このシステムを使うと結局はチェーンストアの標準化の品揃えに向かっていくにも関わらずその店ならではの品揃えを一度行うという無駄な労力を割く事になるので小売業(チェーンストア)の為にならないというのが私の意見の結論でした。
そしてこの品揃えの考え方のように標準化とは金太郎飴の事ではなく常に最適化をしていくという意味だと付け加えておきます。


「品揃え」を良くしていくという事

「言ってもらえれば何でも品揃えをします」という方針をとってお客さんの全ての要望に答えていくと棚と売場面積がいくらあっても足りません。

※客注取り寄せは別でそれを定番にするという行為の場合
※何でもありますというのはAmazonなどのECが実現しており、私たちはその次にはOMOを取り入れたサービス作りをしていく必要があるのですが今回はそこは置いておいてリアルに絞って話をします。


そしてそこに対応していくと誰もが欲しい、数量の売れる商品の陳列量が圧迫されて欠品を起こし結局は「品揃えの悪いお店」となってしまいます。当社は様々なカテゴリーでSKUの削減を行っていってますが、SKUを削減して売上が下がったカテゴリーはほぼありません。(嗜好性の高いものやパーソナルケアでは一部あります。)。基本的に黙ってると様々な意図でSKU数は増えていくものです。
以前のコラムでお店に入る前から決めている計画購買とその場で決める非計画購買の割合は2:8〜3:7と言われているという話を出しましたが、その中でも無意識での意思決定をしている商品が多くを占めます。無尽蔵にSKUを増やしていくのではなく、いかに選びやすい売場にしていくかが重要になります。ずばりその商品でなくても代替でこれで良いよねと思ってもらえる品揃えも出来ます。
そしてお客さんがわが店に求める期待値をコントロールしていくのがフォーマットと戦略です。どう狙いをつけてどういうお店と見られたいかという意思が必要です。それは今行っている「なら屋」づくり(核カテゴリーづくり)もそうです。 ○○を買う「なら」、この店「なら」あるだろう品揃えと売場づくりをして狙ってお客さんの期待値を上げていき、それに応えていくというものです。新製品などもそうでしょう。この店のこのカテゴリーならいち早く取り扱っているはずだなど。そうしてお客さまに支持される事でお店が強くなり「この店は品揃えが良い」と思ってもらえるのです。
また、私たちのお店にはこのカテゴリーやこの購買頻度の商品はありませんよという割切りをする事でこのお店の役割ではないと認識(イメージ)してもらう事も必要です。「ここに無いのはしょうがない」と思ってもらえれば「この店は品揃えが悪い」という事が無くなっていきます。極端な話、サツドラ に釘が無くてもお客さんは「やっぱり無いか」と思いますが、ジョイフルさん(大型ホームセンター)に無ければ「何で無いんだ!」と思うでしょう。
私たちはその地域においての自分たちの役割を見極めて、自分たちの意思で何を強くして何を割切るかでこの期待値(イメージ)のコントロールをしていかなければなりません。それを作っていくのが差異化であり「らしさ(ブランド)」に繋がります。
補足ですが、そのお店ならではの品揃えは地域によってSKUごとではなく品種ごとには発生はします。私たちで言えばホームグッズに多いですが、都市部と地方では他の小売の店舗が少ないので(買い場が少ない)、より小商圏型のチェーンストアではその役割が大きくなるからです。よく「小さな町ほど大きな店を作れ」というのはそういう意味です。そしてそのお店ならではというのは個店ごとではなくてフォーマットごとです。私たちも地方でより大きいゼネラルフォーマット(生活総合タイプ)が活きてくるのはそういう理由です。
これらが「品揃え」を良くしていくという事だと思います。

いいお店づくりが出来る様に頑張りましょう。

▼SKUや品種の意味


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