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【春秋一話 09月】 他企業の不正問題を他山の石に

2022年9月19日第7162・7163合併号

 日野自動車が日本国内向けエンジンの排出ガスや燃費の不正が発覚したと発表したのは今年3月のことである。2020年に発覚した北米向けエンジンの認証問題の調査と並行して、国内向けエンジンの調査も行っていたが、その調査の結果、排出ガス規制適合とされていたエンジン3機種について不正が行われていたとして、該当のエンジンを使用している大中型車種の出荷を停止する措置を取り、特別調査委員会を設置して調査を行ってきた。
 その調査結果が8月2日に発表されたが、日本の伝統ある企業における企業体質の問題点を見ることができる。調査委員会の報告を引用して検証してみたい。
「みんなでクルマをつくっていないこと」
 一連のエンジン不正はエンジンの性能試験などを行う部門がある「エンジン開発部門」で発生していたが、日野自動車では長年「エンジン開発部門」のエリート意識がはびこっていた。他部門からその部門に対しては物が言えない雰囲気、また所属する社員も横柄な態度であったという。ただ、委員会はこの部門だけに問題があって発生したことではなく、組織全体の企業体質そのものに問題があったとしている。
「世の中の変化に取り残されていること」
 社内では部署間の連携がうまくいかず、組織内で見落とされがちな業務を「三遊間」と表現し、組織変更が多く行われることで「三遊間」とされる業務が増え、責任の所在が曖昧となってしまっていた。
 また、副社長を退任して技監となっていた役員による指示が絶対であり、元役員から示されたエンジン燃費の目標が達成できない見込みにもかかわらず、誰もそのことに対して異を唱えることがなく、目標達成が可能だと上部に報告するなど、上意下達の気風が強すぎるパワーハラスメント体質な組織だったと言える。
「業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたこと」
 日野自動車は、2001年にトヨタが株式の過半数を取得して子会社となっているが、「トヨタと同じやり方をやっていれば問題ない」などの意識が蔓延し、「トヨタグループだから大丈夫」という驕りの意識があり、適切なガバナンスが効いていなかった。
 この調査報告が発表された20日後、新たな不正が発覚した。3月に発表した不正は大中型車種と限定されていたが、同様の不正が小型トラックに積載しているエンジンの排ガス試験でも同様に行われていた。8月2日の記者会見から20日しか経っていないこの時期に、新たな不正が発表されるのは異例である。これもこの企業の体質を物語るものではないだろうか。
 これらの結果、不正問題の発表から半年経過後、国内生産の6割が停止されており、その影響は自社だけでなく、取引先や販売店にも広がっている。部品やサービスなどの取引先までを含めると国内だけで約5000社。生産停止が長期化すれば経営難に陥る部品メーカーが出てくるかもしれないとも言われている。
 国土交通省は9月9日、道路運送車両法に基づく是正命令書を日野自動車に交付し、「組織風土や体質に重大な問題がある」として1か月以内に再発防止策を報告するよう求めたが、職場内の風通しという組織風土についての是正命令に対して、日野自動車がどのように改善を図るのか、今後の報告が注目されるところだ。日本企業に根強い組織風土の問題、「対岸の火事」とせず「他山の石」として、これからの企業経営に活かしていくべきであろう。
(多摩の翡翠)

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