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ルージュ・ベロアーズって?|MIDNIGHT MOTEL 再編集記 <#2>

※『MIDNIGHT MOTEL 再編集記』は初回<#1>及び最新一記事のみを公開し、次回記事をアップするタイミングで前回記事は非公開となります。

演劇作品に限らず、映画やドラマなどの映像作品をオリジナルで制作する際、まず初めにプロットと呼ばれるストーリーの骨子のようなものを考えるのが一般的です。しかし泊まれる演劇では、まず舞台となる空間コンセプトの定義をおこないます。それはイマーシブシアターのシステムゆえでもありますが、コンテンツの魅力を最大限に高めるためには、「会場(泊まれる演劇の場合はホテル)の空気感と相乗効果が生まれるコンセプト」がなにより重要だと考えるからです。

空間には、その場特有の魅力があります。それはホテルの意匠デザインのような表立ったものから、その街に流れる空気感だったり、駅から目的地までの景観の変化だったり、会場スタッフの話し方や癖など細かいものも含めて、様々な要素が折り重なることで、唯一無二の”らしさ”を生んでいます。一般的な舞台や体験型イベントは、空っぽのステージやスタジオなどのに大道具や小道具を足して、「別のどこか」へと変容します。しかし、私たちの舞台空間は元々ゼロ(=空っぽ)ではなく、1.1だったり2.0だったり原数値を持っています。なので、同じ四則演算に例えると、足し算ではなく掛け算的な組立て方が合理的です。その街や建物、季節などの定数(=地形)を調べた上で、水の流れに抗うのではなく、その流れとできるだけ同じ方向に向かってオールを漕いで、速度を相乗的に高めていくイメージです。
『藍色飯店』はこの思考プロセスから生まれた作品で、HOTEL SHE, OSAKAという施設のハード面はもちろん、大阪弁天町という街の雰囲気や(周辺を散策してみると「◯◯飯店」といった中華料理屋が多く見つかったりします)、上演する時期(年末という、懐古的な気分に浸りやすいシーズン)など、その要素を演出として組み込める設定になっていました。

では2021年版のMIDNIGHT MOTELはどうかと言うと、2022年の今振り返ると、(原数値を意識した)”らしさ”の追求に大きな余地があったと思います。正確に言うと、”らしさ”は見つけられたのですが、それが明確化したのは開幕後のタイミングだったのです。

実は2021年版は、公演の最後の一週間だけ、エントランスの美術が変わっています。中盤まではなかった深紅のベロアのカーテンが、ホテルの入口が覆い尽くしたのです。これは開幕後すぐに、美術家の竹内さんに「エントランスの装飾を変更したい」と相談して、一からデザインしてもらって終幕の少し前に設置されました。すでにチケットも完売し、残り公演も少なく、ゲストの満足度も高いことがわかっていたので、ビジネス的にはほとんど意味のない投資です(笑)
ですが、この「深紅のベロアカーテン(=ROUGE VEROURS)をつける」演出こそが、2021年版から2022年版への進化の象徴となりました。
夏の訪れを肌が感じはじめる夜に、九条駅からの一本道を南下すると見えてくる、暗闇にぼんやりと浮かぶ真紅のカーテン。ダウンタウンには似合わない、大人を気取って背伸びしたルージュの色。その不釣り合い感こそが等身大のモーテル・アネモネの姿であり、カーテンの先で視界を覆い尽くす甘美を装った光景こそが、不器用に廃れてゆくモーテル・アネモネの最期に相応しいと思ったのです。

背伸びして予約したお店で大切な人に別れを告げるように、卒業パーティーに母から譲り受けたドレスを着てゆくように、あらかじめ決められた最後に向かう時、人は悲しみではなく、力強い美しさを持つと思うのです。
ROUGE VEROURSはその「最後の一日」を、昨年とは異なる考え方で再構築してゆきます。

抽象的なコンセプトに感じられるかもしれませんが、泊まれる演劇のクリエイターたちは「再演では”ROUGE VEROURS”のサブタイトルを付けたい」と伝えただけで、その余白を鋭く読み解いてくれました。きっと、それだけで十分なんじゃないかなって思います。
チームでモノづくりをする上で、個々で思い描くイメージがバラバラなコンセプトだとダメですが、そのチームの技量や経験に則した”余白”は、表現の幅を広げるためにとても大切だと思います。

きっとnoteを読んでくださっている方には、『ROUGE VEROURS』が最終的に何なのかピンときてない方も多いかもしれません。もっと的確なコトバで伝えられれば!と思う反面、今のままでいいんじゃないかなとも思います。コンセプトはあくまで共創する上での指針でしかなくて、その抽象的なコンセプトをクリエイティブにして、目に見えるカタチで具現化するのが、私たちの存在意義だからです。

結局コトバで届けられる情報は、リアルな体験と比べるとずっと少ないのです。こうしてnoteでテキストにしているのは、コストをかけずに届けられるのと、「来てもらえればわかります」って簡単に言いたくないからです。でも本心では、やっぱり体験して欲しいから、手の届かない所へ梯子をかけるように、コトバやデザインを駆使して「来てください!!!」って叫び続けてるわけです。

でもやっぱり、私たちは体験を作るチームです。テキストでも映像でもなく、これからも体験を作ってゆくんだと思います。だから一番大切なことは体験で伝えたいし、伝わって欲しいと願ってしまいます。コトバで伝えられないものにこそ、未来を感じるから。
なので、『ROUGE VEROURS』が何なのかは、最後は体験を通して知って欲しいです。ごめんなさい、最後はやっぱり、来てもらえればわかります!で締めさせてください。


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▼『MIDNIGHT MOTEL’22 “ROUGE VELOURS”』、チケット先行抽選を4月17日(日)まで実施中。


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