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私のダンナが辞めるまで(22)

帰還

「もしもし…」
電話越しの夫の声は明らかに元気がなかった。
-まだウチにいるの?
「いや、もう自分の家の最寄駅。」
-そう。

(あぁ、家に帰れる。)

「あの、あのさ…俺、お前に間違ってるって言ったけど、間違ってなかったかもって。」

-はい?

この1時間で一体何があったのか。
まさか母!?いや、私の母には口止めした。
そもそも私と電話していたのだから話す時間などなかった。
夫は話しにくそうに黙っている。勢いで電話してしまったのだろう。

-寒いから、まずはお互い家に帰ろう。 着いたらまた電話して。

そうして私の短い短い家出は終了した。

価値観

しばらくして、電話が鳴った。
少し頭が整理できたのか、夫はゆっくり話し始めた。
「俺、絶対俺が辞めるのはおかしいって言ってくれると思って、□□(同僚)に電話した。そしたら、すごい怒られた。」
□□は私たちが唯一、会社で心を許せる同僚だ。
彼は夫と長い付き合いで、現在は私と一緒に仕事をする機会も多く、夫のことも、私のこともよく知ってくれている。

-で?なんて言われたの?

「お前は相手のこと考えてなさすぎ。嫁が勢いでこんなこと言うと思うか?将来的に、2人とも長く働くために考えて言ってるんじゃないのか?
嫁が辞めて、もし仕事が見つからなかったら、お前が養えるほど甲斐性あるか?そこまで考えたか?考えてないよな?そんな気持ちなら結婚やめたら?嫁が可哀想。

男女関係なく普通の転職だろ?やりたい仕事のスカウトなんてそうそうない。恵まれてるって分かってるか?

てか、俺と話してる場合じゃないだろ?
迎えに行けよ、馬鹿野郎!」

そう言って電話が切れたらしい。
思わず吹き出してしまった。裏表のない、彼らしいアドバイスだ。
夫は少し間を取って、ポツリと言った。

「あのさ、俺、会社辞めるわ。」

-えぇっ!?

つづく…


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