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先生は教えてくれない大学のトリセツ

この本の著者は法政大学キャリアデザイン学部准教授田中研之輔という方ですが、読後に友人(社会人)が現在この先生に修士課程でお世話になっていることがわかりました。なんという偶然。

前々から自分のnoteでも書いていますが、日本の教育は問題だらけです。その中でも一番の問題は大学受験を含めた高等教育(高校卒業後の教育)だと思っています。この本では、学生たちが大学生活をどのような心構えで臨み、そして充実した学生生活を過ごすにはどうすべきかということが、3000人以上の学生を見てきた立場から書かれています。大学生活を非生産的に過ごし、後悔している自分としては、高校時代(または大学時代)に読んでおきたかった一冊です。

大学の授業と言えば200人から300人入るような大教室で大学の先生が90分間ひたすら専門の話をしているといった風景を思い出しますが、それは私の頃も今も大して変わりはありません。日本の大学は総じて学生と教員の比率が欧米のそれよりも高く、この授業形態はなかなか変わりません。であれば教授たちが授業を工夫して面白くできればいいのですが、もとものと大学教授は研究の専門家であり、教育に対してプロフェッショナルの意識が低い人も少なくありません。

そんな学習環境の中、「意識高い系」の学生は自分でしっかりと学びを深めていきますが、その他大勢の一般的な大学生たち(私も含めて)は大学受験で燃え尽きてしまい、大学生活=モラトリアム(大人になることへの逃避期間)と捉え、サークル・バイト・コンパなどに命を懸け、本分である勉強を全くしないという惨状は今も昔も大きく変わりません。(自分のことを戒めています・・・)

ちなみに日本の大学生は小学生よりも学習時間が少ないというデータもあります。

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これは本書には書いてありませんが、個人的には大学の教授陣にもっと教育者としてのスキルアップをしてもらう必要があると思います。予算の問題で講義の受講者数を減らすのは簡単ではないと思うので、となれば教える側の考え方とアプローチを変える必要があると考えます。まず90分講義型授業を廃止しましょう。下記のLearning Pyramidが示す通り、「講義」の学習定着率はたった5%です。

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しかも90分をずっと集中していられる人はなかなかいません。なので、授業時間を60分に短縮し、教授はICTを駆使しながら、インタラクティブな授業を実施することが理想です。高い学費を払っているのだから、大学側には相応の経営努力が必要なはずです。先日読んだ『東京貧困女子』に出てくる授業料を払えない女子大生、奨学金で人生を破滅する女子大生などのことを考えると、大学の授業の質をなおさら上げてほしいと願わずにはいられません。

上記の私の私見はさておき、本書では大学生活を充実させるための対処法があれこれ書かれています。例えば、講義に対しても「30分に1つの質問メモで講義を楽しむ」、休講などで生まれた空き時間の使い方、情報収集の仕方、など大学生にとって結構ためになることが書いてあります。著者は、

「大学で大事なことは、授業内容をそのまま覚えることではなく、なぜそうなるのか、他の見解はありえないのかというように、絶えず自分の意見や見識を述べること」

とも述べており、全くその通りだなと思いました。(中学や高校でも同様だと思います)

他にもアウトプットを習慣化すること、プレゼンを趣味にすること、論文の書き方、アルバイトやインターンの活用法、就活の話など有益な情報が詰まってます。中でもプレゼンに関しては私も日々生徒に指導しているので、備忘録としてこちらにまとめておきたいと思います。

プレゼンの内容に関するポイント
・プレゼンテーションの目的は明確に設定されていたか。
・先行する知見(専門知識や先行事例の結果)について十分に調べられていたか。
・個別事情の分析はできていたか。
・事例の分析結果を、独自の視点から解釈できていたか。
・分析結果をもとに、まとめができていたか。
プレゼンテーションのやり方に関するポイント
・参加者全員に聞こえるはっきりとした声で発表していたか。
・参加者全員が理解できる声量で発表し、難しい場合には補足説明を加えていたか。
・手元のメモばかりを見ずに、身振り・手ぶりを交えて発表ができたか。
・参加者の理解度を確認しながら、インタラクティブに進めることができたか。
・プレゼンテーションの時間を守り、時間配分は的確であったか。

毎年多くの生徒を大学に送り出す高校教師という立場として、日本の高等教育の質の向上を願ってやみません。同時に、他力本願ではなく、自分ができることとして、どんな環境でも自ら学び続けることのできる自律的学習者を育成することを目標とし、日々精進していきます。


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