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最底辺層を指導できるのはどんな教師か

家庭教師の話題がコンテンツになることは少ないので珍しい動画だと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=GlwADTbAkRY  (貫太郎さんに家庭教師の極意を教えてもらいました!)

数学YouTuberとしておなじみの鈴木貫太郎さんの家庭教師体験談ですが、お話によると15年くらい家庭教師をしていたようです。その結論として、うまく行く生徒とうまく行かない生徒にはそれぞれ特徴があったと言います。

うまく行った生徒は、塾や予備校に通っており、学習計画のもとに日常的に勉強する習慣が出来上がっていたそうです。その土台の上に、分からないポイントを解説する形で家庭教師が介入すると成績が伸びるケースが多かったそうです。

うまく行かなかった生徒は、塾や予備校に付いて行けずに辞めてしまったような生徒たちだったと言います。彼らの場合はそもそも学習習慣がありません。生活の中に勉強を組み込むということが出来ないのです。こういう生徒に、せいぜい週2時間くらい勉強を教えても、焼け石に水です。そもそも勉強しない生徒には打つ手がなかったと言っています。

要するに、塾や予備校についていけなかった子の親が、藁にも縋るような思いで家庭教師を依頼してくるようなケースでは、効果は見込めないということです。これが貫太郎さんの15年の経験が導いた結論なのです。

さて、家庭教師に依頼される案件は、最上位層(トップ・オブ・トップ)か、もしくは最底辺層(ボトム・オブ・ボトム)の生徒が多いとされています。そして、両者を教えるためのスキルはまったく別物なので、教師としては、どちらを指導する仕事をするのかを明確にしたほうがいいと思います。

最上位層を指導するために必要なのは、マニアックなまでの教科知識です。元予備校講師や、元高校教師、あるいは大学院経験がある人に一日の長があります。メインターゲットは医学部志望生になるでしょう。家に金があり、浪人を厭わない彼らは教育業界にとって重要な顧客層です。ただし、家庭教師を依頼してくるようなケースでは、往々にして生徒がメンタルトラブルを抱えている場合も少なくありません。単なるオタク教師では良好な関係を築けないかもしれません。

最底辺層を指導するために必要なのは何でしょうか?私はこの問題を数年来考えてきました。そういう生徒を任されるケースが多かったからです。貫太郎さんが「指導不可能」と言っていたタイプの生徒たちです。実際、私が指導しても、成績は上がりませんでした。ただ崩壊を食い止めるのが精一杯でした。(崩壊とは、10点台とか、そのレベルの点数になってしまうことです。彼らは気を抜くとすぐにそういう点数を取ってきます。)

私も貫太郎さんも、おそらく最底辺層の指導には向いていないのだと思います。数学という教科も合理性・論理性を重んじる学問ですが、勉強の仕方や物事全般の考え方についても、私たち教師は基本的に合理性・論理性をもとに計画し、判断しています。一般の方々もそうでしょうが、とくに子どもに勉強を教えたいと思う教師が、より知性に重きを置く人生観を持っていることは当然でしょう。私も、少しでも知的な人間を社会に増やしたいと思っているから教師の仕事をしているわけです。そして、非常に残念なことですが、そういう教師ほど、最底辺層の指導には向いていないのです。

なぜなら、最底辺層とは、本質的に知的でない人間だからです。人格・性格・価値観・志向・脳機能・認知機能・情動機能等のすべての要素において、彼らは知的ではありません。知的な要素がないのです。お分かりでしょうか?非知的な構成要素たちによって、彼らの人間性は安定した体系を為しているのです。それは非常に強い安定状態であり、外からどんな刺激を加えても、すぐに元に戻ってしまいます。我々教師にこれほど徒労感を与える生徒はいません。何をやっても無駄であり、教育という仕事そのものにも挫折してしまいかねない、危険な顧客だといえます。

私のケースをひとつお話ししましょう。中学受験で偏差値の高い中高一貫校に合格したものの、その後ほとんど成長せずに高校生になってしまいました。成長しなかったのは本人のせいではありません。遺伝と発達の問題です。たまたま12歳程度の知能で成長が止まってしまったのです。(聞くところによれば小学生時代にADHDの徴候がかなり強く出ていたそうですから、発達上の問題は以前から抱えていたことになります。)学校の授業はもちろんチンプンカンプンで、ノートも取らずに寝ていると言います。課題は提出日の前日に徹夜して答えを丸写しして提出。試験の点数はせいぜい30点台です。私の授業がなかったら10点以下になるかもしれません。そのくらい自分で勉強できない生徒です。

集中力が本当に短いので、定期試験前の一週間や二週間で一気に詰め込むことができません。準備がまったく間に合わないのです。こういう生徒は試験には不向きです。私は30点台で仕方ないと思っています。ただし、集中力が短いのだから、普段から少しずつ勉強しなければならないと話します。それが合理的な作戦だと説明します。普段もやらず、試験前もやらなかったら、成果が出せるわけがないからです。自分に出来るほうで努力すべきです。でもこういう話が通じないんですよ、彼には。合理性とか計画という言葉には始めから拒否感があるようです。「それが出来たら苦労しないっすねー」「自分はその場その場の直感で動くタイプなんで。計画とか立てないタイプなんで。」というわけです。

こういう生徒に勉強させるためには、結局は脅したりすかしたり褒め殺したりと、強い情動でコントロールするしかないのだと思います。そういう指導法そのものが知性的ではありませんので、普通の教師は忌避感を抱くと思います。不誠実な指導法だと感じるからです。私もそうです。そのような程度の低い教育をしたくて教師になったわけではないのです。

最底辺層の指導ができる教師は、それができる教師なのだと思います。情動的な教師。馬鹿でも情緒は分かりますので、熱い気持ちを訴えれば、心を動かすことができたりします。「ヤンキー先生」みたいなキャラがもてはやされるのはそういう理由からだと思われます。

4月から始まったYouTubeの講義公開プロジェクト「ただよび」。古典の吉野先生の講義を見て思いました。ああこれはいかにもバブル時代の講師だなと。元暴走族で、成り上がりのカリスマ講師。金ぴかの衣装。授業中に昔の下世話な雑談を挟むのが売り。もう典型的すぎて、いまだにこんな人いるんだと驚いてしまいました。言ってみれば擬似ヤンキー先生みたいなものです。予備校のメイン顧客は浪人生ですが、彼らは荒んだ敗者メンタルを燻らせているので、一発逆転の成功物語を語る講師に惹かれやすいんでしょうね。(今の受験生たちがああいう講師に惹かれるのかは知りませんよ。)

怒鳴ったり、威圧したり、たまに盛大に褒めたりして、知的でない生徒を勉強にくぎ付けにする。そういう手法は極めて非倫理的です。マインドコントロールの手法だからです。そういう手法を使う中学受験塾や予備校があり、保護者たちもまた、勉強という良い目的のためならマインドコントロールをしてもいいと思っている節があります。保護者自身もメディアや塾関係者らにマインドコントロールされている側面もあります。

正攻法しか使わない講師では、本質的に知的でない生徒を指導することができません。「あきらめてください」と言うことしかできません。最底辺層を指導する仕事というのは、そもそも無理を承知で(マインドコントロールという)汚れ仕事をしてくださいという依頼だと認識すべきです。実にクソみたいな仕事です。生活のためにそういう仕事を引き受けなければならない家庭教師もいるでしょうが、それが嫌ならしっかりスキルを身につけて、向学心のある生徒を指導できる身分にならなければなりません。私はそう思っています。



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