[最初から]ゾンビつかいの弟子 1章(前半)

(約15000字 / 読むのにかかる時間 : 約30分)

[最初から読み直しキャンペーン]
こちらは「ゾンビつかいの弟子」本連載ではありません。今後の投稿スケジュールはこちら

第一部 受験生篇

一章

1.

バスは山あいの国道を走る。道は左右に迫る森や崖をくねくねと避けながら、緩く、絶え間なく、上り坂であり続けた。
この先は隣県へとまたがる山脈だった。
いずれ山の「本体」へとぶち当たり、長い長いトンネルへ突入する道なのだが、今はまだのらりくらりと障害物を躱しながら上り続けていた。

「面白い?」僕は、窓に貼り付いて森を見つめているビィに、そっと声を掛けた。

「ん」
ビィは振り返って、急にしなだれかかり、僕の脇のすぐ下に両腕を回してきた。

彼女は小柄なので、その高さで僕の身体にぴったりフィットした。無理やりポニーテール風にくくったボブカットの茶髪が、だんだんほどけて落ちかけていた。

僕は胸の高鳴りを抑えつけ、無心になりきって彼女の肩を抱き寄せた。

「山とか森って、見てると気が滅入るね」と、ビィは言った。
「そうか」僕は抱き寄せた手を少しずらして、彼女の顔の横にあてた。「そんならもう眠っときなよ」
「でも、もうすぐ着くでしょ」
「どうかな」

ほとんど僕らしか乗っていなかったバスは、山脈の一歩手前の村落に僕らを降ろし、黙って走り去った。辺りは静かではなかった。この国道は、隣県へと抜ける三本の道の一つであり、うち唯一の無料道路であったから、今も長距離トラックや乗用車が飛び交っていた。

バス停のすぐ脇から、森に向かって徒歩で登れる遊歩道があり、僕たちは迷わずそこへ入って行った。森は崖のようにせり出した小山を覆っており、軽めの登山道のようなものだった。僕はビィを先に行かせて、そのすぐ下を守るように踏みしめていった。

明るい黄色のホットパンツから伸びる彼女の足は、健康的なししゃも型だった。足元は、カラフルで実用的な形のスニーカー。よく履き慣らされていた。

午前中に雨でも降ったのか、それとも、森に常にある湿気のためなのか、鼻がツンとするほどの土のにおいと、水の香りがしていた。その空気は、僕にとっては異質なものだったが、なぜか懐かしく安らいだ気分をもたらした。

「お兄ちゃん。はーやく」
ビィは既に僕を引き離しており、先の急カーブの手前で振り返って僕に手を振った。彼女の可憐な声はどこにも反射せず、樹々の木の葉の合間に吸い込まれていった。

僕は気持ちを切り替えて、歩幅を大きくした。

上り坂が下り坂に転じると、「墓地」になっている区画が現れた。そこだけは下草が頻繁に刈られ、斜面には足場として幾つもの飛び石が埋め込まれていた。木もまばらで、人の手で植えられた若木ばかりだ。たった今抜けてきた森に比べると、眩しく、暖かく、俗っぽい場所に見えた。

ぽつり、ぽつりと、若木に卒塔婆が添えられている。寺で使う重々しい卒塔婆ではなく、簡素でかわいらしいデザインの、シンプルな細板が多かった。名前が書いてあるものもあれば、日付や、挨拶のような文章が書かれているものもある。何も書かれていない白札も、ときどきあった。

僕は、その先の道が分からず立ち止まってしまったビィに追い付き、腕を取って妹の墓に案内した。

ごくごく細い、白樺の若木と、それに寄り添う素っ気ない卒塔婆が、僕とビィを迎えた。僕は、目を閉じ、何かを祈ったが、妹は応えなかった。応えているのかも知れないが、僕には聞こえなかった。

僕とビィは白樺の前で、立ったまま食事を始めた。元からその約束で、コンビニでおにぎりと飲み物を買っていた。ゴミをうっかり落とさないよう、僕はおにぎりからビニルを一枚剥がすたびに、尻ポケットへ深く突っ込んだ。ビィも、ホットパンツの小さなポケットに、器用にゴミを詰め込んだ。

斜面の下方から、複数の足音が登ってきた。団体の墓参りだろうと思い、僕はそちらに顔も向けなかった。
しかし、ビィは急に食べかけのおにぎりを残り全部口に詰め込んで、僕に抱き付いてきた。

「ん」
「何、あいつら」ビィは口をもごもごさせながら言った。

僕は斜面の下方を振り返った。

真っ赤な服を着た集団が乱暴な足取りで登ってきていた。
赤いシャツ、赤いジャンパー、赤いジャージ、赤いズボン……揃いのユニフォームというわけでもなく、それぞれ自分が用意できる範囲内で赤い服を身に付けている様子だ。だから、色味も微妙に違う様々な赤が入り乱れていた。
それが余計に、鬼の集団みたいな印象を与えた。

先頭の若者はリレーのアンカーが使う大鉢巻きを額に巻いて、余りを背中に垂らしていた。

馬鹿っぽい奴だな、と僕は思い、それが最大限、顔に出るように努めながら、今一度ビィを強く抱き寄せた。

先頭の若者はふいに偉そうに片手を挙げて、他の者たちを止まらせた。
僕と若者は三十歩ほど離れていた。
間には、植えたばかりの苗木と卒塔婆がいくつかあって、つまり、それは最近埋葬された者たちがそこにいることを意味していた。

集団は若者を合わせて8人で、よく見ると髭づらの大人や、色気の無いなりをした女も混じっていた。全員が怪しい目の輝きを持って、僕とビィを睨んでいた。
ことに、先頭の若者はよく光る茶色い目をしていた。肌が白く、髪も金とあって、見ようによっては白人のようにも見えた。

若者はその光る目で僕たちを存分に観察し、しばらくして後ろの手下どもに何か合図をした。
赤服の集団は少しざわめいたが、若者が振り返って強い口調で何か言うと、不服そうにうなったり、舌打ちをしながら、回れ右して斜面を下って行った。

けだものどもがいなくなり、けだもののリーダーだけが残った。若者は打って変わって優しそうな顔になって、僕たちの方へ近付いてきた。

「すみません。お参りにいらした方ですか」
帽子のつもりなのか、若者は額の大鉢巻きを外して、こちらに寄りながら会釈をする。

「見れば分かるでしょ」しっかりと僕に抱き付いたまま、ビィが鋭い口調で言った。

「さあ、それが最近は」若者は長めの金髪をごしごし掻き上げた。「どうだか分かりませんもので。あの者たちは僕の指揮する自警団なんです。近頃、よく、『何か』出ますんで」

「『何か』って?」と僕は聞いた。

「さあ、何でしょうね。鬼か、ゾンビか、妖怪か……とにかく人の姿をした害物ですよ」

「君らのほうが、そう見えるけどね」と僕は言った。

得体の知れぬ人間のようなものの群れによる被害は、ときどきニュースになっていた。ただ、なにぶん大抵は山奥や、寂れた漁村で起きることなので、都市に住む僕らにはそれほど実感のないものだった。当初こそ大きく騒がれ、マスコミが独自調査隊を出すこともあったが、今では他の都会的なニュースに押し流されて、誰も注意を払わない。

大雑把には、正規の手続きを踏まずに入りこんだ難民の類だろうと考えられていた。

若者は僕らより5、6歩手前で止まった。

「これ以上用はないでしょ」ビィが完全な喧嘩腰で言い放った。

「何と言うか……、もうここに来ない方がいいですよ」と、赤服の若者は言った。

「でもここ、僕の家族の墓なんだけど」

「家のお仏壇で済ませた方がいい。ほとぼりが冷めるまで……まあ5年か、10年もすれば」

「余計なお世話だよ」

「理由をお聞きにならない?」若者は変な茶色に光る目で薄気味悪く笑った。「僕らが冗談でこんなことをしてるとか?」

「知らないよ。もう帰ってくれない?」

「バスで来たんでしょう。送りましょう」若者は僕らが下って来た山道を目で示した。

「バスは2時間後だよ。それに、最終は6時半だから、どのバスに乗るかはこちらの勝手だ」

「じゃあ、僕の車で送りますから」若者は下り坂を示した。「どうぞ、もうここは離れて」

「なんでだよ」

「もう、そういう決まりなんです。他所から来た方に嫌な思いをしてほしくない。安全にお帰りいただくよう手配をしないと、僕が後で怒られる」

「こっちが知ったことか」

「お兄ちゃん」ビィが、抱き付いた腕を更に食い込ませて、「乗せてもらおうよ」と言った。
「ただし、蕎麦をおごってくれればね」ビィは妙な条件を出した。

若者は快諾した。

三人で山を下りると、町が現れた。
農家と田んぼだけだろうと思っていたのだが、意外にも道路は整備され、その両脇に大型チェーン店がぽつぽつと立ち並び、それなりに車が行きかっていた。

「少し歩きますよ。10分……15分くらい」若者は真っ赤な大鉢巻きを額に巻き直しながら言った。

「蕎麦屋があるの?」

「いえ、まず車です」

舗装された広い歩道を歩いて行くと、たまにすれ違う人が若者の赤服を見て会釈をした。

「君って校長の息子とかなの?」僕は半分皮肉交じりに言った。

「いや。みそっかすですよ。古い言い方だけど」

「じゃあなぜ、皆が頭を下げる?」

「田舎だから。格別知り合いじゃなくても、すれ違うときに挨拶するものなんです。特にこの服なら、確実に地元の人間だと知れるから」

コンビニの裏手に建っている、そこそこ歴史のありそうな一軒家が、若者の実家のようだった。
彼は僕たちを門の前で待たせて一度家に入り、5分後に出てきたときには、普通の若者らしいカジュアルな服に着替えていた。
そうしてまともな服を着たところを改めて見ると、やはり彼はハーフの顔だちだった。
彼は家の脇のコンクリ固めの駐車場から、ワンボックスタイプの軽自動車を出した。

僕とビィは、後部席に並んで座った。
「この近くの蕎麦屋じゃないと駄目だからね」と、ビィは念を押した。

「『えんどうや』がいいでしょう」若者は狭苦しい農道をくるくると抜けていった。

えんどうやは別な小山を越えて国道側に下りたところにあった。国道沿いを来る客を相手に商売をしているからだろう、田舎臭さはあまりなく、店の内装も接客も、簡潔だった。

「これくらい美味い蕎麦、街じゃ食べられないからね」
ビィはそれだけ言うと、幸せそうに天ざるをすすって、後はほとんど口をきかなかった。

「どこまで送ってくれるの?」僕は若者に確認した。

「どこか、都合の良い駅まで」若者は街なかのハブ駅に直結するローカル線の駅名を2つほど挙げた。

「君たちは、それで、何をしてるの?」
結局、話題が無いので僕はそう聞くしかなかった。

「防衛、ですかね」

「どんな被害が出るの?」

「人が攫われたり、女性なら、襲われたり、物を壊される、盗まれる、あとを付けられる……」

「本当にそういう『何か』がいるの?」

「いますよ」若者は柔らかく、断言した。

しばらく、三人が蕎麦をすする音。

「それは、結局、なんなの?」僕はあんまり聞きたくなかったが、一応聞いた。「捕まえたことあるんでしょ? 捕まえたら、どうするの? 警察?」

「殺してしまいますね」若者は何でもないことのように言った。「というより、壊してしまうというべきか」

「人ではないから、殺してもいいということ? なんだか、すごく犯罪のにおいがするけれど」

「ええ、でも、実物を見ればすぐ分かりますよ。ヤツラは、人ではないし、生き物ですらないんです。だから、ちょっと手間のかかる虫退治みたいなものです。大きさがかなり大きくて、人の形をしているというだけです」

「なんだか気味が悪いね」

「まあ不気味ではあります」

「そうじゃなくて、君たちが、だよ」

僕がそう言うと、若者は少し顔を曇らせた。しかし、腹を立てた様子はなかった。野蛮人だと思っていたが、案外と理知的な人間だった。

「楽しそうだよね」ずっと黙っていたビィが、そう言った。「倒すべき敵がいて、毎日暇じゃなくてさ」

「そうかも知れません」若者は丁寧に答えた。

「街へ出ないの? 他の仕事をしないの?」

「そんな度胸のない連中が、自警団をしてますからね」

約束通り、若者の奢りで店を出た。
再び軽自動車に乗り、山間の国道を街の方角へ走り出した。
ときどき、後ろから長距離トラックが迫ってくると、若者は退避路を使って先へ行かせた。
ビィは後部席で、僕の手をずっと握っていた。僕も黙って握り返していた。

若者はカーラジオをつけて、少しボリュームを上げた。
しばらく聴いていると、それはラジオではなく民放のテレビ局の音声だと分かった。

『M県警は、今年に入ってからの交通事故が、既に去年1年間の事故件数を超えたことを受けて、交通事故非常事態を宣言しました。同様の宣言は、他にS県やI県など、各地で発令されています。……なるほど。それは何か、原因や傾向といったものはあるんでしょうか。……そうですね、ひとつには、異常気象が関係しています。例年より天候の悪い日が多く……』

「ところで、聞いてもいいですか」若者が突然言った。

「どうかな」と僕は言った。

「あなたたち2人は、兄妹ではないですよね」

僕は迷ったが、「どうしてそう思うの?」と、陳腐な返し方をした。

「似ていないし、なんとなく、家族らしくないから」

「別に、兄妹だと名乗った覚えはないけど」

「けど、恋人という感じでもないし、墓参りに来る組み合わせとしては、変わってるなって」

「ほっとけば良くない?」と、ビィが言い返した。

僕とビィはSNSで出会った。
妹を失って、ネットしか気晴らしがなかった僕に、ビィはバーチャル妹という役で構ってくれた。
何年にも渡ってネット上だけの付き合いが続いた。ふたりとも用心深く、オフ会をせず、音声通話もしなかった。オープンなSNSで、テキストと画像だけのやり取り。それが長続きのコツだったのかも知れない。

生身で会いたいと言ってきたのは、ビィのほうだった。
18歳になったので、自分で自分に禁じていたオフ会を、解禁すると。そして、僕も今年大学受験を迎えるにあたり、ひとつの区切りを付けたいと考え、応じることにした。
ずっと互いの年齢も明かさずにいたが、僕とビィは同い年だった。

僕とビィは、現実的な意味では、出会ったばかりでありながら、その関係は終盤を迎えていた。
こうして生身で対面することによって、互いの抱いた幻想が崩れてしまうことは分かっていた。
それでも、生身の彼女に別な魅力を見つけられる可能性を僕は淡く期待していた。

しかし、ビィはもっと冷たく割り切っていた。
年に数回、本物の妹さんのお墓にふたりでお参りしましょう。私たちはそれだけの関係になるべきなの。お兄ちゃんと、初めてオフで会ったとき、ひとめ見た瞬間に、そう分かったのよ。

「着きますよ」若者が言った。「電車、すぐ来るといいですね」

田んぼの真ん中にぽつりと建った駅舎が見えてきた。ロータリーに入ると、なぜか救急車とパトカーが停まっていた。ほとんど無人駅のようなもののはずなのに、今はなぜか駅舎の前に人だかりができていた。

「っ」若者が突然、鋭く息を飲んだ。

「え?」

「顔を隠せ!」若者は叫んで、アクセルを踏んだ。「顔を隠すんだ! 見られるな!」

軽自動車はロータリーを豪速で一周し、元の道へ飛び出した。

僕もビィも、顔を隠さなかった。特に、ビィはしっかり窓に張り付いて、顔を後ろに向け、駅舎の前の人だかりを見つめていた。

「何をしてる!」若者はビィのしている事に気付いて怒鳴った。

「うるさいよ。もう見ちゃったもの」ビィは強気に言い返した。

「何だったの? 何なの?」僕もイライラした。「どこへ行く気?」

若者はスピードを緩めず、次の信号に捕まるまで一分ほど、無言だった。色白の顔が紅潮して、何度も荒く溜息をついた。怒っているのではなく、怯えている様子だった。

信号が青に変わる。若者はまたアクセルを踏み込んだ。

「S駅まで送ります」

若者はこわばった声で、街の中心にあるハブ駅の名を言った。

「どうして?」と僕は言った。

「あれが、あなたの退治してるヤツラ?」ビィが聞いた。

「駅なんかに出たことなかったのに」若者は辛そうに吐き出した。「ふたりとも、あれに顔を見られた?」

「見られたらどうなるの?」と、僕は聞いた。

「ヤツラは顔を覚える。そして追ってくる」

真後ろにトラックが付いたが、若者は譲らず、更にアクセルを踏んだ。
既に、街の中心へと繋がる、長い太いバイパスに入っていた。

「あなたがたの家は都会なの?」若者は険しい顔のまま聞いた。

「まあ、君の住んでるところよりは」

「それが何か関係あるの?」とビィ。

「ヤツラは、人混みを処理できるほど性能が良くない。顔を覚えられてしまったとしても、都会に紛れてしまえばとりあえずは安全だと思う」

「どういうことなの。ちゃんと説明してくれないと」
僕は思わずきつい口調になった。
「それに、ヤツラは君の親の敵だか知らないけど、そういう言い方って気持ち悪いよ」

「お兄ちゃん、見なかったの?」と、ビィが薄く笑った。

「え?」

「あれはゾンビだよ。人型だけど、人じゃない」

「何を見たんだ?」

「だから、ゾンビだよ。ね、あいつら、噛む? 私にも伝染る?」
ビィは運転席の方へ少し身を乗り出して、若者に尋ねた。

「伝染りはしない。ただ暴力的なんだ」
若者は暗い声で言った。

「僕の名はカミシロと言います。神様の神に、ホワイトの白。これ、僕の携帯なんで、もし何か困ったら連絡をしてください」

若者はS駅のロータリーで僕たちを降ろす前、電話番号を殴り書きしたメモをくれた。

「何かって、何?」と僕は聞いた。

「何か危険を感じるようなこと」

「もしそんなことがあれば警察に行くよ」

「もちろん、僕が必要なければ、それに越したことはないんだけど」

「なんだかよく分からないけど、助けてくれたんだろうね」と、僕は言った。

「ありがとう」と、ビィは短く言った。

S駅のロータリーは混み合っていて殺伐としていたので、僕たちはそれ以上長引かせずにそそくさと降りた。

「気をつけて」窓を下げてそれだけ言うと、神白はすぐに車を発進させ、大通りへ出て行った。

僕とビィはそれぞれ自分のスマホに神白のくれた番号を登録し、その駅で別れた。
まだ日が暮れていなかったので、名残惜しい気がしたけど、ビィは県外から来ていたし、なんだか疲れたので早めの新幹線に乗りたいと言った。

「また連絡ちょうだい。次はお盆かな」ビィは改札をくぐる前、そう言った。

僕から連絡しない限り、もう会えないのかも知れないな、と思った。

さよなら、僕の、偽物の妹。

家に帰って、母の作った夕食をたべ、あれやこれやを済ませた。
びっくりするほど日常で、神白が恐れるような妙なことなど、起きそうになかった。
しかし、いつもの習慣で寝る前にスマホをいじり出したとき、僕はあるニュース記事を見つけて身震いした。鳥肌ってほんとに立つんだな。

"人身事故"?被害者見つからず M県
M県のS線Y駅で、本日午後2時半頃、人身事故と思われるトラブルのため電車が緊急停止した。「人をはねた」との運転士の通報により、警察、消防隊が駆けつけたが、付近に死傷者は見つからず、電車は2時間後に運行を再開した。運転士の他、ホームにいた数名の乗客が「線路に飛び込む人影を見た」と証言している。……

ゾンビ。死なない人型。ビィや神白は、いったい何を見たのだろう。

その夜、僕は一晩中、悪夢にうなされた。



2.

結局、ゾンビに追われることもなく、日々が平凡に過ぎていった。

まだ、年度初めといって差し支えない季節だったが、僕は自主的に「追い込み」をかけていた。大学受験を控える高校3年生が行なう、ハードな詰め込み訓練を、そう呼んでいる。
僕は英文法の不完全燃焼な感を今のうちに消しておきたくて、「青チャート」の例題をさらい終わるまでSNSを開かないという誓いを立てた。

僕の計算では、2週間後にはSNSを解禁できるはずだった。
しかし、1週間目に僕は誘惑に負けた。
SNSを開くと、通知が10件溜まっていた。
ほとんどは、誰かが僕の投稿をお気に入りにした、という通知だったが、2件だけ、ビィからの公開メッセージが着いていた。

今、なんか変なの来た。ヤツラかどうかは分からない ----3日前

勉強邪魔してごめん。見てる? 私やっぱりロックオンされたっぽい。おにーたんは何事もない? ----2日前

このメッセージを最後に、ビィのすべての投稿は途絶えていた。

起きている間じゅう、ひっきりなしに投稿を繰り返すのがビィの使い方だったから、これはかなり異常なことと言って良かった。
そもそもビィが、公開メッセージ機能をわざわざ使うのも珍しい。
雑談程度のことなら宛先を指定せずに投稿し、「会話をしたいのか、独り言なのか分からない」感じに流しておくのが、こういう若者にありがちなSNSの使い方だ。

僕は胸騒ぎを覚えて、ビィの電話番号にかけた。
だが、発信音は鳴らず、電源が切れているか電波の届かないところにいる、との音声だけが返った。

どうしよう。僕はビィの本名を知らない。住所も知らない。
既に2日経っている。

10分以上、部屋の中を歩き回って悩んでから、僕は神白に電話した。
これで出なかったら手詰まりかも、と思ったが、神白はすぐに出た。

「はい、どちら様」

「あの……」僕は、相手に自分の電話番号を教えていないことに気付いた。「先週、墓参りの帰りに蕎麦をおごってもらった者です」

「ああ、あなたですか」神白は親しげな声になった。「どうかしました?」

「あのときの連れが、連絡が取れなくなって」

「うん」神白の声はぐっと低くなった。「それで」

「お恥ずかしい話なんだけど、僕と彼女はSNS友達で、互いのことをほとんど知らないんだ。それで……」僕は状況を簡単に説明した。

「正直に言って、彼女を探し出す方法があるとはあまり言えないです」
神白は僕の話を聞き終わると、きっぱり言った。
「その状況では事件性があるとも無いともつかないし、もしあったところで、あなたにはどこかに通報する権限も義務もない」

「分かってるよ」

「ただ、投稿の内容からすると彼女がT県の自宅に一度戻っていることは確実ですね。そしたら、僕から上の者に掛け合って、T県で同様の活動をしている自警団がいないか問い合わせてみます。ヤツラがT県まで彼女を追ったとしたら、うーん、そんなことは今まで無かったんだけど……もし、ヤツラが電車を使って移動できるほど進化しつつあるのなら、いずれにしろ僕らももう、ローカルな活動だけでは済まされないでしょう」

こんなとき、焦ればいいのか、普段通りを続ければいいのか、僕には分からなかった。
僕の声があまりにも不安そうに聞こえたのか、神白は「どっしり構えろよ」と、急に年上らしい口をきいた。

「あなたがバタバタしても始まらない。進展があればこちらからも知らせるよ。この番号、登録してもいい?」

「あ、はい」逆に僕のほうが敬語になってしまった。「あ、イトウと言います。トウが東になっているほうの、伊東です」

「伊東さんね。分かりました」

それ以上挨拶もなく回線が切れてしまい、僕は少し慌てたが、掛け直すほどの要件はないので、取り敢えず勉強机に戻った。

30分後、神白から電話がかかってきた。

「伊東さん? T県の団体と連絡が取れました」

「早い……ですね」

「運が良かった。T県はもうかなり大掛かりに組織化されていました。結論からいうと、あなたの彼女は見つかっていないけど、探すべき場所の目星はあると」

「やっぱり彼女は攫われたの?」

「それも、何とも言えないけど、確かにこの1週間で電車を使って入って来た群れがあって、そいつらが根城にしている場所はだいたい特定できていると。駆除隊が結成されて、重点的にその地域を回っているそうです」

駆除か……。

「ヤツラは、攫った人間をどうするの?」と、僕は聞いた。

「さあ、僕の感触では、ヤツラに特定の目的があるようには思えません」
と神白は言った。
「うちの町でも何人も連れ去り被害に遭ってるけど、大半は無傷で帰っています。拉致して、どこか別な場所にまた捨てる、みたいなケースが多いように思います。ただ、ひどい暴行を受けた者や、遺体で見つかった者も、いないわけではない」

「いったい、本当に何なの?」
僕は改めて神白を問い詰めた。
「ヤツラは本当にゾンビなの? つまり、元は人間だったものとか、突然変異とかってことなの?」

神白は少しの間、沈黙した。どう言えばいいのか考えている様子だった。

「何しろ僕らはほとんどがニートの寄せ集めで、学が無いし度胸も無いものですから」
神白は変な角度から語り出した。
「ヤツラが人間とは違うものだとは分かります。それは絶対に分かります。ただ、どこが違うかと聞かれると答えられない。ヤツラの身体は、壊せば血が出る。肉もあるし骨もある。心臓や、脳もある。意思疎通はできないけど、喋る能力も備えているように見える。だから、僕らのような自警団も、これほどの激しい戦いをしていながら、表に出られないわけです。警察や自治体を正式に動かすことができない理由がある。それは、僕らがしていることが法的にクリアだと証明できる自信がないということです」

「実は、僕は明日、T県に行こうと思っている」神白は言った。「あなたの彼女のこともありますし、T県に倣って僕たちもそろそろまともな組織とネットワークを作りたい。つまり、視察ということです」

「まあ、それは頑張って、て感じだけど」

「あなたも来ませんか」と神白は言った。

「え、どうして」

「心配なんじゃないかと思って。いえ、あなたが行ったからと言って彼女の捜索に参加できるわけじゃないけど」

「うん……」
僕は明日の授業日程と自分の追い込みの進捗を考えた。
それから、ビィが死にそうになっているかも知れない、ひどく怯えて苦しんでいるか、既にそんな段階も通り越しているのかも知れない、ということを必死に実感しようとした。

「週末になっても見つからなければ、僕ひとりでT県に行きます」と、僕は言った。「明日は、とりあえず、パス」

「そうか。ま、そうですよね」
神白は特に屈託もない調子でそう言い、また挨拶も無く電話を切った。

僕はスマホを持っていた右手を降ろし、肘がすっかりこわばって上手く伸ばせなくなっていることに気付いた。
そして少し、泣いた。


僕は受験勉強をサボってT県に行かなかったことを後悔したくなくて、必死で問題にかじりついた。
青チャートは予定より三日早く終わらせ、授業は予習復習まで徹底し、ノートも完璧に作りこんだ。

だからと言って、胸のつかえが取れることは無かった。

神白は毎日連絡をくれた。
ビィの足取りは分からず、ずるずるとT県に留まっている、という報告だった。

金曜の放課後、僕はS駅から新幹線に乗った。デッキから母に電話をした。

「あのさ、今夜夕食いらないから。実はさ、どうしても会いたい友達がいて、遠いから、泊まってくるね」

新幹線に乗ってから電話したのは、そうすればどれほど母が怒っても今さら止められない、という打算があったからだ。

しかし、母は「携帯は繋がるようにしといてね」くらいしか言わなかった。
考えてみれば、怒られる理由が無い。これではまるで、僕のほうが過保護にされるのを期待していたみたいだ。

母との電話が終わった後、神白にもかけた。

「はい、どうも」

「伊東だけど。あの、僕も今からT県に向かうよ」

「ああ……。新幹線? 気を付けて」

「そちらは、どうなの」

「駆除は順調なんだけど、やはり彼女が見つからない。本名も住所も分からないというのは痛いです。警察が把握している失踪者を問い合わせてみましたけど、該当しそうな若い家出人は複数いるようです。それ以上のことは、個人情報になるので部外者には明かせないと」

「僕が、迂闊だったと、思うよ」

「いえ、僕のほうこそ慢心がありました。ヤツラの性能は熟知しているつもりでいた。人ごみに紛れて移動する能力なんかないと、たかをくくりました……何時頃着きますか? 駅で落ち合いましょう」

T県に着くまで1時間ほどの乗車時間を、古文の単語帳をめくって過ごした。

窓の外の景色は、徐々に夕方から夜へと移り変わった。

この路線で東京まで出たことは何度かあったが、T県の駅はいつも通過するだけで、僕にとっては未知の場所だった。
ビィも僕に会いに来たとき、こんな気持ちだったのだろうか。

新幹線を降り、神白に指定された改札外の小さなコーヒー店に入った。

神白は入口から近い席で山盛りのサンドイッチを食べており、僕を見ると片手を挙げた。
今日はワイシャツに黒いスラックスという、かなり真面目っぽい服装だった。
ハーフは何を着ても似合うけど、最初に見た赤装束だけはまったく似合っていなかったな。

「もしかしたら、ニュースを見てない?」
神白は僕が向かいに座ると、少し顔を覗き込んだ後にそう言った。

「さあ、心当たりが無いから、見てないのかも」

「そうか……」神白は少し俯いて溜息をついた。「こんなことになって申し訳なく思っていますよ。最悪のタイミングで伊東君を呼び出してしまった」

「どういうこと?」

「全国のコンビニと主なチェーンのスーパーに、食品テロ予告が出されたんです」

「は、」

「乳製品、大豆製品、パンを含む小麦粉製品、精米した米、の中で無作為に選んだ商品に、針を混入したと」

面倒くさそうな犯人だな、と思った。何が楽しいんだろう。

「実際に新宿のローソンと、S県のイオンで、針のような金属片の混入した商品が見つかったようです」

「くだらんことする奴がいるね」

「伊東君、状況が分かってないでしょう」と神白は言った。
「被害状況が分かるまで、全国のコンビニとスーパーから乳製品、大豆製品、小麦粉製品、パンと米が消えることになります。客が売ってくれと頼んでもおそらく売ってはくれません。売って何かあれば責任が取れないし、食品への不信感は長引くので。大企業にとっては災害のようなものなんです。そうなると差し当り、手に入る食べ物が極端に少なくなります。伊東君、今、お腹は空いてる?」

「夕食まだだけど」

「食べられる限り食べなさい」神白は大皿に山盛りに積みあがったサンドイッチを示した。「明日どこかで食べ物が買えるという保証がないですから」

「そんなに、おおごとなの?」

「どうなるか分かりません。前例がないことだから」

「前例がないことのほうが驚きだよ、よく考えたらね」

実際、あまりにもお手軽なテロに思えた。
針を入れたとか毒を入れたとか予告して、現実には何一つ混入していなくても、社会には大打撃を与えることができる。

「君たちの活動のほうは、どうなの」
僕はサンドイッチを取った。

ひとくち、食べ始めると非常に腹が減っていることに気付いた。

「ほとんど事態は収束してます。M県から流入したぶんは全滅した、と考えている者も多い。ヤツラの溜まり場も潰して、ガサ入れみたいなこともしたんですが、あなたの彼女の手掛かりは無かったです」

「単に、スマホ断ちをしてるだけなのかも知れないな」僕は希望を込めて言った。

僕と神白はサンドイッチをたらふく食べてから、駅を出た。

タクシーに乗ると、ラジオからは確かに食品テロのニュースが流れていた。
各企業がどういう対応をしているとか、既に混入物らしきものを見つけた購入者が何人かいるとか。

嫌な世の中になりましたね、とタクシーの運転手は言った。

T県の駅前はそれなりに都会的で、しかし車通りは少なかった。

15分も走ると郊外の風景になり、背の低い建物がぺったりと広がる住宅地が現れた。
タクシーはバス通り沿いの、公民館のような四角い建物の前で僕たちを降ろした。

建物は4階建てで、1階は全ての窓に白っぽい明かりが見えた。
上の階は、明かりのある部屋と無い部屋があり、1階よりも厚めのカーテンが窓を覆っていた。

僕は神白の半歩後ろに付いて、タイル張りの玄関に向かった。

入るとすぐ、靴を履き替える場所になっていて、錆びた下駄箱と、スリッパがたくさん詰め込まれた段ボール箱が置いてあった。
履き替えていると廊下の明かりがついて、奥から男がひとり現れた。
四角い眼鏡をかけた、市役所にいそうな感じの男だった。
服装も役所風だ。

「どうも、お帰りなさい」

「どうも」と神白は言った。

「そちらが、M県からの?」

「はい、伊東君です」

「なんだか思った以上にイケメンだなあ!」僕の顔を見て、男はフニャフニャと苦笑いをした。

建物は静かだった。
眼鏡男に案内されて部屋に入ると、職員室のように沢山の事務机が並んでいて、パソコンや書類仕事をしている者が5、6人いた。
僕たちを見ると、それぞれが軽く会釈をした。

神白が率いる自警団はまるで愚連隊だったので、T県の自警団の落ち着きぶりに僕は驚いた。

「今夜は早めに切り上げてほとんど帰らせたんです」
眼鏡男は僕たちに空いた椅子を勧め、インスタントコーヒーを淹れてくれた。

眼鏡男の机は他のどの机よりも整頓されていた。

「それはやっぱり、テロのせいですか」と僕は聞いた。

眼鏡男は重く頷いた。
「家庭を持ってる者も多いので。ナニカにばかり構ってもいられない。
ただ、若い衆は体力が余ってるんで、今日も10人ほど出ています」

そう言って彼はパソコンのモニターを僕の方に向けた。
市内の地図が表示されていて、現在の交通量で色分けされた道路と、主な建物の概形が見て取れた。
男はいくつもの赤い点が集まっている地区を示し、「これが駆除隊の現在地です。一人ひとりをスマホのGPSアプリで追跡しています」と説明した。

男は、自分たちが125人の団員を正確な名簿で管理し、小隊に分けて連絡網を整え、未成年者や身元の知れない者を参加させていないこと、この事務所を寝床がわりにはしないこと、運営費は団員から平等に集金し、会計監査を置いていることなどを熱弁した。
彼は今後のために組織をNPO法人化したいらしく、僕や神白に対してと言うよりは、ここにはいない公的機関の担当者に対して、運営の健全性を訴えたいようだった。

僕は聞いているふりをしながら、画面上の地図を眺めた。
赤い点は集まったりバラけたりしながら、なんとなく北へ向かって移動していた。

「武器は使うんですか?」
しばらくしてから僕は聞いた。

「武器? 特別なものは何も。だいたいバットか鉄パイプですよ」眼鏡男は平然として言った。「結局、手足と首を折ってしまうのが早いんです」

やはり、こいつも愚連隊だ。
僕は一見おとなしそうな男の口から飛び出す暴言にがっかりした。
何だか分からない人型のものを打ちのめすことに、疑問を持たないのだろうか、こいつらは。

「スタンガンなどはどうですか?」と、これは神白が聞いた。

「色々試したんですがね。あまり効きが良くない」眼鏡男は言った。「僕らとは身体の作りが違うようだ。電気とか、催涙スプレーとかやると、何となく反応はあるんだが、普通の人間のようには倒れない。
ナイフは最悪でしたよ。辺りが血の海になっても暴れ続けて。隊員が何人か血に当てられちゃって、寝込みましたね」

「赤い血が出るんですか。それでよく殺せますね」
僕は思わず口を挟んだ。

「まあ、割り切るしかないですよ」眼鏡男は少しひるんだ様子で僕を見つめた。

「伊東君は実物をまだ見たことないんです」と、神白が言った。

「ああ、そうなのか……まあ、見ないに越したことはないです。実は、これは大きな声じゃ言えないが、筋弛緩剤はよく効いた」
眼鏡男は声を低くして神白に目配せした。

「そうなんですか?」

「入手経路の問題があるから、何度も使える手じゃないですがね。もしかしたら薬による攻撃には弱いのかも。弱いというか、その点は普通の人間と同程度なのかも知れない」

「どういうことなんでしょう」

「やはりあのナニカは、原材料が人間だということでしょう。すごく嫌な言い方だけど。ガタイが強化されているだけで、根本的な仕組みは人間と一緒、だから薬が効くんだと思います」

結局、2時間ほど待ったが、駆除隊は特に成果をあげないまま現地解散となった。
既に同じ地区を6日連続で掃討しており、事態は収束しているようだった。
書類仕事をしていた者たちもひとりふたりと帰って行き、眼鏡男は僕と神白を2階に案内した。

「急ごしらえですが、おふたりが寝られるようにゲストルームを用意したんです。神白さんも、あまりいつまでもビジネスホテルでは面倒かと思って。もちろんホテルのほうが使い勝手が良ければ、こちらは物置として使ってもらって構いません」

「お気遣いいただいてしまって」神白は歩きながら頭を下げた。

「明日の朝は、私はいないですが、別な班の者が9時頃からミーティングに集まる予定です。あと、今村という者が宿直であちらに」彼は廊下の突き当たりの部屋を指した。「おりますんで、何かあれば申し付けてください」

通された部屋は、元は音楽室か何かだったらしく、カーペットが張られ、木製の壁には音を吸収するための穴が無数に開いていた。

正面に小さな嵌めごろしの窓があり、広さは6畳ほどだった。
壁際に簡素なマットと、寝袋と、ケットと枕が、それぞれ2つずつ用意されていた。
その他、ポット、湯のみ、ティーバッグ、タオル、お菓子、卓上扇風機などが、小ぶりなちゃぶ台の上に並んでいた。

「相部屋で構わないね?」と神白が聞いた。

「いいんじゃないの」僕は窓に歩み寄った。

夜の地方都市の、ひとけの無い大通りが見下ろせた。
街灯はあるが、道の殆どは影に沈んでいる。

化物が潜む場所はどこにでもありそうだ。

「どうにも進展がなくてすみません。わざわざ来てもらったのに」

「別に神白さんのせいじゃないでしょう。次々と事件が起こってもらっても困るし」

僕は窓に近い方のマットに腰を下ろし、リュックから電子辞書を取り出した。
辞書のオプションを使って、日本史の年号の整理でもしようかと思った。

「受験勉強ですか?」

「うん。大学に行くつもりだからね」

「いいですね。将来が開けてて」神白の言い方はそれほど嫌味ではなかった。

悪い人じゃないんだけどなあ、と僕は思った。


翌日の早朝、東京、大阪、名古屋、福岡、札幌の鉄道交通網が、同時にストップした。


(1章後半につづく)


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

それはともかく「ゾンビつかいの弟子」は二次創作、ファンアート、絵、歌、朗読、無断転載、再配布、全て自由です。作者を偽らないでくれればあとは何をしてくれてもかまいません。もし面倒なら、特に報告なども不要です。皆で可愛がってやってください。

27
アラサーのママです。#小説 タグを無差別に読みます。長編小説「ゾンビつかいの弟子」をよろしくお願いします。目次ご覧ください→ https://note.mu/toma_mori/n/n40761080856c 現在は続編「怪獣をつかう者」連載中。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。