怪獣をつかう者 4章 1-1

←前回

【登場人(?)物紹介】
神白 明(アキちゃん):双子の兄(自称)。じっとしていられないタイプ。イベント運営の会社に勤めるが、今は休暇中。
神白 灯(トモル、トモ君):双子の兄(自称)。5年前に脊髄を損傷し、現在は車椅子。手下がたくさんいるらしい。
伊東 龍一:アキちゃんの友人。大学生。顔は良いが口は悪い。
ユウちゃん:「澤久間村」の洞窟に住んでいるワニ。各地で上映されている「怪獣」の立体映像のモデルとなった。最近はもっぱらゾンビを食べて暮らしていたらしい。
若い女:ユウちゃんの飼い主。ボクっ子。


Kaiju@澤久間村
@xxxxxxxxxxxxxxxxx
今SNSで話題沸騰!#kaiju のモデルとなった巨大ワニはここ#澤久間村
にいます!全長約10mの本物の怪獣「ユウちゃん」を見に来ませんか?また現在澤久間村では「ユウちゃん」を通じた村おこしを目指しクラウドファンディング実施中!詳細はこちら→ https://xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx


「すべてはつまり、震災が始まりです。そのとき、祖父の飼っていたユウちゃんはすでに3m近かったと思います。祖父はユウちゃんのためだけに家の窓を全部、二重サッシにして、玄関もリフォームして、床暖房も入れてました。いつも、祖父の家は冬でも長袖を着ていられないほど暑くて。……震災は3月だったでしょう? ここらでは、まだ真冬ですよ。しかもあの日、すぐ雪が降り出したでしょう。ここらへんは、岩手なんかに比べれば大して揺れはしなかったんですが、それでもガスと電気が止まって。で、灯油もいつ補充されるかわからない状態で、雪ですよ。要は、ワニのためだけに無駄な暖房を焚き続けるわけにはいかなくなったんです。

 だから祖父がこの洞窟にユウちゃんを放ったのは、死なせるつもりで、ということです。通路はふたつありますが、どちらも簡単に「蓋」ができます。板をかけて、上に車を一台ずつ停めて、閉じ込めて凍死させることにしたんです。

 バタバタしていたし、祖父もショックだったんでしょう、その後、確認には行きませんでした。あそこがいつの間にか、たぶん地震のせいでしょうが、流れが変わって『温泉』になっていたことを、誰も知らなかった。祖父が県に届け出ていた飼育の登録は、事情を話して取り消してもらったようです。

 その後、去年、祖父が急に亡くなるまで、ボクたちは何も知りませんでした。父も、父の兄弟も、みんな県外でした。年に2回、お盆の墓参りと正月の挨拶で会うか、それも年によっては流れたりで……祖父はしっかりしてたし、病気も無かったんで、とうぶんは心配ないと思っていたんです。それが急に、道端で倒れて、それっきり。特に病名というようなものも無かったみたいです。単に脳梗塞か何か起こして、心臓が止まってしまった、という、要するに『ぽっくりと』ということですね。叔父の家は子供が小さいし、うちの両親は母方の祖父母の介護に追われていて……ボクだけが丁度、成人していて、なおかつ、大学生で時間の余裕があったんで、というか、ボクが一番おじいちゃん子でしたからね。財産周りのことについて『仮の代表者』として手続きにあたることになったんです」

女はそこで数秒、言葉を切って考え込んだ。

「……自治会長から、ユウちゃんのことを聞かされたのは、だいぶ経ってからです。村の人たちは、大半が知っているか、薄々とは知っている、という感じみたいでした。当然、祖父も知っていた。ただ、黙っていたわけです。遠く離れて暮らす子供や孫たちに、迷惑をかけたくなかったんでしょう。どう決着をつけるつもりだったのか分かりませんが、ゾンビの騒ぎもだいぶ収まってきて、もうユウちゃんの『食べ物』がありませんから。今年あたりには、いずれにしろ決断をしなければいけなかった、祖父もそれをわかっていたようで、あちこちにこっそりと連絡や問い合わせをした形跡がありました。自分が急死するとはまったく思っていなかったわけですね、それはもちろん、思ってる人なんていないでしょうけど」

神白は適当な相槌も思いつかず、ただ聞いているしかなかったが、伊東のほうは何かを考え込んでいる様子だった。いつもの、虚空を見つめるような目で、じっとうつむいている。

トモルは、全開にした助手席の窓に組んだ両腕を乗せ、その上に顎を乗せてこちらを見ていた。「アキちゃん、伊東君、僕おなかすいたんだけど」

「どうするつもりなんです?」神白は無視して、女に聞いた。「おじいさんは、どうするつもりでいたんでしょう」

「どこかに引き受けてもらおうとして、だいぶ問い合わせていたようですが。でも、この大きさでは移送できません。人に懐いているならまだしも、8年間放置されて『人』を食い続けてきましたから、近づくことも危険な状態で。となると、麻酔もかけられない。だから……待ってたんでしょうね。みんなの言い分が正しければ、ユウちゃんはもう一年近く、何も食べていません。ワニは、特に大きいワニは、一年くらい何も食べなくても生き延びるようですが、当然、限界はあります」

「餓死させるということ?」伊東は顔を上げた。「ものすごく苦しい死に方だ」

「わかってます」女は苛立った声で言い返した。

「苦しませないほうがいい」伊東は言った。「あいつを苦しませると、『火事場の馬鹿力』で何をするかわからないよ。今まであそこに留まって静かにしていたのは、あそこが居心地良くて気に入ってたからだ。居心地が良くないと気づいたら、どうやってでも外に出てくる。蓋なんか開けられる。村を襲うよ、きっと。殺すなら一発で仕留めるしかない」

「簡単に言わないで」女はうんざりした顔になった。「普通の猟銃で撃ち殺せるようなサイズじゃないんです」

「けど、それならあの『怪獣』ショーは何なんですか?」神白は昨夜の、リーダーとの会話を思い返した。「あの人たちは何をしようとしてるんです?」

「何も考えちゃいないんでしょう」女は冷たく言った。「余所から来たクソどもですよ。あいつらが来てから余計に話がややこしくなりました。当初は、ユウちゃんを完全に閉じ込めるための本格的な工事に、手を貸してくれるという話だったんで、こちらも協力をしたんです。ところが、結局は映画屋さんなんか雇って、金目当てだったようで。村おこしと言ってますが、要は、引っ張れるだけ金を引っ張る、という話です」

「そうですか?」

「観光産業というのは継続がだいじなんですよ。そうでしょう? けど、あのクソどもには継続するためのプランがありません。今、とりあえず、金を引っ張れれば、それでいいわけです。そのあと続かなくてどうなったって、あいつらはまた別な土地へ行って同じことを繰り返してれば、一生食えるんですから。乗せられて浮かれてる連中も連中です。どうなるかは目に見えてると、何度も言ったのに、聞きもしない。だからボクはもう関わらないことにしたんです」

「ねえ、その、クソどもというのがこれなの?」トモルは、だらけた姿勢のまま窓から片腕を出し、自分のスマホの画面を皆に向けた。

「え?」神白は思わずその画面を覗き込み、スマホを受け取った。

Twitterのようだった。作り立てと思われるアカウントが、怪獣のモデルとなった巨大ワニが「澤久間村」にいることを明かし、村おこしのためにクラウドファンディングをしているという告知を流していた。
投稿は20分前。反響はまだない。ひとつ前の投稿は「テスト」で、それが初めてのツイートだったようだ。

「これ、本物?」思わず神白は言った。

伊東が画面を覗き込み、すぐに鼻で笑った。「なるほどね」

「いつもの『怪獣屋さん』のアカウントじゃないよね?」

「違う。急ごしらえのアカウントだ」と、トモルが言った。

告知の手順としては素人丸出しのやり方だ。あのリーダーたちが管理していると思われる「怪獣」の告知アカウントは非常に戦略的で、タイミングにしろ内容にしろ、その後のシェアに対する反応にしろ、常に計算し尽くされていた。だからこそ急激に支持者を増やしてここまでの規模の「祭り」に仕上がったのだ。そのスマートなやり口に比べると、この「Kaiju@澤久間村」というアカウントは、あまりにも杜撰だ。

「つまり、これが仲間割れということだ」伊東は少し面白そうに言った。「まさにこの件でずっと言い争っていた。そして僕はとばっちりで車から放り出されたんだ」

「どういうこと?」

「待ちきれなくなったということ」伊東は言った。「もう『宣伝』は充分にした、そろそろ金を集めたい、と。『ハラヤマ』さんは慎重派でね、もう少し様子を見たいと言ってたな」

「けど……どっちにしろ『怪獣屋さん』たちとの連携があっての話でしょう」
SNSを通じて金を集めるというのは生半可なことではない。大抵は、金の話が始まった途端にフォロワーは離れていく。それだけならまだ良いが、反感を買って攻撃されることだってあり得るのだ。人気の過熱しているアカウントほど、風向きが変わったときの「炎上」の度合いも激しくなる。そうなってしまえば、いっそ注目を浴びない方がマシだったということになるのだ。

「まあ、そんなことわかるような連中じゃないんだろう」伊東は笑った。「アキちゃんは業界人だから、これがあり得ないことだとわかるだろうけど。連中はきっと、インターネットに何か書けば、自動的に全世界の人が見る、くらいの認識だよ。プロモーション用アカウントの運用がプロに頼むような『仕事』だということを、理解していない」

「これは、無視されているうちが花かもしれない」神白は画面を眺めながら、嫌な予感でいっぱいになった。

「逆に、めちゃめちゃ炎上させてやれば?」と、トモルが言った。「火がついて収拾つかなくなれば、そのめんどくさい『クソども』は懲りて手を引くかもしれないぞ?」

「いずれにしろそんなことコントロールできないんだよ」神白は言った。「炎上させようと思ってすぐできるんだったら、みんなやってるよ」

「そもそもコミュニティの規模としては微妙だしなあ」と、伊東は言った。「毎度、イイねが1万件に届くか届かないか……こいつらはほぼ、金は出さない。チェイサーとして実際に動いているのは多く見ても200人で、そのうち金を出すのは1割もいないだろう」

「やっぱりイベントとしては成功してないよな……」
神白は今更ながら、あのリーダーたちが取り組んでいる事業の危うさに、不安をおぼえた。

人目を引く技術には間違いないし、「売り方」さえ間違わなければ相当使えそうなのだが。問題はその「売り方」だ。あのリーダーも切れ者に見えたが、意外と世間知らずなのかもしれない。少なくとも、こんなふうに余計な手出しをして話をこじらせる人たちを「パトロン」に選んだのは、大きな間違いだ。

(つづく)


→次

#小説 #長編小説 #連載 #連載小説 #SF #ミステリー #ブロマンス


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

それはともかく「ゾンビつかいの弟子」は二次創作、ファンアート、絵、歌、朗読、無断転載、再配布、全て自由です。作者を偽らないでくれればあとは何をしてくれてもかまいません。もし面倒なら、特に報告なども不要です。皆で可愛がってやってください。

21
アラサーのママです。#小説 タグを無差別に読みます。長編小説「ゾンビつかいの弟子」をよろしくお願いします。目次ご覧ください→ https://note.mu/toma_mori/n/n40761080856c 現在は続編「怪獣をつかう者」連載中。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。