とーるきん

ショートショートなど気ままに書いていけたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。…

とーるきん

ショートショートなど気ままに書いていけたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。 ブログも書いています: https://tolkien-words.com

最近の記事

隣に座ってもらえない女

「人が乗り込んできた…」 スマホを見ているフリをしながら、夕実は神経を尖らせていた。乗っている電車が駅に着き、人が入ってきたのだ。さて、新しく乗り込んできた人たちはどの席に座るのか…。 みるみるうちに席が埋まっていく。ところが自分の隣だけは、ぽっかり不自然に席が空いていた。最後の一席に座ろうと男性がこちらに来たが、一瞬座るそびりを見せたところで思い直したかのようにどこかへ移動してしまった。 まただめだった…。夕実は心の中で落胆した。また誰も隣の席に座ってくれなかった。いや

    • 納得がいかない犬

      納得がいかない。 耳の根元を飼い主に嬉しそうに撫でられながら、ポチは心の中でつぶやいた。いや、本来心の中でつぶやく必要はないのだ。何しろ人間には自分の言葉は理解できないのだから。それでも心の中でしかつぶやかないのはエネルギー節約といったところ。犬の運動量をなめてもらっては困る。 話が逸れてしまった。今大事なのは自分が納得がいっていないということだ。なぜこの飼い主は甘ったるい言葉で自分に語りかけてくるのか。別の人間が赤ちゃんに同じ調子で語りかけているのを何度か見たことがある。

      • 仮想世界マトリョーシカ

        「すごい、ついにテクノロジーもここまで来ましたか…!」 目の前には透明な半球状の空間の中にジオラマの街が広がっている。この世界のミニチュア版のような世界。これが仮想世界か。 「これは本当にすごいです、あまりに精巧で本物の街と見分けがつかないですね!」 男が感嘆の声をあげると、横にいた白髪混じりの男が満足そうに頷き言った。 「そうでしょう。ただ実はよーく見るとおかしな点に気づくはずですよ。現実世界ではありえないおかしな事象が起きているはずです。」 「おかしな点?あぁ、木で

      隣に座ってもらえない女